ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

ハイハット、ライド、その他鳴り物を延々と鳴らし続けることについて考えたこと

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 まずはじめに、自分はドラムセットの音が大好きな人間、TR808とかのドラムマシンやそれこそDTMとかで作り込んだゴリッゴリに極端で現代的なビートとかよりも遥かに、ドラムセットの音が大好きな人間なのだと思っていますが、その中でもどの部位が一番重要か、と考えた時、いやキックやスネアも大事だし、特にスネアの音なんてのはずっと鳴り続ける音であってとても重要だ*1とは思ってるのですが、それ以上に重要で、ともすれば楽曲の印象を地味に象徴してさえしまう要素があると思っているのが、表題にあるような「楽曲中ずっと平坦に鳴らし続ける」系の金物なんです。

 宅録でデモを作ってると、リズムパターンは「少し組んだものをコピペして、そしてそれを色々といじっていく」という作業をしてるのですが、その中でもこの金物の類を、例えばハイハットだったものをまとめてライドにしたり、またはその逆にしたりするだけで、作ってる途中の楽曲から受ける印象というのは大きく変わります。今回はその「大きく変わる」ことについて、なんでだろう、というのは理由までは心理学とかになるかもしれないのでともかくとして、具体的にどんな印象になるんだろう、ということを、考えていきます。非常に個人の印象に頼った、かつあてのない感じの記事ですが…。

 

★注意

 この記事は表題のとおりの内容となっており、以下に登場する事例としては楽曲的にはどっちかと言わずとも平坦なものばかりであり、複雑なハイハットプレイとかそういうものや、ましては16ビートとか4ビートとかトラップとかそういうものは登場しません。

 また、なんだかんだと言っても筆者はドラムプレイヤーではありません。話の正確さについては我ながらとても疑問符…。

 

ドラムセットの各部位について

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 なんか一応、ドラムの機材について今まで知らなかった人でも以下の文章を読めるよう、各機材の簡単な説明をしてみます。本当に簡単に。

 

バスドラム

「ドンッ」って鳴ります。一番低い音。足でペダル踏んで出すから「キック」とも言われますが、特に生ドラムを使わない打ち込みの方が「キック」という単語を使うあたりなんかよくよく考えると面白いですね。

・スネアドラム(単にスネアとも)

「パンッ」とか「カンッ」って鳴ります。ドラム機材の中でも特に音そのものにそのドラマーなりバンドなりの趣味嗜好が出てくるところかと。パンパンに張って高い音にする人、逆にダルでデッドな音にする人等々…。

 

・タム

「タムッ」って鳴ります。基本的にはフィルイン(小節終わりにダララッって自由に叩くやつ)で叩くものだけど、場合によってはこれをハイハットとかの代わりだったり、場合によってはスネアの代わりにだったりして叩くことも。

 

・クラッシュシンバル

「バシャーン」って鳴ります。基本的には小節の変わり目頭とかに叩いておきます。基本はね。DTMでドラムをコピペして作るときは、展開の変わり目にクラッシュを入れとくと展開の付箋のように使えるので便利。

 

ハイハット

 この記事の主役の片方にしてドラムセットの革命児。シンバルを2枚、上下逆にして取り付け、串刺しにしたもの。これが発明された事によりドラムセットが現在の形に完成したとも言われます。何よりも凄いのが、足元のペダルの操作と叩き方の組み合わせによって鳴らす音が「チッ」とか「チー」とか「シャー」とか「ジャァァン」とかに変えられる事。これにより、ドラムの各部位の中でもとりわけ叩き方・活用の仕方に色々なバリエーションがある楽器と言える。ドラムセットの中でも特に「金属感」のする音が鳴るものと思っていい。

 普通はペダルを踏むと2枚のシンバルが閉じ、踏まないと開きます。開いてる時の「ジャァァン」みたいな鳴らし方を「オープンハイハット」、閉じてる時の「チッ」みたいな鳴らし方を「クローズハイハット」と言います。

 そしてロックミュージックの多くにおいては、次に述べるライドとともに「基本的に曲中ずっとその曲のリズムに沿って鳴らし続ける」音である事が非常に重要。

 

・ライドシンバル(単にライドとも)

