ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2017年間ベストアルバム(2/3 20位〜11位)

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12月になってやっと「いい加減サニーデイのやつを断片的ではなく、ちゃんと全部聴かないといかんのではないか」*1と思い立ち、リリース後に登録だけして放置してたApple Musicをようやく始めた。
思ったのは、本当にこんなことでいいんだろうかとさえ思ってしまう便利さ。各所の年間ベストを賑わす大名盤も、月額1,000円足らずとほんのちょっとの通信量で、すぐに入手ができてしまう状況。
こんなことで、音楽作る人が儲かるとは到底思えない。ましてやそれらにお金を出すメジャーレーベルなんて、どうやったら立ち行くんだよと思った。自分でファンベースや収入構造を確立したインディーは生き残るだろうけど、かつての華やかなりし、一個のPVに何億もかけるようなことをしていたメジャーレーベルの時代は、もう終わってしまうんだと。
音楽にお金を幾らでも使えるメジャーレーベルの時代が良かったのか良くなかったのかという問題とは別に、何かの時代が終わっていくのは寂しくもある。すでに終わっていたのであればそれもまた寂しい。
こんなことを書いておきながら、今回のこの年間ベストには、12月以降にApple Musicで仕入れたアルバムが結構な数、入ってしまっている。たとえば他の人の年間ベストを読んで、とりあえずダウンロードして聴けてしまうこの状況、その便利さについては、言うまでもなく計り知れない。ひとまずは色んなことを考えないようにして、色々と頭に浮かんだアーティスト名で作品をダウンロードしていって、たまに思いついたように何かしらでお金を、音楽に落としていこう。グッズを買うのも手だけれど、どうも自分はそういうの買っても部屋で腐らすことばかり*2なので、どうすればお金を、的確に落とせるだろうか。考えないといけない。

 

20. 『Dedicated To Bobby Jameson』Ariel Pink

Dedicated to Bobby Jameson

Dedicated to Bobby Jameson

 

Ariel Pink - Feels Like Heaven (Official Music Video) - YouTube

Ariel Pinkは、前作『Pom Pom』がちょうど、最近ネットを沸かしている以下のインタビュー記事*3で「“新しい方向が難しいから、じゃあ、好きなことをやればいいや”と開き直ったバンド」と言及された。

ロックとインディが大敗を喫した2017年。そうした現実に唯一向き合った日本の作家、岡田拓郎が語る「2010年代のロック」前編 | The Sign Magazine

岡田拓郎さんはすごいですね。このランキングには入ってないけども。

さて、開き直ったらしいAriel Pinkさんのソロの2作目である本作、相変わらずのヘンテコでチープなサイケ感の曲が沢山入っていて最高のB級ムービーのBGM感があるけれども、今作はなんか、所々に“本当に普通にいい曲”が散りばめられてる気がして引っかかった。2曲目『Feels Like Heaven』はあまりに美しいドリームポップの理想型だし、タイトル曲は一体どこの60年代レコードから拾って来たの?風な曲の作りやコーラスワークが最高。『Another Weekenad』も67年のレコードかな?的なサイケ感に溢れている。かと思えば、まともに作れば最高のオールディーズのガレージポップ化だったろうに変なブレイクを入れる『Bubblegum Dreams』なんかはインディロックのしょうもなさをある意味“くそマジメ”に取り入れたような感じさえしてしまう。突如80年代ポップス風になる『Kitchen Witch』も面白い。

そう、曲だけ見ればこのアルバムもまたレトロスペクティブなレコードだろう。しかしAriel Pink、どの曲にも徹底的に分厚めでチープなシンセを入れ込んでくる。このシンセの使い方にこそ、彼の”偉大な書くの素晴らしいレコード達”に対する“介入”の意思、それをきっと本人が楽しんで没入してるだろうところが強烈に感じられて、こっちも楽しかった。

