ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

曲タイトルだけをサビ等で連呼する曲 50曲 part2

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 前回の記事からのパート2です。

ystmokzk.hatenablog.jp

 part2では2000年代から先の曲を取り扱います。それにしても1960年代〜1990年代までの30年で28曲で、残り22曲が2000年〜2019年の20年間というのは、なんかここ20年に比重がやや偏ってる気がしますね。

 part1から引き続き曲数を数えることができるよう、part2は全50曲中の29曲目から始まります。part1からの連番ということです。よろしくお願いします。

 

 

 

2000年代 11曲

 

29. Eveything Means Nothing To Me / Elliott Smith(2000)

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 この曲はひたすら悲しいし虚しい。個人的にはこの曲は完全にElliott Smithにとっての『Pink Moon』のように聞こえてしまって、実際はアルバム『Figure 8』の後すぐに彼が自殺したとかそういうわけでは無いけれども、彼の内にあった類の悲しみやら自棄やら呪いやら何やらが、彼にしか作れなさそうな形で、美しくも痛々しく花開いています。無感情に歌うにはあまりに辛すぎるタイトルフレーズに、そして像をぼかすように重ねられたボーカルに、どうしても聴き手を闇に、何も無い、という闇の引きずり込もうとする力場を感じられて、時々怖く思うのに、でも聴いてしまう曲です。

 

30. I Think I Can / the pillows(2000)

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 オルタナティブロックは時に“感情を爆発させる音楽ジャンル”として多くの人に思われてる節があって、それもあるんだけど、あっていいんだけど、自分はそういうのじゃないオルタナが好きだな、と思うことがままあります。ひたすらクールに徹し続ける(Sonic Youthとか)か、もしくは飄々としてるか、みたいな。後者の意味で日本でオルタナを極めたのがまさにアルバム『HAPPY BIVOUAC』の頃のピロウズで、特にそのアルバムの後にリリースされたこのシングルの、ひたすらに飄々と歩いていくような感じはとてもその手のキャッチーさに満ちていて、タイトルコールもコードを変に駆け上がるのが妙で面白いです。初めて聴いたときはつまらない曲だと思った気もしたけど*1、今はこういうのが好きだなあ、とか思います。


31. Merry Lou / SHERBETS(2000)

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 遂にyoutubeで動画が見つからん曲が出てきた…。

 日本のロック史上有数の3ピースバンド・Branky Jet Cityの、まさに解散の直後くらいが浅井健一の迸る才能の絶頂期だということは、ぼくもこのブログ等で都度都度申し上げているところですけど、この曲もそんな勢いと、その勢いに比例して彼の中で噴き出した強迫観念的なものとが嵐のように吹き荒れるような楽曲。緊張感のある冷えた展開からサビでギターの圧が刺々しく響く中タイトルを繰り返し歌い上げる浅井健一はひたすらに曲の雰囲気と一体化してしまってる、トランス状態になってる感じがします。意味は分からないけどともかく悲痛で壮絶で胸が痛くなります。

 

32. She was beautiful / syrup16g(2001)

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 彼らの初のフルアルバム『COPY』の先頭を飾るに相応しい、程々のスペーシーさと空虚さとテンションの低さを持った楽曲です。「イノセントの喪失」みたいなノスタルジックなテーマで描かれるsyrup16gの楽曲はそんなに無い気がしますが、この曲のワントーンをひたすら静謐に聴かせる感じは、その後の身も蓋もない(だからこそ素晴らしい)歌の数々を最高に活かす構成になっているように感じます。そのギターの夜の灯りのようなワントーンと同じノリで歌われるタイトルコールに、時に人は勝手に温もりとか感じたりするでしょう。


33. I don't know / NUMBER GIRL(2002)

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 この曲はライブもいいけどPVの鬼気迫る感じもとても好き。YouTubeから消えてたのでこっちで。

