ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

コード進行の話:ポピュラー音楽における基本的なコード進行とその効果

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画像をクリックするとこの画像元のLou Reedのスリーコードの記事(外部サイト)に飛びます。

 

 コード進行の話をします。

 今後、このブログで「こういう定番のコード進行の曲を並べてみました」的な記事だったらいくつか書けるな…と気づいたんですが、そういう記事を書くより前に、じゃあまず、今後取り上げるようなコード進行はどういうものがあるのか、そもそも、ブルーズ〜ポップス〜ロックンロール〜ロックという流れの中で多くのヒット曲やそうでもない曲で採用されてきたコード進行にはどういうものがあって、それぞれどんな特徴があるのか、というのを一回整理しておきたくなったので、今回これを書きます。

 楽器を演奏する人・演奏してたことのある人においては「あるある〜」な感じに受け取ってもらえれば、または演奏とかしない、「コード進行」といった言葉に馴染みのない人にとってはコード進行を通じて楽曲の聴き方の面白さが何かしら増えれば、なんか幸いな気がします。

 なお、五線譜は読むのも書くのも苦手なので使いません!また筆者はギターはそこそこ弾きますがピアノは全然弾けないので、ギターでよく演奏されるコード進行に偏った話になってしまうと思いますのでご了承ください。

 

 

はじめに:「コード」「コード進行」とは

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 はじめにざっくりとコード進行の話をします。

 そもそも「コード」とは音楽においては、たとえば「ド」「ミ」「ソ」の3つの音や「ド」「ミ」「ソ」「シ」の4つの音など、そういった複数の音を同時にならすることで感じられる「音の雰囲気」みたいなもので、この例でいけば前者が「C」(シー、もしくはシーメジャーと呼びます)、後者が「CM7」(シーメジャーセブンス)と呼ばれます。実際に弾いてもらうと分かりますが、「C」はカラッとした明るい響き、「CM7」は「C」よりもどこか寂寥感のある響きがします。また「ド」「ミ♭」「ソ」とすると「Cm」(シーマイナー)となり、なんか暗い響きになります。この前記事にしたパワーコードという概念もこういったコードのひとつで、特にその「メジャー」も「マイナー」も無い無骨さが伝わってくるのが特徴といえます。

ystmokzk.hatenablog.jp

こういった様々なコードをたとえば小節ごととかに切り替えていくことで、なんか歌が乗りそうな雰囲気が出てくるわけです。

 コードには音の組み合わせによって様々な複雑な効果や装飾が付き、またそれらのコードの繋げ方には「こうすれば自然に聞こえる」といったルールめいたものが存在します(「スケール」と言ったりします)。

 複雑なコードを取り入れたり、それらを流れるような展開やエグくなるギリギリで接続することによって、楽曲は時にドラマティックになったり、エキゾチックになったり、耽美で退廃的な雰囲気になったりします。または、シンプルなコードのみを使って作曲することで、メジャーキーであればおおらかな感じの、明るい響きのする楽曲になったり、マイナーキーであれば分かりやすくマイナー調の、どっしり暗い感じになったりします。場合によっては少ないコードだけで楽曲を構成して、シンプルでストレートな響きを作ったり、逆に停滞感を演出したり、反復感でリズミカルな快感を発したり、などとすることもあります。場合によってはひとつのコードだけで延々と1曲をやりきるような手法もあるわけです。この辺は、何でも挑戦していった過去の偉大なる先人たちが切り開いていってくれたものであって、大ヒットした楽曲のコード進行がとてもシンプル、という事象も往往にしてあるものです。

 

具体的なコード進行例

 ではこれから、具体的に様々な「典型的なコード進行」について、例を挙げながら、どんな感じがするか見ていきたいと思います。なお、コード進行の世界においては、そのコード進行の基準となる音(「キー」と言います)が変わっても、他のコードも同じように変わればコード進行の響きとしては概ね同じ効果が発揮されるため、どのキーでも対応できる一般的な表記のために、ローマ数字(「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」「Ⅳ」…といった表記)を行います。たとえば「Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅵm」というコード進行は、Cのキーであれば「C→F→G→Am」というものになります。

 

基本的なスリーコード:Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ

 キーであるⅠを「トニック」、Ⅴを「ドミナント」、及びⅣを「サブドミナント」と呼んだこの三つのコードを「トライアド」と呼び、これらは特にブルーズ派生の西洋音楽における基本中の基本のコードとなります。