そこに“トラップの隆盛を見たから、ロックを前進させよう”なんて気持ちはこれっぽっちもないだろう。「ロックを前進させる気のない」ロックが犯罪なら、Ariel Pinkのこれは大犯罪者か*4

ぼくはAriel Pinkの今作のやり方の方を支持する。曲数は、もっと減らしてくれても良かったけど…。

 

19. 『he(r)art』For Tracy Hyde

ハート

ハート

 
Frozen Beach

Frozen Beach

  • For Tracy Hyde
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

東京のインディポップバンドである彼らがP-VINEから1stフルアルバムを出して1年早々で2枚目を、それも力の入った2枚目を早急に出してきた。メインソングライターの夏bot氏のやる気はえらく漲ってたようで、当初は2枚組さえ想定していたっぽい。

過去曲を多く再録して収録していた1stアルバムがそれまでのベスト盤感のあったアルバムなら、今作はまっさらな地点からアルバムのトータリティを想定して作り上げたような作りになっている。数々のインストを挟んでパート分けされた曲群それぞれに意味が与えられている様は100s『OZ』を思い浮かべた。インディロックとJ-POPの接続という意図は、J-POP感が強すぎると個人的にやや苦手だけど、中盤『Underwater Girl』から『Frozen Beach』までのChapterd Tracksっぽさな曲が続く流れはこれまでのフォトファイにあまり無かった感傷っぽさがあってとても魅力的だった。そして『Frozen Beach』でボーカルに寄り添う夏bot氏のコーラスのハマり具合にピチカート・ファイヴにおける小西康陽コーラスに似たものを感じた。こういうのもっとした方がいい。っていうか『Teen Flick』くらい彼の歌が前に出ても全然いいと思った。いっそのことインディロック界のLampみたいな感じになってほしい。

NYAIもそうだけど、知り合いの作品をこんな具合に書くのは恥ずかしい。またどっかで夏botくん達に会って話とかしたいです。

 

18. 『Hot Thoughts』Spoon

Hot Thoughts

Hot Thoughts

 
Shotgun

Shotgun

  • provided courtesy of iTunes

USインディの偉大な大御所・Spoonを、ようやく今年から聴きはじめたけれども、なんで今まで全然聴いてなかったんでしょうね、後悔した。自分は『Gimme Fiction』『They Want My Soul』が特に好きだったところで、この新譜はアコギを使ってないらしい、という情報を聞き、リード曲のタイトルトラックを聴いて「今回はシンセまみれのダンス・ファンクチューンばっかになるのか…」とげんなりして敬遠してしまった。それはとんでもない間違いだった!

2曲目『WhisperI'lllistentohearit』を聴きはじめて「ああ…やっぱりこんな感じなんだ…」と最初落胆したのに、途中からドラムが入ってきてから「おいおいそういうことかよ!最高じゃないか!」って簡単に手のひらを返した。素晴らしいいなたさ。ハイハットの箇所が色々他の楽器に入れ替わるのも面白い。

蓋を開けてみたら、今作はSpoonの作品の中でもポップな部類ではないでしょうか。レコーディングの鬼である彼らの「これは地味に凄い!」とか「これ確かに言われたら分かるけど意味あるの…?」とかの工夫の数々*5を他所に、単純に楽しくもちょっとおサイケなロックンロールが沢山入ってる。ファンクな曲でも、決して正統派ではなく、必ず何か妙に鈍い音色・シンセをブッ込んでくるところなどに、彼らの熟練の"外し”の感覚があり、その違和感がそのままキャッチーさに直結してる気がする。

特に終盤、ポップでリリカルでちょっと壮大な『Tear It Down』がブツっと終わってすぐ、Spoon節の漆黒のロックンロール『Shotgun』に繋がるところは最高。余裕で今作がSpoonの最高傑作だと、ぼくは思ってしまいました。めちゃくちゃライブ観たいですねこれ。

 

17. 『μ』冷牟田敬band

μ(ミクロ)