 NUMBER GIRLは彼らの“冷凍都市”な作風を確立したアルバム『SAPPUKEI』からシングル『鉄風 鋭くなって』からこの曲へと、どんどんそのサウンドの要素をシンプルに突き詰めていった感じがします*2。その変化の中でこの曲は完成系な訳で、その極端なオンとオフの切り替え、ひたすら単調に機械的に無感覚的にリフとビートを叩きつけ続ける様に、バンドのこの路線の極北を見ます。そしてそのサウンドにかき消されないようにこの曲のタイトルを叫ぶ向井秀徳の声の、その非常に効果的に果てしなく壮絶さを感じさせる作りに、そのシャウトの裏の彼の冷酷そうな意図を感じて、ほんとビリビリしとんねえ、と思いました。

 

34. OTOGI NATION / スーパーカー(2002)

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 アルバムの1曲だからやっぱYouTubeないか…。

 2002年はナンバーガールくるりもそしてスーパーカーも極まってた年で、そのスーパーカーのアルバム『HIGHVISION』のうちの1曲であるこの曲は、その淡々とした進行ゆえに地味な存在と思われてたりもするのかなと思っていますが、自分の中で年が経つにつれてどんどん好きになっていった曲です。淡々としたリズムでAメロの歌が続いていく様はどっちかと言うと次作『ANSWER』的な素っ気なさがあって、そこからサビでまろやかな轟音とともにタイトルコールして通過していく感じは、そのテンションが上がる感じでも覚醒する感じでもなくただ単に通過していくだけな感じが、とてもささやかに美しい感じがして、心地よいぼんやり感が得られる気がします。

 

35. Hay Ya! / Outkast(2003)

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 はい今回の企画で一番の問題曲きました。この曲はもう、この記事の視線と同じ方向性のより深い洞察をした上で書かれたとしか思えないOutkastの最大のヒット曲にして、そりゃここまでこうすりゃ最早ヒップホップでもなんでもなくただのポップソングじゃねえか、最早ブラックミュージックですりゃねえじゃねえか、と、本当に考えれば考えるほどこの曲なんなんだ???となる訳ですけども、でもともかく何もかもキャッチー。徹底的なメタ・ポップソングでありながら、やりきってしまったばかりにそもそも“完璧なポップソング”になってしまったというか。このPVも色々皮肉が効いてるにしても、完全にやり切ってるからただの「楽しげにショウアップされたPV」として純粋に楽しく見れてしまうし。

 この、何も考える必要なくタイトルコールにユルーく乗っかって身体をフラフラさせるだけで楽しくなる仕組みは、まさに曲タイトル連呼メソッドの極北と言えそう。前半で見たとおり、このメソッドはどっちかと言うと白人文化だった気もしましたけど、それを見事にここまで機能させてしまった当時のアンドレ3000は本当に天才なんだなあと。現状の枯れた姿はちょっと悲しいけど、でもそんなのとは無関係に、この曲のひたすら享楽的なタイトルコールは機能し続けるなあと。

 

36. Two-Timing Touch and Broken Bones / The Hives(2004)

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 こっちは純粋にバカっぽさ爆発なガレージロック。ハイヴスの代表曲は結局この曲でいいんですよね…?ゴツゴツしたコードも素っ頓狂なボーカルのおかげで深刻な風には一切聞こえないし、キンクスの初期曲を10倍にハイテンションでバカっぽくした感じなところを、サビでまさかのちょっとストロークス的なスカスカ感を出す、この引きのセンスが間違いなくこの曲の独特なキャッチーさを生んでいて、その上にタイトルコールが合唱されるこの楽しさ。PVもキレッキレにアホっぽくゴージャスな出来で、ここまで突き抜けられたらホント楽しいしかないなあと、1個前の曲ともども思ったりしました。

37. The Good Times Are Killing Me / Modest Mouse(2004)

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 この曲のタイトルコールは、キャッチーさを狙っての、というよりはむしろ、アレンジの結果そのような形になった、というタイプの楽曲です。メジャー後のモデスト・マウスのメロウな感じはとても巧妙だと思うのですが、この曲もタイトルコールは歌というよりもむしろギターリフとかシンセとかと同じような扱いで配置されているような。で、何やら色々歌うパートがあって、それが終わると自然とタイトルコールが前面に出てくる、みたいな具合。それにしてもこの曲の同じメロディ・コード進行を繰り返してるのにアレンジを色々工夫して繊細にコントラストを進行させていくアレンジはとても鮮やかです。タイトルの皮肉な感じも。

