ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『Old Age Systematic』NYAI

OLD AGE SYSTEMATIC

OLD AGE SYSTEMATIC

 

 福岡の男女混合5人組バンド・NYAIがブレイクしかかってる!2nd『HAO』リリースを目前として、タワレコメンの選出ネッツトヨタ福岡とのコラボ等、非常に盛り上がっています。これもう近年福岡のバンドで一番売れたやつになりそうですね。

 

 なので、その人気に便乗してこのしょぼくれた拙ブログのPVをせめて稼ごう!という厚かましい気持ちで、この彼らの1stアルバムの全曲レビューをします。こっちも現在、タワレコでパワープッシュされているとのことで、ギターロックがお好きでまだチェックされてない方は是非、手に取ってみて下さい。私もライナーノーツとしてやたら長く拙い文章を載せてもらっています。

 未聴の方、まずはこの曲を聴いて下さい。とてもキャッチーです。

www.youtube.com

 また、バンドのリーダー・takuchanさんのセルフライナーもこちらで読めます。

takumahatensi.wixsite.com

1. OLD AGE RIOT

 少しニューウェーブな直線的なベースラインが印象的なパワーポップで、アルバム中でも動と静がくっきりした楽曲。メロディ展開にゆったりとしたものがあり、短いフレーズを印象的に聞かせる作りになっているのが、彼らが初期スーパーカーから受け継いだ非常に大事なことの一つだとすれば、この曲のメロディー展開から収束した後のリフレインなんかで早速その案外渋めなセンスが活かされている。ギャリギャリしたバンドサウンドに沈み込んでいく短いフレーズのリフレイン、そこから引っ掻くようなギターフレーズが飛び交う間奏に飛び込んでいくのはスリリングでバンド演奏ならではの興奮がある。

 彼らのスーパーカーから受け継いだ非常に大事なもののもう一つ、男女ツインボーカルのギターロックは、この先頭曲でも全編的に採用されている。しかしながら、ギターの鳴り方はどっちかといえばむしろ初期ナンバーガール的なジャキジャキ感。歯切れのいいギターロックをまさに体現するこのギターの適度にドライブした音こそが、この1stアルバムの象徴だと思う。彼らは過去にコンピレーションアルバムで『IGGY POP FAN CLUB』をカバーしている。ところでNYAIとNUMBER GIRLはアーティストのABCの順番も近くてすぐに聴き比べができますね。

 「すべて消えちゃうから」と早速繰り返し歌う、歌詞のちょっとした根暗さというか、淡いダウナーさもNYAIの魅力の一つ。

 

2. Merrygoround in rainy days

 数あるNYAIのキャッチーな曲の中でもとりわけポップな勢いに振り切った楽曲。なんせサビとブリッジしかない構成だもの。キャッチーなフックがきっちり用意できれば、楽曲にはこれだけの展開があれば十分、むしろベスト、という、爽快な作品。ひたすら心地よいドライブ感。

 冒頭のささくれたギターフレーズからいきなりタイトルコール。ジャッキジャキに鳴るギターの中をツインボーカルに少しコーラスを添えて飛んでくメロディの伸びが、どこまでも気持ち良い。少しばかり浮遊感を演出するつんのめり気味のドラムワークが、ブリッジに展開したらフロアタム回しで重心低めに切り替わるところがとても機能的でピリッとしている。この曲に限らず、手数多く駆け回るドラムのプレイはナンバーガールに強く影響を受けているとかだったと思う。サビに戻る一瞬のブレイクがまた、バンドサウンド特有の気持ちよさに溢れている。そしてギターソロの少年感。心地よさに任せて小節が伸びていくかのような展開がどこまでも清々しい。

 改めて歌詞カードを読むと、この曲歌詞が短い。「そんな気分でゲームの中を探しても/新種発見はできないぜ」のくだりは彼らの初期の楽曲に時折登場した、ポケットモンスターリスペクト(?)なフレーズの名残。

