ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

『Terror Twilight: Farewell Horizontal』Pavement(2022年4月リイシュー)

Terror Twilight: Farewell Horizontal : Pavement | HMV&BOOKS online -  OLE1799CDJP

 Pavementのなかなかデラックスエディション化されなかったラストアルバムが遂に成されて、元々大好きだったこの作品について改めて様々な背景を知り、そしてLP版やサブスクでの驚愕の曲順を前にして、様々な複雑な想いが去来したので筆を取ります。これまでリイシューのアルバムの記事を書くことはしたことないですが、元々は1999年にリリースされて、既に賛・否の両論からも色々と語り尽くされてたであろうこの作品を、改めて色々と見つめ直してみたいと思います。

 全曲レビューについては、今回示されたNigel Godrich提案の曲順のバージョン(LPやサブスクはこちら)とリアルタイムリリースの曲順(CDはこちら)の両方で書いてみます。

songwhip.com

 

 それにしても、なんて愛しい屈託にまみれたアルバムだろう。その混沌とした制作背景のエピソード群も含めて、まさにPavementにとっての『Let It Be』*1と呼ぶに相応しい作品です。ここまで『Let It Be』的な混乱を地で行ったアルバムも珍しいかもしれません。

 

 

 

はじめに:本作の特徴を色々

Pavement EP「Spit on a Stranger」のリイシューを発表 新曲「Hoerness Your Hopes」を公開Music  Tribune <meta content='website' property='og:type'/> <meta  content='article' property='og:type'/> <meta content='Music Tribune'  property='og:site_name'/>

 やはり色々書いとかないと気が済まない…。

 

Pavementというバンドについて

slapsticker.blog.fc2.com

 もしこのバンドをよく知らない人がいたら、上記の記事を読んでください。そして、今回取り扱う色々ややこしい本作ではなく、“歴史的名盤”として選ばれた存在でありインディーロックの聖典のひとつであろう2nd『Crooked Rain, Crooked Rain』から聴くといいと思います。

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 彼らの特に初期の作品によって大きく定義されることとなった「ローファイ」についての内容であれば、弊ブログの以下の記事も多少は役に立ちます。まあ今回取り上げる本作まで来るともはや録音的にも演奏的にもスタンス的にも全然ローファイではなくなってしまってきてる気もしますが…。

ystmokzk.hatenablog.jp

元来のローファイ的な余裕なんてもうどこにもない、ある意味必死の塊のようなところが本作からは伺えます。

 

 

ラストアルバムに向かうまでの経緯

 初めはStephen MalkmusとScott Kannbergの2人で1989年に結成されたこのバンドは、徹底的にメタメタにグダグダな録音の集大成たる1stを1992年に、そこから相当ポップで巧みになった2ndを1994年に、再び投げやりなトラックを増やしながらも音楽的射程を大きく伸ばした3rdを1995年にリリースして、ローファイというジャンルの立役者として大活躍してきました。

 で、乱雑気味な3rdからの反動でかなり整って落ち着いたソングライティングと演奏を見せる4th『Brighten the Corners』で、彼らのサウンドは4枚目のフルアルバムにして早くも「円熟」の雰囲気さえ漂う音楽になってしまいました。的確に「ローファイ」的な演奏を振り回し、しかし楽曲の根底には程よいレイドバック感が感じられ、特に中盤以降のミドル〜スローテンポの楽曲における哀愁の込め方には、「バカみたいにノイジーに振り回す」ような元々のローファイな地点にはもう戻れないような情緒とクオリティが横たわっていました。

songwhip.com

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 『Brighten the Corners』はクオリティは高いけれど、それはどこか「バンドの完成」を通り過ぎた地点を思わせる円熟さで、もしかしたらそのどこか黄昏た感覚が、哀愁として楽曲に染み出しているのかもしれません。全ての楽曲を書きかつバンドを主導するStephen Malkmus(以下「S・M」と記載)も後に「この時点でクリエイティブ面での僕とバンドの関係はとっくにピークを過ぎていた」と話しています。

 つまり、音楽的な「完成」という行き止まりに辿り着いてしまった訳です。そこから足掻いてなんとか「確実にこれまでと異なる」形になったのが本作だと言うことも出来るんだろうと思います。S・Mが腰を据えてバンドを大きく差配しようにも、メンバー5人ともが広大なアメリカの各地に居を構えてしまって、制作のために集まるだけで一苦労で、しかもバンドから自然に生まれ出るグルーヴは何か陳腐化しつつある、という状況で、それでも何とか美しくも混沌とした作品を作り上げたところに、本作の価値の一端があるのかもしれません。

 

 

本作の特色:ファンタジックで哀愁に満ちた音楽

 一言で纏めるなら、こんな表現になるんだと思います。ただしこれは、正規リリースされた曲順での印象ですが。

 これまでのPavementのバカっぽくも爽快なサウンドからすると意外なほどに、本作にはそれまでの彼らの作品には無かった類のはっきりした陰影があります。これまでになくダークで複雑な楽曲が生み出すネガティブな雰囲気の奥行きと、そしてそれがあることによってより輝きを増すポップサイドの楽曲との相互作用によって、この作品はそれまでの彼らの作品では無かったような、宇宙的で、夜的な雰囲気をふんだんに含んでいます。ここまで浮遊感を感じさせるPavementのアルバムは他に無いでしょう。元来の正規リリース版では冒頭に置かれた『Spit on a Stanger』のイントロだけで、どこかに連れて行かれるかのような錯覚に瞬時に誘われます。

 確実に異色な作品ですが、それでも楽曲を書いているのが同じS・Mだからなのか、しっかりとPavementだと感じられる部分も多々あります。何と言ってもメロディやその歌い回し方に、どうしようもないくらい作家性があり、逆に言えば、彼のメロディをここまでロマンチックでスリリングな形で味わえるのは本作だけでは無いかとも思ったりします。

 そして、そんなイメージの裏で実は、曲によっては非常に演奏がエッジの立った、殺伐さをバーストさせたような仕上がりになっているものも散見されます。これは特に、後述する今回のデラックスエディションのLP版やサブスク版で確認することができるNigel Godrich当初案の曲順だと、むしろそちらの面が強調されています。

 何にせよ、普段の「気楽なPavement」みたいなのが出てくる場面は相当に限定されてしまった本作。なぜこんな異色の作品に仕上がったのか、これからその背景を確認していきます。

 

 

楽曲の複雑化

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 確かに後述のプロデューサーの話の方が音的にもエピソード的にも目立つけど、でもまずはこの、S・M自身に内在したテーマが根底にあるように思います。

 他メンバーからは「プログレ的」と称されることとなるところのこの要素は、つまりひとつの楽曲でテンポチェンジがあったり、曲調が途中でガラッと変化したり、といったことが起こる楽曲が複数ある、ということです。自身が弾く激烈にエッジの効いたギターのリフを元に楽曲を自在にうねらせていく、こういった要素はこれまでに全くなかった訳でもないけども、本作はかなり多く、またその変化の仕方もかなり極端で、そこから「プログレ的」という発想が出てくるんだと思われます。

 「プログレ的」というと、Radioheadの1997年の『OK Computer』もプログレ的要素が見られる作品で、そういったところからプロデューサー影響かと考えてしまいそうになりますが、それは違って、彼らがすでに『Brighten the Corners』後のツアーから『The Hexx』の原型の楽曲を演奏していたり、Nigel Godrichの参加が決まる前のセッションですでに演奏がいつの間にか怪しく変化していく『You Are a Light』が一度録音されていたり*2など、S・Mのソングライティングが自然に変化していった、と考えるのが自然でしょう。そもそも、『Brihten the Corners』で王道的なものをやり倒して、そこから自身が納得できる変化を遂げようとした時に、楽曲を複雑化させるというのはひとつの「避難先」だったのかもしれないかもと思います。

 もしかしたら、こういった「普段と勝手が違う楽曲が多数」という状況が、本作のレコーディング序盤にバンドが上手く演奏に順応できなくて制作が停滞した原因のひとつだったのかも思います。そして、そういった楽曲群よりも、もっとシンプルな構造でポップソングとして直接的に響く『Spit on a Stranger』等のシングル3曲の方が遥かに人気が高いのも事実。ただこの3曲も、これまでのPavementの楽曲とは結構違ってるようには思うけども。