 この記事のもう片方の主役。クラッシュシンバルと同じような形をしてるのに、なんか重たくて、そのためかクラッシュみたいな派手な音ではなく、シックに「チーン」っていう鈴のような鐘のような音が鳴る。はっきり言って、ハイハットよりもマイルドな音が鳴る。

 ハイハットと同じく「基本的に曲中ずっとその曲のリズムに沿って鳴らし続ける」音である事が非常に重要。

 

・その他

 場合によっては、タンバリンとかカウベルとかをドラムセットに取り付け、ハイハットやライドと同じような反復のさせ方で鳴らすこともあります。またはマラカス・シェイカーなんかも同じように用いられます。

 

それにしても、ドラムはこうして見ると、本当に担当楽器が多い。世の中のドラムの人は本当に大変だと思うし、昔は単体で鳴らしていたことを思うと、ドラムセットを発明した人はドラムプレイヤーの負担を加速度的に増やした、いわば「楽器界の手塚治虫」みたいなものではないか…*2

 

なぜハイハットとライドが重要なのか

1. 基本的に常に鳴っている音だから

 何も考えずに8ビートのリズムを組んで曲を作る場合、「ドンッパンッ」と鳴らすバスドラやスネアの横で、ハイハットかライドは基本ずっと鳴ってます。なのでずっと聞こえ続ける。そう思うと、サウンド全体の中でも重要じゃない訳が無い気がしてきませんか?

 

2. ハイハットとライドが相互に排他的な特性があるから

 ややこしい言い方をしてますが、要はハイハットが鳴ってる間はライドは鳴らさない」「ライドが鳴ってる間はハイハットは叩かない」という、人体構造上の制約のこと*3

 そしてハイハットの音とライドの音はかなり性質が異なっている。このため、曲の雰囲気・各パートの雰囲気を構築する上で、ハイハットとライドのどちらを選択するかで、ずっと鳴ってる音の印象が大きく変わってくる事になる訳です*4

 この排他的な特性は、ハイハット等の代わりにタンバリンやカウベル、シェイカー等を鳴らす場合も踏襲されることが少なくないようです。

 

 今から、ハイハットをずっと鳴らすことを選択した例、ライドをずっと鳴らすことを選択した例、そして双方を使い分けた場合の例を取り上げてみます。その辺のことを気にして聴いてもらえると、もしかしたら今までとはまた違った楽曲の聞こえ方がするのかもしれません。

 

ハイハットを刻み続ける例

 ハイハットを鳴らし続ける場合、基本的にはオープンのまま終始叩くのはロックンロールバンドやパンクバンドなんかがしますが、それよりもクローズハイハットを反復させることの方が多いでしょう。オープンでずっと叩くと五月蝿いからですね…。

 

www.youtube.com  クローズハイハットの多用は、特にポストパンク・ニューウェーブ等の、どっちかと言えば神経質な音楽なんかでは特にクローズハイハットの「響かさな」「音的な素っ気なさ・神経質さ」が好まれている印象があります。

 そういう意味では日本の相対性理論はやはり、どこかニューウェーブな香りが残るこのバンドもやはりハイハット多用型のバンドで、1曲丸々ハイハットで貫く楽曲が散見されます。無音の闇に金属の音が素っ気なく鳴ることの、そういう印象を重視している側面があるように思います。

 っていうかやくしまるえつこのソロでもハイハットは多用されてて、『ヴィーナスとジーザス』とか『ノルニル』とかのアニソンでも終始ハイハットの硬い音が鳴っているので、なんか好きなんでしょう。

 

www.youtube.com  いきなりニューウェーブっぽいのを持ってきてなんか恣意的な印象が出そうだったので、もっと土っぽい楽曲の事例も持ってきておきます。The Bandも、スタジオ音源ではハイハットを多用してるイメージがあり、特にバンド終盤のこの曲なんかでは、ハットのそっけない反復がドラム自体の「ドンッカンッ」な音や他のパートを邪魔しない感じに淡々と鳴っていて渋みがあります。しかしライブ動画では全然ライド鳴らしとるやんか…。しかしやはりこのドラム叩きながら歌いまくるレヴォン・ヘルムは半端ないですね。。。

 