38. Don't Make Me A Target / Spoon(2007)

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 USインディーが続きます。出世作『Ga Ga Ga Ga Ga』リリース時点で既にベテランバンドに片足掛けてた感のあったスプーンの、その出世作の先頭曲であるこの曲の埃っぽくも毛羽立った、総体としてソリッドな質感は彼ら流の「さりげなくロックンロールをどこまで弄り倒せるか」の挑戦における卓越した1曲でもあります。曲展開の緩急のつけ方もギターサウンドの鋭利すぎないザクザク感も、全てが迷いなく一点に向かっていながらもかなり自由な感じがして、シックなキャッチーさを聞き手に広く訴えています。

39. FOLLOW ME / andymori(2009)

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 andymoriのこれもアルバム先頭曲。名刺代わりにしていきなりクライマックス的な、彼らの滾るような疾走感とやり場のないアンコントーラブルさとを、非常にシンプルな3ピース編成のくせにいきなり撒き散らしまくるこの楽曲も、サビの主役はどっちかといえばコーラスかなあ、タイトルコールはメインではない気もするなあ、と思いながらも、でも小山田壮平のタイトルコールで曲に微かに加わる甘みが、Aメロ等の全開っぷりとの対比で何気によく効いてるよなあ、とも思います。『高気圧ガール』でも書きましたが、タイトル連呼はその単調さゆえに、昂ったテンションを冷ますことにも使用ができるということは大事なことかもしれません。

 

2010年代 11曲

 

40. ミス・パラレルワールド / 相対性理論(2010)

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 前編の荒井由実のやつで述べた「女性ボーカルは歌の歌詞が商業的制約を受ける」という状況、それを解決するには「女の子が世間的なべったりした色恋の世界観から離れて歌えるようになること」が必要だったんだと思います。ただ、その離れる技法として、たとえばはっぴいえんどの『風街ろまん』の歌詞みたいな、情景描写とか散歩の感想とかみたいなことを歌う女性歌手がなんらかの主流になれたかというと、そうではなかったことが歴史を振り返るとなんとなく感じられるます*3
 とりわけゼロ年代以降、どちらかというとサブカルの方面から、女性の歌の「無意味化」が進行したように思ってるけど、キーとなるのは「電波ソング」として強引に整理される流れなのかなと思ってます。電波ソングも基本的には「君」への恋の歌なんですが、電波ソングの場合そこに並ぶ言葉や世界観は幼稚化されたり記号化されたりして、現実的な肉感やら湿度やらを捨象したものになっていく傾向にあります。特にアニソンにおいてこういう傾向はブースト掛かる傾向にあり、そのひとつの達成が『ネコミミモード』みたいなものなのかなと思います。この曲も曲タイトルを連呼するだけっちゃそうか。

 で、この『パラレルワールド』にこんな長い前置きが必要だったんかな…と思ったりはしますけど、相対性理論もまた、そういうゼロ年代サブカルの中から出てきて、その典型例と先進例を示した一角だった訳です。『LOVEずっきゅん』の殆ど意味のないようなキャッチーさは、ある意味では「女性が色恋のことを本当にどうとでも自由に歌の中で扱えるようになった一例」と言えたりしないかなと。まあそりゃバンドのキャラというものありきかもですけど。

 で、『パラレルワールド』まで来るとその色恋の感じすら薄れて、チープにサブカルSFをなぞっていく感覚が、ドライなフューチャー感を持ったバンドサウンドによく絡んで、歌詞を読んだ意味以上に、そのなんとも不思議に浮遊した世界観をダイレクトに味わえる感じになります。とりわけその引き込み作用するのが、やくしまるえつこのボーカルを重ねて歌われるタイトルコールの繰り返しなのは言うに及びません。言い換えれば、このバンドが登場時に“容易く”提示できた世界観は、この曲あたりで一度完成したかなという感じもします。あとはソロで様々な緩みや広がりを見せたり、相対性理論本隊ではメンバーチェンジからのもがくようなキャリアが始まったりの、という。

