ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『SONIC DEAD KIDS』ART-SCHOOL(2000年9月)【リマスター記事】

f:id:ystmokzk:20211017134832j:plain

 ART-SCHOOL関係作品のリマスター記事2つ目。彼らが2000年3月に結成して以降、幾つかのデモ音源を自主制作した後に、最初にCDとしてインディレーベルからリリースした最初の作品になります。やたらとミニアルバムのリリースが多い彼らの経歴の最初もミニアルバムというのは、何か面白いものを感じます。

open.spotify.com

 

 前回となる木下理樹ソロミニアルバム『TEENAGE LAST』のレビューはこちら。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 本稿と全然関係ないですが、今のこの”ブンゲイブ・ケイオンガクブ”のブログが始まった際の最初の記事もそういえばART-SCHOOLだったんですね。少しばかり懐かしい。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 

前書き

 ファンの間で言われるところの第一期ART-SCHOOLのメンバーは以下のとおり。

 

  木下理樹-vo, gt
  日向秀和-ba
  大山純 -gt
  櫻井雄一-dr


このメンバーでこの作品〜アルバム『LOVE/HATE』(及びライブ盤)までを制作していきます。このうち二人が現在ストレイテナーに在籍していることは有名。もうとっくにART-SCHOOLの在籍期間よりもずっと長く活動してる…。

 メンバー間が険悪なことがよく表に出てきてしまう彼らですが、流石にこの時期は仲が良かったらしいです。現ストレイテナーの2人による証言が書籍等で読めます。

 ピンナップ風のジャケットのイラストは大山純によるもの。イラストの上におそらく木下の手によってアルバムタイトルを雑に手書きされたらしいです。ブックレット中には木下理樹によるものと思われるイラストもあって、そっちはなかなかに圧倒される出来で*1、ギャップがすごい…。あとクレジットのSpecial Thanksの欄が、途中から「木下理樹が憧れてるアーティスト一覧」という感じになっていて面白いです。

 今作の特徴として”音が悪い”というのが挙げられます。サブスクだと自動補正が補正が効いていくらかマシですが、CDだと音量レベルも小さい。また、録音自体もロウそのものという感じで、録ったものをあまり色々と整理せずにそのまま放り出したような音質です。所謂”生々しいサウンド”というものが、実は結構ちゃんと手を入れて整理をしないとできない、ということが逆説的に分かるかもしれません。

 この「音が悪い」ことについて、木下理樹はこういう音をあえて狙って、Pavementの1stアルバム的な、ローファイ的なものにしたかった、と発言しています。単に様々な理由で音が悪かったことの言い訳じゃないのか、とも思ってたのですが、そういえばこの作品、もしかしたらギターエフェクターを使っていない気がします。つまり、1曲を同じギターの音でやり通して録音してるのではないかと思います。これによってローファイになっている部分が大いにあって、宅録ソロで様々なエフェクトを駆使した木下理樹エフェクターを知らなかった訳がないので、もしかして「あえてエフェクターの使用を封印して、アンプ直の適当な歪みだけで演奏してローファイを狙った」可能性もある気がしました。書きながら「そうかなあ…?」とも思いましたけど。

 でも、楽曲についてはもうこの時点で、ART-SCHOOLの基本軸がほぼ完成している、という感じになっています。ソロの夢見心地な世界を離れ、殺伐として、喪失と絶望が様々なサブカル的引用によって彩られていく、まさに初期ART-SCHOOLな歌詞が冒頭からスタートします。この辺の軸をブレさせないまま、次第に自身達の周りの環境の切迫感さえ利用しながら、彼らは表現をどんどん張り詰めたものにしていきますが、そのスタート地点はこの作品の1曲目冒頭のフレーズだと、納得のできるものになっています。

 それにしても、この録音物から、後に日本きってのベースプレーヤー日向秀和の姿は感じられないです…録音が悪いからなのか、この後急激に成熟していったのか。

 

本編

f:id:ystmokzk:20211017154744j:plain

 

1. FIONA APPLE GIRL(3:03)

 

フィオナ・アップル*2が鳴り響く地下鉄に

二十一歳の彼女は身を投げる

 

乾き切った唇で どうか俺を救って欲しい

乾き切ったその唇で 暗い空へ 私は歩く

 

