メリハリを付けるのが嫌い。年末年始なんてくそくらえ。年が変わることの何が目出度いと言うの。なんでそんなことで頑張ったりしなきゃならんの…などと思いながらも、そのお陰で生じた連休を利用してこれを書いている訳です。
こういう行事ごとでお金が発生して潤う世界、餅業界や、寺社仏閣や、あと帰省とかなんとかで公共交通とかのことを思い、一年でいちばん田舎に需要が発生する*1時期であることを思い理解する。理解した上で、それに沿って自分も動いていくのがただ面倒くさいだけ。こんな調子ではとてもじゃないがうだつが上がっていきそうにないし、来年も何も変われないだろう。
音楽だって、好きなときに好きなものを聴けばいい、聴けない気分なら聴かなけりゃいいだけだし、何をこんな年の変わり目ぐらいのことで、せっせとその年のリリースの落ち穂拾いを幾らかした上で、わざわざ順位づけて、このようにブログを書く必要なんてどこにも見当たらない。こういうことをもっと大量に、ずっとし続けている人たちをtwitterとかで見てると、ホント音楽好きなんだな、とか思って、しかし意外と私生活もちゃんとしてたりするので羨ましくなる。器用に見えるし、「いやこれは普通でしょ」って言われるとこっちの身が寂しくなる。
どうも今年の年末は愚痴っぽくていけない*2。ここに書き切らない程の愚痴が沢山あるけれども、この記事は年間ベストアルバムなので、残りの10枚について書かないといけない。これが書ければ、大したことない生活にも一応のすっきり感は出るというもの。自信はないけど無駄は多い。これが今年のベスト10です。
10. 『Songs of Experience』U2
SONGS OF EXPERIENCE (DELUXE EDITION) [CD] (4 BONUS TRACKS)
- アーティスト: U2
- 出版社/メーカー: INTERSCOPE RECORDS/ISLAND RECORDS
- 発売日: 2017/12/01
- メディア: CD
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U2 - You’re The Best Thing About Me (Official Video) - YouTube
言わずと知れたビッグバンドU2の新譜は自動的にitunesには入りませんでしたのでitunes storeで買った。今作は「もう既にライブラリに入って」いたらしい前作『Songs of Innocence』の姉妹作として早くから公言されていた作品。ジャケットがまず最高っすが、これはボノとエッジの子どもだとか。
作品自体は、いや、これは素晴らしい。単純に曲が今回はどれも聴きやすい。静かな導入曲から始まるのも意外だけど、リードトラック『You're the Best Thing About Me』の高々に「U2とはこういうものだ」と宣言するかのような、ラフなロックとキラキラと高揚するメロディとを行き来する楽曲の完成度たるや。打ち込みリズムから高揚していく『Get Out of Your Own Way』も素晴らしいし、ベンジーDurutti Columnみたいな繊細なギターが印象的な『Summer of Love』、スカスカの演奏で切迫感のある『Red Flag Day』の透明感あってシリアスな流れから、一気に『The Showman』でユーモラスに明るくブチ上がるのがとても幸福感があって好き。
全体的にアレンジも極力簡素にして、所々のエフェクト*3やコーラスワーク、ブレイク等で一気にフックを付けていく作法は本当にインディロック的に感じれて、こんなビッグなバンドなのになんでこんなにしなやかなんだ…と舌を巻くようなアレンジの連続。ボノのボーカルも心なしか繊細さを前面に出してるように聞こえる。
本当にファンの人たちがどう思うのか分からないところだけど、自分にとっては間違いなく21世紀以降のU2でもっとも好きな作品になった。最早インディバンドと並べて聴いて楽しめてしまうなんて…あとPV見る限りボノさんここ10数年くらい歳取ってなくないですか…。
9. 『delaidback』syrup16g
『赤いカラス』が音源化したんですよ。再結成されても一向に音源化しない名曲筆頭だったこの曲が、このようにスタジオバージョンとして公式に完成して、その素晴らしさたるや。ギターリフの悠然とした感じ、タイトルのあまりにSyrup16gのイメージにぴったりな感じから歌詞の数々の虚しげなフレーズ、五十嵐隆のヒリヒリした感覚が全開なボーカル。完璧。元々Syrup16g用の曲じゃなかったのに、あまりにSyrup16gの名曲として完璧すぎる。