 また、そのコード進行の感じもそれまでの割とメジャー調寄りで暢気な雰囲気から打って変わって、不穏なマイナー調のコードが目立つ楽曲が複数存在しています。

 

 

Nigel Godrichというプロデューサーの存在

the King of Gear ;

 上記の理由があってなのか、いつものように「2週間くらいメンバーで集まって楽曲を完成させ録音まで完成させる」やり方が頓挫して、その時にバンドを飛び越してレーベル側から打診があって、バンドのファンの一人だった彼に白羽の矢が立ちました。

 そしてこのNigel Godrichの参加こそが、様々な面で本作を本作たらしめている決定的な要素と言えるでしょう。Radioheadの諸作で名を上げ、その後Beck『Mutations』やR.E.M.『Up』のプロデュースでアメリカのオルタナティブロック界隈でもその名を響かせつつあった彼が、アメリカのインディロックを大いに体現していたPavementを全面プロデュースして出来た作品、というのが、本作の大きな特徴になります。

 ただ、恒常的にコラボしていたRadioheadTravis、コラボ後も活動が続いていくBeckR.E.M.と異なり、Pavementの場合、彼と組んで出来たそれまでの作風とかなり違っている本作が結果的に最後のアルバムとなってしまったという事情があり、その音楽性も含めて、大いに本作の賛否両論入り乱れる状況の原因ともなってしまっている訳です。

 そもそもNigel Godrichというプロデューサー・エンジニア・ミキサー自体が非常に特徴的なキャラクターであり、彼の関わった作品は原則どこか音響的でオブスキュアーな作品になる傾向があります。そしてその性質は、ある意味ではPavementが元々から有していた案外にアーシーで乾いたサウンドの感覚とは一見「水と油」のように思えてしまうから、本作ははじめから大いなる論理的矛盾を孕んだように思える作品になる運命が決定付けられていました。

 ちなみにそんなキャラクター性の強い彼の2022年最新のプロデュース作品はどうやらArcade Fireの来たる新作アルバム『We』になるようです。先行曲を聴くと、言われてみればそんな感じもするかも…元からこんなだったような気もするような…。

open.spotify.com

 

サウンド的特徴:空間的でファンタジック・ヒステリックな音響

 リアルタイムにリリースされた本作は再生してすぐ『Spit on a Stranger』のイントロの時点で、このバンドでも本作だけのサウンドの特徴がすぐに顔を覗かせます。宇宙空間を思わせるような浮遊感に満ちたリバーブサウンドエフェクトの効いた、空間的でファンタジックな音響が本作の多くで見られます。

 そしてこれらのウェットな音響が、本作より前のPavement作品に存在していた、バンド演奏の間で作られた「音の隙間」の音響に取って変わってしまっているように感じられます。ナチュラルなバンドのグルーヴを思わせる後者に対して、前者は聴く人によっては「プロデューサーによって植え付けられた不自然な添加物」だと感じられることもあるかもしれなくて、大いに本作の賛否両論の原因となっていると推察されます。

 でも、他ならぬこの本作だけの音響感覚こそが、本作を本作たらしめている重要な要素のひとつです。そしてややこしいことに、本作のその音響の性質は、上記のようにそもそもソングライティングの時点で異質だった本作の楽曲にとてもよく合っているんです。だって、あのイントロ以外の『Spit on a Stranger』は考えられないし、『Major League』のキラキラと揺らぐ美しい感覚はライブでは彼らも十分に再現できていませんし、始まりから実に不穏な『The Hexx』の炸裂の仕方はあまりにPavement×Nigel Godrich的な素晴らしさに溢れています。

 この「バンドの歴史でも特殊な楽曲と特殊な音響による例外的な有様」をどう捉えるかというところが本作の評価に直結してしまいます。大好きな人は、S・Mという替えの全く効かない癖の強いソングライターの極上の楽曲と特殊な音響が結びついた本作に唯一無二の愛着を覚えるでしょうし、また人によっては、Pavementの本来の良さとプロデューサーの長所とを互いに打ち消し合ってるようにさえ思えるのかもしれません。

 ちなみに筆者がどちらかと問われれば「本作こそPavementの最高傑作」だと信じるくらいの大ファンです。Nigel Godrich関連作品で見ても最上位かもしれないし、1999年の個人的な年間ベストを作るとすればこれが余裕で1位です。大好きじゃなかったらこんな面倒くさい記事書かないです。

 

バンド史における“異物”としてのNigel Godrich

 本作が大好きな筆者であっても、どう贔屓目に見ても本作におけるNigel Godrichの存在がバンドの歴史の中で明らかに異物的であることは否定のしようがありません。それは本作を唯一無二の存在としているのと同時に、見方によっては彼がバンド内の関係性を激変させ、解散に向かう道筋に一定の影響を与えてしまったとも捉えられます。

 そもそもからして、それまでプロデューサーを付けず、DIY*3的な自由なスタイルを体現していたこのバンドが、突然プロデューサーを、しかも味付けのかなり濃いプロデューサーを付けて作品を作り、そしてその後解散した訳です。そのようなトピックスだけを見て判断すると、彼の存在によってバンドが空中分解してしまった、と取られかねない部分があるのは理解されます。

 しかし、それは決して正確ではありません。むしろ、彼が参加する前のセッションが座礁していたことからも分かるとおり、彼がいなければそもそも本作は成立せず、そのままバンド活動が終焉してS・Mのソロ等に移行していた可能性があります。今回のデラックスエディションのライナー等にも書かれているとおり、彼が参加する前のセッションは相当に失敗していて、S・Mはバンドの編曲・演奏能力に相当悶々としていたことが伺えます。いくらかなり器用な方とはいえ、彼のバンドコントロール能力にも限界があり、彼の書く楽曲の性質が上記のとおり変わってきたこともあり、もはや彼一人の奮闘だけでは、バンドが新しい楽曲を「彼の満足いくレベルで」生み出すことは困難な状況になっていました*4。そんな状況において、Nigel Godrichという合理的で敏腕なプロデューサーの存在は非常に支えになったでしょうし、その「支え」の色が強く出てしまうのもやむを得ないところだったでしょう*5

 ちなみに、本作のミキシングに関してはほぼNigelの独壇場だった模様。メンバーは意見は言えても、コンソールにはフェーダーの一つさえ触らせてもらえなかったとか。

 

Nigel Godrich提案の曲順による『Terror Twilight』

 Nigel godrichという“異物”がどこまでも炸裂し、しかしそれによってなんとかバンドがアルバム1枚分生き長らえて、その1枚がソングライティングとサウンドが高度に交差した名作となった、という物語を筆者は本作に抱いていますが、そんな私でも、今回のデラックスエディションで公表された「Nigel godrich考案の当初の曲順」には度肝を抜かれました。というか「何だこれは…全然良くないし、意味が分からない」と初めて曲順を見た時には思ってしまいました。

 しかしながら、サブスクの方はこの曲順なので、なんとなく何回かぼんやり聴いていると、段々と彼が意図した曲順の意味が見えてきました。詳しくはこちらの曲順の全曲レビューに譲りますが、一言で言えば「この人、PavementをまるでRadioheadみたいに聴かせようとしてる…」ということになるかと思います。ここから読み取れそうなことは、本質的な部分で彼は従来的なバンドスタンスと全然異なるヴィジョンを持っていた*6、悪く言えば、彼はバンドの本分的な部分を半ば無視して本作を完成させようとしていた、ということです。ただ、彼もそこまでエゴをゴリゴリ押し通す人間ではないので、実際はメンバーのScott Kannbergが作った曲順の方を尊重し優先し、『Spit on a Stranger』で始まって『Carrot Rope』で終わる“ポップでメロウな”印象の曲順が史実となりました。

 でも、そんなポップでメロウな『Terror Twilight』が大好きだったからこそ、Nigel Godrich Sequenceと呼ばれるこの曲順に大いに衝撃を受けた訳です。もしこれで世に出ていたら、アルバムの受け取り方が全然変わってただろうなと思います。収録曲自体は(ほぼ)同じなのに、曲順だけでここまで全然印象が変わってしまうものかと思われて、これもまた面白いことだなと考え、今回、両方の曲順で全曲レビューすることとしました。というかこの人、『The Hexx』が好きすぎる。詳しくはデラックスエディションライナーノーツ等を。

 

 

メンバーからの不満・低評価(?)