 歌い始めから「あ、これはART-SCHOOLの歌詞だな」と判るこの生死の感覚と、身勝手なまでの「君」への救いの希求。彼らの記念すべき1曲目はこの呆気なく衝撃的なこのフレーズと、そして再生が本当に始まったか疑わしくなるほどの小さな音で収録されたベースによるイントロで始まる。同じベースイントロでも暫く後の『車輪の下』と比べるとその存在感の違いが際立つ。

 しかしながら、ちゃんとバンド演奏が始まると、確かに演奏自体はロウで、エフェクターもないからやや手探り的なグダグダさがありつつ*3、しかし聞こえてくる感じ自体は第一期ART-SCHOOLとして一貫性のあるものになっている。緊迫感のあるマイナー調寄りのシリアスさに、グランジ由来の静と動のダイナミクスの付け方、そして切実さをこめたシャウトをする木下理樹、という、後に『MISS WORLD』やら『アイリス』やら『左ききのキキ』やらと連なっていくその感覚のスタート地点は、確実にここだと感じられる。グダグダ気味の演奏も、終盤ではフリーキー気味にギターが暴れ始めて*4オルタナティブロック的な暴走の感じが醸し出される。

 あと、意外と曲展開に富んだ曲で、「罪‥罪‥」のシャウト*5の部分も含めると4個のセクションが連なっている。特にギターのスタッカート気味なカッティングが入る箇所が印象的。この「GIRL WITH A…」と歌う箇所のメロディはThe Posies『Golden Blunders』からの引用っぽい。別にこのパートが無くても成立しそうなところだけど、あえて入れてくるところが木下流。 

www.youtube.com

 切迫したグランジバンドとしての音楽表現、かつ歌詞に様々な文学作品からの引用を織り交ぜ、自身の立ち位置を表現しようと試みる曲であるけれど、その無骨なAメロのメロディは後に『それは愛じゃない』*6というメジャーでポップな楽曲にコードに変えた上でリサイクルされている。曲が変わると同じメロディでもやたらポップに聞こえたりするのは軽くマジックめいてる。

ystmokzk.hatenablog.jp

 

2. NEGATIVE(3:50)

 メジャー調で歪んだギターで疾走する、USオルタナ・カレッジロックの鉄板どころを彼らがやってみた、という感じの、その最初の曲。彼らのこういうタイプの曲はどんなに歌詞が気がぐれていても純粋に爽快感があるから気楽に聴けて良い。それはこの手の曲の始まりのこれでも変わらない。

 冒頭のシンプルにⅠ→Ⅳするギターのフレーズからしてシンプルに勢いが感じられる。そこにⅠ→Ⅳのコード感の明るすぎる部分をナーフするようなリードギターが入ってくるのは結構ART-SCHOOLって感じがする。両ギターともリードギター的にフレーズを展開したり、間奏のブレイクでツインリード的に展開したり*7、その変化の中でドラムが縦ノリだったりタム回しだったりでパワフルに暴れていたりと演奏の見どころは結構あるけど、音質の良くなさでその魅力は結構削がれている。演奏の魅力、特にベースの存在感に、タイトルをシャウトする木下など、後のライブ盤『BOYS DON'T CRY』に収録されたバージョンの方がこの曲の勢いよくなるよう的確に組まれたアンサンブルの妙は分かりやすいかもしれない。

 また、サビのメロディはどこかサビというよりもBメロチックな盛り上がり方をするが、これも木下曲に多い、サビっぽいメロディの後に短い印象的なフレーズでメロディを完結させるというやり方。この曲の場合その短いフレーズはnegativeと掛かっている「願って」になる。終盤の繰り返しは早速この作法が効果的に活かされてる。

 歌詞は、何かしらの物語というよりもむしろ、様々な作品からのフレーズやイメージの引用をカットアップ式に組み合わせたもので、それらのイメージのステッチ具合の中から見えてくる光景や感覚をこそ楽しみたいタイプのもの。第一期の彼らの楽曲はそういうのが多い。

 

生き急いだ少女 下品な島で澄んでいた

ブルーからグレーへ メランコリーの季節へと

六月の愛撫 ローストビーフみたいに

吐く息はただ 死にたい位に真っ白さ

 

I feel so negative お前と同じで

救いの雨を待つ 愚かな人間さ ずっと…

 

崩れないように 願って…

 