μ(ミクロ)

 
sugarcoat

sugarcoat

  • 冷牟田敬band
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

昆虫キッズ解散後もうすぐ丸3年。東京インディーという“シーン”はなんか無くなったことになってて、たとえば上記サインマグでは「森は生きているの『グッド・ナイト』及び解散がシーンを終わらせた」ことになってるけど、原因とかはともかくシーンとしては確かに「無い」感じが年々高まっていて寂しくもある。スカートはメジャーデビューしてしまうし*6、高橋翔はSuchmosっぽいバンドでリリースしたかと思えば別バンドで来年またリリースするのか(楽しみ!)。

そんな中で、恥ずかしながら昆虫キッズの残り香を求めて買ったこのアルバムが実にいい。冷牟田敬は昆虫キッズ以上にParadise*7で多くの作曲をしており、その頃からポップな曲を書くセンスは高かったけど、今作ではそれが実に花開いている。そして全編、何かしらのシューゲイザー要素がある。疾走する冒頭3曲の清々しさ、ゴツゴツとフォーキーなギターカッティングとロマンチックな音色で反響していくリードギターの交差、テンションが上がってフィルインするドラム*8、なんかギターロックって、こうだよな…!って感じの、男の子な要素がめい一杯に詰まっている。

実際、ART-SCHOOLや、サマソニのRIDEのライブなんかで見かける冷牟田敬という人のセンスは実に、そういうことで、そして今作はそれが実に輝かしく羽ばたいている。ソロからの再録で、終盤加速してドシャメシャになる『Coral』も、アルバム1甘いメロディで終盤を盛り上げる『endless room』*9も「そうだよな、そうするよな」に満ちていて、聴いてて熱くも安らかな気持ちになってくる。いつかライブ観に遠征をしたい。

 

16. 『SlowdiveSlowdive

SLOWDIVE

SLOWDIVE

 

Slowdive - Star Roving (Official Audio) - YouTube

シューゲイザー界の大御所も大御所、レジェンドのひとつSlowdiveの、まさかの22年ぶりの新作。今年はRIDEもジザメリもアルバムを出して、何か申し合わせをしてたんだろうか…という年だった。マイブラは打ち合わせをしてなかったのかな…?結局いつ出るのかな…?

あちこちで言われてるが、自分もこれがSlowdiveの最高傑作で間違いないと思います。しかしここまでサウンドがバンド寄りになるとは…*10。先行公開された『Star Roving』とかむしろRIDEっぽさすらあるし…スタジオライブ動画見たら尚更。

ただ、音響的な感覚はあくまでSlowdive的。ボーカルやドラムが幾分現代的にクリアになっても、いやクリアになったからこそ、ギターの美しい残響音が引き立ってくる。冒頭『Slomo』のいきなりの神秘的に沸き立つエコーの海、心地よく寄せては返すギターの反響とコーラスに「これこそSlowdiveだったのか!」という新鮮な驚きを感じれたことが全てだと思った。これだけシューゲイザー再評価が進んだ上で、改めてSlowdiveを提示する強力さ。また『Star Roving』や『Everyone Knows』辺りのギターロック寄りな感覚は『Souvlaki』の楽曲を当世風にリフレッシュしたかのような風通しの良さ・爽やかさをさえ感じる。一方で本編ラストの『Falling Ashes』は完全にSlowdive版ピアノアンビエントで、ポストクラシカル感というか、去年のRadioheadの『Daydreaming』みたいなサウンドにシューゲイズ的なギターやノイズのさざ波がかかってくるような、儚くも美しい締め。ボートラはこういう作品では流石に余計。

来日公演は結局見れなかった。平日、それも中途半端な曜日は鹿児島からはきつい…。

 

15. 『Mental Illness』

Mental Illness

Mental Illness

 