Stephen Malkmus Calls Terror Twilight "Overproduced" - SPIN

このアルバム評価の混乱の最たる原因であるStephen Malkmus氏。

 そんなこんなでイレギュラー尽くしの制作環境から生まれ、また解散への萌芽ともなっているアルバムであるためか、バンドメンバーからの様々な不満や低評価が本作を取り巻く環境に現れています。

 他ならぬバンドの顔であるS・Mがまた、本作への屈託や後悔を度々述べていて、そもそもリアルタイムの時期からNigelのプロデュースに対する様々な愚痴を言っていたことが日本盤ライナーノーツに書かれていたり、最初の再結成時にリリースされたベスト盤には本作から『Spit on a Stranger』1曲しか収録しなかったり*7、さらに時が経った2017年には突然「10万ドルかけて作ったオーバープロデュース作品」と言い放ったり*8、ともかくあちこちで不満を色々と表明しています*9

 一方、Pavement設立時のもう一人のメンバーでもあるScott Kannbergにおいても、前作で『Date with Ikea』という名曲をモノにして「Pavementのネタ曲枠」以上の存在になろうとしていたところ、本作制作に持ち寄った自作曲をS・MにもNigelにも無視されたりして*10、かなりイラついていたようです。録音はNigelとS・M主導で進められ、他メンバーの関与は限定的なものとなりました。他メンバーもそれまでPavementが有していた価値をNigelが尊重してくれない、といった雰囲気を制作時に感じていたらしく、様々な不安を抱いていました。ドラムのSteve Westは収録曲のうち2曲*11で自分以外のドラムが採用されたことに不快感を覚え、ベースのMark IboldもNigelがバンドの雰囲気を本当に理解しているか不安を感じ、そしてそのパートの不明さこそPavementの自由さの象徴であったBob Nastanovichに至っては共同作業を始めてしばらく経ってもNigelに名前を覚えられていなかったことに憤慨しています。

 ただ、S・M以外のメンバーは案外大人で、録音自体や出来た作品には満足していて、時が経って蟠りが自然に溶けた今では好きな作品になっている、とデラックスエディションのライナー内などで話しています。また、アルバムリリース後の解散までのライブにおいては、本作からの複雑な楽曲も堂々と演奏するメンバーたちの姿が見られます*12

 

 

混沌としたレコーディング:Echo Canyonのセッション

 本作はともかく難産で、上述したNigel合流前のセッションで十分に完成しなかっただけでなく、実際にリリースされたものを録音したスタジオでのセッションよりも前に何度かのセッションを挟んでいます。

 その中でも大失敗のセッションとして知られるのが、Sonic Youthが所有するNYのスタジオ・Echo Canyonでのレコーディングです。リアルタイムの日本版ライナーでは「あまりにも全ての音がソニックユースに聞こえる」という理由で断念、となっていますが、その実態はそんなユルい話では済まなかったようです。

 Nigelは「機材は古すぎるし、あちこち壊れている」と述べて作業の困難さを訴え、他メンバーの記憶だと「上の階で別のバンドが練習していると、その音が漏れてきたりする」「スタジオの配線が可笑しい」「ニーヴのコンソールのフェーダーが逆さまになっていた」*13といった散々な環境だった*14らしく、早々にNigelが使用したことのある別の普通に洗練されたより高価なスタジオに移って作業が続けられました。

 それでもこのスタジオでのレコーディングは結構行われていたらしく、今回のデラックスエディションにはこのセッションでの音源が複数収録されています。それらに共通する特徴としては初見時に「えっ…なんなんこの散漫な演奏?」と思ってしまう感じ。あくまで様々なトリートメントを経ることのなかったラフミックスでしかないにしても、完成版の洗練された佇まいとは大きく水を開けたどこかもっさりした完成度で、ある意味ローファイではあるけども、逆に彼らがこれまでやってきた「ローファイさ」というのは案外ある程度シュッとした焦点を結んだ作品群だったんだな、ということが逆説的に分かるものとなっています。

 まあでも、S・Mによるこれまでとテイストの異なる楽曲、全く初対面のNigelが初参加した現場、おそらくガイドボーカルに終始した歌唱、そして上記のひどいスタジオ模様を思うと、むしろこのボーナストラック群もかなり健闘している方に聞こえなくもありません。特にこの段階でも十分素晴らしい『Spit on a Stranger』はちょっとした発見でした*15

 それにしても、録音スタジオ単位で音源がポシャる、というのがますます『Let It Be』じみてます*16。なお、Echo Canyon自体はその後、2001年の911のテロによって大きな被害を受け、その後しばらくした後に閉鎖されています*17

 

 

時代の感じ:楽しいインディーロック“黄昏”の1999年

 他方で、Pavementが『Terror Twilight』という非ローファイで哀愁に満ちたアルバムを出した1999年のうちに解散してしまったことは、まるで別の何かを表象しているかのように見えるのも興味深いところです。それは一言で言えば、1980年代末頃から盛況になり、1990年代に様々に展開されつつも段々とメジャーフィールドに取り込まれつつあったオルタナティブロック”という語に表されるような「自由で無茶にやるのが楽しい」インディーロックの雰囲気の終焉、ということでしょうか。

 海の向こうのイギリスにおいても気楽なムーブメントだったブリットポップが1997年頃から下火になり、奇しくもNigel Godrichの代表作のひとつ『OK Computer』に代表されるようなシリアスな雰囲気に取って変わられていくところですが、同じことがUSインディの地平でも起こっていたように見ることができます。

 たとえばBuilt To Spillについては圧倒的代表作にして、USインディーの中でも代表作と言えるであろう名作『Keep It Like a Secret』をリリースし、後々まで続く大絶賛を受けましたが、それまでの録音メンバーに縛られない自由な作風から離れ、ひとつのインディーバンドとしてこの後のキャリアをそれまでよりも泥臭く歩んでいくこととなりました。

 The Flaming Lipsについても、代表作『The Soft Bulletin』をリリースし華々しい成功を収めますが、それはそれまでのローファイギターロックとは明らかに一線を画すファンタジックさに満ちたサウンドで、確信に満ちながらもその代わり「何かを一旦切り捨てた」フォルムをしています。

 Pavementと並んでローファイの代表選手であったSebadohに至っては、この年にセルフタイトルのアルバムをリリースした後、活動を休止してしまいます。中心人物のLou Barlowがより自由な活動スタイルのFolk Implosionへの活動に集中するためとはいえ、Pavementが解散したのと近いタイミングで、というのはとても印象的に映ってしまいます。

 一方で、海の向こうの英国で「ブリットポップは死んだ」と宣言した当の本人であるところのBlurは、Radioheadみたいな実験的な作風に行こうとしてなのか、様々な演奏を録音したものをプロデューサーが再構成してバンドに提示し、どうにか曲や作品にする、という挑戦的なプロセスを経て、明快なバンドサウンド解体に伴う様々な曖昧さに満ちたアルバム『13』をリリースしました。これもまた、屈託の少ないポップソングをただ作ってるわけにはいかなくなった状況の、その煮詰まった感じが良くも悪くもよく出たアルバムだと言えるのかもしれません*18

 一方で、元よりシリアスなスロウコアをやっていたLowはSteve Albiniを迎えての傑作『Secret Name』をリリースし、またBonnie "Prince" Billyが乾いたカントリーロックの名作『I See a Darkness』をリリースするなど、この年のUSインディー界隈はやはり、シリアスなトーンの作品が目立ってる印象があります*19

 なんとなくこうやって代表作を挙げただけでも、Pavementが『Slanted and Enchanted』でその華々しいゴミっぽさでシーンに一石を投じた1992年とは状況が様変わりしていたことがなんとなく感じられる気がします。何よりも、あの気楽なUSインディーの象徴だったであろうPavementが本作のようなシリアスで混沌とした作品を出して解散してしまった、というのが、1999年の中の何かを雄弁に語ってしまっているように思えてしまいます。『Terror Twilight』というタイトルもまた、偶然にしてはえらくドンピシャなワードで、やっぱりこの盤は様々な因果に塗れてしまっている気がします。

 

 

ここまでの参考文書

 すでにここまでで1万字をゆうに超えておりいい加減長くなりすぎたので、この辺で前書きを終わります。以下に、この記事を書くのに参考にした文章群を幾つか載せておきます。

