80年代のムーンライダーズの方々若い…このコンセプチュアルな佇まいが80年代の彼らっぽい。
前回の記事がじわじわと広がっているのに気を良くして、もう10曲選んでみたので紹介していきたい、という記事です。選曲あっという間だった…。前回の記事はこちら。
前回よりややマニアックか?そうでもない気がする。そもそもムーンライダーズ自体がマニアックか。しかしその音楽的な面倒くささやヘンテコさの中には、数え切れないほどのアイディアと詩情とが渦巻いています。さあ、もう10曲だ。
なお、流石にもう10曲あれば、全メンバーの楽曲を取り上げられそうな模様。これについても全然悩まなかった。。
2022年1月8日追記:彼らの全オリジナルアルバム(22枚でカウント)を取り上げた記事も書きました。長いです。。
- 本編
- 1. くれない埠頭(アルバム『青空百景』(1982)収録)
- 2. スカーレットの誓い(アルバム『マニア・マニエラ』(1982)収録)
- 3. Bitter Rose(アルバム『P.W Babies Paperback』(2005)収録)
- 4. No.9(サントラ『東京ゴッドファーザーズoriginal sound track』(2003)収録)
- 5. Sweet Bitter Candy(アルバム『月面讃歌』(1998)収録)
- 6. A FROZEN GIRL,A BOY IN LOVE(アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』(1986)収録)
- 7. Frou Frou(アルバム『ANIMAL INDEX』(1985)収録)
- 8. 夏の日のオーガズム(ライブアルバム『THE WORST OF MOONRIDERS』(1986)収録)
- 9. バック・シート(アルバム『MODERN MUSIC』(1979)収録)
- 10. 主なくとも 梅は咲く ならば (もはや何者でもない)(アルバム『Ciao』(2011)収録)
- あとがき
本編
1. くれない埠頭(アルバム『青空百景』(1982)収録)
前回の10曲に入れても全然よかったクラスの、ムーンライダーズクラシックのひとつ。作曲は鈴木博文。デモを聴くとニューウェーブなサーフロックだったけど、しっとりとしたシティポップなアレンジにて名曲に昇華されている。特にこの、都市の人工的な海岸線を思わせるようなアレンジの中で聴くと、ムーンライダーズ随一の詩人・鈴木博文の歌詞の光景がとても切なく輝く。
吹きっさらしの夕日のドックで
海はつながれて 風をみている
残ったものも 残したものも
何も無いはずさ 夏は終わった
特に80年代諸作における彼の作詞は映像的で、かつ涼しげな虚無の香りが至るところに潜んでいる。その白眉が『DON'T TRUST ANYONE OVER 30』でしょう。こっちは今回紹介しないけど、まず歌詞を読んで、それから曲を聴くと、なんとも絶妙な哀愁を感じれて良いのでは、と自分の経験から思ったりします。
東京は大田区の羽田を本拠地とするムーンライダーズ。この曲にはそんな彼らの湾岸沿いの暮らしや、そこから滲むふわっとしたような、うっすらとヒリヒリしたような、そんな延々と続いては揺らいでいく情緒をちょっと切り取ったような形をした1曲です。
2. スカーレットの誓い(アルバム『マニア・マニエラ』(1982)収録)
これも間違いなくクラシック、どころかムーンライダーズ随一のアンセムと言っていいでしょう。その様子は上のライブ動画の合唱っぷりで分かっていただけるかと。一体何百回ライブの最後を飾ったりしたんだろうか。
作曲はかしぶち哲郎。メンバー6人中6人いるムーンライダーズ作曲家の中でもとりわけ、独特に雄大で超然とした、ファンからは“ダンディー”と称される作風で有名な人だけど、そんな彼の楽曲の代表曲であり、硬質なロマンが垣間見える1曲。