 そして基本であると同時に、この3つのコード「のみ」を使って作られる楽曲は枚挙にいとまがなく、ブルーズからパンク・インディロックに至るまで、現代に至っても頻繁に活用されるこのスリーコード形式は「ポップソングには3分の尺とスリーコードさえあればいい」といった一種の信仰にさえなりうる形式なのかもしれません。

 

●ブルーズにおけるトライアド

www.youtube.com ブルーズはこの3つのコードを基調として成立することが非常に多いジャンルで、これは伝統であると同時に、古典的なブルーズ形式を構成する最も重要な要素です。

 12小節で「Ⅰ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ」と展開させていく、これこそブルーズ形式のスタンダードな姿。なお、その際にはコードをパワーコード形式で抑えた上で、小指で6度の音を5度と交互に鳴らすことで今で言うギターリフのようなものを形作るプレイも多く見られます。また、全体的に「セブンス」的な響きが含まれていることが多く、この「セブンス」はCのコードだったら「C7」(シーセブンス。シーメジャーセブンスに非ず)と表されるものですが、このセブンスの響きが入ると途端に音の雑味・煤けて汚れた感じが増すのが特徴です。

 ブルーズ形式の反復のみで形成され、ゆっくり目のシャッフルのテンポで重々しく演奏される、特に弾き語りによって演奏される形式のブルーズ楽曲が放つ雰囲気は、どれもどこか暗く、抑圧的で、スモーキーな雰囲気が漂います。ブルーズという文化の成り立ちを思えば納得の、まさにブルー(憂い)に満ちた雰囲気なんだろうと思います。

 しかしながら、ジャズやロックといったブルーズからの派生ジャンルからの影響を受けて、基本的なブルーズ形式を外れてコード進行的に発展していくブルーズもまた存在します。

www.youtube.comそれでも、ブルーズというジャンルにとって、ブルーズ形式というものはいつでも立ち返ることのできる、拠り所のようなものとして、まだずっと存在し続けていくものと思われます。

 

●ブルーズからの派生としてのロックンロール

www.youtube.com 時代を経て、エレキギターとマイクを使いドラムやベースを伴ったバンド編成にてブルーズが演奏されていく中で、よりパワフルでキャッチーでダンスできるような、むしろブルーを吹っ飛ばすような痛快な音楽として、1950年代半ばにロックンロールというジャンルが確立されます。

 ブルーズよりも遥かに速いテンポで、リズムも直線的になり、時には感情が溢れかえったかのようなボーカルのシャウトやドラムのフィルイン、そしてギターソロにて彩られたロックンロールのスタイルは、ポップスやカントリーの柔らかさとは違った、攻撃的で突破感のあるサウンドを人々に印象付けました。この手法は大流行し、みんながこぞってブルーズ形式を高速でバンド演奏し、コード変更のタイミングの調整や、歌い回しやギターリフの弾き方やギターソロ、ドラムのリズム等の工夫、コーラスボーカルの付与等様々な手法によって「俺たちこそが1番キャッチーでクール」を目指していった時代。

 コード進行の話に戻れは、ブルーズ形式のスリーコードによって演奏されるロックンロールの響きというのは、基本的に勢いに満ちていながらも、その展開のキチッとした感じが、現代の目から見れば「ストイック」とも「予定調和的」とも感じれるものかもしれません。でもこの、形式どおりにビシッと決まる感じは、個人的にたまにとても聴きたくなる感じがあって、やっぱいいもんだなあ〜って思います。

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●ロック・ポップスに溶け込んでいくスリーコード

www.youtube.com 1950年代のロックンロールの成立と流行を経て、1960年代はポップスもロックンロールの影響を受けるし、ロックンロールもポップスやカントリーなど他のジャンルと融合して膨張していき、特に1960年代半ばにサイケデリック要素が入ってからは、ロールしていく以外にもその魅力を多方面に放ち始めたそれらは「ロック」というジャンルに変質していきます。

 1960年代に活躍したミュージシャンの多くは1950年代のロックンロールに熱中していた経歴があるので、ロックンロール的な要素が継承され、発展していくわけですが、ことブルーズ形式以降のスリーコードにとりわけ強い愛着を有していた人物をこの時代で2名挙げるとすれば、ホップス側からPhil Spector、ロック側からLou Reedが浮かんできます。