最後のリフレインの、不安な予感を振り切りたくて必死に願う感じは実に青々しい。あと肉欲を直接肉料理に結びつけてしまう彼の感覚はこの後しばらく経ってから再発したりする。また、「救いの雨」というフレーズは何か元ネタがありそうな気がしたけど、検索してもこの曲、ではなく次のミニアルバムに収録される『ミーン ストリート』ばかりがヒットする。元ネタがありそうなものだけど…。

 シングル『MISS WORLD』までのインディー時代の楽曲はどうしても音が悪く聴きづらい場合があって、『Requiem For Innocence』の頃のスタイルで再録してほしかったって気持ちがあるけど、その筆頭が『MISS WORLD』だとして、その次に思うのは個人的にはこの曲だったりする。様々な勿体無い演奏のアイディアが音の悪さに埋もれてる感じがする。

 

3. MÄRCHEN(3:43)

 今作で一番木下ソロのドリーミーなテイストを残している、ミドルテンポで不思議に幻想的で虚無的な感じのする、メロディアスな楽曲。タイトルは「メルヘン」と読むけども、あえてその発祥であるドイツ語の表記にしているところがあざとい。彼らの楽曲でドイツ語が出てくる数少ない場面か。

 Pixies『Gigantic』のコード進行を借用して、カタルシスのあるサビを付けずに、淡いメランコリーを燻らせる展開に持ち込んだソングライティングのくすみ切った繊細さは、何気に彼らの歴史でも貴重な部類のもの。その上をふにゃってる木下の歌と、今作でも特にその音質の悪さを”活かした”ローファイな演奏が鳴る。くぐもって少し歪んだギターの音で心地よい奥行きの出たフレーズを弾くのは、確かにPavementの『Here』みたいな良さがある。楽曲の後半では、この曲のくすんだ繊細さに合わせたかのような、まったりとドライブしていく感覚が独特な歪んだギターが心地よい。それこそちょっとメルヘンでオフビートなロードムービっぽさを演出している。特に迫力が抜けきったスネアドラムのラフな音がこの曲においてはとても心地よく響く。サビ等で何気にルート弾きではなくフレーズを弾かせてもらっているベースも貴重。アンサンブルの組み方が典型的なART-SCHOOLのスタイルでないところが、この曲の興味深いところなんだろう。

 この曲の聴き所はやはり最後の「I just give up」と連呼する箇所。悲しげなコードをしかし、ローファイな演奏をより盛り上げるでも無く淡々と進行していく様は、そのボロボロで虚ろな詩情を表すのに十二分に機能している。急にしぼむような演奏の終わり方も儚げで良い。

 やはり様々な引用したイメージのカットアップの、割とネガティブそうな光景の隙間に、読み手が勝手に想像力を働かせる系の歌詞。しかし何気に、母胎回帰と性欲の混濁した感覚がここで初登場し、この感覚は第一期の後も結構引きずっていく要素なので、初出がこの曲というのは意外な感じ。しかも『MISS WORLD』に繋がる純潔への極端な情熱も入り乱れて、実はこの曲の性的要素は曲調の割にエグいのかもしれない。

 

心を病んだ若者は 嘘つき 群れる 痛み

それでも何故か救いの雨を待っている 二人

アレン・ギンズバーグ*8 うたかた 君の子宮へと堕ちる

この世界で貴方が汚れた時は 死ぬさ

 

Jst like a piggy… *9 I just give up

 

 

4. 斜陽(3:45)

 実はバンドにとってとても大事な曲だったことが後のライブ盤『BOYS DON'T CRY』をはじめ様々な場所で表明された、今作でもとりわけ可憐でキュートなポップさを有した楽曲。曲タイトルの元ネタっぽい太宰治『斜陽』とは似ても似つかない、スピッツをもっとオルタナ的にしたようなポップなドライブ感と歌詞が魅力的。木下理樹曰く、「(この曲は)ART-SCHOOLそのもの。」

 今作でも一際手の込んだ冒頭のギターフレーズが、今作の晴れやかな可憐さを象徴する。このフレーズは間奏等で繰り返され、その度に殺伐とした世界観の中の穏やかな光のように響く。Aメロはこのフレーズを軸に、各楽器の挿入の仕方でアレンジに変化をつけていく。なのでエフェクター不使用っぽい音変化のないギターサウンドでも問題なく機能できている。