ライドシンバルを刻み続ける例

 終始ライドシンバルの側だけを叩き続ける曲は終始ハイハットの例よりも少ないと感じる辺りに、ドラムセットにおけるハイハットという存在の大きさを感じたりしました。

 

www.youtube.com  最近の大きな気づきの一つがPavementは実はライドシンバル大好きなバンドだった」ということでした。特に名盤『Crooked Rain, Crooked Rain』におけるライドシンバル使用率の圧倒的な高さは、Pavement好きな方々は是非一度それを意識して聞き返して欲しい程。

 ライドシンバルを延々鳴らすことの効果を考えると、やはりクローズハイハットよりも遥かに「響く」こと、そしてオープンハイハットよりもずっと「まろやか」であることが重要になってくると思うんですけども、それを踏まえてこのローファイ名盤におけるライドシンバルの機能というものを考えてみると、このまろやかに響き続ける具合が、なんとも自由で空虚な果てしなさ・スケールの大きさ、所謂ゆるいロードムービーな感じに何らかの効果として現れているんじゃなかろうか、と最近思った次第です。

 

www.youtube.com  「ライドシンバルを終始鳴らし続けることをサウンドコンセプトの一つに明らかにしている楽曲」の代表作がRadioheadのこの曲。特にアルバム『KID A』以降での1曲の中のリズムやテンポの変化をあまりさせない、ミニマルな楽曲作りが目立つこのバンドの、その最たる例のひとつでしょう。延々とまったりと鳴り続けるライドシンバルに沿った柔らかいギターフレーズも、これといった心地よい破綻も無いままに不吉な湿った雰囲気を演出し続ける。ライドシンバルには何故かジャズな雰囲気を感じることがあるけれども、この曲なんかはそんな雰囲気を悪意をもって援用した事例なのかなと。

 

ハイハットとライドの切り替えとそれによる印象変化

 ハイハットとライド、よほどのことが無い限りドラムセットには基本的に存在するこれらを1曲の中で使い分けて楽曲の展開変化を演出しようと考えることは、ごく自然なことだと思うと同時に、それは楽曲の展開を際立たせるという意味では、作曲の補助たり得る効果を発揮すると思うし、場合によってはパートごとのハットとライドの選択それ自体が作曲の一部でさえあるのでは、というのは自分がしばらく前から持ってる持論です。サビはオープンハット、間奏はライド、それ以外はクローズハット、という幾らかの王道があるとは思いつつ、それらはどうして王道なのか、ということを聴く側の感情に立って、各要素を分解したようなしてないような感じで考えてみます。

 

www.youtube.com  展開が平板的なこの楽曲は、ハイハットとライドの使い分けによる効果が非常にわかりやすく、そしてそれだけ効果的なんだと思います。平板な楽曲でのパートの切り替え・緊張感の質の転換、これらの変動がこの楽曲では地味に全部のパートによって行われており、それらがさりげなく合わさった結果、キリキリとした緊張感が単調さなく円滑に繋がれていくものと思います。

 クローズハイハットの時の抑制感、オープンにした際の爆発的な激情、そしてライドシンバルに切り替わった時の光景が一気に広がったような寂寥感。平板に見えるこの楽曲の感情的な展開の仕方に一番寄り添っているのが、ハイハットとライドの使用方法だという風に思っています。

 

www.youtube.com  シンバル類の使い分けが鮮やかで印象的な楽曲をもう一つ。東京インディーというムーブメントの自由さの象徴・昆虫キッズの、最晩年に登場したこの曲の「バンドアンサンブルをともかく楽しんでる」間に溢れまくったこの楽曲の*5整然とした佇まいは、全パートエネルギッシュでかつ効果的な役割を果たしつつ、楽曲として破綻せずに一貫性がある。

 グッと抑制したパートでのハイハットの硬質な響かせ方、ロマンチックでキラキラしたパートでのライドシンバルの煌びやかな活用方法、そして終盤のバンドサウンド一体となって突進していく展開でのオープンハイハットの衝動に満ちたプレイ。「こんな風にドラムが叩けたら最高だろうなあ」っていう男の子じみた憧れを抱くに十分すぎる昆虫キッズの演奏。まあ、他のどのパートもそんな感じなんだけども。

 

