ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

【昭和の日企画】昭和の名曲ベストテン

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 今日、平成31年4月29日は、平成で最後の「昭和の日」なのだそうです。平成が終わるのでこれからは「昭和の日」が無くなったりするんだろうか、そしたらゴールデンウィークは一体どうなってしまうんだろうか、という心配ばかりしています。

 それはともかく、標題の記事です。最近ツイッター上で「平成の名曲10曲」みたいなタグを多く見かけるものだから、反発心で昭和の名曲10曲をやるところ。近々はやはり自分の見ているツイッターのTL上で所謂「はっぴいえんど史観」に対する熱いdisも見られたことから、そういうのにも影響を受けたりしつつ、改めて自分のライブラリを漁ったところ、所々嬉しい発見などもありつつ、まあ戦前の歌とかまでは全然知らない身ながら、ベタなところとそれを回避できるところとを往復したりしなかったりしながら、ひとまずは以下の10曲です。順位はあります、すごく「本当にこれでいいのかな…」という感じが深いですが。。。

 

10. ローレライ/Aunt Sally (1979)

アーント・サリー

アーント・サリー

 

Aunt Sally - ローレライ - YouTube

 まず、このアルバムジャケットが良すぎ。なんかもうこれだけで1,000,000点付いてしまう。こんなジャケットで中身はパンクなんだもの。

 80年代の女性カルトシンガーとしてきっと戸川純の次くらいに有名そうなPhewの、Phewとして活動する前にやっていたバンドがAunt Sally。このバンド名で、このジャケットで、その上で出てくる音がこの曲とか、なんか悪い冗談でしょって最初は思った。思ったけど、しかし1曲目と最終曲以外は意外とメロディアスで民謡調だったりで素朴に聴ける。しかしそれでも、1曲目と最終曲のドロドログダグダなやけっぱち感は中々に異様なものを含んでいる。延々と反復される80年代の日本のアングラ的(というかそれをちょっと先取りした)ダークな演奏の上でPhewのボーカルは死体から出てくるような声で、何の抑揚も無く不気味に言葉を連ねていく。

死んだあとでの美辞麗句

天才なんて誰でもなれる

鉄道自殺すればいいだけ

なんともに日本のアングラな感じの言葉の連なりに、なんか一周回ってスタイリッシュさすら感じたりする。ほんとこのジャケから出てくる言葉じゃないだろと。ロマンチックだ。

 

9. また逢う日まで尾崎紀世彦 (1971)

ゴールデン☆ベスト 尾崎紀世彦[スペシャル・プライス]

ゴールデン☆ベスト 尾崎紀世彦[スペシャル・プライス]

 

また逢う日まで 尾崎紀世彦 - YouTube

 突然普通に昭和の名曲をぶっ込むこのランキングの中途半端さを許してほしい。

 でも、昭和の名作曲家・編曲家である筒美京平の楽曲をランキングに入れ込むなら、しかも今現在の耳にも“歌謡曲フィルター”を超えて響いてくる曲といえば、これか『木綿のハンカチーフ』のどっちかだろう。後者はホラ、歌詞が松本隆だから*1、今回の企画の前段に抵触するので、自然とこっちになるわけだ(?)。

 なんか言い訳めいたことばかりを書き連ねてしまった。楽曲としては、冒頭のベタに力強くリッチなホーンに導かれながらも、リズムが入る段になると落ち着くところが上品で、そこから歌が入ればもう、尾崎紀世彦のワイルドなルックスどおりの、歌唱力の暴力と言わんばかりのメロディの上昇を魅せる。別れの楽曲だと全然思わせないほどの明朗さは、長調でシンプルに3分以内に収まったソングライティングと、そして氏の声だけで圧倒的に広大な世界観を生んでしまっているサビに拠るところが大きい。

 むしろこんなに壮大な歌が、歌ってる内容は同居してたアパートの玄関口の名前を消すとかそんな小っせえ話かよ!って逆にびっくりしてしまう程。でもそんなレトロスペクティブさと、それを歌謡曲になりすぎない長調で豪快に仕上げてあるのが、なんか今聴いても清々しさがあっていいなと思う。