アルバム名のとおり、今回もSyrup16g定番のDelayedシリーズ、過去曲リサイクルのアルバム。だからなのか公式がリード曲の動画とかを結局公開しないままリリースに至ってしまった風だけど、勿論それは現在進行形で曲を書いてリリースするバンド、としての矜持とかがあったのかもだけど、しかしながら喜ぶべきか悲しむべきか、このアルバムに収録された曲のクオリティは軒並み高い。結局音源を出せず解散した“犬が吠える”時代の楽曲二つ(『光』『赤いカラス』)を筆頭に選曲されたこれらの曲群は、アレンジどうこう*4ではなく本当に単純に、良い曲が揃ってるとしか言いようがない感じもある。
個人的には『赤いカラス』より後から曲調が多彩になっていくのが好き。『4月のシャイボーイ』のフォーキーでポップな曲調にブレイクで「なんもいいことがねえ」という歌詞が乗るところは初見で爆笑、今年のベストリリックのひとつだと思いました。
本人達的にも、再結成後の近作よりもこれが評価高かったりするのは辛いような気もするし、なんかそういう残念さもSyrup16g的で気の毒になるけれども、しかしいい作品はいい作品だから、仕方がない。Delayedシリーズでは最高傑作だと思いますもの。
8. 『Weather Diaries』RIDE
Cali (Official video) - YouTube
2017年シューゲイザーまつり、ぼくは御三家ではRIDE派なので、そして新譜がとても良かったので、こういう順位になります。多分歴史的名盤度ではSlowdiveの方が上だと、客観的にも思うんですけど、好きなものは仕方がない。
Slowdiveのアルバム冒頭の神々しさと較べると、こちらのCaptured Tracksからのフィードバックを感じさせる*5冒頭『Lannnoy Point』はいささか神々しさは足りないかもだが、現代版RIDEとして非常に納得のいく爽快感がある。そこからの流れだと、最初公開されたときクッソダサく感じた『Charm Assault』*6もすごくキュートで楽しげな曲に聞こえるから不思議。
上半期ベストディスクの時の内容と重複ですが、聴き所はやはり中盤、タイトル曲のシューゲ的な挑戦感*7から、中二臭いタイトルから静動の極端さがキャッチーな『Rocket Silver Symphony』、後期RIDEチックな単純なラウドさがアクセント的な『Lateral Alice』そして新生RIDEがなし得た最高にサマー感あるシューゲイザー『Cali』の流れが最高。こんなに最高な流れ他のRIDEにあったかよ、ってくらいには好き。やっぱりギターロックなんだよな、やっぱりギターロックなんだよ、って本当に思ったし噛み締めるように聴いた。
Slowdiveみたいな「再結成にして新境地!」みたいな感じは薄いけれども、やっぱりぼくが好きなのはこっちなんだと、ただのギターロックにシューゲが付いてくるだけ、みたいな、二人のコーラスが、歌心が結局中心にある、こういう曲なんだなってことがよく分かった。勢い余って25分以上に渡るいかんともしがたいボートラが入ってるのも含めて大好き。サマソニのライブも観て、良かったけれども曲数的にも選曲的にも消化不良感があるので、単独公演、どうにかして行きたいが…*8。
7. 『The Visitor』Neil Young & Promise of the Real
- アーティスト: NEIL YOUNG + PROMISE OF THE REAL
- 出版社/メーカー: REPRISE RECORDS
- 発売日: 2017/12/01
- メディア: CD
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Neil Young + Promise Of The Real - Forever - YouTube
Neil Youngさんは72歳になるそうです。今年も1年に最低1枚のオリジナルアルバムを出してしまった。問題なのは、今回妙に手が込んでること。