 ロックンロールマニアでもあるPhil Spectorが手がけた1960年代のポップス楽曲の多くには、シンプルなスリーコード構成を発展させて作られたような形跡があります。このような、装飾は華やかだけれども楽曲の芯は案外シンプルといった構成が、むしろ後進のロックバンドの愛玩を呼び、The Beach BoysからRamonesに至るまで多くのフォローワーを経て、そのスリーコードの使い方は後のパワーポップというジャンルの基調となる要素のひとつになりました。

 

www.youtube.com やはりロックンロールやドゥーワップに強い影響を受けたLou Reedは、それらのシンプルなコード進行・曲構成こそを我が物とした上で、様々なサイケデリック的な演奏方法・演出方法の模索をThe Velvet Undergroundにて行いました。サイケデリックという音楽的効果は、場合によってはそれらしいコード進行をすることで、弾き語りのスタイルでも発生しうるものだったりしますが、彼の場合、基本となるロックンロール・ポップス的な楽曲をどのようにしてサイケデリックな雰囲気に満ちたものにできるかという「手法」を次々に発明していったことで、スリーコードの楽曲が表現できる領域を拡大していったことが、スリーコードという概念において計り知れない功績となりました。シンプルなスリーコードなのにサイケデリックな効果が発揮され、シンプルで甘いメロディと妖しさ・かどわかされる感覚とがスリーコードの楽曲上で共存できるようになりました。

 このLou Reedの功績は、とりわけ後にThe Jesus And Mary Chainに回収・反復され続けることを通じて、やはり後世のパワーポップに影響を与えることになります。

 

●パンク・パワーポップでのスリーコード

 ロックがハードロック・プログレ・SSWと派生して複雑化していった上で、それらの反発としてのパンクロックが成立しますが、確かにコード進行はシンプル化されながらも、必ずしも古典的なスリーコードに皆が回帰したわけではないことには注意が必要です。むしろ多くのパンク・ポストパンクバンドは「既存のコード進行に捕らわれない」より無骨だったりダークだったりなコード進行のものが多い気がします。

 その中で、伝統的なスリーコードをこそを自らの楽曲の主軸として突き進んでいったバンドは、何と言ってもRamonesThe Jesus And Mary Chainでしょう。

 

www.youtube.com Ramonesは、直線的なリズムで、シンプルなパワーコード演奏を主体として、3分弱の楽曲にその身を捧げたという意味では確かにパンクロック的ではありますが、その古典的なロックンロール・ポップスを意識し模倣しストイックに反復し続ける楽曲のスタイル的には、むしろ「ロックンロールの発展形」と見なした方が納得がいく時がある気がします。

 彼らのスリーコード感を活かした楽曲群は、スリーコードの響きに「バカっぽくて大らかなポップさ」を付与することに大々的に貢献しました。そのバカっぽさの性質がかつての1950年代のロックンロールのそれと陸続きではありながらも異質なものになっているところが、特に重要に思われるところです。

 

www.youtube.com パンク以降のスリーコードの響きに最も様々な、偉大な貢献をしたバンドはまず間違いなくThe Jesus And Mary Chain(以下JAMCと記載)でしょう。そのキャリアを通じてずっと古典的なスリーコードを基調として楽曲を量産し続ける様は「こいつらよくこれだけの狭い楽曲の幅で作品を量産できたな…」「こいつら同じコード進行の曲ばっかりだけどライブの時に演奏する楽曲を間違えたりしないのかな…」といった印象を抱かせます。同じことはRamonesにも言えますが、JAMCの方が楽曲のアレンジの幅が多彩であるため、彼らこそがスリーコード楽曲の可能性を限りなく広げていった功労者なのかもしれません。アホだけども。