 

8. 青い魚/金延幸子 (1972)

み空

み空

 

青い魚/金延幸子 - YouTube

 勿論筆者はこの曲をGRAPEVINEで知りましたとも。『Lifetime』の中で出てきたこの曲のカバーは、なんかよう分からんタイミングで陰気な曲が出てきたなあ、だからあのアルバムは後半がやや弱いよなあ、とか思ったものでした。オザケン?何のことだよ、と。

 それから時が流れ、金延幸子が伝説的なフォークシンガーであったことを知って、まあ知ってるのはこの曲だけなので、半ばこの曲目当てにこのアルバムを入手し、聴いたわけですが、この曲アルバムでめっちゃ浮いてますね…。他はもっと朗らかなフォーク調なのに、どうしてこれだけこんなにNeil Youngなのか。正直、この方の名曲、という意味では『明日から遠くへ』とかの方がいいような気もしたけど。

 でも、自分はこの曲の、このアルバムの中でもやたらと異物感があって居心地悪そうな、その佇まいがなんか好きだ。この曲の歌詞の、まだ民謡とポピュラーミュージックの境目が今よりずっと曖昧だったのかなあと思わせるような、不思議さの中にそれこそグロテスクな言葉が平気で入るその感覚が好きだ。はっぴいえんど成分を排除するという冒頭でさりげなく掲げたテーゼが早速、このアルバムが細野晴臣プロデュース・Tin Pan Alley的メンツによる演奏であることで呆気なく崩れ去るのもなんか気持ちがいい*2

 昭和のミュージシャンはこう、どういう出自からそういう音楽が出てきたのかが、平成以降のミュージシャンよりもずっと分かりにくい感じがする。それは一面では自分にとって昭和の音楽を聴きづらくしている部分もあると思うけれども、一方では理由も分からないドロッとした感じに替えの効かない良さを感じることもある。この曲の、演奏は乾き切ってるのに歌の中は妙に湿った感じというギャップに、居心地の悪さを感じて、でもこの居心地の悪さこそを好きになる。この曲は自分にとってそんな曲だ。

 

7. 魔法の鏡/荒井由実 (1974)

MISSLIM

MISSLIM

 

魔法の鏡 - YouTube

 ユーミンの、特に荒井由実時代のアルバムはどうにもエヴァーグリーンで*3、 しかしながらそのエヴァーグリーンさはこう、『めぞん一刻』を今読むときのエヴァーグリーンさと似たような感じなのかな、とか思うと、こういうのをリアルタイムに聴いてた人たちは、ユーミンの曲にどんな風景を見出してたんだろうと不思議に思う。翻って、平成どっぷりの私みたいなのは、ジブリというフィルターがあるからな。たとえばこの曲の光景なんかも『ラピュタ』とか『魔女の宅急便』とか『紅の豚』とかの街並みみたいなのから想像してしまえるわけだ。

 それにしても同時代の音楽と比べても、ユーミンの当時の音楽は質感が全然違う。このマイナー調が目立つ楽曲においても、全然日本の歌謡曲的な湿っぽさが無い。まるでそんな世界など初めから無いかのように。マンドリンの軽やかな振動に導かれて、ジブリよろしく、架空のヨーロッパをさらっと散歩しながら物思いをするようなこの曲の情緒。そんなものを胸に当時の青年子女が見てた日本の光景っていうのはどんなだったんだろうなって、荒井由実を聴くときの自分は時々そんなことばかり考えてしまう。っていうかこれも演奏陣にはっぴいえんど界隈か。やっぱはっぴいえんど完全回避は無理だろ…。

 

6. 以心電信/Yellow Magic Orchestra (1983)

サーヴィス

サーヴィス

 

Yellow Magic Orchestra - You've Got to Help Yourself (Vocal Version from "Service") - YouTube