 

3. PLANT

 いきなりこれまでよりもダーティーに歪んだギターが鳴り響く、『Crooked Rain』の頃のPavementへのリスペクトに満ちた、まさにインディーロックとしか言いようのない、愛しいジャンクさに満ちたローファイ風ロック。このアルバムの曲で、この作品より後の作品と一番地続きなのは、この曲なのかも。

 ミドルテンポな楽曲、心地よいグダグダ感を持ったビートの上に、ブッ潰れたギターサウンドが乗る。ファニーな雰囲気を乗せたBメロから突き抜けるようなサビへ進行するのが、適当風な楽曲に反して実は丁寧に作られている。曲展開は存外に凝っていいて、最初のサビ終わりからの間奏の展開もかなり段階を踏んで、乱雑風なギターソロが吹き出すところまでたどり着くようになっている。この辺も実は緻密な作り込みが結構あるPavementと似てる*1

 どこかべらんめえ感のある歌詞の、ざっくりと荒れた憂鬱さが、文章として読んでてもなんか楽しい。「rock it now 何か見つけても/くだらない物に変わるよ」とか、rock it nowの部分のテキトーさがとてもキャッチーで機能的。

 

4. Life is DEMO

 彼らの初期のレパートリーでも特に重要であったろう楽曲。 Bandcampで公開されていた最初の楽曲集でもPVが作られて*2、全国のギターロック好きにその名前を知ってもらう大事なきっかけになっていた。これがまたキャッチーさの塊のような楽曲。新録されてもそのキャッチーさは変わらないし、PVも作り直されている*3

 飛び出していくようなイントロの爽快感。シンセがリードフレーズを描くのもシンプルにキャッチー。シンプルなサビメロもツインボーカルの魅力と、そしてディレイ的な仕掛けでとても有効に響かせている。狂騒感、そして以下に述べるような歌詞のライトにニヒリスティックな感じと合致した炸裂感がなんともインディーロック。

 「カオスライフイズライオット」というフレーズ、このなんかムチャクチャなんだけども、それこそがなんらかのパワーでありアティチュードなんだ、っていう感じのフレーズが繰り返される。この曲こそNYAIのあらゆる側面をシンプルに包含した、まさに名刺代わりの1曲だった。作風が結構変わってきた今でも、この時期のNYAIのことを思うとそれはそれでとてもエモくなったりするし、この地点から今に繋がってるんだと思うことで見えてくる感覚なんかもある。「夜に描いた絵 捨てちゃうように/遠くに描いた夢 わすれちゃうよ」なんて言いながらも、彼らは決して忘れずに、ぼんやりした夢に邁進してきた。

 

5. ニャンニャンワールド

 初めて聴いた時は「えっこんな曲もするの?」っていう軽いビックリがあった、これまでのパワーポップ的なキャッチーさとはまた違ったキャッチーさを強く持った楽曲。ABEさん全面ボーカルで、まさかの4つ打ちロックをするその狙いすましたあざとさ、作曲者本人のセルフライナーにある「ダサさを狙ったら案外良かった」感じが巧妙で効果的な1曲。新譜で先行PV公開されている『Chinese daughter』もそうだけど、ABEさんメインボーカルの曲はこのバンドにファンシーでファニーなアクセントを毎回残している。

 これまでの爽快感を優先したギターフレーズとはかなり趣を異にする、ヒラヒラと舞うようなギターフレーズに、またはこの曲の各所で見られる細かいキメに、このバンドがただただ最高なパワーポップ馬鹿ではなく、実は手練手管の準備が密かにある存在であることが現れている。JPOP王道コードに4つ打ちを合わせたサビはその最たるもの。「オレたちはこういうカードもその気になれば幾らでも切れるんだぜ」という余裕、そしてそんな中でも色々とダークなフレーズを混ぜ込ませないと気が済まないところにバンドの幅とキャラクターが垣間見える。