 まず、リアタイ盤の日本語ライナーノーツと、今回のデラックスエディションのライナーノーツは、日本語で読める資料として分かりやすいです。

 そして、上記の混乱に満ちた制作秘話について、各メンバーのコメントを纏めて事細かに書いてあるのが以下のPitchforkの記事です。頑張ってGoogle翻訳に掛けて読みました。

pitchfork.com

 また、今回のデラックスエディション発売を受けて様々な場所で記事が書かれていますが、その中の以下の記事は色々と参考になりました。1999年まとめみたいな項目はこの記事の受け売りですね…。

mikiki.tokyo.jp

 

 あとは、2017年にもなって本作への放言を易々と吐いてみせるS・Mの以下の発言記事がある意味重要です。どうして貴方はこの作品に対していつもそんな辛辣なの…。「You're a bitter stranger」という歌詞フレーズを地で行かないでくれ…

pitchfork.com

 

 

本編①:Nigel Godrich Sequenceでの全曲レビュー

 ようやく始まるこの記事の本編前半。まずは今回のデラックスエディション発売によって明かされた、サブスクも現状この曲順となっている「Nigel Godrich考案の初期曲順」に沿って全曲を見ていきます。書いていて、これまで長らく聴いてきた『Terror Twilight』と全然印象が違うのでいちいち驚きながら、まるで最近出た新譜みたいな感じを極力前に出して書いていきます。なお、正規リリースされた曲目には無い短いインスト曲が1曲入って、全12曲となっています。

 

 

1. Platform Blues(4:42)

 いかにもNigel作品的なエフェクトと4カウントから始まるのは、れまでの彼らにまるで見当たらないようなうらぶれたコード感で歌の所在も曖昧なパートと、鮮烈なギターのリフがハープと共に突き抜けていくインスト中心のパートとを交互に繰り返す、彼ららしからぬ攻撃性をはっきり持った楽曲。こんな殺気立ったPavementが過去にまるで無かったわけじゃないけど*20、それをアルバム冒頭に持ってくるところに、本作の異常事態っぷりが窺える。

 明らかにこの曲の冒頭の、まるで酩酊しているかのような歌のパートは、その直後から始まる殺気立った演奏のエッジを際立たせるために存在する。そしてこのパート間の切り替わり方の鮮やかさはまさに、Radioheadなんかとも共通する「オルタナ世代のプログレ」の感覚を思わせる。即ち、切替による激烈さの追求。ギターの音のザクザクとしたソリッドさに、このバンドこんなギターも弾けたのか、と驚かされる。そもそもPavementプログレだなんて。インストパートのハープはRadioheadJonny Greenwoodが担当。そんなに演奏し慣れた楽器でもないだろうに、ギターリフとユニゾンしたり上手く離れたりといった巧みなプレイを見せるのは流石*21

 最初の狂騒インストパートがブレイクしてからの歌パートも、最初は怪しくも不穏なギターフレーズをバックに歌われ、そこからリズムが入るとまた獰猛な躍動感を見せ、どんどん勢いがぶっ壊れていく。明確に吐き捨てるようなシャウトを見せ、ヤケのようなファルセットまで見せる様は勢いに満ちて、その背後ではひたすら凶暴な唸りとうねりを見せるギターが炸裂し続ける。お聴きのアルバムは間違いなくPavementですそのはずです…。

 それでも、最後のどんどん音程を上り詰めた後は急にメジャー調の、マヌケで気の抜けた感じになるのは流石Pavement。ギリギリのところで彼ららしい愛嬌をスッと出してくる。そこからゆっくりグダグダになって終わった…かと思ったらまた狂騒パートが始まって、そして突然叩きつけるように終わる。この辺の構造に『Paranoid Android』に近いものが感じられるし、もしかしたらそう思ってNigelもこの曲を先頭に持ってこようとしたのかも。

 

俺ならこの外観に座り込んでもいいだろう

神は人間が乗り越えるべくして山々を創造した

俺ならこの外観を登り詰めてもいいだろう

皆が俺と 俺の素晴らしき旗を見つめる

 

最も歌のテンションが爆発する箇所の歌詞はこうで、S・Mは基本は人を食ったような歌詞ばかり書いてきた人間なので、どこまで内容を真剣に考えるか難しいところだけど、まるでどこか自身を自惚れキャラにしつつも、自身のここまでの功績を誇り、その後出てきた雨後の筍のようなフォロワーを揶揄し唾棄する意図にも見えるように思える。

 

 

2. The Hexx(5:37)

 不穏な楽曲を冒頭から連発させる曲順に、Nigelの思惑が躍動している。淡々と暗黒の中を浮遊するかのような、虚無的で退廃的な曲調と演奏が連なり、かと思うと、段々と演奏が熱を帯びて、気付くと漆黒のギターリフが轟き渡るようになる、このバンドの歴史でかつてないほどのダークサイドを形成する楽曲

 いきなり単調で不穏なアルペジオと歌から始まるのが恐ろしい。まるでPavementが2000年以降のRadioheadになってしまったかのような、3rd以降のSDREになってしまったかのような、そんな不条理気味で神経質なマイナーコードの感覚が静かに広がっていく。ギターには十分なエコーが掛けられ、段々下降していく高音の煌めきが謎のエフェクトとともに邪悪な雰囲気を充満させる。

 展開部で少しだけコード感が明るくなるところも、明快な明るさはしっかりと隠されて、そして冒頭のアルペジオをもっとギターリフに発展させた間奏へと発散する。このギターリフの思い切りの良さがまたどこか、Radiohead的な1990年代の感覚を覚えさせるが、それを炸裂させすぎずに気怠いままに不穏を振り回していく様に独特の情緒があって、それは案外オールドロック的なギターソロから始まる長い後奏の、しかしやがて1990年代後半的な混沌とした音像に包まれていく展開によって完成させられる。実に2分間も延々と歌も無しに発展していく演奏の数々は、『Brighten the Corners』以降のライブ活動でこの曲を鍛えてきたバンド側とNigel側とが怪しく折り合った場面であり、特にNigelはこの曲を大いに気に入っており、自分が仕上げた中で最も誇りを持てる曲のひとつとさえ言っている

 この邪悪にとぐろを巻く楽曲をNigelは強力な楽曲だと確信し、冒頭からの流れで本作を「Pavementが凶悪でアグレッシブな演奏を振り回すアルバム」として完成させようとしていたことが窺える。この後も、ギターが強烈に響く場面のある楽曲がA面を占めていくからだ。それはScott Kannbergの曲順と目指すところが全く異なる、まるで本作をPavementにとっての『OK Computer』にしようとする、バンドの歴史に対して冒涜的で、しかしだからこそスリリングにも思える試みだった。

 そして預言者じみたような、超然として絶望的な運命を突きつけてくる歌詞。歌詞の中の、自由の名の下に駐車場で暴れ倒してた連中を断罪するかのような節で、それはややもすればかつての自分たちを断罪する言葉のようにさえも感じられる

 

でも ぼくはお前達が駐車場でよろめいてるのを見た

お前達が駐車場に集まってるのを見た

安らぎを求め集まり バンパーに蹴りを入れる

ああ 余裕などどこにも無い

お前達は恋のフリーウェイで立ち尽くす

合図だ お前達は貧民墓地に埋められる運命だった

(呪いの言葉)

 

 上でも少し書いたとおり、この曲のみ『Brighten the Corners』製作時から存在し、その時点でアルバム収録のための録音も検討されていた。結果そうはならず、ライブで演奏され続けた末にこうしてNigelプロデュースの混沌とした音像に昇華された。ただ、本作より後のライブではよりメインのギターリフがもっとファズめいた強烈な響き方をするので、そちらもとても格好いい。Nigelももっとここのリフをミックス等で強調しても良かったのでは。

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 『Brighten the Corners』のデラックスエディションや1997年の公演を記録したライブ盤『Live Europaturnén MCMXCVII』にはこの曲の前身『And Then』というタイトルで収録されている。特にライブ盤の方は、ギターがひたすらハードエッジに響き倒しMalkmusの歌もキレッキレなテイクで、非常に格好いい。スタジオ音源のような内に潜る怪しさは無いけれど、こちらのエネルギーの混線が爆発したようなアレンジも素晴らしい。やっぱりスタジオ版はもう少し間奏のギターの音量を上げても良かったのでは…。

 

 