 当初の「はっぴいえんど史観排除」のコンセプトについて、言いたいことはもう何も無い。無理なものは無理だし、良い曲は良いのです。

 YMOが本当に真面目に作った唯一の“ポップソング”になるだろうこの曲の素晴らしさは、本当に何も付け足すものの無い出来。中期The beatles的な多幸感を的確に意識して製作されたこの曲の祝福感は、昭和年間でも特筆されるべきものだろうし、作曲は坂本龍一高橋幸宏コンビなのだそうだけど、おそらく彼らの楽曲でも最もポップな1曲だろう*4。散会寸前の半ば投げやりな部分から出た曲かもしれないとはいえ、YMOが最後にこのようにポップさを突き詰めた楽曲を残すことが出来たことは、とてもニクいことだと思う(謎に上から目線)。

 ともかく、壮大な感じがして、視界が無限に開けて行くような開放感が凄い曲。この曲が流れている間だけは世界は平和な青い空が広がってるんじゃなかろうかと錯覚してしまう。そんなマインドをチクリと刺すような歌詞が載っているにも関わらず。んん、貴方や私は果たして本当に生まれたままに生きてる自分を愛することができるだろうか。ここだけ抜き出すと歌ってる内容がRed House Painters『Have You Forgotten』と似てることに気づいた。

 

5. Sweet Memories松田聖子 (1983)

SWEET MEMORIES

SWEET MEMORIES

 

松田聖子 SWEET MEMORIES - YouTube

 結局、松本隆の完全回避も無理だった…風街からは逃げられなかったよ…。とはいえ、この曲をリストから外すくらいなら全然松本隆も気にせず入れるけども。

 この曲のスタンダード然とした魅力は何なんでしょうね。日本人が好むであろう類の「感傷」だけをどこかから取り出して、純粋培養して出来た、化け物のような歌。もちろんこの曲を最初に凛とした歌にして世に出したのは松田聖子だけれども、もはや元の歌い手たる松田聖子を離れて、多くの歌手がこの曲をカバーしているという事実が、公然とこの曲を「歌い継がれるべき名曲」然としたものにしている。『赤いスイートピー』や『風立ちぬ』が歌い継がれなくても、この曲はなんか歌い継がれそうに思うのは、私の偏見かもしれないけど。

 でも、動画がニコニコ動画にしか無かったけど*5、この曲の小島麻由美のカバーは非常に良いので、本当にこれは多くの人に聴いてほしい。この人が歌うと、歌詞の光景もまるで変わって見えるから不思議だ。この曲の甘美な良さは、案外演奏が簡素な方が染み渡るのかもとか思ったりもするとともに、ひたすらに曲の強度のことを思った。

Cover Songs

Cover Songs

 

 

4. 死者/ILL BONE (1985)

死者

死者

 

ILL BONE - 死者 (audio only) - YouTube

 前曲からのギャップが凄くて、なんかこっちの中の人とかに怒られないか心配。この曲とかをこのリストの他の曲と並べていいのやら…。

 よく観て参考にしてるブログ・SIKEI-MUSICにおいて割と最近掲載された「1980年代ベストアルバム30選」*6にて、ジャケットの並びだけを見てもなんか異彩を放っていたこのアルバムジャケットが気になって聴いてみたところ、その時代を超えたポストロックなサウンドに非常に驚いた記憶。ジャケットからの連想なのか「これは早すぎたGodspeed You! Black Emperorだ!」って思ったけど、後で聴き比べてみたら全然違った。ILL BONEの方が溜めのジワジワが短くて、壮大さがそこまで無い分、病みと闇が深い感じだった

 この80年代アングラバンドの中心人物だった中田潤という人は、造反医学という前身のニューウェーブバンドからこのバンドに移行し、この曲を表題とした4曲入りのEPを出した頃にはもうすでにバンドは無かったとか。その後フリーライターに転身し、彼のウィキペディア記事には音楽活動のことは全く出てこない。政治的に強く主張のある人のようで、検索すると割と最近のエピソードが出てきたり。