 それにしても、こんなファンシーなボーカルにナチュラルで「溢れ出した脳髄をすするような気分なんです」とか「脇道を歩いていこう くだらない青春をしよう/のたれ死ぬのがオチなんです」とかいうフレーズがしれっとくっつくのが、NYAIのねじくれたところ。支持しかない。

 

6. Think head

 彼らには本当に珍しい、マイナー調でダークに疾走するタイプの楽曲。このアルバムの中盤以降はこのバンドの持つ、勢いあるパワーポップ以外の側面を表現した楽曲がひしめく。この曲はその中でも特に「らしくない」感じがして不思議だけど、楽曲としては完成度が高い。

 荒涼としたコード感に引き摺るように疾走するドラム。どことなくART-SCHOOL的な風情さえ携えたその楽曲は、サビの叩きつけるような感じも含めてやはり、個人的にはART-SCHOOLだなあこれは、って感じ。歌詞も「光をもっとくれ」とか言ってるし。歌詞もどこか他の楽曲とは違う雰囲気があって、ユーモラスな感じを排除してあるというか、セルフライナーでも「屈折しながら作ってた」とあって、なんか納得しちゃう感じ。特に間奏のギターソロは、いい意味で非常にこのバンドらしくない邪悪なフレージングで、でもフレーズに沿って小節が伸びるのはこのバンドこの作品っぽいなと思った。

 

7. Dead man land

 このアルバムでも最もシンプルにパワーポップしている曲かもしれない。非常にあっさりとサビに移行するメロディ、細かい展開もつけずに延々同じコード進行で伸びていく間奏、2番はベースドラムだけで緩急をつけるアレンジ、非常にざっくりしてて意図明快なその作り、そしてそれでも十分以上に聴かせるギターのフレージングをはじめとしたバンドのポテンシャルに、このバンドの底力がある。

 リフレインされるイントロのギターフレーズ*4の上昇感が象徴しているのかもだけど、この曲はグダグダ感を割と前面に押し出しながらも、不思議な浮遊感がある。ボヨーンって鳴るシンセだったり、ともかくトコトコフィルを入れないと気が済まないドラムだったり、色々なヤケクソ感・ローファイ感が合わさってこの不思議なフワフワ具合が生じるのはバンドマジックを感じる。

 それにしても、「僕らの出番は…ないぜ!!」とこの曲では歌うけども、今はまさにその出番が来てるんだよなあ。

 

8. Ituma in the sky

 イントロの仕掛けから、シンセが延々シーケンスしていく具合から、やはり本作では異色な作風ながら、しかし結果的にはこの曲こそ『HAO』の透明感ある楽曲群の先駆けだったのかもしれない。

 おそらくシンセ採用以降のスーパーカーを幾らか意識したと思われるサウンドの、薄っすらとしたピコピコ感は、ワンコードギターの整然としたジャリジャリ感に上手いこと上書きされている。このワンコードギターによって、NYAIらしいメジャー調から外れた透明感を演出されている。それにしても、サビの入りのABEさんのボーカルが妙にbloodthirsty butchersにおける田渕ひさ子コーラスみたいな感じになってる。狙ったのか…?

 

9. Wall of flesh

 やっぱりこの曲が1番シンプルなのか?本人も認める「コンパクトで潔くてかっこいい曲」。3分以内にNYAIのニュートラルなバンドサウンドを十全に収めた、今作のリードトラックのひとつ。PVも作成された。アヤノ・インティライミさんの被り物シリーズの始まりかこれ。

 サクッとまとめたAメロから一気にキャッチーなサビに接続する、即効性がものすごく高い楽曲。コード進行もAメロの分とサビの分の2パターンしかなく、その順番と回数の入れ替えだけで構築された楽曲に、メロディの強さとバンドの心地よいドライブ感でポップソングとしての強度をしっかりと備えさせているところにこのバンドの底力以下省略。テンポもそこまで速くない上、結構2回目サビ後のバンドサウンド暴れタイムも長めに取った上での3分切りに、作曲者の圧倒的な勝利を感じる。