その他

  タンバリン、カウベル、マラカス・シェイカーetc…この辺まで含めると「鳴り物」の奥深さはもう天井知らずになってくるし、あとは「ドラマーが叩くのか、ドラマー以外の誰かが弦楽器とかキーボードとかを弾かずに叩くのか」の辺りをライブで再現する時どうするのか考えるくらいですかね。

 

www.youtube.com  Spoonもまた、改めて音源を聴き返すとハイハット多用タイプのバンドであり、徹底したサウンドの抑制・ミニマリズムの元そうなってるのかなと思うのですが、それ以上に今回改めて思ったのが、リズムの鳴らし方の多用さ。そこは世界有数のマニアックなサウンドの組み方をするロックンロール・バンドの面目躍如というか。タンバリンやシェイカーをどう有効に響かせるかのお手本が、彼らの楽曲には沢山詰まっています。

 この曲を選んだのは、シェイカーとタンバリン両方を同時に使用するというリズム偏重っぷりの格好よさもさることながら、シェイカーを振りながらドラムを叩くのがまじまじと映っていたので。このシェイカーの鳴りの安定感…何気にこれ物凄くスキルの高いことをしてるのでは…。少なくともこの動画を見たバンドの作曲者が「おっ結講どうにかなりそうやんドラムにシェイカー振らせながら叩かせたろ」と安易に思ってはいけない

 

www.youtube.com  こちらもバンドサウンドの組み方に異様な要素が多々あるバンド、Wilcoのドラムが強烈な楽曲。見ていただければ分かるとおり、変則的なリズムを叩きながらグロッケン的なものを叩いて鳴らしている。そっちの手は普通ハイハットかライドを叩くものでしょ…ドラムがメロディを奏でちゃヤバいでしょ…。そりゃこんなドラマーがいれば超複雑に構築されたこの曲を4人編成でもある程度演奏できるわ…。少なくともこの動画を見たバンドの作曲者が「おっ行けるやんドラムにドラム叩きながらメロディ楽器も担当させたろ」と安易に思ってはいけない

 

www.youtube.com  最後はこれ。お分りいただけますでしょうか。ハイハットやライドのようなノリでクラッシュシンバルを叩き続けています。そーいう楽器じゃねーから。などと故人に言っても当然無駄な訳で。しかしながら、これだけ有名なバンドの超有名なドラマーでありながら、後世でクラッシュをこのように使うドラマーを滅多に見ないことを思うと、やはりキース・ムーンというドラマーのスペシャルさや、そんな無茶苦茶でも綺麗に成立してしまうThe Whoの楽曲の巧みさ・スケールの大きさなどを思ったりします。結局楽器にルールは無いんすよね、いい感じに鳴らしていい感じに纏まれば何でもアリなんですよね。

 

まとめ(?)

 お分りいただけただろうか。いや、逆にこの文章で何を分かれと言うのだろうか。最後の3つの動画で確実に収集がつかなくなった感じが大いにあります。

 言いたかったのはおそらく「クローズハイハットを鳴らし続けるとこんな感じに、ライドをそうすると今度はこんな感じになります。ドラムってめっちゃ楽曲の雰囲気を作ってますよね」っていう話なんだと思う。冒頭にちょっと書いた宅録での作業で日々色々と思ったことを備忘録的にまとめようとしたところ、今ひとつまとまりの悪い、またもっと他に言いたいことや紹介したいことがあったようなもどかしさに包まれてはいますが、もし仮にこんな記事が誰かの音楽の聴き方に何か新しい楽しみとかを見つけるきっかけになんかなったりすれば、または誰かが作曲しててアレンジ考える時の何かになったりするのであれば、半端ないくらい嬉しいです。

 

*1:スネアの音で大好きなのはやっぱThe Band。『Northern Lights - Southern Cross』のドラムの録音はロックドラムにおける“いなたい音”の一つの権威でしょう

*2:アニメ黎明期に手塚治虫がアニメがより普及するよう、相当安い値段でアニメの仕事を請けてしまって、それが今のアニメ業界の低賃金に繋がっているとかいう話をもじったおもしろギャグです

*3:「ライド叩きながらペダルでハット鳴らせるやん」とか言ってくる人は嫌いになります…

*4:「楽器せずに普通に聴いてる人はそんな小さい違いの事を意識する訳ないだろアホが」と言われてしまうと傷つきます…

*5:この一文、「の」が多すぎますね…