3. You Are a Light(3:55)

 本作のメロウサイドに列されるであろうメロウなメロディと音響感覚を持ちつつも、中盤以降には怪しげに音響的に混線した展開と、ハードエッジなギターリフのうねりも見せる、今作のハードさとメロウさの両面を1曲に込められた楽曲。この曲も本作のプログレ的側面を大いに体現していて、いくら多少前半の歌がポップとはいえ、Nigelの狙う「激しく破壊的なPavement」のアプローチが続いていることは後半のアバンギャルドな展開を聴けば察せられる。

 もはや本作の刻印めいて登場するNigel謹製と思われる冒頭のノイズに導かれて、やはりいきなり歌がギターとともに現れる。この前半部で聴かせるメロディは、前作で度々挑戦してきたメロウなミドルテンポのアプローチがぬかりなく展開される。メロウになりすぎる前に短いブレイクでちょっととぼけて見せて、そこからのやはりとぼけた風なメロディ展開が突如ロマンチックで優しげなフックにさらりと回収される様は見事で、この展開は2回だけ繰り返されるけど、普通ならこの部分だけで1曲完成させて、地味だけど心地よい良曲、として提示しても良かったはずだ。このメロウな方向におけるNigelのロマンチックな味付けの手際も素晴らしく、そりゃ『Let Down』とか『No Surprises』とかを作ってきた人だもんな、と思わされる。

 だけどこの曲は「地味だけど良い曲」で収まろうとしない。ファズの効いたギターソロからスッとブレイクして、ダブ的なためを効かせた後に始まるのは、ディレイを効かせたギターが様々に不思議なアプローチをして、まるで宇宙の中をコミカルに転げ回るようなセクション*22。ふざけたようなカッティングと妙にメロウなエコー掛かったラインとを交互に繰り返しつつ、シュールな間奏を経て、この曲の最終局面に辿り着く。

 最後に現れるのは、実にPavement的な挑発的なメロディの繰り返しを、次第にブチブチのギターを響かせて、拍子ごとハードに破綻させていく展開。序盤のメロウさはいつの間にかまるでたち消えて、ここの冗談めいた中から出てきた破壊的なサウンドと意志に思いっきり振り回される。それでも、その爆発が終わった後の、次第にエモさがフェードアウトしていく展開には本作的な宇宙を無力なまま漂うようなメロウさが戻ってきて、実にNigel Godrich作品だと思わされる。

 「君は光」なんていう急にどうしたんだ…と思うようなタイトルだけど、そんなタイトルからすぐに想起されるようなストレートな歌詞内容じゃないことは、この楽曲が他ならぬPavementの、しかも本作の楽曲であることから保証される。

 

全ての信用の真っ只中でこんがらがった

お前がそこに小便をかけたからな

頭脳ファイルのテクノロジーが駆動していく

お前の付点を見せてみろよ

「世界はマニアと離婚と代替変化で出来てる」

などと言ったのはどこのどの野郎だ

ぼくらのパチンコ鉄砲に死を付与して

プロパンガスを飲み込もう

 

貴方は光 いつの日かの平穏

貴方は光 いつの日かの平穏

 

本当に、ややこしい悪意とニヒリズムに満ちてる。剣呑な嫌味の連打と急な平穏への希求。お前は何がしたいんだ。もうそれもよくわかんない感覚が実に今作的。

 

 

4. Cream of Gold(3:48)

 やはり攻撃的なギターのうねりが発せられる曲が続く。這い回るようなメインのギターリフが擦れた攻撃性を思わせ、メジャー調的な明るさが全然出てこないままヘヴィに進行していく様にPavement流のNeil young解釈を思わせる楽曲。こういう曲の並びで聴くとこの曲のヘヴィさの意味合いもまた変わってくるな…と思わされる。

 やはりNigel印な星が飛んでいくようなノイズの後、マイナーコード感に溢れた、引きずるように躍動するギターリフが聞こえてくる。この楽曲はまさにこのリフを軸に構成され、サビのメロディも基本このリフと同機して歌われる。このリフを中心に、ブリッジ的に構成された荒涼とした音風景の中をS・M節で割と飄々と歌い抜けるセクションから、歌ごとリフの重力に取り込まれたようなセクションに移行し、そしてその重力によって遠心分離されたようなメロディがリフの消えた後に寂しく舞い落ちるのを、この曲は繰り返す。

 特にシャウトから始まるギターソロの、段々とリフが激烈なものに切り替わっていく様には、RadioheadやSDREにも連なるような壮絶さがあって、そのまま最後の残響が果てるに任せるかのようなところまで至る辺り、本作はまるでS・Mのギタープレイに主軸を置いた作品のように聴こえてくる。彼も実は、Jonny Greenwood等と全然肩を並べられるほどの激烈さを持ったギタープレイヤーだったんだと実感できる。特にこの曲順なら尚更だろうか。

 歌詞冒頭の、比喩が多くて誤魔化されそうだけども何か不全な状況を描写しているところに、バンド内の関係性の悪化の感じが読み取れそうになる。特に「どうしてぼくをこんな遠くに置き去りにした?」と訴えかける部分は、比喩を挟むのも忘れた具合に強く希求してくる。

 

「運命」なんてお終いだ ぼくの膝はピンで留められた

ぼくらの死んだ情事を横切る きみの描き出す冷淡さ

触れ合った瞬間に毒気を感じてしまった

きみは毒気に縫い合わされ ぼくはヴェーダ*23に呪われた

 

時間は一方通行で ぼくは戻りやしない

ベージュの中で夢見る

どうしてぼくをこんな遠くに置き去りにした?

時間は爛れて きみは汚染される 勝利 歌 代用品

ベージュの中で夢見る

どうしてぼくをこんな遠くに置き去りにした?

 

 前曲とこの曲は、完成版でもNigel版でも曲順に変化がなかった。でも、前後に置かれる楽曲が違うだけでかなり印象は変わってくる。Nigel版だと、冒頭からここまでずっと、1曲の間ずっと気の休まるような場面はなく、ずっと何かしらの激情が吹き荒れ続けてる。それはやはり、Pavementのキャラクターを思うと異常事態だけど、でもNigelにはそんなことお構いなしだったんだろう。そしてそれは、そんなことお構いなしにしてしまいたくなるのは幾らか分かるような激しさを確かに持っている。

 

 

5. Ann Don't Cry(4:09)

 この曲順となったデラックスエディションLPだとここまでがA面となる。そのA面最後に置かれた曲がこの、メロウなメロディを紡ぎながらも、どこか疲れ果てたようなサビのメロディに収束してしまう、どことなく彼らなりのうらぶれたブルーズを感じさせる楽曲なのは、前曲まで吹き荒れていた激情の落ち着く先がこの倦怠感だという、なんとも救いようのない流れを作り出したかったからか。

 最早やっぱり…としか思えないエフェクトに導かれて、どこか疲れ切ったように歌われるメロディとギターの感じは可憐でありつつ、頼りなさげに煌めきを無限の闇に垂れ流すかのように鳴る。

 そしてタイトルコールで歌われるサビの、完全に疲れ切って諦めてしまったかのような、ブルージーなコード感の反復が何とも言えない。演奏もNigel的な不思議サウンドも纏いつつ、実にやるせなくも果てしのないような、不安定で憂鬱なまま宇宙を浮かんでるかのような、絶妙なアレンジになっている。ギターの煌めきは何の前向きさも激しさも産まないまま、無為に反復し続ける。S・Mの歌の、テンションの低いまま呟くように歌う様もまたあてがないまま、何か拭い難い病みを抱えたまま歩むようないでたちをする。

 この曲の、行き詰まった風なだらしなさが最後、妙に洒落たコードで終わるところが好きだ。上品な救えなさがある。ヨーロッパ的退廃感というか。

 この曲はNigel合流前のセッションで、本作向けに提示された楽曲群の演奏に手こずる他メンバーを見かねてS・Mが「ほら、すごく簡単な曲を書いたよ、みんなで演奏できるだろ」と言って提示した曲らしい。あまりに性格の悪い当て付けっぷりに、当時の彼の余裕のない状況が見て取れる。そしてそれはおそらく歌詞にも、やむを得ず少し漏れ出してきている。

 

損傷が発生した ぼくはもう楽しめないよ

きみがやる 試す 得るその限りのことをしなさい

皆に光明が見えてきた頃に 要求ラインを設定するよ

素敵な病棟でね

 