 別に彼女たちが女性の歌の突破口だったとかそんな大げさなことは一切言いたくないのですけども、女性の歌が意味に縛られすぎなくなっていくことの一形態としての「曲タイトル繰り返しソング」はこの後この記事でも増えていくことになります。

 

41. Fall In / Cloud Nothings(2012)

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 冒頭からタイトルコールでスカスカながら荒涼として硬質に始まるのが格好良く、そこからのガチガチの疾走感の発射台的な効果を発揮しています。クラウド・ナッシングスのハードコア混じりのポップさは、彼らの出世作『Attack On Memory』において、ハード目な冒頭2曲を経て、この曲でまずスッと差し出され、そして次曲『Stay Useless』でそのポップさが最高に極まるのですけど、『Fall In』が曲順的に凄く効いてるな、と思うことはよくあります。この曲の荒涼としたタイトルコールはその荒涼っぷりゆえにとてもロマンチックなものに感じられます。

 

42. This Loney Morning / Best Coast(2013)

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 2ndフルアルバムでドリームポップというインディーロック大正義のジャンルからさらりと降りた後に彼女らがリリースしたミニアルバム『Fade Away』はただ単にいい感じのインディーギターロックが7曲入った、解説に困るけれども最高な作品で気に入ってて、特にこのシンプルな曲構成で軽快にして過不足なく、程よい退屈さを含んだ上でロマンチックな疾走を見せるこの冒頭曲は作品の出だしとして最高級にキャッチーなキャンディー感があります。ベサニーの太いけどキュートさや野暮ったさを失わない平板なボーカルは“バブルガム”であるからこそ得ることのできる可能性に満ちていると思ったりします。

 

43. FLOWER GIRL / きのこ帝国(2013)

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 同じ女性ボーカルを擁するギターロックバンドでも、一個上のやつとこの曲とを比べるとまた色々あるものだなあと思います。フルアルバム『eureka』までは情念をぶん投げるようなシューゲイザーを見せ、次のフルアルバム『フェイクワールドワンダーランド』から次第に“等身大の少女”感に移行していく彼女らのキャリアの中で、一番無風で、情念からも少女感からも不思議に解放された、独特の純度があるミニアルバム『ロンググッドバイ』において、ひたすら幽玄さに向かったこの曲で、サビのタイトルコールは楽曲のイメージの象徴として、サウンドや他の箇所の歌詞に付き纏う意味が集約されたポイントとなって響きます。言葉であり、音の質感である、というか。

 

44. ストレートな糸 / 柴田聡子(2014)

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 これはYouTubeないだろ…と思ってたけど逆にあった。。

 シュールでポップな女性SSWとして活躍する柴田聡子の、一番シュールさと実験性とそして地味さとが充満した全編ほぼ弾き語りのフルアルバム『いじわる全集』において最終曲として配置されたこの曲の、とても素朴で飛躍が無くて、曖昧だけどその曖昧さも含めて確実に存在する生活の実感みたいなものの匂いとが充満するこの楽曲の“小さな”あり方が、時々とても綺麗な世界に思えて憧れたりします。テクニカルなギターを弾かずに飄々とコードを掻き毟って、ポンポンと呟くような感じ、その上でのタイトルコールの意味もなく寂しげな感じに、U2の『Joshua Tree』的な自由さとは全く趣を異にするタイプの“自由さ”を感じたりして、なんか気分が涼しいなっていう。

 

45. Summer Soul / cero(2015)

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 東京随一のポップマエストロから求道者的な立ち位置にceroが脱皮していく際の、その2つのベクトルの交点が最もキャッチーでダンディかつパーティー使用にも耐えうる形で発露したのがこの曲。ブラックミュージックからの影響を、ダウナーになり過ぎないギリギリよりもう少しチャラい地点で掬い上げてスウィートにフロウさせたこの曲のタイトルコールは、もしかしたらceroの全楽曲の中でも、とりわけ甘く響く地点なのかもしれません。なんせ「夏の魂」だぜ?「10年前の僕らは胸を痛めて『Summer Soul』なんて聴いてた」とかいう歌のラインが作られそうな感じというか。

