ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2021年上半期の音楽(9枚)

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 2021年の前半はまるで魂を吸われるようで、うんざりしてばかりの日々でした。今まで生きてきてこれほど報道の数々から不快な思いをし続けたこともないと思います。こんな惨状でもオリンピックをやるというのだから、この国はもうずっとこういう調子で進んでしまうんだろうか…と生きていくのがいやになります。こんな絶望的な状況の中、それでも上からの指示でオリンピックを実施せざるを得ない現場の数々のスタッフの方々を尊敬し、同時に気の毒に思います。

 

 私ごとも込みでこれだけうんざりした気分がずっと続くと、あんまり音楽も楽しく聴けていない感じになっていて、なんとも残念な気持ちがずっと続いてきています。望むべくは、これだけ残念でうんざりな気分でも、それでも自分の暮らしや気持ちをせめて何かエンジョイ&エキサイティングさせ続けるよう努めること。そんなことできるのかな…とは思うけど、できるかな、じゃなくて、しないといけないな、と思います。

 

 以上の言い訳により、今年上半期の新譜の中から9枚程度を、あっさりと選んで文章にした記事です。色々うんざりして、かつ暮らしに余裕もなかったから、6月までのまとめの記事がこんな時期になっちゃった。それにしてもコロナ禍でバンドがしづらくなってからしばらく時が経ち、バンド勢もかなり制作環境を取り戻してきてるのかなと思う。

 

 順番はただのアルファベット順+あいうえお順です。順位とかないです。

 

1. 『The Shadow I Remember』 Cloud Nothings(2月)

 アメリカはクリーブランドのガレージロックバンド。最初はあまりに「いつものCloud Nothings」みたいな具合に聴こえて、自身の聴こえ方に恐怖していやな気持ちになったりしたものの、何回か聴いてたら普通に小気味良くてポップなレコードだって思えた。そもそも出来ることがそんなに多いバンドでもないんだった。冒頭の曲にはちょっとピアノを添えて心地よいノスタルジックさ・抒情性を付けてみたりするけど、基本的にはポップなソングライティング+バンドによる曲展開のダイナミズムで持っていくスタイル。特に演奏が上手くなった訳でもなく、荒々しさの中に凛々しさを巧みに忍ばせるソングライティングの流石さは、かえってこの全く流麗に鳴らす気の無いガチャガチャギターと我慢することなくロールしまくるドラムの勢いだからこそ活きるんだろうな。

 あと、「同じメロディを繰り返しつつ前半と後半でバンドサウンドの勢いを変える」という彼らならではの手法に今作をぼんやり聴いててやっと気づいた。

 

2. 『新しい果実』GRAPEVINE(5月)

 日本のいつの間にか長大なキャリアになってきたバンド。これの素晴らしさについてはもう書いたのでそっちをご覧ください。

ystmokzk.hatenablog.jp

 くどいようだけど、田中和将がここまで”現代のソングライター”として前に出てくる状態のGRAPEVINEなんて初だろう。これまでのバインに無かった類の緊張感と予想のつかなさ。素晴らしい。

 

3. 『Mood Valiant』Hiatus Kaiyote(6月)

 オーストラリアの雑食ソウルバンドの6年ぶりの新作。ネオソウル的なものを軸にしつつも自在にヘンテコなリフやリズムを飛び交わせて怪しくも時に華麗に時に苛烈に躍動しまくるバンドサウンドが次々に出てくる様がスリリング。時にバカテク的なバンドサウンドの躍動はでも、あくまで歌のバックで展開されるため、歌も含んだバンドの自在なソングライティング・フックの付け方が強烈に印象に残る。ボーカルの闘病など様々な困難があった制作過程だったらしいけども、そんなことを思わせないほどに、ムーディーながらも時にとても爽快に炸裂する楽曲の感じはエキサイティング。ブラジルの伝説的プロデューサーを招いて制作された優美なストリングスを拝する楽曲もあり、聴いててエキサイトする場面と浸れる局面とが程よいリズムで出て来る、自分みたいな門外漢でもとても浸れる素晴らしい作品だった。

 

4. 『Seek Shelter』Iceage(5月)

 別にランクを付けるつもりはないけど、無理矢理付けるなら1位候補。デンマークのハードコアバンドだった彼ら、前作でかなりポップなロックンロール方面に開けたと思ったけど、さらにこなれてメジャーセブンスの利いたナイーヴな憂いの感じのある曲(『Drink Rain』)なんてのもあったり。だけど彼らの持ち味のガッチャガッチャしたバンドサウンドもしっかりと地続きで存在し続け、それがいい具合に荒く土っぽくガチャガチャして心地よい爽快感のあるロックンロールを幾つも生み出してる。アルバムとしての緩急も隙が無く、とても素晴らしい。冒頭のゴスペルチックな『Shelter Song』から最後の少しスピリチュアルな『The Holding Hand』まで、バンドサウンドという、ザラザラした質感の音の飛び交う光景で快感を得るための機巧が冴え渡りまくっている。

 

5. 『Higher Places』Joshua Burnside(5月)