冒頭のコーラスからして、少し秘密結社めいたその作りがなんとも“主義主張っぽさ”を匂わせる。王道然とした楽曲は、世間的なポップソングとはまた違った雄大さにてポップなメロディを匂わせている。工場と労働者と、そして「薔薇がなくちゃ生きていけない」というテーゼを主題に作られた実験作『マニア・マニエラ』において、その最終曲として収められたこの楽曲の、特に終盤での合唱は、なんか意味はよく分からないのに、正体不明の気高さに胸を突き動かされる。
かしぶち氏は2019年現在で、メンバーで唯一の故人でもあります。無期限活動休止後の2013年に逝去。彼が残した時に雄大だったり、時に妙におセンチだったりな楽曲が、ずっと語り継がれますように。死後、トリビュートアルバムもリリースされており、そこに収められた『Lily』が、ムーンライダーズの今のところ最後の新曲となっています。
3. Bitter Rose(アルバム『P.W Babies Paperback』(2005)収録)
- アーティスト: moonriders,武川雅寛,鈴木博文,かしぶち哲郎,鈴木慶一,坂田明,覚和歌子,白井良明,長江優子
- 出版社/メーカー: SPACE SHOWER MUSIC
- 発売日: 2005/05/11
- メディア: CD
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もう動画が無い(笑)ややマイナーどころに突入したかもだけど、薔薇つながりでこの曲も。
前回のとある箇所でやたらと「聞きにくさ」を主張してしまったうちの1枚『P.W Babies Paperback』だけど、今思うとそんなに聴きにくくないかもしれない。後半がややマニアック気味かもだけども、東京インディーとかから入った耳だとかえってこの現代的にこんがらがった楽曲群が魅力的に思えるかも。
この曲はそんな“現代的にこんがらがった”楽曲の中でも特にメカニカルな構成を持ち、そして美しい、宙に舞う塵芥のようにとても美しい楽曲。
作曲は岡田徹。彼のビートルズな感性はこのアルバムではさほど出てこないが、その代わりこの曲ではその西洋的・クラシカルでコンチネンタルな嗜好と、現代インディロックを折衷したようなアレンジが美しい。特に、タメの効いたリズムにギターコードを繰り返しぶつけ続けるこの構成、Arcade Fire『Wake Up』を意識していないはずがないのでは?という硬質なエモさを感じながらも、歌はボコーダー加工だったり、流麗なメロディだったりで、彼らの楽曲でも随一の優雅さを構成する。そこからアコースティックな別パートへの反復は、2000年代ムーンライダーズの数ある楽曲でもとりわけ優美な雰囲気が渦巻く。そう、この曲は決定的な終始はしないまま、悠然と流れていく。この不思議で、少しもどかしくて、でもそのもどかしさすら香り立つようなアレンジに『Bitter Rose』という題をつけるのはとても洒落てる。彼らのマッドさと美意識とが非常に高レベルで混じり合った、2000年代の彼らでも屈指の名曲。
4. No.9(サントラ『東京ゴッドファーザーズoriginal sound track』(2003)収録)
2000年代前半のマッドなムーンライダーズからもう1曲。作曲者はベートーベン。そう、交響曲第9のカバーだ。神をも恐れぬムーンライダーズ。むしろこの、本当の意味でクラシック中のクラシックに対して、まあ実にひどく歪んだアレンジと歌詞をぶつけたもんだなと。
聴いていただければ分かる。打ち込みのリズム、飛び交う変なエレピだったりストリングスだったりはともかく、なんでレゲエなんだ。第9の方も、メカニカルなアレンジは覚悟してたかもだけど、レゲエになるとは夢にも思っていなかったろう。そして、映画の主題歌として作られた背景からその作品の光景に合わせたのか、歌詞が実にひどい。
クズにはクズの 死に場所があるよ
クズにはクズの 生きるとこがある
この空の下で なんとかなりゃいい でも
忘れられない 事がいっぱいだ
この一番ひどいパートをボコーダーでやり過ごすセンス。そしてここから楽曲のアレンジにもう一捻り、決定的にズラされて進行していく様は、鈴木慶一がこのクラシックの聖典をダシにまたマッドで優美な楽曲をひとつ生み出した、という事実をまざまざと見せつける。スタジオアルバムに収録されておらず、この曲をフューチャーしたスペシャルシングルはとうに廃盤、サントラだって在庫が危うい状況だけど、この神をも恐れぬ怪作もまた、彼らの伝説として決して忘れてはいけないもののひとつです。