タイトルからして明らかな反トランプソング『Already Great』からしてニールヤング印の鈍重なロックにピアノが添えられて、歌詞もアメリカの大地に対する敬意まで込みで作られている*9。そこから先は色んなアレンジ・曲調のNeil Young節が楽しめる。トーキングスタイルな『Fly By Night Deal』、カリプソ調『Carnival』gdgdブルースな『Diggin' a Hole』、オーケストラを引き連れ劇的に展開する『Children of Destiny』など、脈絡無く飛び出す様々なアイディアは、若手のバンドPromise Of The Realと組んでいることで触発されたことによるものなのか。質のよいカントリーソングが複数入っているのも、ニールヤング的な果てしないアメリカの光景がイメージできて素晴らしい。
今作のカントリーソングの中でも最も素晴らしいのが、最後に収録された『Forever』。曲調的には名盤『On The Beach』ラストの『Ambulance Blues』っぽい感じ(どっちも長いし)だけど、あっちが全編弾き語りに対し、こっちは手を替え品を替え、色んな楽器やコーラスが入れ替わり立ち替わり挿入される。この、最早アメリカーナと呼ぶのも馬鹿馬鹿しい、アメリカそのもののような、豊かに色褪せた大地の音楽が続く10分間が、本当に気が遠くなるほど優しくてメロウで、機械翻訳した歌詞を読んで溜息をついてしまった。
ニールヤングはいまだに、果てしない世界を果てしなく生きている。その事実がどこまでも無惨で、かつとても尊く感じる。
6. 『Stranger In The Alps』Phoebe Bridgers
Phoebe Bridgers - Motion Sickness (Official Video) - YouTube
このアルバムは他の人たちの年間ベストから拝借したもののひとつだけど、これは本当に素敵でした。Ryan Adamsが見いだしたとかいう、若き女性SSWのデビューアルバム。1994年生まれでこの音楽性…世の中恐ろしい。
良質な女性SSWはそれこそ、アメリカという国には山ほどいそうで、この年間ベストでも何人か取り上げたのですが、おそらく聴けてないのも沢山あるんだと思いますが、今年はこれがベストでした。いちいち最高。どうしてこの歳でこんなにセンスがいいの…(嫉妬)。
持論ですが、SSWには何通りかあって、まずギターメインかピアノメインかで分かれて、また貧乏そうな感じか宗教がかった感じかで分かれる。この組合せからの4通りで自分はおおよその理解をまずしている*10のですが、この人はギターで貧乏そうな方。リード曲の『Motion Sickness』*11こそドラムが入ってバンド調だけど、他は幽玄な弾き語りベースな曲が多くて、そこが甘過ぎない程度に儚げな声にとてもよくマッチしてる。音の隙間がとても饒舌で、そこに他の、エレキギターやらシンセやらエフェクトやらが、結構アブストラクトに絡んでいくのが聴いてて緊張感があって引き込まれる。歌心的にはメロディの抑制され枯れた具合にスロウコアっぽさすら感じられて、とても寂しげで美しい気持ちになる*12。
アルバムの流れも、中盤に壮大な『Scott Street』が入ってきたり、結構乱暴なギターが『Georgia』の後半で入ってきたり、最も長尺な実質ラスト曲『You Missed My Heart』がエレクトロ的な質感になった弾き語りで最後まで通したりと、全体を一定のトーンの範囲に収めながら色々とやっていて、とても理想的に思えた。
寂しいときもしくは寂しくなりたいときに聴くアルバムが一枚増えた。自分よりもずっと歳若いのがややアレだけど、こんなに透き通った寂しさに浸っていれるアルバムはそうそうないもの。
5. 『Dirty Projectors』Dirty Projectors
Dirty Projectors - Up In Hudson (Official Video) - YouTube
今年のインディロック進歩論で議論に火を付けた御方、Dave Longstreth率いる、もとい、いつの間にか彼のひとりユニットになってしまったDirty Projectors。USインディ最盛期と評価され/自認するところの彼の、状況がこんがらがったからなのか、彼がトラックメーカーとしての実力を付けたからなのか、その両方が複雑に絡まって出来た、快作か怪作か。状況説明だけで相当文字数持っていかれそうなので脚注*13。
経緯がめんどくさくて「失恋アルバム」と簡単に言ってしまいたくもなるけれども、それがアルバム制作の契機のひとつになったことも否定は出来ないだろうし、それでここまで偏執的な作品が出来上がるので、流石と言うべきか。一応、彼が最近様々な形で深く関わっていたR&Bをベースにした作品ということになってるけど…これR&Bなの…?