 『Phychocandy』時代のノイズまみれのポップソング量産で「シンプルな楽曲+甘いメロディ+ノイズ=GOD」みたいな価値観を強烈に後進に与え、その後もギターロックの基本となる煌めき具合といなたさの両立したギターサウンドを軸に、スリーコードの朗らかで大らかな響きの向こうに様々なキラキラや、シリアスさや、寂寥感や、ブチブチしたダークさなど、様々な情感や景色を(結果的に)描いていきました。その、最早縛りプレイで音楽活動を続けていたのか…とさえ思えるキャリアの、ずっと何か拙いまま、成長をしないままにロックンロールし続けた姿に、時折猛烈な畏敬の念と熱中を捧げ続けている次第です。ギターロック・パワーポップに与えた影響は、実は計り知れないものだと思います。JAMC自体はひたすらバカだけども。

 

 スリーコードについてはその後、多くのギターロック・パワーポップ・インディーロックバンドが「先祖返り」的に援用したり、ブルーズ進行そのままをリスペクト的に利用したりする場面が見られます。

 手法的には、Ⅰのコードで引っ張って、タグ的にⅤ→Ⅳ→Ⅰを挿入するのが多いかも。ⅣとⅤについてはそれぞれ代理コードに入れ替えて例えば「Ⅰ・Ⅱm・Ⅴ」で組み合わせるとか、スリーコードだけで作曲、といっても曲構成は色々設定できるし、アレンジも含めれば、まだまだ全然いろんな楽曲が生まれる余地があると思えるのが、スリーコードの凄いところだと思います。

www.youtube.comこのブログではともかくよく出てくるこの曲。基本となるスリーコードの同一の繰り返しを延々と行いながらもアレンジだけで劇的な変化を付けていく様は、編曲の重要さというものをこれでもかと思い知らされます。スリーコード繰り返しの安定感がひたすらアレンジに脅かされ続ける楽曲構成というか。

 

www.youtube.comブルーズ形式の曲構成を取り入れた楽曲の例。ミドルエイトでよりメロディックなコード進行を導入してパッと場面を変える様が鮮やかでいいですね。

 

二つのコードによる反復の事例

 三つのコードの繰り返しだけだとシンプルになりがちなことを上で述べましたが、さらに減らして二つのコードだけで反復させたら、もっと単調になるんじゃないか、って思うと思います。

 しかしながら、この二つのコードの反復も、有効に活用するとなかなかに効果的な場面というのがあって、コード進行って奥が深いなあと思います。またワンコードの単調さに比べると、ああ、コードが変わるってなんて劇的なことなんだろう、とか思ってしまいます。

 

●Ⅰ→Ⅳの反復

 この反復のパターンは、特にギターで弾くとルート音が1本上の弦に移るだけという、シンプル極まりなく感じられるコード進行です。しかしながら案外、この反復だけでも曲って書けてしまったりするから面白いです。

 

www.youtube.com このブログはJoy Divisionもよく出てきますね…。この曲は彼らの楽曲としては例外的にメジャー調が強く出た楽曲ですが、歌が途切れて間奏に入る直前のⅤのコードを除いて、すべてⅠ→Ⅳの繰り返しだけでできています。本当ならシンプル極まりないはずのこのコード進行も、このボーカル・このサウンドをもってすればとても神秘的に響きます。これを聴いてると、彼らもまたThe Velvet Undergroundの子供たちだったんだなあと思ったりします。

 

www.youtube.com 正確にはⅠ→Ⅳ反復ではないけれどそんな雰囲気がある単調でメジャー調なAメロから、グチャッとして抜け切らない感じのサビの反復に入っていく様が実にCurt Cobain節な1曲。というか本来彼は『Smells Like Teen Spirit』的なサビの強い楽曲よりも、このサビみたいなヘンテコで残念な反復を不思議と魅力的に聴かせる方が好きそうなセンスをしてる気がする。The Vaselinesとか好きだもんな彼は。

 

●Ⅳ→Ⅰの反復

 さっきとただ順番を入れ替えただけ。だけど、なぜかこうすると急に荒涼感・寂寥感がやたら湧いてきたりするので、コード進行って不思議だなあと思います。Ⅳはメジャーセブンスが付くとより寂寥感が出ます。

 

www.youtube.com この反復の寂寥感を雄弁に語る楽曲のひとつ。同じメロディの繰り返しながら、心ここに在らずみたいなメロディの放浪感やだらーっとしたスライドギターがともかくひたすら旅情混じりにふと感じるような空虚感を醸し出してます。The Rollong StoneにしてはまるでNeil Youngかのような哀愁が漂います。とりわけ、このスライドギターは晩年のBrian Jones最大の名演。