無期限活動休止直前のタワレコ屋上ライブでもこのようにやりたい放題の様で披露された。最高にオルタナティブ。こんな形で取り上げるなら、まともにダウンロードとかで入手できるようにしてくれてたらよかったのに。。というかこの屋上ライブ、短いけど選曲も演奏もホント最高だな…。
5. Sweet Bitter Candy(アルバム『月面讃歌』(1998)収録)
マッドな曲が続いたので、ここでポップなムーンライダーズを。90年代の彼らを代表する名曲のひとつ。とても爽やかで、ちょっとビター。
90年代以降のムーンライダーズを強く牽引していたメンバーは白井良明氏だろう。ハードロックを中心にしかし相当に幅広いギタープレイが可能な彼が、『青空百景』収録の『青空のマリー』でポップセンスに開眼してから、彼は常にムーンライダーズにコンテンポラリーなポップさを注入し、特に90年代以降は、シングル曲や作品のキーになる楽曲を多く手がけるようになります*1。他アーティストのプロデュースも彼が一番成功している気がする。
そんな彼が、実は初期〜中期ビートルズのいなたさみたいなのを表現するのが一番上手いメンバーであることはかなり意外だけど、しかしこの曲や『静岡』といった楽曲で各アルバムに爽やかな風を吹かしている。この曲では2番のボーカルも務め、そのおっさんっぽくて抜けのいい声質でこの曲の牧歌的な情緒をしっかりグリップしています。
ちなみに、この曲が収録されたアルバム『月面讃歌』は、ムーンライダーズが作った曲を他のアーティストがリミックス・演奏の差し替え等を行い作成された、方法論的に驚愕のアルバム。この曲でいえば、演奏は全て、当時奥田民生のバックバンドとしていなたいサウンドを響かせまくっていたDr. Strangeloveのものに差し変わっている。シングルバージョンでは本当に奥田民生が歌っているけど、その歌は白井氏とそっくりで驚く。
これが後半ボーカル奥田民生なシングルバージョン。鈴木慶一の声と楽曲以外は全て奥田民生バンド。実は演奏はムーンライダーズ版の演奏で、それの白井ボーカルを奥田民生に差し替えたもの。なんだこれ。
6. A FROZEN GIRL,A BOY IN LOVE(アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』(1986)収録)
一気に緊張感が、それも冷ややかな緊張感が浮かび上がるこの曲。名盤ドントラの終盤で一際美しく煌めくこの曲は、バイオリン・トランペット・マンドリンそしてコーラス担当の武川雅寛氏の作曲。氏の曲でも随一の名曲。
武川氏はメンバー6人の中では1番作曲数が少ないです。しかしながら、氏が作る隙間の多い楽曲は、結果として各メンバーの様々なアレンジが渦巻く実験場としての役割を時折果たしていて、特にこの曲においては、美しいギターの反響が活かされたその楽曲は、溜息をつくように紡がれるメロディ、女性ボーカルとのユニゾンや、さらには外注の作詞家*2によるロマンチックな歌詞と相まって、ムーンライダーズでも有数の小さくて、脆くて、切なくも美しい世界を作り上げています。“早すぎたセカイ系”とか言ったら怒られるかな。。
そんな楽曲が、初音ミクによるムーンライダーズカバーアルバム『Hatsune Miku plays MoonRiders』においてカバーされています。まず“初音ミクによるムーンライダーズカバーアルバム”という概念で少し頭痛が*3。この初音ミクのアルバムはこれを書いてる今、まだ全編を聴けてないです。楽しみ。思えば2019年、ボカロもなんか過去の文化になった気がするなあ。
7. Frou Frou(アルバム『ANIMAL INDEX』(1985)収録)
80年代ムーンライダーズの最高傑作候補『ANIMAL INDEX』を紹介し損ねそうだったので、その中でも特にアグレッシブなこの曲を。作曲はダンディーなかしぶち哲郎氏。彼の楽曲でも『スカーレットの誓い』と並んでアグレッシブで、そしておセンチで、またライブの定番となっていたナンバー。