 

46. Solo / Frank Ocean(2016)

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 R&Bとしてのブラックミュージックの最先端がどこなのかは筆者そもそもブラックミュージック不勉強なのでよく分かりませんけど、分からないなりにも彼の『Blonde』という、歴史的名盤に名を連ねた感のある作品の良さが少しずつわかってきた感じ。特にこの曲はタイトルが象徴的で、「なんだこれを最初にたくさん聴けば良さがもっと早く分かったんじゃん」って思ったりしました。音数を絞りに絞ったアンビエントR&Bな磁場の中で彼がこのタイトルの、本当に短い単語を、とても大切にかつとても抑制して繰り返し呟いたりコーラスしたりする、それが聞こえる度にやって来るゾクゾクとしてヒリヒリとした感覚は、これこそがこのサウンドの生み出す効果の最たるものなのかなってことを考えたりしました。

 

47. I'm a boy / サニーデイ・サービス(2016)

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 決して“リバイバル”などではなく、“逆襲”としてしか表現されようのない、サニーデイのまさかの異次元の金字塔『Dance To You』は、この確かにある程度軽快でアルバムタイトルを体現しているとも言える楽曲で幕を上げます。シティポップ再評価吹き荒れる今の地点から聴けば、この曲は「ボロボロ過ぎる山下達郎」として完璧だったんだと思ったりしました。イントロや間奏での柔らかなリゾート感と、しかしながらそれ以外の箇所の演奏をよく聴くと実にそっけなく鳴るギターの音。そしてどういう意味を載せたいのか不明ながら確実に意味が迫って来る、執拗にして妖艶なタイトルコールの、ブルーかつ血まみれのような幻想的な具合が柔らかくて、かつ逆説的に、とても刺々しいのです。

 

48. I Wish I Didn't Miss You / Feist(2017)

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 「良質でちょっと地味だけどタフなアメリカーナの旗手」としての地位から一気に「なんかすげえ神経がやられちまってる風なお姉さん」に変貌を遂げた彼女の2017年作品『Pleasure』は、静寂まみれのサウンドの中を終盤不気味に荒れ狂うタイトル曲が冒頭に来た後、2曲目としてこの弾き語りの曲が登場します。今作に共通する、ひたすらに「部屋の隅の冷たくて埃臭い感じ」に満ちたリバーブ感が、ギターと彼女の声をひたすら毛羽立てて、言葉の詰め込み方が極端気味な楽曲は不穏な無音を沢山含んで、そんな中で魂が遊離してそうな声でひたすらにこのタイトルが連呼されるのは、どうしようもない、あまり好んで見たくはないタイプの惨めさが酷く臭ってきて、それは何らかの呪いのようにさえ感じられます。精神の消耗を生々しくアンプリファイしたようなタイトルコールは、SSWとはやっぱ結構業が深い存在なのかも、と思いました。

 

49. I Am Easy To Find / The National(2019)

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 こういう年代を跨いだ企画の際に最新の年の曲を入れとくのは大事で、しかも今回のテーマについては好事例が2曲もあったのでこの企画にもハリが出ました。

 The Nationalの今年の新譜の、そのタイトルトラックに据えられたこの曲もまた、タイトルコールが重く静かに響くタイプの楽曲。“正常”であることをキープし続けるために必要なタフさがどんどん困難になっていく時代のムードみたいなものを全身で体現する前作アルバムから継続した雰囲気は、この曲でも静謐で優雅でありながら、どうしようもなく重たくも虚しくも響くもので、女性ボーカルの下をひたすら低音ボーカルでなぞっていくマット・バーニンガーのボーカルは、そんなしんどさをひたすらタフに受け止めるように響きます。どこか機械的エレクトロニカ的に響くピアノの反響の中で横たわるタイトルコールは、音の響き方の一部となって、また響く音に意味を与えるように混ざって、まるで生き方というものに問いかけるようで、その姿はしんどくても、気高く美しく見えます。