 

www.youtube.com the pillowsもまた、時折この必殺のコード進行を利用して、平坦でどこまでも続いていくかのような寂寞とした雰囲気を醸し出してきます。彼らが強いのは、その寂寥感を力強く駆け抜けていこうとする意思を楽曲に必ず備えるところ。それは歌詞などの言葉でも、サビでの明るいメロディなどでもそう。

 

www.youtube.com Ⅳ→Ⅰの反復が生み出す緊張感については、この曲がとりわけ印象的で代表的。おそらくⅠもⅣもメジャーセブンスが付いてるけど、たった二つの基本的なコードでこの澄み切って非現実的な幻惑と寂寥の世界観が出るのか、と驚く。そりゃあこんな簡単な曲構成とギターサウンドでこんな別世界みたいな曲作れりゃあ当時のバンドやってた人皆憧れるなあ。

 

●Ⅰ→Ⅵmの反復

 オールディーズポップスの時代からとにかく多用される、ポップスにおける定番中の定番のような反復の進行です。この順番で聴くと、単品だと暗く憂鬱に聞こえるⅥmが程よくゆるい感じに聞こえるので、やっぱコード進行って不思議です。

 

www.youtube.com オールディーズでのⅠ→Ⅵmの代表例。不思議なフワフワ感とおセンチさがして、全然マイナーコードな感じがしません。というかⅠから始まるコード進行に取り込まれたマイナーコードって大体マイナー調の暗い感じが消えるので、それも不思議な気持ちになります。

 

www.youtube.com 冒頭でかき鳴らされる二つのコードがまさにⅠ→Ⅵm。この勢いの良さにちょっと影が差すような感じは流石にマイナーコードというか。Ⅰ→Ⅳで同じようにかき鳴らしても明るくなってしまってこの感じは出ません。それにしてもいつ聴いても思い切りの良すぎる曲構造してる…。

 

www.youtube.com チバユウスケのメジャー調の楽曲としてはthee michelle gun elephantの歴史の中でも最も終盤に出てくる楽曲。チバユウスケという人のメジャー調の楽曲には常に伝統的なコード進行の影がある気がします。『世界の終わり』も歌とコードを取り出すと感傷的なポップスのような形をしてるし。というかこの曲みたいな枯れたメジャー調の楽曲をいくつも並べるような方向にバンドが進化してたらどうだったんだろう…とこの曲を聴くたびに気になってセンチメンタルになります。

 

●ツー・ファイブ:Ⅱm→Ⅴ

 二つのコードの反復で最も有名なのはこのツー・ファイブ進行で間違いないかと思います。こうやって名前が付いてるくらいだし。古くからポップスに使われ、ジャズでも有名であり、またロックでもブルーズロックにSSWにプログレにパンクにと、ともかくあらゆるところで頻出するコード進行。これだけの反復に加えて、この二つを頭にコードを展開させるものなども色々。ⅡのコードはⅣほどのスッキリ感が無く、またⅤもドミナントで不安定なコードであるため、この二つの反復は不思議にまったりした不安感があり、そこからトニックのⅠに帰ってくると実にスッキリした感じになります。

 

www.youtube.com オールディーズでの著名な使用例。不思議なまったり停滞したムードがサビ的な箇所ですっきり解消される感じが分かりますでしょうか。これが典型的なツー・ファイブのポップソング的な活用方法だと思います。サビ的な箇所はⅠ→Ⅳの反復でさらっとしてるのがポイント。

 

www.youtube.com 上の楽曲をパクったとして訴えられた、George Harrisonソロ最大のヒット曲。ツーファイブ反復からⅠ→Ⅳ反復に繋がるのは確かにまあ似てます。George流ドゥーワップ的な側面もあるこの曲ですが、敗訴しても自分の他の楽曲のPVでネタにしたりして、タダでは済まさないところが可笑しくて好きです。

 

www.youtube.com ツー・ファイブ進行の最大の特徴は、ともかくこのコード上でインプロビゼーションが展開されることが多いこと。ゆっくりこのコード進行を鳴らすと大人っぽい停滞感が出て調性が語りすぎない感じになるから、その上で流麗でアダルティックなギターソロとかを披露するのに向いているということなのか。それにしてもNeil Youngのそれはなかなかに思いつき感全開の、音がささくれ立ちまくったそれで、全然流麗さが無くて、ひたすら無骨で笑ってしまう。けども、その無骨でギャリギャリした感じがすごく格好良くもあります。