上記の動画は現代式にアレンジされてるので分かりにくいけど、スタジオ音源だともっとこう、イントロとかのシンセがバーン!って感じで、バックの音なんかも含めて、少々エレポップっぽい仕組みになってます。
この曲の最大の特徴は、80年代アメリカンポップス的なアホっぽさの長調のイントロから急に歌謡曲ライクなマイナー調に移り変わるところ。かしぶち氏もまた他アーティストのプロデュースで有名だけど、彼の場合その活動の舞台は歌謡曲の世界だ。上記のトリビュートアルバムにはそんな縁からの参加者もいたりする。彼の楽曲においてダンディーで色っぽく感じたり、または時に少々古臭く感じるものがあるとすれば、この辺のメロディセンスの部分だろう。
この曲においては、そんな氏のメロディセンスのおセンチさが、短いフレーズの中に存分に活かされている。サビ(?)の箇所の迫るようなコード感から、鈴木慶一の素っ頓狂なボーカルが突き抜けていくのは実に気持ちいい。氏が作ったバブルカムで、わざとらしいくらいセクシーで、そして捻れた爽快感が味わえる、80年代ムーンライダーズを代表する“ロックンロール・ナンバー”でしょうか。
8. 夏の日のオーガズム(ライブアルバム『THE WORST OF MOONRIDERS』(1986)収録)
80年代のムーンライダーズでもう1曲。1986年という、絶頂期と疲弊のどん底の年において彼らが“スタジオアルバム未収録のシングル”としてリリースしたこの大曲。“夏の名曲”としてリリースしただろうに、タイトルで色々台無しだよ。流石ムーンライダーズ、売るために寄せるということをしない。。
楽曲は、まさにムーンライダーズ渾身のエレポップ、と言った具合。平坦なリズムの上をシンセとマッシブなギターリフが飛び交い、その間で80年代ムーンライダーズでも5本の指に入るポップなメロディが流れていく。作曲は「ムーンライダーズ」。
それにしても、超然的な平板さなのに、何かが色々と捻れ切っている。冒頭のストリングスの入りとコーラスからして、意外と厳かって感じがしなくて何か妙だし、リゾートホテルのBGMに良さそうなシンセポップっぷりを打ち壊すヘンテコな歌詞がまたさりげなく挿入される*4。
I'm in Love ハトを飼ってるんだ ぼく
I'm in Love ツメをのばしてるんだね キミ
このフレーズに象徴される「別に本当は真夏ならではの喜びなんてどうでもいいんじゃないかなあ」という醒めた感じが、このサマーフィールを十分に含んでるはずの楽曲に感じる違和感の正体なのか。「長く感じていたい」と歌われる「ぼくらのオーガズム」は、たいして元気がなさそうだから、ひたすらこの平板なビートの上で永遠に引き伸ばされて干からびそうだ。ムーンライダーズにおける「性」の扱いは時にぶっきらぼうで、妙に冷め切っている。ムーンライダーズ最大の性愛の賛歌であろうこの曲で感じる何らかのグロテスクさ、それこそがムーンライダーズの正体だ、って調子乗ったことを言いたくなりながら、今年もまた嫌いな夏の季節を待っている。
…そして、そんなアルバムからこぼれた落穂が、なぜかライブアルバムにカップリングされている事実。ああ、ムーンライダーズって変なバンドだ。
9. バック・シート(アルバム『MODERN MUSIC』(1979)収録)
今回のリストで唯一の70年代のナンバーとなりましたこの曲は、ムーンライダーズのダークサイドを決定づけた、キリキリした1曲。作曲者・かしぶち氏の楽曲群の中でも一際異彩を放つ、不吉さで充満した楽曲。なにせテーマが投身自殺だから。
アルバム『MODERN MUSIC』はムーンライダーズが一気にニューウェーブ化したアルバムと言われるけれども、事はそんなに単純じゃない。じゃないと、この曲の異形さは説明がつかない。ちょっと歌謡曲っぽいメインフレーズはかしぶちソングっぽさがあるけど、そのメロディがどんどん下降し、不吉な響きのストリングスに取って代わり、そこから急に明るいメロディが始まるのは、何とも奇妙な質感。そこから、囁くようなボーカルとともに不吉なコードに展開していくのは、歌謡曲的な情念からも少し外れた、ひたすらヌメッとしてかつヒリヒリした、嫌な海の空気が纏わりつくような感じがする。特に終盤の繰り返しは強烈で、最期の瞬間が海面から迫ってくるかのような、本当に嫌な汗が出そうな展開。本当に、Aメロの長調がとても嫌らしく効いてる。