ともかく徹底的な編集によるグチャグチャな音像、イメージの乱れ飛ぶ辺りが、この作品の楽しさ。冒頭から声をピッチダウンさせて歌う『Keep Your Name』*14からして飛ばしてるけど、しかし曲自体は前作でのソングライティング志向を引き継ぎ、非常に甘いメロディになっている。今作は、折角の素晴らしい楽曲群を本人がアレンジでグチャグチャに引き裂いた上で再構築するという、どっちかと言えば『FANTASMA』の頃のコーネリアスがやってることと近いような作品なんだと思ってる。
その最高峰が『Up In Hudson』で、どう考えても彼ら史上最も美しいメロディを持つ楽曲を、徹底的にアブストラクトなアレンジと、そして相反する美麗なホーン・コーラスアレンジとで固めた、今の彼でなければ作れなかった類の美しさが宿った1曲だと思った。こんがらがり切った西洋音楽みたいな調子の『Little Bubble』もアルバムの流れで聴くととても儚くて美しい。基本的に、美しいアルバムなんだと思う。彼の混沌として肥大化した美意識があちこちに根を張って、スリリングな音楽になってる。
この力作が結果的に「売れなかった」ことは、多くの人の落胆を生んでいるらしく、某マガジンが「インディが敗北した2017年」と言い切る理由になってるらしいけども、それでこの作品の気高さが少しでも貶められるようなことは、あるはずがない。
4. 『Vu Jà Dé』細野晴臣
「洲崎パラダイス」at 高知県立美術館ホール ~細野晴臣“リリース記念ツアー”スペシャルムービー企画「昨日の1曲」 - YouTube
日本の細野晴臣は今年で70歳。流石に見た目はおじいさんといった風ではあるけれど、作品としては、年末近くにとんでもない作品を出してくれました。
2枚組。片方はカバーで片方は自作曲。これはとても分かりやすい。『HoSoNoVa』とかの「カバーもいいんだけど自作曲ばっかり聴きたいなあ」というリスナーの贅沢な悩みに、ここまで誠意を持って応えてくれている。
そしてその自作曲サイド(「Essay」と名付けられている)を再生して、一気に妖しい世界へと連れ込まれる。『洲崎パラダイス』。この、なんともうさんくさく、埃臭く、なのに不思議と親しげな空気は、まるで路地を一本間違えて迷い込んだ異世界の軒先のような風景が見えてくる。細野さんの超低音ボイスで爆笑する。次の『寝ても覚めてもブギウギ』もまた、妖しいリズムの取り方に「架空の昭和」に連れ込まれたような錯覚に陥る。不思議なインスト曲や、けだるくも可愛いブギーや、甘苦くブルースなポップソングなど、ひたすらにかどわかして、こちらの現在位置を迷子にさせてくる細野ワールド*15。
そんなdisk2に気を良くしてdisk1(「Eight Beat Combo」と名付けられている)を聴くと、こちらは数々のスタンダードナンバーを元に、ひたすら細野さんの声に、歌にどっぷり浸るアルバムになっていた。今年Johnny Cashの晩年作品に没入してたときと同じ聴き方をしていることに最近気付いた。細野さん、元からこんな声だったような気もするけれど、深い皺が刻まれた風にも聞こえるから不思議。
また、今作はブックレットも、それだけを取り出して著書にすべきではないかという作り込み様。曲の解説等を読み進めるうちに、細野晴臣という音楽人間の中に出来た宇宙やその法則・力学がほんの少し垣間見えて、とても多くの示唆を含んでしまっているように思えた。
身も蓋もないことを言えば、細野さんは次の作品を出す気があるんだろうか、とさえ思った。どうしても、良くないことが頭をよぎる。しかしながら、何が起こっても、『Vu Jà Dé』という作品は残る(人類滅ぶレベルになれば残らんけど)。飄々としながら、「本来身近なはずのものがとても新鮮に感じる」などというテーマによって作られたこの作品の距離感が、ひたすらに不思議で悩ましく、何度もdisk2の30分弱の世界に迷い込む。
3. 『Popcorn Ballads』サニーデイ・サービス
Sunny Day Service - 青い戦車【official video】 - YouTube
本当に幾らでも書けるトピックがあるアルバムが来た。気合いを入れよう。
サニーデイ・サービス。まずは…本当にサニーデイ・サービスか?ある意味で、今作はDirty Projectorsの上記作品と似た部分がある。バンド的ではなくR&Bにかなり寄った作品*16、混沌としたトラックの作り込み、そして全てのトラックをひとりの人間が(ほぼ)作り上げていること等々…そして、それでもバンドの名前を名乗っていること。