 メロディ自体も可憐なサビを中心にとりわけ豊かなものがある。メロディーメーカーとしての木下の才能が素直に表現されていて、なおかつサビのメロディはシャウトしていないのに、木下の声質のエモーショナルな部分が上手く出ている。スネアを引き摺るようなドラムや今作的なごわごわしたパワーコードのギターで、荒涼感も少し感じさせつつ、歌詞と合わせて、どこか逞しげで広く開けた光景の感じを描いている。

 この曲の大きな魅力のひとつがやはり歌詞で、メルヘンさとオルタナ的な殺伐さがないまぜになった世界観が、初期の彼らの楽曲でもとりわけカラフルでユニークなイメージで描かれている。

 

君は砂漠に咲いたユリ*10

八月 気違いのシェパード 涎を垂らす

 

My sun with die*11

行きつく果てで 君が失った青い花*12

その眼 その手 その唇を 何故か不思議だと想うのです

 

おとぎ話と殺人鬼 可愛いさみしがり屋の豚

スカート揺れた

 

My sun with die

行きつく果てで 君がパラソルを振っていた

その眼 その手 その眩しさは

やがて血に染まるラストシーンへ

 

特に2回目のサビの華やかさと凄惨さの交錯するフレーズ回しは絶妙で、結末がろくなことにならない映画を大いに愛好する木下理樹の美的センスが鮮やかに表出している。支離滅裂なようでいてイノセントな気持ちで一貫しているようにも感じられて、彼の歌詞で読んでて一番好きなのは、もしかしたらこの曲かもしれない。

 ベスト盤『Ghosts & Angels』でも今作から唯一収録され、そちらは他の楽曲と並んでも問題無いよう音量等をきっちりリマスターされている。

 

5. 汚れた血(6:41)

 今作の”重さ””破滅的な要素”を凝縮された、長尺で展開に富んだ大作。コードの割に重苦しい空気の漂う前半の歌部分と、後半の拍子を三連にしてから悲痛なシャウトとインプロヴィゼーション、というかノイズパートによって成り立っている。

 ベース*13に導かれて始まる前半の歌パートはソロの『LIKE A DAYDREAM』と同じような、スローなテンポで絶叫するでもなく、憂鬱そうなぼんやりとしてそうな気怠い調子で、意外とメロディアスなメロディを辿っていく。抑制の利いた演奏はその歌の陰鬱さのサポートの他、後半の爆発の前振りの役割もある。特に曲調が変化する前のサビの繰り返しには、何かが徐々に張り詰めていくような感覚がしてくる。

 そんな曲調のためか、歌詞の方も本作他の曲と同じ支離滅裂さだが、どこか全体を通じて陰気な感じがして、そしてやはり曲調が変化する前に何かしらの緊張感のピークが訪れ、そして様々な引用がやたらと飛び交う*14

 

疲れ果てて 舌はもつれ 呼吸もせずに 失くし続けた

夢の中で くちづけした パレードの日 地獄の季節*15

 

バナナフィッシュ*16 車輪の下*17で 望みは何も無い

バナナフィッシュ 車輪の下で 純粋になりたい

 

 曲の尺を半分以上残した段階で、上記の歌詞が終わると演奏は一旦ブレイクし、木下の「You give me my name…」というフレーズを合図に、三連符の重厚で攻撃的な演奏に切り替わっていく。ギターは次第に熱を上げていき、ボーカルはどんどんシャウトになり、4分過ぎに轟音に埋もれて消える。アルペジオの美しい掛け合いから次第にフリーキーにぶっ壊れていく演奏へ移行*18し、そのエモーショナルさが途切れた地点からは美しくも儚げなアルペジオが残る、さらに最終盤、ベースが抜けてドラムとアルペジオだけで演奏が続いてそして呆気なく途切れる様は、その幽玄さにポストロック的なテイストが感じられる。

 これより後の曲でここまでグチャグチャなノイズ展開する曲はほぼない*19ため、そういった影響が最も色濃く現れたアートの曲であるとも言える。ローファイな録音・演奏なのは勿体無いような、こういう状況だからこそのがむしゃらさだったのかもしれないような。 

 この曲は長らく木下曲最長尺の曲だった。現在(2021年10月)ではKilling Boy『No Love Lost』(こっちはセッション中心だから木下曲とは微妙に違うのか…?7分51秒)、ART-SCHOOL『We're So Beautiful』(6分46秒)の次に長い曲となっている。

