ART-SCHOOLの全曲レビュー再開。前回から間が空き過ぎている…。
第2期になってからの彼らの作品はこれで3作目、3作連続で女性ジャケット、3作連続でミニアルバム(当初今作はシングルの予定だったみたいだが)。次作フルアルバム『Paradise Lost』まで続く所謂「Paradaise Lost期」はフルアルバム以外全部ミニアルバムというなんかよく分からない感じ。前2作が自主レーベルからのリリースで、今作よりメジャーレーベルに復帰(ポニーキャニオン)。
- 1. あと10秒で(3:47)
- 2. 汚されたい(4:04)
- 3. イディオット(3:16)
- 4. LITTLE HELL IN BOY(3:40)
- 5. カノン(4:13)
- 6. 僕のビビの為に(正味演奏時間2:14くらい)
- 7. (シークレットトラック)あと10秒で 別ミックス
- おわりに
1. あと10秒で(3:47)
第1期より後のアートスクールにおいて大鉄板と言えるライブ超定番曲。これをやらないライブ(曲数的にフェスとかに限られそう)は中々トガってる気がするくらいに。
ソングライティングはシンプルにして陽性でキャッチー、アレンジはかなりハイファイで煌びやか。メジャー復帰作に相応しいキラキラとして勢いのある楽曲。シューゲイザーのキラキラ感を疾走感を掬いとったギター、打ち込みと同機して時折派手なフィルインパターンを叩き込むリズム、言葉数と音数を抑制したAメロからワンフレーズをテンション高めで連呼するサビ、さらにそのままの勢いでAメロのリフレインに接続する展開など、そういった要素要素がコンパクトに、情報量を抑えた形で纏まっている。そのためか即効性が高く、テンションも上げやすく、反面じっくり聴く分にはちょっと飽きやすいかもしれない。
しかし、なんだかんだで「何もねえ」(発音的には「何もねーへ」)と連呼するサビの投げやりさはとても木下理樹的な勢いのあるやるせなさだし、また2番のサビ「触りたいな」(発音的には「触りたいの」。甘えん坊かよ)の妙なテンションはこれはセックスでは?という感じだし、なんだかんだでこのバンド特有の楽曲の“訛り”のようなものはしっかりとある。妄想とだらしなさと情けなさとヤケクソとが爽やかなサウンドに乗った、ある意味これほど清々しい曲もないかもしれない。
2. 汚されたい(4:04)
イントロの軽やかでかつ寒々しいアルペジオが印象的な爽やかに切なげな楽曲。その印象的なアルペジオやコードが実はSilver Scooterというエモバンドの『New Orleans』という曲そのままであることを最近知ってびっくりしたけど…。かえってこの後の『カノン』より楽曲の根幹部分って感じでヒドくて笑う。
それでもこの曲はいい曲だと思う。インディーズ時代から細々続く“淡々と進行する8ビート”系の楽曲系統(『1969』とか『Burtterfly Kiss』とか)にこの曲で新しい風が入った感じ。女性コーラスが入るのも新しい試みで、これは今後特にポップな楽曲でここ一番のときにいい効果を上げる。得意のメジャーともマイナーともつかない調性加減はより軽やかで涼しげな質感を帯び、想起される情景もどこか洗練された感がある。あとサビのベースの微妙にハネたリズムが微妙な躍動感を産んでて気持ちいい。
それにしても、そんな爽やかな曲なのに歌詞が性的に混線していて中々ヒドい(笑)前2作から引き続きの猿な世界観、それがまたかえって曲自体の凛とした風情を強調するのかも。今作で(6曲目を除き)最も静かな曲だけど、最も涼しくもいびつで美しい曲な気がしてる。
3. イディオット(3:16)
攻撃的に、叩き付けるように疾走するタイプの楽曲。どこか『WISH』(シングル『EVIL』収録)の焼き直しの感じがする。
構成は、普段ならサウンドがブーストされがちなサビ(ブリッジ?)の部分で逆にリズムがブレイクし静かになるという、それこそ『WISH』や『羽根』などの楽曲と同類のもの。動のパートでエフェクトを極端にかけたギターが壁的に鳴ってるのはますます『WISH』に違いが、こちらの方がより、極端なフェイジングのかかったエグいエフェクトのかかり方をしていて混沌としている。どこかのインタビューでこの音を出すために試行錯誤し過ぎて戸高氏がギターを投げたとかいう話も。
そんな混沌とした攻撃性と、猿的な性的にだらしなさげな歌詞が交錯する楽曲。しかし結果としてミックスは意外とスッキリ聴きやすくなっており、今作がメジャーからのリリースでハイファイ志向気味なのを思わず意識してしまう。
4. LITTLE HELL IN BOY(3:40)
この曲と次の曲は2017年初めにリリースされたB面集『Cemetery Gates』に収録された。2曲ともファン投票によるベスト選曲のこの盤において投票で選ばれており、ファン人気があるのも分かる、充実した2曲はこのミニアルバムの大きな魅力(だった)。なおパラロス期の楽曲群からはこの2曲のみの選曲。