 それにしても、この曲をはじめとするこのバンドの楽曲の獰猛さ・ダークさが現れたサウンドの「現役感」は凄い。ギターの音だけ聞くと古い音っぽくも聞こえるのだけど、総体として見たとき非常にエッジィで、かつジャズ齧り気味のドラムのお陰か、フィジカル的に非常にしなやかな感じもする。そしてそれらのめくりめく展開を繋ぎ止めるのが、ひたすら単調に分散和音を反復するベース。結果として出てきた音の無国籍に病みきった風情がとても格好良い。そこに、戦争や抑圧への怒りや抗議などを含みながらも、一方で詩的なフレーズも多く含んだ怪しげな歌唱も絡まっていく。怒りを表明するにはダウナーすぎる音楽性が言いようのない情緒を帯びて自在に広がっていく様は、こう言ってしまうのはもしかして本人的に不本意なのかもしれないけれども、とても冷たくて美しい。

 いやー、80年代アングラ舐めてました、本当にごめんなさい、としか言いようのない、圧倒的な1枚。あっアルバムレビューみたいになってしまった。いやこれは本当に凄い。SIKEI-MUSICのこのアルバム単体の記事もリンクしとこう。

 

3. 風の谷のナウシカ/安田成美 (1984)

風の谷のナウシカ

風の谷のナウシカ

 

風の谷のナウシカ 安田成美 - YouTube

 一個上とのギャップについてはもう何も言うまい。

 細野さんの楽曲で最もポップな曲、となると候補が沢山あって悩むけど、この曲なんかかなりいい線行くと思う。この曲はこう、ただポップと言うには色々ねじれてる感じがあって、しかもそれがとてもナチュラルだから、尚のこと変な凄みを感じる。

 正直、ここで取り上げようとするまで、この曲を歌っている人の名前が「安田成美」だということを全然記憶してなかったけども、でもその名前はきっと、この1曲の歌唱を残したがために、今後も時折こうやって振り返られるんだと思う。

 ともかく、沢山の不思議が詰め込まれた曲。80年代チックなサウンドのホワホワした感じも不思議なら、この曲自体の短調長調が、曖昧なコードというよりは歌の箇所それぞれでコロコロと切り替わるような作りも不思議。そしてそんな楽曲を歌うのに、こんな歌唱力が不思議な世界の人が、オーディションでグランプリを取った上で選ばれた、というのも非常に不思議だし、その後細野さん達と悪戦苦闘の結果、この録音されたバージョンを良しとして世に出されたことも不思議。そしてトドメに、そもそも歌詞の世界観とかを嫌った宮崎駿がこの曲を映画の主題歌にさせなかったことも不思議なら、それでもなんだかんだで「ナウシカのテーマソング」として有名曲になったことも不思議。こうやって書いていくといよいよ何が何だかわからないな…。

 上記のような不思議同士の掛け合いが当時のスタッフ達にとって幸福だったのかどうかは分からないし知ったことではない。今聴くにあたっては、結果として残ったこの音源の、ひたすらに不思議なフワフワ感をひたすらに楽しむことに尽きる。細野さんの楽曲ながら、このファンタジックなフワフワ感は絶対に細野さん本人が歌っては出てこない性質のものだと断言できる、この時点でこの曲の歌い手は歴史的に勝利してしまっている。この曲ばかりは、どんなまともに取り組んだカバーも、この曲のこの不思議さを出すことは永遠に不可能なんじゃなかろうか。最早この不思議さは、宮崎駿の作品とは別の「風の谷のナウシカ」の世界を産んでしまってはいないか*7。こんな歌詞の感じで。

雲間から光が射せば 身体ごと宙に浮かぶの

 

2. C.M.C/The Roosters (1983)

The Roosters: Best Songs Collection

The Roosters: Best Songs Collection

 

 C.M.C - YouTube

 The Roostersこそが、真に非はっぴいえんどな日本のロックの始祖だ、ってことをずっと、ちゃんとした形で公言したかった。こんなお手軽なランキング記事の一角じゃなしに、いつか私は、この曲を含む“ニュールンベルグでささやいてセッション”とでも呼ばれるべき2枚のシングル+ボツになった1曲のことについて真面目に書かないといけない。この辺の8曲が1枚のアルバムとしてリリースされていれば、日本のロックはどうなっていたか、しかしその分ルースターズはどうなってしまっただろうか、とか色々。