 こうした曲構成のため、ライブでは特に後半が非常にエモーショナルな演奏になり、観る者のART-SCHOOLに対するイメージを変えてしまうポテンシャルすらある。特に2007年の『左ききのキキ』のツアーの際は何故かアンコール時の目玉として毎公演演奏され、大迫力の演奏を展開していた*20。個人的にはこういう「爆発・崩壊パート」のあるオルタナ全開な曲をもっと聴きたい気もする。

 

www.nicovideo.jpどうせこのライブ動画もすぐ消えるだろうけど。。それにしてもやっぱり素晴らしい。かつて木下が弾いていたであろう暴走パートのギタープレーを、この時は戸高側のギターに任せているのが、趣深い。

 

 

6. SANDY DRIVER(2:52)

 前曲の陰鬱な静寂→雄大な展開と崩壊→幽玄なエンディング、という展開が終わって、最後にこの軽快で軽薄にドライブしていく曲で今作は終わる。NIRVANA『Drain You』のリフを無邪気に借用した明るく元気のいいパワーポップで、the pillowsのアルバムとかでもよく見られる、「アルバムの最後は軽い曲で締め」のパターン*21。冒頭では「罪! 罪!」と叫んでいたけど、最後は罪のない感じでサラーっと終わっていくのが洒落てる。

 曲自体は自然な感じに90'sUSインディーな雰囲気のバカっぽいジャンクさが活かされたねじれてて快活なポップソング。いい意味でアイディア1発って感じの、投げやりっぽくも楽しそうなリフとメロディ。サビでの変な英語の発音も何のその、はしゃいでる感じのある歌唱とバンドサウンドは単純に愉快に流れていく。最後はWeezeer『Buddy Holly』サビのフレーズをラーラーラーって歌って楽しげに締める。これほど演奏や歌に無邪気な感じがする彼らの曲も珍しい気がする。

 歌詞も、ガチガチに引用で固めた前曲と打って変わって、雰囲気は残しつつもざっくりした言葉遣いはどこかノリを優先してるようにも思える。

 

サンディ 水の中の小さな太陽*22は透明*23

サンディ はしゃいでいる ヤンキーと少女の膨らみ*24

 

サンディ 雨の中で 膝をつき 誰かが祈った

サンディ 俺の夢は 破れ果て 其処に血を流す*25

 

Do you marry me? Do you kiss me?*26

うたかたの散弾銃と 生足に堕落をした

黒い空 まだ消えないのです

 

・・・・・・・・・・・・・・・

終わりに

 以上6曲、合計時間23分54秒でした。

 元ネタの類は自分で発見したものはなくて、全て他の誰かの記述の受け売りです。久々にこうやって初期ART-SCHOOLの作品を聴いて、こうやって文章を書いて元ネタを記していくと思うのは、全然元ネタの音楽や映画を満足に鑑賞できてないな、ということです。当時の木下理樹よりもずっと歳を取っているのに、全然そういう蓄積が増えてないのは、自分のここまでの人生に問題を感じてしまいます。逆に、当時の木下理樹の博覧強記っぷりと、そこから引き出した言葉やイメージを上手く楽曲に載せる能力は、やっぱりはじめからずば抜けているな、と、こうやって辿ってみて、改めて実感しました。

 いつか大山純Twitterに書いていた当時についての言及によると「迷盤が完成した。名曲ばかりなのに。」とのこと。確かに、次作で飛躍的に音が改善されることを思うと、今作の録音はやっぱりコンセプトからして無茶で、もっと丁寧に音を作っていればよかったのに…と思ってしまう楽曲も幾つかあります。それらはなかなか「これはこれでいいですね」という気分になりにくく、ライブ盤『BOYS DON'T CRY』*27で聴いた方がずっとよく聴こえたりします。でも『MÄRCHEN』は今作の音が合ってるし、『斜陽』は今作の音が気にならず、ベスト盤の方であれば音量レベルも気になりません。

 実際、曲の粒は揃っており、歌詞もソロの頃の夢見がち感とこれより後の次第に殺伐さを増していく風情との間でこの作品のみの雰囲気みたいなものを感じる。生活感まったくなしの歌とハイがごっそり抜け落ちたような演奏の丸み・すすけっぷりで、まるで作品全体がどこかのんびりしてシュールなロードムービーみたいな雰囲気がして、それはそれで中々いいもののような気がしてこなくもないです。難しいことは考えず、ぼんやーって感じの音とテンポよく吐き出される単語の並びを楽しんでいればいい作品なのかもしれません。

 