 冒頭から「I know わからないよ」とぶちかますこのバンドのヒネた言葉のポップセンスも注目したい。この曲が一番、そういう言葉とそこからの突破感とがリズミカルに言葉になっている気がする。単純に、歌ってて気持ちいいだろうなあって強く思うメロディと歌詞。

 

10. STOP

 アルバム最終曲にして、バンドの遠景感を最も表出した楽曲。こういう曲アルバムの最後に入れたくなるよね!って感じの。透明感のセンスはやはり、『HAO』に繋がっていく部分が結構あるのかもしれない。

 ボーカルが男女で交互に掛け合い形式で進行していく。これは意外と彼らの楽曲では多くないパターン。その掛け合いからサビでまたユニゾンになり、宙に浮かぶマーチングバンドみたいな演奏になっていき、最終曲らしい切なさをなぜか感じ取ってしまう。間奏は長く、そこからのブレイクしたAメロ復帰も切ない。

 最後のサビが終わった後は、まさにこのアルバムを「作品」として完結させるべくな演奏が延々と続いていく。シンセの鳴りも、延々ワンコードを鳴らし続けるギターも、次第にフィルが収まっていくドラムも、色々と丁寧に、切ない。最後にグワーっとした演奏を入れ込むのではなくこうやって淡く美しく引いていくことに、このバンドの美学の一端がある。それは今作の後のミニアルバム『Out Pitch』でも、または今度の新譜でもそう。

 

 以上、10曲で35分の作品。

 この時点で目立つのは、やはりキャッチーさを極めたパワーポップな楽曲の数々。特に4曲目までの勢いは、ギターロックファンの興味関心のど真ん中を狙い撃つかのような仕上がり。製作者のギターロックに対する拘りと研究が尽くされている。ジャキジャキしたギターサウンドは、彼らの作品でも特にこのアルバムのトレードマークと言っていいはず。

 一方で、改めて聴き直すと、結果的に今後の布石となっていたような、この時点では変化球気味に感じていた楽曲も、それぞれ色んな工夫が施されていることが見えてきた。彼らが時に初期スーパーカーや初期ナンバーガールのフォローワーとしてだけ紹介される*5、それ以上のものを、すでにこの時点で色々と含んでいる。特に透明感・浮遊感に関するサウンドチャレンジについては、2nd『HAO』にて完全に開花している。

 つまり、すごくいいアルバムです。メロディセンス、アレンジの方法論、色々とセンスと作り込みが本当にしっかりしていて、ギターロックを中心に色々ロックを聴くような人であれば本当にオススメしたい1枚。NYAI、売れろ!そしてこの記事のPV、伸びろ!と厚かましく思う今日この頃です(笑)

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*1:「彼らがどうPavementをシミュレーションして楽曲を制作したか考えながら聴くと相当楽しい」とナチュラルに書こうとして、いやいや自分で曲を作ったりしない人でそこまで考えて聴く人そんなにいないんじゃないか、と思い返して、本文に書くのをやめました。

*2:しかも全編アニメーション!こういうのを自分で作ってしまえるのが何気にNYAIが初めからすごかったところだと思う。このPVほんと好きで、これを見てすぐになんか本人たちに直接大好きなのを伝えられたのは、自分の人生で何気にとてもラッキーだったことのひとつかも。。

*3:これがまた、元のPVの気持ちいいチープさを極力保ちつつ発展させたような作りで、まるでインディーからメジャーに行った時の再録曲のPVみたいだ、とか思った。

*4:印象的でいいフレーズなのに、改めて聴くとイントロでしか使われてなくて、無駄遣いっぷりにそれこそ草生える。

*5:それが一番キャッチーでインパクトのある紹介の仕方であることは分かるし、そんな需要に対して相当完璧に回答した作品だとも思いますけれども。