ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『Missing』ART-SCHOOL

Missing(初回限定盤)(DVD付)

Missing(初回限定盤)(DVD付)

 
それは愛じゃない

それは愛じゃない

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ART-SCHOOLのアルバムにカウントしていいものかだめなのか微妙な、変則的なコンピレーションアルバム。要は第2期メンバー以降にインディーの形式で限定リリースされた2作のミニアルバム*1『スカーレット』『LOST IN THE AIR』と、『フリージア』以降にレコーディングされた新曲2曲、及び当時のライブ映像のDVDを同封した作品。どうしてこうなったか、当時のインタビューを読むとメンバー自身からの発案だった訳でなく*2、なんか訳あり風だったけど果たして…。

※新曲2曲のみのレビューです。他の収録曲については以下でレビュー済。

『スカーレット』ART-SCHOO

『LOST IN THE AIR』ART-SCHOOL

 

1. Missing

リフでゴリ押す直線的なAメロと、水中感のあるアルペジオ混じりの轟音サビの繰り返しで出来たシンプルな構成のキャッチーな曲。フリージア』にも増して少々地味な感じもするけれど。

リフ中心で進行する曲はこれまでにも何曲かあったが、それらはマイナー調っぽいダーク気味な曲が殆どで、この曲は明確にメジャー調なのが特徴。メジャー調ではあるが、しかしそこに乗る木下の歌は音程が低く、這うようなメロディが続き、サビの直前で音程が跳ね上がることで曲のダイナミクスを作っている。

サビでは時折木下が用いる「2回目以降のサビでメロディが増える」手法が登場し、初回はそのままポストロック的意匠の施された間奏に入る。やはり『フリージア』以降で単純にブレイクする以上の何かをしようとする意向がはっきり見え、むしろこのブレイク箇所がこの曲一番の聴き所のように思える。

あと、『フリージア』に続きこの曲もPVが変なことになってる。本筋っぽい男女の逃避行劇よりも、メンバーのコスプレとトチ狂った演技の方が頭に入ってしまう。特にあの幻想的な間奏、櫻井さんはともかく、宇野さんがね…。監督は木下理樹

 

2. それは愛じゃない

三分にも満たない、佇まいからしてさりげないポップソング。しかしなぜかインタビュー等で作った本人が1曲目よりもよく言及し、 そして「収録楽曲は基本的にファンに寄る人気投票で決める」としたB面集企画において人気上位*3でなかったにも拘らず収録されるなど、本人かなり気に入ってる風な部分がある。しかしそれも理解できる、さりげなくも改心の一曲と思われる。

何よりも尺のコンパクトさ。この曲は陽性のミドルテンポな楽曲だが、イントロ、2回のAメロ、三回のサビ、十分に饒舌なギターソロ含む間奏等も含めて、僅か三分弱に収まっている。やはり尺の短い隠れた名曲として2分弱の『レモン』があったが、あちらと同じくこの曲もとてもキラキラした楽曲となっている。全編フォーキーな雰囲気と厚くコーラスで潤んだギターフレーズが重ねられ、ドリーミーな感覚とサビでのシンコペーション気味なドライブ感とがとても自然に共存している。Flora期的なツルッとした音の重なりがとても淡く爽やかで心地よい。ひとつのサイクルでスネアを2発が必ず入るドラムも地味にインディーロック感がある。

Aメロの歌メロはあろうことかART-SCHOOLの音源順に一番最初の曲『FIONA APPLE GIRL』のそれの使い回しだけど、あちらの殺伐感・焦燥感が嘘のように、このラインは落ち着いて、ノスタルジックに聞こえる。サビでさえファルセットの部分以外はメロディが激しく上下したりしないので歌としてはとてものどかで落ち着きがあり、その分裏でのリードギターのドライブ感がそのままエモさに繋がってくる*4

結果的にこれは『1996』辺りから続くノスタルジー系楽曲でも、そのコンパクトでピースフルでギターポップ然とした作りにより、独自のキャラのある隠れた名曲のひとつとなった。このピースフルでノスタルジックな感覚は後の『TIMELESS TIME』辺りにも繋がってくる。

 

当該コンピは不思議な存在で、割とソフト目でポップさに満ちた上記2曲の後に、殺伐とした『スカーレット』『LOST IN THE AIR』の楽曲が続いていく。作った時期が結構違うので、音の傾向も曲の趣向も全然異なり、「コンピだけど自然と纏まりがある」とは思えない作りになってしまってはいる(仕方がない)。新曲2曲も前作『フリージア』と較べればどちらも小粒だが、特に『それは愛じゃない』はその小粒さこそに独特の輝きがある曲。

また、今作から音量レベルがやや上がっており*5、それに伴い『スカーレット』『LOST〜』の楽曲もリマスターの結果、原盤と較べてボリューム等が変わっている。他の「PARADISE LOST」期の楽曲と混ぜてプレイリストをつくるとボリューム差が意外と気になったりする。

『それは〜』のみが聴きたい場合はB面集でもいいけれど、結局はミニアルバム2枚の楽曲をコンプリートするために一度は手に取る必要があるアルバムである。なおDVDでは貴重な(?)「木下がステージ右側、戸高が中央」のライブ動画が見れる。『フリージア』のツアー時はこの体勢だったが、『Flora』のツアー時には(少なくともDVDでは)元の木下中央のスタイルに戻っている。インディっぽさを狙ったけど不評だったのかな…。

*1:枚数限定リリースで当時入手困難になり文字どおり“Missing”していたんだろうか

*2:普通にシングルをスパッと出したかったらしい。ひとまずの出典はMARQUEEvol.56

*3:少なくとも公式に発表された上位曲リスト(ここに挙がった曲はすべて収録されたはず)にはこの曲は含まれていなかった

*4:この辺は『フリージア』のCメロと同じ感じのエモさがある。とても好き

*5:ミニアルバム『左ききのキキ』まで高めの音量レベルになっている。なぜかその次の『ILLMATIC BABY』で下がる