歌う。
車乗りすて振り向けば 見慣れた幸福
君は眠りにおちてゆく Back Seatで
僕は暗いがけの上 静かに眠りたい
誰も知らない僕だけの Back Seatで
この、ビターでは済まない、ひたすらに漆黒な世界観は何だろう。フランス映画『鬼火』の破滅的な結末に影響を受けてできた曲だというけれど、筋書きは大きく変わっている。「崖」というモチーフからなのか、筆者はクリムトの名画『接吻』の先の光景、あの絵に込められた「その後」の不吉さを体現したかのような質感を感じて、それでこの曲に恐怖を感じてるのかもしれない。
ムーンライダーズは時々こういう、なんかシャレにならないようなダークさに突っ込んでは、バンドごと元に戻れなくなってしまう。ネタが少ない状態でアルバム製作を始めて、この曲がアルバムの核になったという。それはまあ暗くなるわけだ。ダークサイドのムーンライダーズを代表する、漆黒の名曲のひとつ。
割と近年のライブでの様子。ライブでもこの「死そのものが迫り来る」ような感触は保たれて、それどころか増幅されてさえいる。
10. 主なくとも 梅は咲く ならば (もはや何者でもない)(アルバム『Ciao』(2011)収録)
- アーティスト: ムーンライダーズ
- 出版社/メーカー: SPACE SHOWER MUSIC
- 発売日: 2011/12/14
- メディア: CD
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最後に、彼らの“最後の”スタジオアルバムから1曲。鈴木慶一作曲の、彼の無力さとやるせなさとそれでもな謎の強靭さ・力強さと、そしてムーンライダーズ活動休止の決定を受けての、真に迫ったファンファーレな1曲。
それにしても『Ciao!』も変な作品です。まず、ひたすらに声を加工してある。素直に聴かせてくれる歌が1曲も無いというのは、いくらひねくれ者ムーンライダーズでもやりすぎじゃないですかね。。堂々としたシンプルなロックンロール・ポップスなんてものも見当たらず、その様子は、突然の無期限活動休止決定と、2011年という地震と放射能で呪われた時間と、そして決定してしまってからの納期のキツさとで、色々と混沌のまま突っ込んで作り上げたかのような様だ。そんな混沌を一言『Ciao!』なんて軽い言葉で纏めてしまうのは…豪腕だ。
しかしながら、ある程度ムーンライダーズを聴いていけばタイトルだけで「あっこの曲は鈴木慶一だな…」って分かるこの曲での鈴木慶一は、根本的にねじれた物言いをしながらも、案外に素直だ。少しばかりプログレちっくな楽曲構成もなんのその、鈴木慶一的な鷹揚なおっさん力で、このヘンテコなはずな楽曲をムーンライダーズの感動的なカーテンコールのひとつにしてしまった。何よりも、男性メンバー全員と思われる重厚な合唱が、このバンド自体の深い皺のような、喜びも疲れも虚しさもいくらでも詰まったこの合唱が、最後の最後で強烈にムーンライダーズをアピールする。
インタビュー記事によると、この曲のボーカル録音がムーンライダーズでの最後の録音作業だったとかいう*5。この、奇妙にねじれたおっさんの歌に含まれたであろう万感の思いを極力排除して聴こうとしても、鈴木慶一の重厚なポップセンスが、この曲の祝祭感の性質をぼんやりと示してしまう。
ありがとうムーンライダーズ。ぎゅうぎゅう詰めの穴の中で安らかにくたばってくれ。たまにゾンビみたいに生き返って、ぼくにコンサートを見させてくれ。
あとがき
以上、追加の10曲でした。
正直こんな急ピッチでムーンライダーズの記事が書けると思ってなかったので、自分の中でムーンライダーズ理解が結構進んできたなと、嬉しくもあり妙にさみしくもあり。。45周年でまたライブをやってくれ絶対見に行くぞ、という気持ちです。