Aimee Mann - You Never Loved Me (Live on KEXP) - YouTube

Aimee Mannというアメリカの屈強な女性シンガーは、正直屈強すぎて、アルバムのどの曲も同じようにしっかり作ってあって良くて、アルバムとしては強弱のコントラストが薄く感じれて、自分はちょっと苦手意識があった。その平坦さが“大人”っぽくもあって憧れてはいたけれども。幾分取っ付きやすい『Bachelor No 2』だけを繰り返し聴いてた。

今作は全編アコースティックな作りで、曲によってはドラムレスだったり、かなり弾き語りに近い構成だったりで、普段のバンドの荒涼感は後退し、ささやかなフォーキーさの中で、彼女の歌がいつも以上に前面に来る形になっている。だからなのか、今作はメロディもどこかさらりとしたものが多く、それでも彼女の歌の存在感は大きいから、むしろ歌が途切れる隙間隙間の空気感が逆に、とても豊穣で饒舌に感じられる。本当に歌が上手い人は歌以外の箇所はアコギの音さえ聞こえてりゃ十分なことがあるけれど、彼女も今作でその領域の贅沢さを享受している。それは思い返せばJoni Mitchell的なことなのかもしれない。

丁度アルバムの真ん中から、はじめからドラムが普通に入る曲やピアノの曲などが入ってくるのも、アルバム中の変化をつけてリスナーを飽きさせない。ひたすら彼女の描く気品と陰りのあるメロディ、そして自在に落ち着いた声に浸り続けることができる*11。子守唄には苦すぎるが、たとえばこんな年末の寂しい真夜中にはとても甘く優しく聞こえる。

 

14. 『Harmony of Difference』kamasi Washington

Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)

Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)

 

Kamasi Washington - Truth - YouTube

Kamasi Washingtonの3枚組『Epic』を全部聴いたことはない。ただでさえ自分の得意分野ではないジャズが、なんか凄いスケールのやつが3枚分も入っていては、正直取っ付きづらくてかなわない、と劣等感に苛まれていたところに、丁度いいサイズの作品が出てきたもんだと嬉しくなりました。まあ肝心の『Truth』は13分越えですが。

ひとまず、予備知識を入れずに最初聴いて、『Truth』までの5曲もそこそこに「いいジャズを聴いてる気がする」と思ったけど、『Truth』の迫力は初見からでもめっちゃヤバいと思えて、同じコードの循環の中でどんどん膨れ上がっていく手法がどこまでも壮大で過剰で、明らかに凄いものを聴いてるし、何か訴えかけているものがある!と(当時twitterのTL上で話題になってたので若干の予備知識は入ってしまってたものの)多くの人がピンと来る構造になってると思った。特に分厚いコーラスが入ってくるところには、何度聴いても鳥肌が立つ。

そして、予備知識の収拾。前5曲の各要素が集結して『Truth』になるという、その楽曲構造も巧妙かつ壮大なら、その5つの曲タイトル、『Desire』『Humility』『Knowledge』『Perspective』『Integrity』が集まって『Truth』になる、という政治的・哲学的意味合いも含んだ思想の大きさに、半ば怖じ気づきながらも感服しました*12

現代ジャズの色々、所謂JTNCに関してはまるで詳しくない(余裕ができたら本を読んで何枚かちゃんと聴き込みたいけども)、そしてPost Truthな世界の現状についてはなんか考え込みたくない、関わり合いになりたくない感じさえしてしまう、けれどもそんな中で、言葉の一切無いこの音楽が放つメッセージというのは強烈で、しかもその強烈さがまた音楽の荘厳さを高めていると思えるから、このメッセージの強さは同時に音楽的でもあるのか、と、音楽と政治の関係をここまで激烈に昇華した音楽があるんだということに、アメリカという国の知性と祈りの奥深さとかを思いました。

 

13. 『Notes of Blue』Son Volt

NOTES OF BLUE (IMPORT)

NOTES OF BLUE (IMPORT)

 