歌い出しのこのラインは正直、上記のバンドに皮肉を叩きつけた状況そのままの内容すぎるんじゃないだろうか。かなり剥き出しになってしまうくらい、当時の彼の苛立ちは大きく、どうしようもなかったのかもしれない。「ぼくはもう楽しめないよ」となってしまった後に無理矢理バンドを続けていくことも、とても困難なことだったんだろう。

 

 

6. Billie

 LPならここからB面。これまでアルバムにあんまり無かった明確なメジャー調がこの曲から出始めるのは偶然じゃないだろう。ポップなメロディを持った明るいフォーキーな曲かと思ったら、サビで訳の分からないQueenめいた仰々しい謎コーラスに発展する、どこかポップさに対する悪意が忍び込んでるように思える楽曲。絶対もっとまともにポップな曲にできただろうに、どうしてこうしてしまった…従来的なPavement的屈折を派手にやって見せたような塩梅か。

 冒頭からカラッとしたアコギとエレキのコードカッティングの響きが爽やかで、鼻歌調のS・Mのボーカルも軽やか。その後のメロディも彼流に捻れながらも軽やかにポップを駆け上がっていく…のに、どうしてバンドサウンドが入ってから、変な転調をした上で訳の分からない合唱とふざけた絶叫に発展してしまうのか。よく聴くと、コーラスワークの声は変なスタジオ処理で機械的に潰されていて、どこかロボットめいた声になっている。その中を突然真面目さを無視して吹っ切れたようにファニーに絶叫するS・Mも意味が分からない。それまでのまともに王道にポップなコード進行の楽曲をぶっ壊すことしか考えてなかったんじゃないか、むしろこの「ぶっ壊し感」のためだけにこの曲を書いたんじゃないか、とさえ思う。

 歌詞はかなり皮肉があちこちウロウロして逆に何を皮肉りたいのか分からなくなってる感じのS・M論法を感じる。けど、2回目のVerseのこの部分は何だか、エロい感じとエロい感じに疲れた感じなんだろうか。

 

オランデーソースをおっ被ろう

美味しさに心酔するのを感じよう

きみが焦らすほど 欲求は強くなるって分かろう

恍惚と果実は長ったらしい

子供は1人まで お金が入った?やれるもんならやってみな

ぼくは人生最良の年に疲れてしまった

 

ぼくは人生最良の年に疲れてしまった」って何事だよ。

 

 

7. Folk Jam(3:35)

 タイトルから何となく理解できるとおり、バンジョーも含むフォーク・カントリーなジャムの体でなかなかにユニークな混沌の音像を飄々と作り出していく、曲調の切り替わり方も小気味よくて楽しげな感じの楽曲。インスト部分の重要性はA面の楽曲群と同じくらい高いけどこの曲をこの位置に避けてきたことに、NigelがどれくらいA面を徹底的にソリッドで攻撃的なものにしようとしたかが窺われる。

 従来のPavement的な自由さがこの曲では活き活きと展開され、様々な細かい楽曲展開がありつつも、大味でアメリカンなドローン合奏の挿入や、どこかシャッフルめいたスウィング感を感じさせるリズム運びが、ひたすら気楽な楽しさを放ち続けてくる。サビ的な箇所での細かいブレイクもどこか彼ららしいやんちゃさがあって、どことなく可愛らしささえ感じさせる。バンジョーがそれっぽくポコポコと跳ね回るのも可笑しくて楽しい。

 楽曲の終盤ではどこかドリーミーな風に演奏が展開し、まるでどこかサーカスめいたような雰囲気さえ感じる。そこから最後、元の演奏に戻って段々混沌としつつも、結局は間抜けなオチみたいなものを付けて終わるところも、実にユーモラス。そりゃこんなにピースフルな演奏の曲、Nigel仕様のA面に入り込む余地は無いな…とこの曲順では逆に思い知らされる。

 歌詞も楽しく書き散らした風ではある。だけど、最後のアナウンス的に入ってくる箇所の歌詞は、アルバム前半によくあったバンド間の不仲を思わせる内容とは真逆の、やはり楽曲と同じくどこか楽しげなフレーズになっている気がする。

 

それにつけても ここにいれるのは嬉しいよ

道のりが高じればお客さんも増えていく

鏡からのメッセージはこうだ「ずっと一緒だよ」

だって ぼくがいなくなればその反射物は見えないだろ

今日もやりましょうぜ

 

この曲が2曲目にあるかこの位置にあるかは、思った以上に作品の印象に与える影響が大きいかもしれない。

 

 

8. Major Leagues(3:25)

 Pavementでも屈指のソフトでメロウな魅力に満ち溢れた、甘くとろけるような演奏と歌唱だけで綴られて誂えられた名曲。なのに、この曲順では後半のどうでもいいところに次曲とともに見事に埋もれている。あまりの扱いの悪さ・適当さに笑ってしまったけど、その制作背景を知ると、何となく納得できてしまう。

 それにしても、この曲順だと本当に唐突に、とっておきのメロウさが現れる形になっていて、不思議と魅力が削がれて聞こえるから不思議だ。この曲と次の曲は圧倒的に正規版の曲順の方が輝いているので、楽曲を詳しく見ることは正規版の全曲レビューで行うこととします。

 それにしても、この曲に対する生みの親S・Mのコメントは中々に冷たい。曰く、

 

 正直なところ、僕らはこの曲を大衆向けの、殆どキャッチーさに塗れた曲みたいなポップソングに仕立て上げてみよう、という挑戦に費やしちゃったんだ(笑)

 

可哀想な『Major Leagues』。こんなにいい曲なのに…。こんなに理想的な「ロックバンドの作るドリームポップ」してるのに…。

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9. Carrot Rope(3:50)

 前曲と引き続き、最も普段のPavement的な朗らかなポップさと剽軽さを持ち、その中にひっそり宿したちょっとした寂しさをも有したこの名曲もまた、中途半端な位置に胡乱に置かれたがために見事にその魅力が埋もれまくっている。この曲の少しリリカルに跳ね回るようなポップさもまた、この位置で聴くとかなり意味不明で、曲順によってこんなに印象が変わるものか…というのをとりわけ悪い意味で感じさせられる。

 詳しく見ていくことはやはり正規版の方で行うとして、ここではこの素晴らしい2曲がどうしてこんな酷い扱いを受けているかについて少し記述。率直にその理由と思われるものを書くと、この2曲がレーベルからヒットシングルを求められたのを受けて、メンバーが全員揃わない中で突貫で録音され、制作に関わったメンバーさえ、皮肉な思いを抱いていたり、そもそも演奏に参加したか覚えていなかったりする有様だからだ

 そもそもこの2曲は、バンドがNYで一通りの録音を終えて、残るダビング作業や歌入れ・ミックスのために海の向こうロンドンのスタジオにMalkmus、Scott、Markの3人及びNigel Godrichで入って以降にようやくベーシックトラックから録音が始まった、という事情があるらしい。つまり5人いるメンバーの、残り二人は制作に殆ど関わっていない。この二人はこの2曲の完成形を、ミックスダウンやマスター作業が終わった後のサンプル盤で初めて聴いたという。

 逆に、そんな突貫作業でこの名曲2つが産まれたのか…という驚愕もある。バンドのドラムが海の向こうにいて参加できないから、High-LamasのDominic Mercottが2曲のドラムを担当した。ちなみに、Nigelのコメント*24にもあるように、いくらレーベルの求めで突貫で作ったとは言え手を抜いていた訳はなく、むしろこの時のプロダクションがこの上なく素晴らしかったであろうことは、他ならぬこの2曲が大変に充実したトラックであることで裏付けられる

 Nigelのコメントだと、この2曲をアルバムのどこに置くかでかなり苦労をしたらしく、結果的にはこれはScott Kannbergの曲順が上手くハマったんだろうと思うけど、しかし『Platform Blues』から始まり『Spit on a Stranger』で終わる曲順に拘ったNigelとしては、苦し紛れ気味に後半に2曲並べることとなってしまった、というのが、結果的にこの2曲がこの曲順で酷く扱われているように見えることの真実のようだ。おそらくはレーベルからヒット曲の要請が来るより前までは、彼が思い浮かべていた本作にはこんなに真逆なソフトなポップソング群が入ることなんてなかったんだろうな。でも、この2曲があまりに良すぎて、収録しない訳にはいかなくなって、全力で困り果てている、そんな哀愁の姿がこの曲順では垣間見えてこなくもない。

 

 

10. Shagbag(1:09)

 今回のNigel Godrichの曲順の中に突如現れた未発表曲。おそらくは、S・MやBobがスタジオでシンセを触って出していた音を集めて、ちょっとした不思議インストの形に纏め上げたもの。これ、作曲者はどうなるんだ…?