 ルースターズの凄いところは、パンクを通過したロックンロールでキャリアを始めたはずが、どんどんそのスタイルを変えていってしまうところ。3枚目のアルバム時点でそのポテンシャルが漏れていたのが、この時期の2枚のシングルではまさに重戦車のようなサウンドを獲得して、獰猛さとやけっぱちさとポップさとを併せ持つ無敵のバンドと化していた。その後バンドを牽引する大江慎也のメンタルぶっ壊れやメンバーチェンジ等の事情により更にサウンドは変化していくけれども、もしこの時期をずっとキープしていたら、日本のオルタナティブロックはどのくらい早く進んだだろうとか夢想したり。

 その、獰猛でやけっぱちでポップなのの最先端が、この楽曲だった。基本は3コードのロックンロールながら、そのビートはアグレッシブに直線化され、ギターはパワーポップ的なシンプルさとニューウェーブな神経質さを持ち、そしてリズミカルに歌われるのは、唐突に蹂躙された世界の光景だ。

500キロ爆弾 ガス爆弾 雨あられと舞い落ちる

リゾートホテルは粉々に砕け 火の粉が海に降り注ぐ

突然空は真っ黒焦げ 悲劇と化したサマービーチ

やしの木繁る海辺の歴史は あっという間に木端微塵

 恐ろしいのは、このように世界が蹂躙されることについて、理由は特に何も示されていないところ。大江慎也が当時反戦主義者だったとも思えないし、この「クルージング・ミサイル・キャリア」の略である楽曲の攻撃性は、正直どこに向けられているかが全然分からない。それは当時の大江の精神衰弱によるものもあったのかもしれないけれど、残された楽曲としてはそんな当時の事情など何処吹く風で、今日も無闇に暴力的で虚無的な世界を流し続けている。

 純粋な破壊衝動だと言うのか。いや、私はこれは「投げやりさをある方向に突き詰めた結果」なんだと思う。投げやりさを突き詰める、このなんか矛盾して混線した意志が、このように勢いのある楽曲に直結しているところが、この曲のカタルシスの理由のひとつなんだと思う。別に戦争を望んでいるわけではない、しかしながら、世界が勢いよく滅びていく光景が浮かんでしまうことがある。そんなとりとめもないことを、ディティールを凝らして、ロックンロールに乗せてしまう。ロックンロールは、本当に何でも乗せられてしまう・抱え込んでしまう、自由で、難儀な音楽なんだと思う。

 っていうか、割とこの記事をアップする直前までこの曲が1位だったんです。

 

1. 9月の海はクラゲの海ムーンライダーズ (1986)

DON’T TRUST OVE

DON’T TRUST OVE

 

 9月の海はクラゲの海 - ムーンライダーズ - YouTube

  本当に最近、ここ数日のうちにようやく知ったこの曲に、最近で一番快い衝撃を受けた。もう、歌詞を全文引用したいのを抑えて、以下ちょっとだけ。

君のこと何も知らないよ 君のことすべて感じてる

Good-Day, Good-Night, Good-Day

君のこといつも見つめてて 君のことなにも見ていない

One-Day, One-Night, One-Day

ガラスみたいに透明で フィルムみたいに泳いでる

 

Everything is nothing Everything is nothing Everything is nothing

9月の海はクラゲの海

 それこそThe beatles的な落ち着いてポップな曲調に乗せて歌われる世界が、どこまでも透き通っていて、あやふやで、何も分からなくって、それでいて綺麗なので、なんだかちょっと泣きたくなってしまった。80年代ムーンライダーズ特有のヘンテコなアレンジでも、この曲の無限に透き通るような美しさは濁らせることができなかった。最後のサビの繰り返しの後に転調して続いていくところなど、本当にこの世の儚さと美しさを全く信じたくなってしまう。