Son Volt "Back Against The Wall" - Official Video - YouTube

いや、これのどこがカマシ・ワシントンより順位が上なのよ?と聞かれてもきっとぼくは貴方を納得させられる答えを言えませんよ。ただぼくは、上記のリード曲みたいなのが趣味として好きなので、仕方がない。この曲については映像も素晴らしくないですか。なんかこう、意味もなく泣けてきませんか。

オルタナカントリーの始祖Uncle Trupeloの、Wilcoじゃない方の片割れSon Volt*13。Jay Farrarはずっと、アメリカンロックを自分の中で深め続けていく人生を選んだ。それはどうしてもJeff TweedyのWilcoの華やかで充実したバンド運営と較べると、質素で、茶目っ気のない、それこそクソ真面目に、アメリカの大地を見つめ続け、そこに帰っていくような、彷徨い続けているような感じがする。2009年の『American Central Dust』はとても好きなアルバム。

今作は、今作も、また深くアメリカ音楽の伝統にその身を沈めていく。キャッチーな『Back Against the Wall』を過ぎた後は、親しみやすいフォーキーさは幾分身を潜めて、代わりにハードに歪んだギターにて、ブルースロック、スワンプなどの鈍々しい曲が並ぶ。Jay Farrarの男らしくも飄々とした感じのある乾いた声質は、その重々しさの上をどこか亡霊めいた風に歌う。アルバム後半の『Sinking Down』でスワンプパートの合間にちょっとだけフォーキーでポップな瞬間が覗くとき、とてもホッとする。アコギと歌と幾つかの楽器のみの『Cairo and Southern』は実はJim O'Rourke的なアメリカーナ感があるけれども、その後最終曲の『Threads and Steel』はいよいよキーも低く、歌い方といい完全にJohnny Cashの晩年のようなイメージである。

大地に、伝統音楽に、生涯を捧げていくこと。ロックでそれができるアメリカという国もなんかすごいなと思うけれど、それを馬鹿正直に続けていくこのバンドのことが、果てしなさを感じれて、どうにも気になってしまう。

 

12. 『サボテンミュージアム奥田民生

サボテンミュージアム

サボテンミュージアム

 

奥田民生「白から黒 MV mix OT special(mono)」 - YouTube

タワレコでこの新譜の解説文の中に「初の自主レーベルよりリリース」みたいなのを見つけた時は結構驚きました。民生ですら自主レーベルでリリースし始める時代なのかと。それだけメジャーレーベルがヤバい、民生から見て最早メリットがないということなんだろうか。

その内容。冒頭のままある奥田民生的お気楽ロックンロールで「またこういうのか」と思い、2曲目も無骨なだけのロックンロールか…と思って聴いてたらブリッジ後のブレイクでびっくりした。一気に音響的な奥行きが広がり、ジャズめいたフリーキーなピアノの響きがそれまでのロッキンな曲をまるで異化してしまう。

そこからはもう、奥田民生がルーツに挑みまくる旅のはじまりで、半ばギャグのようだけどダミ声がめちゃくちゃかっこいい『サケとブルース』、アルバムで唯一普段のキャッチーさをやや持つも『トランスワールド』と同系統の荒涼ナンバー『エンジン』と続き、そしてディープな音響と不毛で虚無的な展開を持つ『白から黒』でその奥行きは極限に達する。っていうかこれ完全にNeil Young『On The Beach』じゃないですか。引用の多い民生でも最近で、しかもここまでそっくりそのまま持ってくるのは珍しく、つまり彼はこれから「そういう」存在を目指していくんだろうか、そのための自主レーベルなんだろうか。

今作は彼のバンド“MTR&Y”((当然CSN&Yのもじりである(!)))が前面参加したアルバムで、曲をパパッと書いてそのサウンドを素直に録っただけ、というのが本人の談で、それに対してポップじゃない内容に一部ファンが反発しているのも見られたけれど、自分はこのサウンドの拘り様は彼のキャリアでも突出していると思った。特にキーボードとギターのエフェクトについては、かなり拘り抜かれた重さとサイケ具合が感じられ、むしろユーモラスな歌詞が照れ隠しのようにさえ思えてしまう。ソロは自主レーベルでやって、ユニコーンはどうするんだろう、とか、ソニーとの関係はどうなるのとか、色々と変な方向でも気にはなるけれど、それ以上に奥田民生の密かな“本気”に自分は大変、恐怖と興奮とを感じているところ。