 いかにも1990年代中盤以降の作品にありそうな、スタジオ録音物の残り物をいじくり回してでっち上げた感じのトラック。ただ、そういうものって案外楽しかったりするので、この曲もまた、中々悪くない橋渡しになっている。終盤の一部のサウンドは正規版でも『You Are a Light』終盤に使用されたりしている。まさかこのパートがアルバム1回の中で2回流れてくるとは…。

 

 

11. Speak, See, Remember(4:20)

 Pavement的なおちゃらけをダラダラと披露していく楽曲、と思ったら終盤に突如ギアが入り、ギターをギャンギャンに効かせたハードな演奏で盛大にぶっ壊れてみせる楽曲。これをラスト前に置くセンスは好き。でもこの曲から『The Hexx』に繋がる病んだ展開も捨てがたい…。ボートラのデモの名前から、元々はこの曲が『Terror twilight』というタイトルだったことが明確になった。まさかこれがタイトルトラック候補だったとは。

 ブルージーなアコギに導かれてのシャッフルビートの合奏が始まり、どこかのうらぶれたバーのような感覚の演奏にはダラっとした気楽さがあり、S・Mの楽曲も妙な部分で素っ頓狂な展開をして見せて、この曲が間違いなくPavementのものであることを明らかにしていく。この辺のメロディと展開のさせ方は彼の独壇場だろう。ある程度ジャジーで洒落た演奏でもあるはずなのに、全然そんな感じを思わせないフリーダムさが楽しい。

 しかし、アルバムタイトルを怪しく呟いた後の展開で、リズムはストレートな8ビートに転換、同じメロディを繰り返してみせるも、せり上がってきた激しく歪んだギターのサウンドが噴き出し、イントロからは想像もつかないような激しくブッ壊れた演奏を見せ、オルタナティブロック的であることをここぞとばかりに爆発させる。その後はまるでその爆発で壊れてしまったかのようにメインテーマと同じリフが鳴り、そしてバタンと鳴り止んでしまう。

 歌詞はかなりとっ散らかっていて訳が分からない感じがするけども、しかしサビ的な箇所においては、神の無力さをあげつらっていて、アメリカでそんなことを歌にして大丈夫…?と勝手に心配になっている。もう20年以上も昔の歌に今更に。

 

話して 知って 思い出して

グッダグダの12月にて貴方が犯した罪を

バターに血が混じって 休日にキッチンはお休み

俺が何を言わんとしてるか分かってるんだろう

俺のとこに来てから 話すべきことは山ほどあるさ

なあ パパ

 

魚や生き物、空気の中を探べくウロウロしてろ

神は貴方を愛される けど奴に何ができるよ

ああ 奴に何が 何が 何が 何が 何が 何ができるっての

 

 

12. Spit on a Stranger(3:04)

 満を辞して登場する、Pavement史上最も慈愛とドラマチックさに満ちたメロディとサウンドを有し、また「他者への加害性」への悲しみと慈しみをシンプルに突き詰めて歌にした、バンドでも有数の大名曲。このアルバムの他のシングル2曲と違って、この曲だけはちゃんとメンバー5人で制作され、そしてそのメンバー5人で録音した本作の楽曲の中では最も曇りなくポップソングであり、また慈愛に満ちているためなのか、何故かは今ひとつ不明だけどともかくS・M自身がこの曲をとてもよく気に入っている節がある

 ドラムがドタドタいってすぐにNigel的な宇宙的静寂にたどり着くイントロ段階で既にとても印象的だけど、そこから聞こえてくるギターの澄み切ったトーンのアルペジオがとても優しく美しい。空中にまろやかなラインを描いていくベースの動きもとても良く、そんなに音数が多い訳じゃないイントロだけど、とても印象的な宙ぶらりん感がある。ギターのエコー具合とエフェクトの絡ませ方は、これもまたNigel Godrich制作だと雄弁に語っている。

 歌が始まって以降も、どこか神妙な風に"however"とか"whatever"とかいった単語から始まるフレーズを次々に投げかけていく。いつの間にかゆったりしたドラムが入った後、少しばかり不安になるようなコード感の中を転げまわり、出口で眩いメロディに昇華されていく展開を繰り返す。特にその最も発展した箇所における、冴えないコーラスワークに囲まれたその歌のあり方は、彼らの楽曲でも最も神聖さを感じさせる。この辺の、どこからがサビなのかも判然としないけれど、でも間違いなく美しい印象を与えるメロディの運び方は、まさにリズムと不可分のメロディという感じがして、ここにS・Mは誇りを覚えているのかも。

 とりわけ良いのは、こんな美しいメロディ展開をたった2回であっさりと終わらせてしまうこと。2回目は様々なロスタイムが付くけれど、それでもあっという間に過ぎ去ってしまい、最後のファンタジーじみたフレーズでサラッと終わってしまう。そのどこかイノセントな寂しさの具合が、この曲に果てなくエヴァーグリーンな何かを与えているんだと思う。フェードアウトじゃなくて、あっさり終わってしまうからこその奥行きを。

 歌詞についてはもう、冒頭の"ever"を連発する段階からして、何か様々な留保を経ても失われない何かを見出そうとするその純度の高さを思わせる。これはもしかして、彼が捻くれたまま書けるギリギリの、そして最大のラブソングなんだろうか。折角名曲なので全部翻訳してみよう。

 

貴方がどう感じていても それがどう理解されても

それが真実であろうとも 何が待ち受けていようとも

貴方が何を望んでいても どれほど僅かなことであっても

それが真実であろうとも それが正しいのだとしても

 

ぼくは貴方が言ったことをずっと真剣に考え続けるよ

辛辣な他者みたいに

そしてぼくは理解した 要するに 全てを総合するに

ぼくは他人に唾を吐ける人間だった (つまみ出してくれ)

貴方が辛辣なる他者だったんだ(つまみ出してくれ)

 

貴方がどう感じていても それがどう理解されても

それが真実であろうとも 何がぼくを待ち受けていようとも

貴方が何を望んでいても どれほど僅かなことであっても

それにどう導かれようとも それが正しいのだとしても

 

愛する人 ぼくが景品で貴方がクレーンキャッチャーだ

だからぼくら 完全に符合する 辛辣な二人の他者みたいに

そしてぼくは理解している 要するに そしてずっと

ぼくは他人に唾を吐ける人間だった (つまみ出してくれ)

貴方が辛辣なる他者だったんだ(つまみ出してくれ)

他人に唾を吐ける人間だったんだ (つまみ出してくれ)

貴方こそ辛辣なる他者だったんだ(つまみ出してくれ)

 

貴方の眼に陽の光が差し込むのが見える

貴方が絶対しないことをやってみせよう

貴方を見捨てられる人になろう

 

"貴方"に”辛辣なる他者”の役割をやってもらおうとする辺りが、客観的であろうとしすぎておかしくなった人みたいで可笑しくもあり、でも確かにそうあって欲しいよな、と思うところでもあり。そして貴方を見捨てられる人になろう」というラインは、「見捨てる」ことができるくらいの関係性が無いとできないことだから…そう考えると、これは裏返すととても甘い、愛の言葉になってしまう気がするな*25

 これが最後に来てアルバムが終わる、というのは正規版の曲順に慣れてると不思議で仕方ないけど、でもこの歌でアルバムを締めたくなる気持ちもとてもよく分かる。

 S・Mのお気に入り中のお気に入りであり、前述のとおり、ベスト盤に本作から唯一収録されたり、近年のソロ来日公演で唯一Pavementの楽曲から演奏されたりと、色々とトピックに事欠かない楽曲。もしかしたら作者的には『There She Goes』とか『ロビンソン』とか、そういうポジションの曲なのかも。

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本編①の総評

 という訳で、Nigel版の曲順を見てきました。

 彼はこれらの楽曲でストーナーロック的アルバムを作ろうとしていた、とS・Mは話していて、S・Mもその方向性に同意しており、あちこちのコメントを見ていると正規版の曲順にはかなりの不満があるように思えます。