 

有名なコード進行パターン

 あとは、4つ以上のコードを使った典型的なコード進行の例を以下にいくつか示していきます。

●カノン進行:Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ

www.youtube.com クラシック由来のコード進行で最も世間のポップソングに使用されているコード進行といえばまさにこれなんだと思います。17世紀のドイツにおいてPachelbelによって作曲された元の楽曲が繰り返し続ける「Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ」(こう書くとややこしいな…)のコード進行には、クラシカルな響きの中に落ち着きと優雅さと気品とがありますが、このコード進行が後世で様々な歌や伴奏によって演奏され続けるなんてことは当時の作曲者も夢に思わなかったことでしょう。

 その出自から、荒々しさよりも優雅さ・雄大さがアピールされるコード進行なので、歌を乗せるとしてもメロディアスで雄大なものになることが多く、ひいてはバラード等でとりわけよく使用される気がします。また、そのままで使用するとあまりにベタで何も考えてない感じになりかねないので、多くの場合部分的にコードを変えたりしてアクセントをつけるのが定番です。

www.youtube.com やや変形していますが間違いなくカノンコードを基調とした展開のAメロ。展開の終盤を変形させてリフみたいにしてるところに作曲者Paul McCartneyの意地が垣間見える気がします。

 

www.youtube.com カノン進行の曲だとこれが一番好きかもしれません。カノン進行部分を楽曲の中心に持ってきて、それよりも派手なサビを付けようとしなかった潔さが、この曲の響きをカノン進行特有の胸焼け感から救って爽やかで優雅なものにしてる気がします。弦楽隊の使い方も実に華やかでかつ自然な感じがして、メンバーの庶民的なナリとも好対照を成していてとても素晴らしい。

 

www.youtube.com 最初期の七尾旅人の名曲のひとつ。ベタ中のベタであるコード進行に乗せた歌がその節回しも歌い方も絶妙に独特な不安さ・ナイーヴさがあって、こういう多くの歴史や人々にやり尽くされたと思ってた手法だって、使い方次第なんだなあと思わされます。

 

●王道進行:Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm

 誰が言い始めたのか王道進行。日本ではこう呼ばれることが非常に多く、かつ他の言い方を知らないのでここでもこう呼ばせていただきます。

 ルート音であるⅠを経由せずにこれらのコードを繰り返すことで、絶妙な不安定さ・宙ぶらりん感・それに伴う寂寥感や緊張感などが響きから得られるという効果を持っています。日本では特に使用例が物凄く多く、特にサビでの使用例は相当なものだと思われます。Aメロはカノン進行でサビは王道進行、といった使われ方などがあるのかなあと思います。あまりに売れてる曲で使われすぎてるからか、日本においてはとりわけ論争になるコード進行となっています。

 特に頭のⅣをメジャーセブンス(ⅣM7)にするとより緊張感が出ます。ともかく、王道コードが示してくれることは「Ⅳのコードから始まるコード進行でメロディを書くと、なんか感傷的でエモい感じのメロディになるぞ」ということ。どうしてなのか。

 

www.youtube.com 典型的な王道進行の例。イントロや間奏そしてサビが王道進行になっています。彼らが持ち味の切なさと不思議さをマスに到達させた楽曲にして、この進行を使った楽曲でも最も素晴らしいもののひとつかも。誰もがこのコード進行を使えばこの曲のサビみたいな美しい飛躍ができるわけではない、と永遠に思い知らされる名曲。

 

www.youtube.com 王道進行で使われる「4536」のコードは、4を先頭にして他の順番を組み替えてもかなりの効果を生む例。この曲の場合「Ⅳ→Ⅲm→Ⅵm→Ⅴ」となっていて、これもかなりエモく感じられるコード進行。というかART-SCHOOLというバンドはかなりの楽曲を王道進行で使うコード+ルートで回していて、彼らもまた、そのストイックなスタンスには貫禄のようなものが滲みます。日本音楽界のThe Jesus And Marry Chainと呼んでもいいのかも。