もちろん制作の経緯は全然異なり、こっちは曽我部恵一がストリーミングのみでのリリース・アルバムというよりプレイリスト的なものとしてリリースといった計画をし、それに沿って自分ひとりでひたすらに突き進んでいった結果だろう。前作『Dance To You』がバンドでもの凄い曲を作ってはボツにし遂にドラムがダウンして、そこからも曲を作りまくった上で9曲に絞った作品であり、対して今作は上記コンセプトのために曽我部がひとりで曲を量産して出来た賜物。
より面倒くさいのが、去年のKanye West『The Life Of Pablo』の「ストリーミングでリリースし、しかもリリース後も制作者が適宜トラックを修正・差し替えたりする」というスタイルを模倣し、リミックスをちょこちょこ施しながら、結局CD・レコードでリリースということになって、そこでストリーミング版ではボツになった曲・新たな書き下ろしを計4曲追加し、そして何故かdisk1の方のみ曲順もやり換えた上で満を持して今年のクリスマスに2枚組の完全版がリリースされたということ*17。以下、完全版を前提で話します。
という訳で、玉石混合・混沌とした内容を最早前提・テーマのようにして作られた感じの作品群は、割合的にR&Bチックな曲が多くはあるものの、内容は非常に混沌としている。生ドラムよりもリズムマシンの音の方が遥かに多く、また楽器編成もバンド的な要素は殆ど残っておらず*18、基本的には曽我部の想像力の限りで制作されている。なので、『青い戦車』のような妖しいファンクネスが蠢く曲、ジェントルなソウルミュージックな『クリスマス』、唐突に大瀧詠一な『花火』、可愛らしいエレポップな『Sumeer Baby』、『LOVE ALBUM』的な『ハニー』、歌詞に音に本当に混沌とした『虹の外』、暴発寸前なバンドサウンドでキリキリと進行する『サマー・レイン』etc…と、曲調は脈絡なく変化し*19、しかしながら大事なことだけど、ソロの『まぶしい』の時のような明らかに勢いだけで作った、という大味すぎるトラックはほぼ皆無。1曲1曲のクオリティ自体は高水準、そんな、頭痛くなるようなアルバム。
こんな説明を読むより、本人のインタビュー記事を読んだ方が遥かによく分かると思う。どこまでが計算ずくでどこからが行き当たりばったりなのか、本人さえよく分からないのでは…とも思うけれど、しかしながらdisk2とか普通にポップで聴きやすく、これをただ時代の産物としか扱わないというのは、流石に勿体なさ過ぎる。曽我部恵一は今、本当に何でも出来てしまいすぎる状態で、去年以来のライブでの発狂ぶりを思うと、こういう“形式”に縋ることでなんとか作品を“纏める”ことが出来たのではないかとさえ思う。もの凄く充実しているのに、同時に激しく行き詰まっているような今作を経て、曽我部恵一という人間は一体何がしたいんだろう、何をすることが出来るんだろう。楽しみなような、恐ろしいような。ひとまずライブを観たい…。
2. 『Common as Light and Love Are Red Valleys of Blood』Sun Kil Moon
Common As Light and Love Are Red Valleys of Blood
- アーティスト: Sun Kil Moon
- 出版社/メーカー: Caldo Verde
- 発売日: 2017/02/24
- メディア: CD
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8 God Bless Ohio - YouTube(注意:誰かによるライブ録音らしく、ボリュームが小さいです)
上記サニーデイの2枚組が超絶ポップに聞こえてしまうこと請け合いな、それよりもボリューミー、それよりも漆黒の2枚組アルバム。Sun Kil Moon、Mark Kozelekもまた、ストーリーテリングのゴリ押しという、名作『Benji』より始まったスタイルを、今作で突き詰めてしまった。
再生してすぐに分かるのが、今作全てのトラックが、ベース・ドラムと、大量の言葉・言葉・言葉でできているということ。ベースはMark本人、ドラムは元Sonic YouthのSteve Shelley。淡々としたドラムにベースの反復、そしてひたすら言葉・言葉・言葉という、スカスカの楽曲だらけで、アコギやキーボード類が出てくるだけでとてもポップに聞こえてくる程。一番丁寧に作ってあるのがdisk1冒頭『God Bless Ohio』で、これは紛れもなくSun Kil Moonの新しい名曲*20。逆に本当にベースドラム声だけで、実に12分も延々とやりつづけるdisk2冒頭『Stranger Than Paradise』のような怪曲さえある*21。