 北アイルランドのシンガーソングライターの、これはシングル+α的なものだろうか。大傑作の昨年のアルバムの楽曲のデモトラックを幾つか含めつつも、初出の新曲(アルバムのアウトトラック?)も4曲+リミックス1曲入っているという、なんだか不思議な形態のリリース。実に程よい辺境っぽさの酔っ払った味わいと憂いが利いたフォークミュージックの有様はアルバム譲り。5拍子で進行しノスタルジックなセクションに展開するジャジーな楽曲があったりもする。この人の声と曲とアレンジは悉く好きな感じなので、この感じでずっと作品を作っていってほしい。こういうのを聴くと、晴れるあてのない憂いっていうのもそう悪いものでもないのかもしれないってちょっとだけ思える。

 

6. 『Chemtrails Over The Country Club』Lana Del Rey(3月)

 アメリカのシンガーソングライター。ちゃんと聴いたのは今回が初めて。”アメリカーナ”と言われるとひとまず聴いてみようとなってしまう癖。元々サッドコアを名乗って登場した人なので、その地点に立ち返った感じもあるのかな。アコースティック楽器が多くを占めるけど、ドラムレスの楽曲が多かったり、入ってても実にそっと鳴ってたりで、今作を貫く、ぼんやりした闇の空間で囁き続けてるような雰囲気を壊したりはしない。アメリカ中西部の様々な土地が出てくるらしい歌詞らしいけど、それを含んだ音楽は旅情よりも、温かみや自由さよりも、どこまで行ってもぼんやりとした亡霊のような憂鬱が付き纏ってるような印象を受ける。あっけらかんとしたコード感の曲とか出てこないし。最後にはJoni Mitchellのカバーまで出て来て、そのSSWなムードは極まる。

 夏には新しいアルバムが出るってまじか。もうすぐ出るのか…?

 

7. 『The Golden Casket』Modest Mouse(6月)

 アメリカのベテランインディーバンドの6年ぶりくらいのアルバム。ボーカルギターのIssac Brockが自由にギターを弾き叫び倒したかつての姿は相当に遠くなり、かなりの部分で重ねられたボーカルとシンセ等を多く交えて色々と複雑に構成されたサウンドとが、このバンドが現代でどうやって”現代っぽく”振る舞うかの試行錯誤を感じさせて、そのガチガチっぷりがどこか悲しくも、でもこれはこれでいいかも、っていう感じ。かつての迸りまくってたエネルギッシュさは見事に削がれて(年齢のこととかもあるんだろうか、単に今回の作風か)、囁くように歌われる部分が多くを占め、言葉数多めに畳みかける場面は相当計算されて配置される。かなりポップ寄りに丁寧に作られた楽曲は、確かにジャケットみたいな、どこかチャイルディッシュなデジタル感が感じられる。なんでこんな「インディバンド的な自由さ」をかなり絞った作品なのか、と考え出すと不思議になるけど、最後の方の『Japanese Trees』で突如比較的”いつもの”勢いが出てくるのは不思議。思わず「そうそうこれこれ」ってなった。最後の曲もインディバンド的なクソデガファズギターが鳴り響くし、最後の2曲ってもしかしてボーナストラック?

 

8. 『袖の汀』君島大空(4月)

 長谷川白紙とかその辺りの”天才”な世代のひとりと捉えてる彼のEP。ミニアルバム?全編アコースティックな楽器編制を基本とした作りで、彼のリリカル具合が実にそのまま響く作品に仕上がっている。こんなに繊細でノスタルジックな歌ものをする人だったのか、というのが今回この作品を聴いた時の最初の感想。ライブでバカテクのギターを弾いてたとか聞いてたのでどんなか…とか思ってたけど、こんなにソフトで情景を浮かばせる楽曲で徹底してたのは意外だった。3曲目からアコギと歌以外の楽器も様々入り始めて情報量が増えていき、それでも歌と楽曲のイメージの拡がりに任せて童心を自在に振り回すかのような楽曲力は変わらない。後半の楽曲からは、いけない比較だと思うけど、『ヘヴンリィ・パンク・アダージョ』の頃の七尾旅人みたいな無敵なサーチンソウルが感じられた。実に強力なSSWが日本にまたひとり。

 

9. 『Ⅵ』ミツメ(3月)

 日本のインディーバンド。デジタルシングルを連発した後のアルバムリリース。前作『Ghost』ほどポップに振り切ってる訳でもないけど、でもちょっといけすかない感じのブラジル的リズム感の曲でも、どこか不可逆的なポップさが感じられるのは気のせいかそうでないのか。ちょこちょこ荒々しいバンド感を出して来るとこは巧みだなって思う。『メッセージ』から『システム』の流れがまさにそうで、そういえばミツメってロックバンドか、ってその真っ当に格好いい楽曲っぷりに、結構強烈に印象付けられる。まあそっからまたギターチャカチャカの感じに戻ってそして最後『トニック・ラブ』なんだけども。地味に彼らの標準的バンドサウンドから外れまくってるけど一番ポップな『トニック・ラブ』が最後に追いやられてるのに笑う。けどこれが最後に流れる時の不思議さもいいものだなって思う。

 

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 以上9枚でした。下半期はもっと生気を保った状態でカルチャーにエンジョイ&エキサイティングしていたいです。とりあえずLowの新作がとても良いことになるのではと期待してます。この先行2曲シングルでもとりわけ『Days Like These』の格好良さ!ぜひぼくを吹き飛ばしてほしい。