 

11. 『Out in the Storm』Waxahatchee

OUT IN THE STORM

OUT IN THE STORM

 

Waxahatchee - Silver (Official Music Video) - YouTube

USインディーの良質な女性SSWなんて幾らいるんだろう、とか思うし、その中で自分の好きな感じのやつを選んで聴く訳ですけど、今作は驚いた。最後に聴いた作品が『Cerulean Salt』だったので(『Ivy Tripp』は聴いてなかった)、今はこんなことになってるのか!と。めちゃくちゃ王道オルタナじゃないですか。かつてthe pillowsが目指したような、王道USオルタナディストーションサウンド。まあ、要はThe Breedersじゃんか、とも思う訳ですが(声もKim Dealに似てる)。

シンプルにUSオルタナしているのが『Never Been Wrong』『Silver』『Brass Beam』『No Question』あたり。曲構成が行き届いていて、音自体はそこまで新鮮みがある訳でないけれど聴けてしまうのは構成がしっかりしているからだと思った。他の曲では、現代USインディーって感じのキーボード・シンセ類が所々で用いられて、『Recite Remorse』辺りはYo La Tengo辺りの感じがする。心地よい。

意外とこういう感じで書こうとすると書くことがあんまりないけど、今年のUSオルタナ復権ぶりを表すひとつのレコードだと思う。今年はシューゲイザーの復活や、リアム・ノエルが両方ともソロ作品を出したりとか、色々と90年代リバイバルが盛り上がった年なんではないかと思ってる。

*1:大して良さを感じられないPV郡の再生数をいたずらに増やし続けるのもアレだし、という思い

*2:昆虫キッズが解散後にようやく販売したパーカーは、現在も自分の家の最厚防寒着として活躍しています。もう昆虫キッズパーカー以前にどうやって冬を越してたか思い出せない。ありがとう昆虫キッズ!

*3:このインタビュー記事に関して言いたいことは沢山あるけれども、結構面白くも読めたので複雑。とりあえず二人とも口が悪いと思った

*4:まあシンセの使い方が特殊だしWhitney程はクソミソに言われなさそうだけど

*5:この辺、メチャクチャに工夫するんだけど、それが決してビッグプロダクションにならない辺りに、彼らの「インディロック」に対する矜持が感じられて、なのでSpoonは大御所だけど、インディバンドって安心して言えるところがある。何が新しいか上手く言えないけど、決して新しくない訳は無い感じ。なんて理想的なんだろう…

*6:アルバムは前作までの幻想的な要素が『魔女』以外で一掃されてて正直凹みました…

*7:こっちも昆虫キッズ解散の直後にまたあっさり解散してしまった。最後のライブ観に行ったらびっくりする程演奏曲数が少なかった!良かったけど。

*8:佐久間さんのドラムはやっぱフィルインが多い程映える!やっぱり今も日本で一番好きなドラマーだとこの前スカートのライブ観て思った

*9:ギターソロのメロディがどことなくBelinda CarlisleHeaven Is a Place on Earth』っぽい。ART-SCHOOLが絞り尽くした曲だが、まさか…?

*10:Slowdiveはどっちかと言えば、後のアンビエントや、バンド形式に捕われないタイプのニューゲイザーのアーティストに影響を与えた立ち位置

*11:時々ママみを感じてオギャりたくなる

*12:茶化すつもりは無いけれども、なんか西尾維新みたいだ、とかも思った

*13:この言い方自分でもあんまりだと思うけど、少なくとも日本での一般的な理解はこんなものではないでしょうか