実は、時折挿入される楽器の演奏はどれもアイディアに富んでいて小粋で、本当はそういうのを適切に施し、そしてちゃんと奇麗なメロディの歌を入れた曲を幾らでも作れる、そういう名盤を幾らでも作れるのだこの人は。そういうのを顧みず*22、ひたすらに今回の手法をゴリ押しする。実はそれでも、この2枚組130分のうち最良の60、70分くらいを抜き出せば、『Benji』にも匹敵するリリカルで、美しい名盤にだってなったと思うのだ。しかし現実は2枚組130分。
彼が何故、ここまでしたのかは誰も知らない。歌詞カードは大きく、ひたすら大量の単語が綴ってあって、逆に印刷したらこの程度の量か、とさえ思った。
そんなひたすらにサディスティックでひどい作品が何故2位なのか。いやこれは2位である。ぼくは少なく見積もっても20回は通しで聴いてる。それはまず第1に上記のとおり、トラックの出来が良くて適度にリリカルな部分があり*23、HIPHOPだと思えば案外聴けてしまうこと。いまひとつには、歌詞の内容。時間を費やして歌詞を自動翻訳に掛けてみると、聞こえ方は一変する。以下は『God Bless Ohio』の歌詞の一部を引用(適宜筆者が訳を書き換えてる)。
貴方はそこで小さな子どもで、僕は友達で兄弟だった。
(中略)
僕が帰ってくると、そこはゴーストタウンみたいだった。
僕達は巡る・巡る・巡る、
永遠みたいな空家を通り過ぎて、放棄された病院を通り過ぎて。
ああ、悲しみが横たわる。
橋の下のグラフィティ。古びて荒廃した納屋。外れそうなドア。
空のダウンタウンの駐車場。孤独な路地。
かつてプールがあった立ち退き済みの住宅。車道に置き去りの車。
ああ、でもオハイオの美しいもの、お母さん・お母さん・お母さん!
ツアーでの愚痴めいた内容の歌詞の中に、これとか、デヴィッド・ボウイへの思いを綴ったものとか、そういった、内容が分かってしまうとひたすらに胸が痛くなるような内容のものが潜んでいる。英語が聞き取れれば、とも思うけれども、歌詞を自動翻訳に掛ければ掛ける程、このアルバムを好きになっていった。
Mark Kozelekの憂鬱・いらだち・感傷、それは音楽の形式がスロウコアであろうと、こういうアブストラクトな形態であろうと、とても悲しく、虚しく、そしてだからこそ美しく尊いもののように感じられる。このアルバムのせいでぼくは今年どれだけ時間を失ったかと思うけれど、それは受難だけではないことは、よく分かっている。
1. 『Life Without Sound』Cloud Nothings
Cloud Nothings - "Modern Act" (official music video) - YouTube
結局、2016年12月の頃から、彼らがトップで逃げ切りました。オハイオ州*24出身、破壊的な衝動をゴツゴツのパワーポップに転化させる天才・Dylan Baldi率いる、Cloud Nothings。
もう、細かい説明をするのも馬鹿馬鹿しい。上記Youtubeの曲を聴いてグッと来るかどうか、それで概ね決まってしまうでしょう。アメリカのメインストリームが完全にR&B化して、ロックバンドはもう流行らない・つまらない・進歩する気が無くなった*25etc…何とだって言われ放題だった2016年の暮れ頃に、突如公開されたこの曲の、何もかもどうでも良くなる程のドライブ感・響き・わななきを、ぼくはずっと忘れない。
そういう期待で上がりまくっていたハードルを、彼らは全然、飛び越えてくれた。全然だぞ。1曲目『Up To The Surface』のピアノの音がバンドサウンドと歌に呑み込まれる時のカタルシス。前作の「全曲疾走曲」スタイルから幾分ギアを落として、その分ギターの壁は厚くザラザラで、いつもの死に物狂いのようなエネルギーを、じっくりと沸き上がるバンドの轟音に溶かし込んでいく。『Enter Entirely』ではグランジじみたタメを見せ、気持ちよくキレる鈍重さが駆け巡る。
そして『Modern Act』が終わったあと、なんとも野暮ったいイントロが聞こえてきて「はは、流石にこれは考えなし過ぎでしょ」と思ってたら、気がついたら曲が、凄い地点まで沈み込み、そして這い上がってくる『Sight Unseen』の、完全に意思が身体を追い越しそうな程の、最後30秒の絶叫!絶叫!絶叫!