 

50. Close To Me / THE NOVEMBERS(2019)

 最後の最後で動画が無いよ…ライブ動画をアップしてほしい…。

 今回のこの企画を締めるに当たって最高の楽曲が今年リリースされてたのは本当に幸いでした。正直THE NOVEMBERSは個人的に苦手に感じる部分もちょこちょこあったりして、大傑作と言われる今年の新譜も全編を手放しで絶賛はしきれないのですが、でも好きな曲はいつになく多くて、特にこの曲の完成度の高さと、何より曲から立ち上がって来るひたすらに突き詰められた優雅さはとても引き込まれました。The Cureの『A Night Like This』的な、どこまでも美しく深く広がっていく、イメージの中の・幻想としての“夜”を、彼らは的確な単調さと音の響きの折り重ね方と、そしてソングライティングとで見事に美しくも勇敢で感動的に現出させました。全ての音・言葉が、同じ方向に向かって機能して、そして見えて来る世界の感じがどこまでも妖艶でありながらもジェントルで、タフさとロマンチックさとの調和の具合に、なんだか意識を持って行かれそうな、持って行かれたい感覚でうっとりとしていつも聴いています。ずっとこの曲のタイトルコールが続けば、この恍惚な夜がずっと続くのに、なんてことを。

 

終わりに

 以上、50曲でした。

 流石に50曲並べると、同じ曲タイトル連呼というテーマであっても色んな曲が集まるなと思いました。そしてまた、タイトル連呼するからといって必ずしも軽快でポップでキャッチーな曲になる訳ではなく、むしろ単調な繰り返しこそがある種の重みだとか、虚無的な広がりだとか、そしてジェントルなロマンチックさだとかを生むこともあるんだなということを、今回の記事のために選曲してそして文章を書いていく中で、ある程度よく認識した次第です。勿論、バカみたいにシンプルでキャッチーな愛すべき曲も沢山あったんですけども。

 今回、ハードロックやヘヴィメタルに全然言及出来ていなかったことは、筆者の守備範囲外とはいえ不覚な感じで、おそらくそっちも入れたら他にも沢山こういうスタイルの名曲があるんだろうなと思いました。「曲タイトル連呼」という枠組みだけでも、果てしない広がりと、工夫の仕方と、表現される光景・世界とがあるんだなと。

 もし「このテーマだったらこういう素晴らしい曲もあるよ」とかそういうのがおありであれば、この記事のコメント欄とかに書いてもらえると非常に嬉しいです。また、もしこの拙い記事を作曲される方がお読みになるのであれば、こういうタイプの曲を作ってみるのはどうでしょうか。酷く雑に大まかに言えば、タイトル連呼サビの特性は①ポップでキャッチーでライトな感じ、②単調さを利用したシックで落ち着いたセクションとして、③同じ言葉を繰り返すことによる途方もなさ・サイケデリアの表現として、というのがあると、今回思いました。

 何にせよ、これを読んで何らかの面白さとかがあってくれれば幸いです。最後に、今回の50曲のうちSpotifyにあったものをプレイリストにしました。逆順ですが、興味がある方はぜひ聴いてみてください。

*1:『ハイブリッド・レインボウ』のあの熱さとかが最高だった時期があったんだよな、と思うと、今の自分は年を取ったかもしれない、と思ってしまう。

*2:自分の中ではその後『NUM HEAVYMETALIC』でガラッと変化したイメージです。

*3:歌詞の時代の流れ的には90年代頃から、昭和的な色恋感が薄れてより日常の感じが増していだてるように思えるけども、それでも歌の主軸は「素直に君が好き」みたいなのが中心であって、それが令和の今も続いてるなあと思うのがあいみょんの『マリーゴールドとかだったりするなあ、という乱暴かつ今回のテーマから脱線した思いを持ってたりもする