 ART-SCHOOLのレビューのリマスター記事、特に第一期の作品は複数回書いたことがあるものばっかりなので、当時と違った見え方がした部分、何か見落としていた部分等を入れ込みつつも、スピーディーに書いていければと思っています。

 

追記:次の記事です。割とスピーディーに書けたかな…?

ystmokzk.hatenablog.jp

*1:どことなくNmuber Girlの向井秀徳みたいなヘタウマさを狙った感じのイラストもある。

*2:デビュー時から過去のトラウマ経験を歌にも音楽性にも直接結びつけた、おどろおどろしくも生々しい歌の数々で知られるアメリカの女性SSW。このブログでも何度か出てきてます。

*3:木下のギターの音が大きく、大山のギターの音が小さい感じがするのはやや気の毒。

*4:木下のギターのみ。大山のギターは淡々とフレーズを継続する。パワーバランス…。

*5:まだソロ時の可愛い感じが抜けてなくて少し可愛らしい

*6:『Missing』収録

*7:第一期ART-SCHOOLでは木下のギターがリードギター的なフレーズを意外といろんな場所で弾いてたりする。

*8:ビートニク文学を代表する作家の1人。代表作は『吠える』

*9:メロディの流れもあって、The Jesus and Mary Chain『Just Like Honey』を思わせるところがある。

*10:なんとなくスピッツ『胸に咲いた黄色い花』と似た印象を受ける。

*11:こういった英語の文法ミスがART-SCHOOLでは時々出てくる。まあそのうち気にならなくなる。ベンジーSHERBETSで「凍てつく(こおてつく)」とか歌ったりしてるし。

*12:太宰治中原中也が参加した同人雑誌やらブランキーの楽曲やら様々な元ネタが想定される、でも別にただカラフルさで選んだだけかもしれないフレーズ。

*13:そういえばこの曲のベースイントロは結構はっきり聴こえる。なので『FIONA APPLE GIRL』のベースイントロがやたら聴こえづらくなってるのはもしかしてわざとなのか…。

*14:そもそも曲タイトルがレオス・カラックス監督の同名のフランス映画からの引用。レオス・カラックスは木下の好きな監督らしく、様々な形で引用されている。

*15:フランスの詩人アルチュール・ランボーの、本人が認める形で世に出た唯一の詩集のタイトル。象徴派を代表する作品であり、ボードレール悪の華』などと同様に、退廃的で官能的な世界観を有する。ランボーの文学に対する絶縁状とも言われている。

*16:漫画の『BANANA FISH』の可能性もなくはないが、おそらくはJ.D.サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』が元ネタか。シーモア・グラースという印象的な人物が登場する、サリンジャーのグラース家シリーズの起点となる作品。

*17:言うまでもなく、ヘルマン・ヘッセの同名の小説。彼らは後にこのフレーズを曲名にした楽曲を発表し、代表曲になる。

*18:ここもやはり木下のギターの音が大きい。

*19:ライブ演奏を含めれば、『IN THE BLUE』『We're So Beautiful』など皆無ではないが。

*20:いつかYoutubeに上がってた動画を個人的な観賞用にアレしてしまったくらいに良い。リアルタイムでも福岡でのライブの際に見れて結構衝撃を受けた気がする。

*21:ART-SCHOOLも次作ミニアルバムやアルバム『Requiem For Innocence』などでこの曲順パターンを採用している。

*22:『冷たい水の中の小さな太陽』という小説、及びそれを原作としたフランス映画からの引用か。もしくは、さらにその映画からタイトルを引っ張ってきたであろう岡崎京子の短編漫画『水の中の小さな太陽』かもしれない。

*23:「サンディ」「水の中」といったフレーズが何故かそのまま後の『プール』という曲の歌詞で再び用いられる。「サンディ」の方にも元ネタがあるんだろうか。

*24:ヤンキーが少女を妊娠させた、ということを言ってるのか。それとも単に胸の話か。

*25:デッドエンド大好き木下理樹、って感じ。

*26:ここの「kiss me」の歌い方の不自然さもなかなかストレンジ。逆にバカっぽくてこの曲に合うかも。

*27:このライブ版に収録されている本作からの楽曲は『FIONA APPLE GIRL』『NEGATIVE』『斜陽』の3曲。実際のこのライブ盤の元となるツアーライブでは『汚れた血』も演奏していたことがあるらしく、収録してほしかった…。