 

www.youtube.com 相対性理論もこの王道進行をかなり活用していたバンド。相対性理論のこの性質についてはこちらのブログで相当しっかりと考察されていて、真部脩一氏がこの周辺のコード進行を特に多用することが指摘されています。彼が脱退して以降も、彼らの楽曲においてⅣ始まりのコード進行は散見されるところ。

 

 他にもいくらでも事例あると思いますがこの辺にしときます。

 

●逆循環(小室進行):Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ

 要はマイナーコードから始まるコード進行で日本で最も有名なものです。1990年代に小室哲也氏が多用したために「小室進行」と広く呼ばれていますが、音楽理論的にはざっくり言うと「安定コード→不安定コード」の繰り返しの逆をするため「逆循環」と言うそうです。

 効果としては、マイナー調で始まりながらも力強く駆け抜けていく感じがします。特にBPMが高くなるとその力強さが増す気がします。ゆっくり目のBPMだと案外マイナーコードの陰鬱な感じが素直に出ます。このコードで力強くしたかったらBPMを上げましょう!

 

www.youtube.com 小室進行と広く言われる使用例の中でもまさにど真ん中の使用例となるのはやはりこの曲。この進行からタフさを感じるとすれば、この曲をはじめとする小室哲也楽曲の1990年代式のタフネスな感じからかも。

 

www.youtube.com 洋楽で近いコード進行の事例。ここでは「Ⅵm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ」と、小室進行よりも早く安定の「Ⅰ」が来る。けれどもそれよりも、このようにゆっくりⅥmからのコード進行をするとやっぱり憂鬱な感じはするな…というのがポイント。ちなみにこの曲を取り上げたのは勿論ART-SCHOOLこの曲のほぼ引用みたいなのが印象に残ってたから。

 

www.youtube.com 洋楽での近いコード進行の曲その2。これも「Ⅵm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ」。これは小室進行的な力強さある。比較的マイナーコード大好きな傾向にあるイギリスのバンドでもとりわけBloc Partyはこういうクサくなりそうなシリアスなマイナー調を好むところある。というかこの曲はアレンジも日本の1990年代トランスっぽさに溢れていればPVも日本の特撮的で、どれだけ日本に焦点当てて曲書いてんだよ…って気持ちになる。映像の意図は色々不明だけどともかく怪獣の終盤の動きが可愛すぎて笑えて好き。

 

●ギターロック的メジャー進行:Ⅰ→Ⅴ→Ⅲm(or Ⅵm)→Ⅳ

 どうしてこのコード進行に名前らしい名前がないのか、ずっと不便に思ってます。とりわけオルタナティブロック以降に強く定着した感じのある、カノン進行よりもずっとメジャー調を代表する進行だと思います。

 どっしりしたポップな明るさと僅かに香るメロウさがこの進行の売り。ギターロック直球という気がしてこればっかり弾いて曲作ってると頭が悪くなってくる感じがありますけど、それでもたまにこのコード進行を弾いてていいメロディが浮かぶと「今日なんか調子いいな…」みたいになります。

 

www.youtube.com このコード進行のポップさが典型的に現れた楽曲。次第に楽器が増えていくイントロではベースとドラムだけの時点でこの楽曲の根底にあるポップさが現れ、シンセ、そして特徴的なギターフレーズが現れてからは最高なポップさを放射する。Robert Smithのボーカルは相当に自由だけども、それでもこのポップなコード進行に沿って歌われるため、結果としてポップでスウィートなメロディに感じられる。

 

www.youtube.com この進行で一番売れた曲はこの曲?この威風堂々な感じ、荒野を感傷的ながらも力強く歩いていくような、死にたいくらい視界良好な感じはこのコード進行を延々と反復し続けてることによって土台が作られて、そして驚異的なボーカルとギターの技によって引き出されています。

 

www.youtube.com スーパーカーの完璧なデビュー曲。ギターロックど真ん中を堂々とかつシンプルでシャープに貫くこの楽曲がどれだけ当時の同業者の「それだ〜!!!」という嫉妬を買ったんだろう。2つ目のコードでベースがルートをズラすところとか実にシンプルにセンス出てるって感じ。これを演奏した人たちがもう2度とこの地点には集まりそうにないことも含めて、永遠的な輝きを一部の人たちに照射し続けることでしょう。

 