僕達はどこまで行けるのか、この果てしなくて何もない、アホでクソなことばかりで何もない、つまらない、むなしい、こんな世界の中で、僕達はどこまで行けるのか。その問いに対して、嘘でも、まやかしでも、一瞬の気の迷いでも、僅か30秒程の瞬間でも「どこまででも」と答える。そういうことを、僕達はもしかしてロックに求めていたんじゃないか。
そんなの子どもっぽい恥ずかしいことだからやめてちゃんと生活しようよ、と言われて引き下がれる程度ならとっくにそうしてる。世界の果てでも終わりでもアビスでもどこでもいいから、今夜ぼくを連れ出してくれよ。
大阪で彼らのライブを観ました。クソみたいな汚い歪み方をして、何を言ってるか最早分からないような音の中で、彼らが演奏する。それだけで、何かもう、全てが上手くいくんだなあと、ロックって素晴らしいなあ、と、おもいました。
いかがでしたでしょうか。つまんなかったでしょうか。来年もあなたにいいことがありますように適当に祈らせていただきましたところでこの記事を終わります。来年もよろしくお願いします。
*1:ああ、それにしても需要が欲しい…
*2:自分や自分の周りに関する愚痴だけでなく、社会に関することだってその気になれば幾らでも愚痴れますよぼくは
*3:もちろん付点8分ディレイギターも要所要所で発揮され、『The Little Things That Give You Away』はShimmerも理想的に利いててドラマチック
*4:アレンジ的には曲レベルの仕掛けが無ければもう、キタダマキがどれくらいベースで工夫するか、くらいしか余地はない気がする。その上で曲が軒並みいいのが今作だけど
*5:twitterで夏botくんがそう言ってて、ハッとしました。めっちゃ腑に落ちる
*6:最初に公開されたのがこれだったから「えっシューゲ要素は…?」となったのが落胆の大きな理由だったっぽい
*7:轟音としては煮え切らない、どこかぼーっとする感じがRIDE的というか、元々The Cureのフォローワーでもあったんだよなあきっと、という感じ
*8:平日…
*9:アメリカに対して「You're the promised land / You're the helping hand」だもの
*10:これらの組合せで一番苦手なのがピアノメインで宗教っぽいやつ。しかしながらJudee Sillは思いっきりこれなのに最高に好きなんだよなあ…まあ4点全部当てはまりそうな人だけど
*11:この曲所々のメロディがJudee Sillっぽくてめっちゃいい
*12:なので終盤の男性ボーカルとのデュエット曲はやや余計に感じられはした(それがたとえConor Oberstであっても)
*13:時系列を整理すると、前作『Swing Lo Magellan』リリース後のツアーでデイヴと当時メンバーだったAmber Coffmanが別れる→ある程度仲直りしてアンバーのソロをデイヴがプロデュース→ソロ完成直後関係が悪化して疎遠に→気がつくとデイヴがひとりでこのセルフタイトル作品を作っていた→アンバー含む他メンバー全員脱退、で合ってる?
*14:「ヒロシー、ヒロシー」と聞こえてしまうコーラスは申し訳ないけど笑う
*15:漫画だけど『ディスコミュニケーション』や、panpanya氏諸作のような、シュールで果てしなくゴチャゴチャしていく世界観が、なぜか聴いてると浮かんできた
*16:やはり今作も“ジャンル:R&B”ではないと思う。じゃあ何だろう…思いつかない…
*17:曲順についてはストリーミング版の方か取っ付きやすいと思うけど、下記インタビューで本人が言うことも一応理解は出来る
*18:一応、完全版にて『Dance Tou You』制作時の初期の頃、メンバー3人で作られたトラックを元にした『はつこい』が収録された。サニーデイっぽさ溢れる朴訥なフォークソングに、泉まくらの繊細なリリックが半ば強引に挿入される。こんなフォークソングに乗ったラップ聴いたことない…
*19:しかし、曲順自体は適当ではなく、ある程度R&Bゾーンとかポップスゾーンとかいうのが設定されている風ではある
*20:10分あって長いけども…ナイロンギターの緊張感ある演奏やドラムの畳み掛けるプレイで、非常にスリリングで残酷な美しさが一貫している。この人本当にオハイオの事になるとクソ本気出してくる
*21:この曲に至っては、途中でベースのパターンが変わっただけでポップに聞こえてくるから、完全に感覚を調教された気分になる
*22:まだ『I Love Portugal』は「いい曲」寄りではあるけども
*23:例の12分でさえ!
*24:そういえばSun Kil Moonもオハイオオハイオうるさいし、Phoebe Bridgersもどれかの歌でオハイオがどうこう歌ってた気がする。今年はオハイオ州の当たり年か…?
*25:これは今年入ってからのデイヴさんのやつか