この曲の魅力は、どこか柔らかな切迫感があることか。かつてのグランジ的側面は皆無で(今作、全体的にグランジ要素僅かだけど)、2音のアルペジオの遷移を軸に展開され、サビでトレモロピッキングで弾かれるリードのラインがまたどこか瑞々しくて印象的。抑制されたリズムも機械的な人力さが発揮され、それだけに所々のフィルインからサウンドが変化していくときの眩しさがある。
また、本曲はアート全楽曲でも(意外と)珍しい、サビで木下ボーカルに戸高コーラスが追いかけていくスタイルとなっていて、滅多にコーラスとかしない彼らのライブでもこれは流石に再現するため、演奏されるとライブのハイライトのひとつになるという利点が。
そして、この曲(と次の曲)は歌詞が、猿的な雰囲気から軽やかに脱却したものとなっている。特にこの曲のややノスタルジックで、秋冬の路上を思わせる感じはどこか清らかでいい。
5. カノン(4:13)
前曲と同じくB面集に選曲された、ファン人気のある1曲。こちらはより明確に叙情的でフォーキーで感傷的な1曲となっている。拙作「B面集選曲予想企画」でも取り上げさせていただきましたがこの曲の収録は当然。
先行楽曲としてはThe Cure『High』、Ride『Cool Your Boots』そしてエレキブラン『Melt』の影響が見られる(現在エレキブランでググるとART-SCHOOLと絡めた文章(というかこれは小説?)が出てくる。当然この曲が関係する)。見られるけれども、それを今作特有の秋冬な風情に染め上げているのは紛れもなく彼らの実力である。特にアコギ*1の投入はこの曲において非常に印象的で、この曲の微妙な浮遊感に確実に効果を与えている。彼らはこの手法をアルバム1枚挟んだ後の『LOVERS LOVER』で再利用する(というかあの曲自体この曲の発展的な性格があるかも)。
その爽やかで感傷的な風情は、適度な高揚感のある緩急をなぞりながらも、どこか淡々とした進行をしていく。その淡々さの中に、木下のファルセット込みのパラロス期で1、2を争う可憐なメロディや、印象的なオクターブ奏法のギターのライン(2回目でタメを利かせて登場するところがとても粋)が挿入される。彼らでは珍しい3人称視点の物語的な歌詞も、楽曲から醸し出される情景を強調しており、結果としてこの曲はアートの感傷的な楽曲群の中でも不思議な存在感を持っている。
6. 僕のビビの為に(正味演奏時間2:14くらい)
充実の2曲が終わった後のクールダウンめいた存在感というか、特別感動的でも感傷的でもなくそしてすごく手作り感に溢れたインストが本作の最後に据えられている。思うに、当初シングルの予定がなんか上手くいって5曲できたので、もう一曲入れてミニアルバムにしよう、ということになったのでは…?
3拍子のリズムボックスに2本のアコギ、一本はフレーズを弾き一本はコード的な役割のものを重ねただけの、そこそこチープな作品。メジャー復帰作でこれは逆にパンクかもしれない。小説を読み終わった後ふと部屋の隅の空の花瓶が眼に入った、程度の情緒があって、案外それがシュールでやり場のない後味を残していいのかもしれない…と思って20秒ほどぼんやりしてるとすぐに次のボーナストラックが始まる。余韻とは。
7. (シークレットトラック)あと10秒で 別ミックス
扱い上は前曲と同じトラックに、20秒ほどの無音の後に収録されている。大きな違いは打ち込みやボーカルの派手なエフェクト処理等がこちらではオミットされていること。なのでライブ演奏はどちらかといえばこっちのバージョンが近い。他にも各楽器の定位などが色々と違っているみたいだが、それらを総て確認して楽しむような、ビートルズやビーチボーイズのミックス違いを楽しむようなアートファンを寡聞にして知らない。これでも十分完成品だけど、さらに手を加えてビルドアップしたのが1曲目です、といったところか。
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おわりに
上記のとおり、メジャーレーベル復帰第1作ということで、音の質感がハイファイ寄りというか、一気に洗練された感じがある。 それは元々のグランジ・ローファイな気質が排除されて、よりポップフィールド仕様になった具合とも、プロっぽくなったとも言える(その割に6曲目)。前2作がインディーリリースで音的にも楽曲的にもどこか生々しさを強調していたため、そこからのギャップは結構ある。
楽曲としては、勢いのある1、3曲目はそれはそれでいいのだけれど、それ以上に残りの3曲の完成度が印象的。三者三様にどこか平熱感というか、切迫感をある程度までで抑えたような情感を持っており、それはまるで第1期が荒野やら何やらへの逃亡劇風だったのと比べると、より生活に寄り添った風情というか、街並とか公園とかが浮かんでくるような音や曲になっている気がする。4、5曲目の歌詞のせいもあってか、今作はアート諸作の中でもとりわけ秋冬の印象が強い気がして、そういう気分のときに聴くと雰囲気がある。
正直、例の3曲に関しては、次作アルバムのどの曲よりも楽曲の質が高い気さえする。B面集に2曲収録も納得のところではあるけれど、B面集だけでは『汚されたい』を聴けないので、それを聴くためにも、今作は2017年の今でも必要な作品だと思う。
*1:本当にアコギだろうか…エレキの生音にも聞こえる…