●オールディーズ調?:Ⅰ→Ⅲm→Ⅳ→Ⅳm

 これもまたこれといった名前は無いけど時折見られるコード進行。Ⅰ→Ⅲmとコードを駆け上がる時の強引な具合がまずドラマチックであり、そして何よりもその後、Ⅳで安定したかと思った後にⅣmに移るところのダークさ加減が非常に迫ったもののある、素晴らしいコード進行。特にこのⅣmの、ポップさが腐り落ちるような感覚は非常に効果的で、むしろこのⅣ→Ⅳmの部分だけ抜き出して使われることも多々あるかと思います。「サブドミナントマイナー」とか言うらしいです。腐り落ちるような美しさを表現したいときはⅣmを使うということを、作曲される方は常に胸に持っておくといい具合に耽美でナルシスティックな感じになれます。

 

www.youtube.com オールディーズ的なコード進行とよく紹介されるけれど、具体的にどのオールディーズの曲なのかよく分かりませんでした…代わりに、この進行を使った曲で世界で2番目に有名そうな曲を。様々な派手な装飾がありますが、楽曲の核はこの情緒が腐り落ちそうなポップさなんだと思います。

 

www.youtube.com より直接的にこのコード進行を感じられる楽曲。というかこの下の楽曲について調べてたら出てきたので聴いたけど、The Holliesって1970年代も活動してたのを知らなかった…この曲はしかも結構ヒットしてたという。下の曲の人はこれと似てることを指摘されてからこの曲のメロディを引用してミドルエイトを書いたとか。

 

www.youtube.com そしてこのコード進行で世界一有名な曲はまさにこの曲。延々と繰り返されるこのコード進行は、穏やかなアルペジオと、そしてとても印象的なブラッシングの後に繰り出されるディストーションギターで、進行が持つ情緒を暴力的なフラストレーションとして放出し、そしてその様はThom Yorkのナイーヴの極みのような歌と相まって、実に虚しくも切実で美しい情緒を生む出しています。どれだけRadioheadがこの後に遥かにいい曲をいくら作ろうとも、ここで彼らがこのコード進行に与えてしまったものはずっと払拭されず、世界中で大事にされることでしょう。

 

www.youtube.com 本当は同じアーティストを2回出すのは嫌だけどこれは仕方がない。普通に聴いてれば勢いのあるガレージロックでちょっとメロディアス、くらいのこの曲の印象的なサビが、実はまんまこのコード進行であることは有名で、このコード進行特有の耽美な感じに「世界の終わり」なんてタイトルとそれに見合う歌詞を付けたこの曲のチバユウスケは本当に天才だったと思う。

 

www.youtube.com Ⅰ→Ⅲmは無いけどⅣ→Ⅳmの印象的な例としてもう1曲。Aメロもサビも同じコード進行で繰り返すけれども、ひとつの循環の最後にⅣmが出てくるときの実に物悲しい情緒についてはこの曲にもしっかり現れています。というかandymoriはこの曲の時期は結構よくⅣmを使用する場面があって、なんか気に入ってたんだろうなって思います。

 

ひとまずの終わりに

 「ここで挙げたもの以外にもこういう循環がよく使われとるだろうが」「クリシェは取り扱わんのか」「転調とかは?」等々あるかもしれませんが、自分の知識・能力的な限界もあるので、ひとまずは今回はこの辺にしときます。

 最後にひとつ言いたいことがあるとすれば「やっぱⅣのコードは大事だなあ」ということです。専門用語だとⅤのドミナントに対するサブドミナントとか言われて、サブと付く割に、Ⅰ→Ⅳ反復の方がⅠ→Ⅴ反復よりよく見かけたり、Ⅳ→Ⅰの順で鳴らすと妙にクセになる寂寥感が発されたり、Ⅳmを効果的に出すことで退廃的な雰囲気が生まれたり、そもそも王道進行だったらⅣがコード進行の主役みたいなものだったりで、自分の拙い音楽制作等の経験からしても、Ⅳのコードには非常に様々な魅力を感じます。

 結果的にあまり分かりやすく纏まってない気がしますけど、でも今後このブログでコード進行の話をする際に参照できる程度のことはひとまず書けたのでよしとします。普段楽器を弾かない方も、なんとなくこの曲とあの曲が似てる気がする、と思った際はコード進行を確認してみると、色々発見があったりするのかもしれません。