 そもそも私、本当に最近まで全然ムーンライダーズを聴いてなくて、それで今回の企画をするにあたって、そういえばちゃんと聴いてなかったと思って、一応ライブラリに入れてた数枚を*8、ほぼ初めて向かい合ってアルバムを聴いてたところ、『工場と微笑』のイントロにやられた。このイントロこそが『MOTHER』の音楽を作った人たちのアレか…と、その源泉を見つけた気になって、そこから色々調べた。どんな曲がファンにとって名曲扱いになっているのか。どうも自分は鈴木博文さんの歌詞が好きっぽいぞ。鈴木慶一って時折マジでキチ◯イじみてるな…。っていうか00年代以降の鈴木慶一歌がアレやんけ…。糸井重里とはあんま関わらんでほしいなあ。ああ、ツ◯ヤディスカスに無いなら、手っ取り早くダウンロードして買うしかないじゃないか。等々。

 その中で、ムーンライダーズの80年代の混乱した歴史とその中で名作を連発していたことを知り、また00年代以降のライブ動画等も見て、それでひとまずアルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』を購入して、そしてこの曲を繰り返し、繰り返し聴いた。『MOTHER』の音楽の、不思議な温もりや透明感・そして切なさに繋がるものは、ここにあったんだ…と思い至って、なんというか、エモくなりました。

 この曲は、なんというか、永遠な感じがします。時々あるんだこういう感じ。永遠にこの感覚に、この光景に、ひたすら埋没していたいなーっていう。もう、何もわかんないから、ひたすら情景を見て、見て、見てて、たまに何かポロっと思ったり思わなかったり、その思ったことが、なんだかとても大切なことに思えたり、次の瞬間にはそう思ったことが全然大切でもなんでもなく思えたり。

 昭和はだいぶ前に終わった。平成も今度終わる。令和だってそのうち終わる。だけどもそんなのどうでもいい。どうせ寄る辺無いまま、なんかぼんやりと、死ぬまで生きていくんだろうなあ、っていう感覚。それは私の最近の、あまり良くない傾向なんですけど、そんな私にこの曲は優しかった。そんな訳で1位です。いつになく自分語りしちゃったなということでこのランキングを終わります。いかがだったでしょうか。昭和のことがよく分かりましたね。よく分かんなかったでしょうね。平成だってどんな時代だったかよく分からんのだもの。令和はどんな時代になるんでしょうね。

 

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*1:というか、あの曲の歌詞における女性の立場の弱さには、軽蔑とか何とかより前に、流石にこの歌詞は古くなってしまってるな、と思ってしまったりする。

*2:そもそも全くはっぴいえんど界隈を無視して昭和の音楽のことを全体的な感じで話してもあんまり面白くないでしょ、とか開き直るようなことを思ったり。

*3:松任谷由実になって以降の音が段々とバブリーになっていくのが苦手な人は多い。自分はそういう偏見のせいで半ば聴かず嫌いしてる節がある。

*4:細野さんに限っては他にもこの曲並にポップな楽曲をアイドル向けとかで作ってるかと思うけども。

*5:この動画のコメントだと結構不評だな小島バージョン。この場末感がたまらないのに。というか、本当の場末ならこんなジャジーな演奏をバックに歌うなんて無理だし、ちゃちいカラオケをバックになるだろ、っていうことを思うとこの「場末感」という言葉の扱いも難しい。

*6:これも「平成の終わりに、なぜか昭和の特集をする」という企画でした。

*7:まあこの曲から王蟲とか腐海とか、もっと言えば原作の方のクシャナの壮絶な格好良さとか、あとはネタバレになってしまう色々なこととかは想像できないというか、全然繋がらないですね。宮崎駿がボツにした気持ちもある程度は理解できなくはない気はします

*8:『カメラ=万年筆』を聴いて、なんかドン引きに近い感情を抱いてしまったのが遠ざかってた原因だったな。言訳がましいけれども。あのアルバムは今でも苦手