 それにしても、正規版の主に中盤〜後半の楽曲を前半に集中させて並べると、こうも攻撃的でダークなアルバムに様変わりするものかと驚かされます。『OK Computer』的なアプローチでPavementの作品を作ろうとするならば、A面の曲の並べ方は確かに最良と言えるもので、正直これまでのPavementの雰囲気は無視し過ぎですが、代わりにここまでエッジの効いた音楽をPavementはやっていたのか、という“発見”を、この曲順によってすることとなりました。

 ただ、その完璧にソリッドで攻撃的なA面の構築のために、B面については結構グダグダになってしまってるかな…という印象も受けました。頑張ってヒステリックな楽曲を前半に集め、後半はその残り、という印象が抜けません。如何せんこのバンドの前作は『The Bends』ではなく『Brighten the Corners』なので、急に『OK Computer』的な楽曲を10曲も集めるのは無理というもので、どうしても従来の延長にあるポップでジャンクな楽曲も出てきます。そして致命的なのは、レーベルの要求に応じてポップな『Major Leagues』『Carrot Rope』の2曲が追加で出来てしまったこと。Nigelの考えるテーマのアルバムだと、制作終盤に半ば想定外に生まれたこの2曲、特に『Carrot Rope』はアルバム中のどこにもしっくりくる置き場が存在しないはずで、なのでいかに敏腕な彼とはいえ、想定外のポップな楽曲の登場に、あんな埋もれさせるような置き方しかできなかったのではないかと思います。

 しかし、NigelとおそらくS・Mも志向していたであろう、ハードエッジなギターが飛び交いまくるような「ストーナーロックのPavement」がもっと実現していたら、一体どんな感じだったのかは興味が湧きます。それくらい、本作でS・Mが演奏するギターは激烈なものがあります。そのことを明確に印象付けてくれたことは、この曲順を知ることができた最大の収穫だったように思いました。

 

 

本編②:正規リリース曲順での全曲レビュー

 ここからは、ここまで見てきたNigel Godrichの曲順ではなく、1999年の6月に正規リリースされた曲順、Scott Kannbergが考え、筆者もよく慣れ親しんだ曲順での全曲レビューを試みます。既に順番が違うとはいえ全曲上記内容でレビュー済みですが、しかし曲順が違うとここまで見える風景が違うんだな…と驚きつつ、慣れ親しんでいたはずなのに別の曲順の提示によって妙に新鮮に感じられるようになったこちらの曲目の並び方から見えてくるものを捉えられたらと願っています。

 なお、ボーナストラックに収録された別テイク等の関係もこちらで取り扱います。

 

 

1. Spit on a Stranger(3:04)

 …ということで、割とこの文章の近くで既にレビューを書いた曲。楽曲自体で書くべき内容は特に無いけど、でもこの「ドタドタ」の後に急に静かになるイントロでアルバムが始まる方にはるかに慣れてるな、とも思う。この曲で始まることで、このアルバムはこれはこれで、Pavement史上最もメロウで感傷的な始まり方をすることとなる。それはある意味では「実はRadioheadやSDREにも匹敵するソリッドなオルタナティブロックを演奏している」という本作の側面をある程度オミットする*26ことにもなるけど、でも、代わりにシングル3曲がよく効いて、”最後のアルバム”として最も感傷的になれるのは、間違いなくこの曲が先頭で、最後が『…and Carrot Rope』の曲順だと思う。

 どちらにせよ、本作はドリームポップとストーナーロックが入り混じった作品で、どっちの曲順にしてもどこかに中途半端が発生する作品だったんだろう。

 ちなみにこの曲もまたデラックスエディションには複数のトラックが収録されている。まずS・Mの気色悪いシンセも入ったホームデモに、そして上述した「ギターポップバージョン」と言いたくなるなかなかの出来なEcho Canyonバージョン。

 

 

2. Folk Jam(3:34)

 前曲に加えて、バンドのジャム能力を明るい方に纏め上げたこの曲が2曲目に来ることで、本作がストーナーアルバムとして成立することはまずなくなった。代わりに、まだ幾らか"普段のPavement"した雰囲気、もしくは"普段のPavement"がNigelの力を得てよりファンタジックにはっちゃけた感じがこの曲順では強調されて、この曲の玩具箱めいた雰囲気はNigel版の曲順よりもずっと溌剌とした形で記録されている気がする。というか、この曲順だとここまで2曲が明るい曲で来ているから、A面の間中ずっと暗いNigelの曲順とは全然印象が違ってくる。「少しでも従来どおりの”楽しい”Pavementを強調したかった」というのがScott Kannbergの考えなのかもしれなくて、それは保守的かもしれないけど、でもそのことを否定したい訳でもない。彼が言うとおり、確かにこれは曲順を決めるのが難しいアルバムだったかもしれない。

 デラックスエディションのボートラとして、この曲のサビの細かいブレイク部のリフをメモったかのようなS・Mのデモと、ギターフレーズだけのデモと、Echo Canyonでの既にベーシックの演奏はかなり完成している風な録音、そしてスタジオ音源以上にギターがギャリギャリと鳴り響くライブ音源が収録されている。どれも楽しげな表情は変わらない。

 

 

3. You Are a Light(3:54)

 Nigel版と同じ3曲目に配置されている。しかし既に『Platform Blues』『The Hexx』と2曲続けてバンドの暴走的炸裂を見せた上で前半メロウなこの曲が始まるのと、割とメロウでノスタルジックで楽しげな『Spit on a Stranger』『Folk Jam』からこの曲の後半のヘヴィな展開が聞こえてくるのとでは全然状況が違う。前者では「やっとホッとするポップなメロディが聴けた…と思ったらやっぱり重たいギターが聴こえてきた!」になるのに対し、後者は「また1曲目みたいなメロウな曲が始まった…と思ったらいつの間にかなんかメタクソな演奏を叩きつけてる…!」となるだろうか。でも、メロウもストーナーも兼ね備えたこの曲だからこそ、どっちの曲順でも同じ場所にいられるんだな、とも思った。

 今回のデラックスエディションによって、何故か最も沢山のバージョンがリリースされたのがこの曲。S・Mのシュールなシンセ実験めいたホームデモに始まり、8分弱の形で収録された「Nigel Godrich参加前」セッションでの、完成版よりもスロウで、途中から延々とグダグダのジャムになるバージョン*27、Echo Canyonでのテイク*28に、そしてライブ演奏まで付いて、制作過程〜ライブでの姿までの一連を観察することができる。

 

 

4. Cream of Gold(3:47)

 前曲がどっちのバージョンでも同じ場所だったために、この曲も前曲の後ろ、という同じ位置をキープしたままとなった。前曲終盤のヘヴィさを引き継ぎ、思いの外リフの強い重めの曲を配置する、というのはNigelにとってもScottにとっても最適解だったんだろう。それでも、Scottの曲順は重いパートのある曲が続くのが2曲で済み、そして何より、次に眩い名曲が満を辞して待ち構える形になっている。本作関係者で『Spit〜』以外のシングル2曲を一番愛してるのはもしかしてScott Kannbergなのでは、と思ってしまうような曲順。

 この曲もボートラにS・Mもホームデモが入っている。この段階で既にヘヴィなギターが収録されていて、その辺のコンセプトは初めっから一貫していたらしい。そして、何故かタイトルが『Jesus in Harlem』に替えられた上でEcho Canyonセッションについても収録されている。流石にタイトルがまずいと思って戻したのか。演奏はNigelのトリートメントを除けば意外と完成している。なのにどこか散漫な印象を抱いてしまうのは、やはり本作を「Nigelのトリートメントが済んだ完成品」としてずっと聴いてきたからか。

 

 

5. Major Leagues(3:24)

 改めて、5分の3のPavementがとっさに産み出した、フォーキーなバンドサウンドに優しくもポップなメロディが乗り、Nigelの空間的・宇宙的トリートメントも絶妙に効いた、理想的な「ロックバンドの作るドリームポップ」。この曲と『Carrot Rope』をNYで録音していなかったのは、やはり最初はNigelの思い描くストーナーアルバムを作るつもりだったからなのかもしれない。けどそんな事情に関係無く、この曲と『Carrot Rope』が良すぎたばっかりに、歴史は変わってしまった。この曲は断然この曲順のこの位置の方が輝いてる。Scott Kannberg様様。

 イントロで鳴らし始められるギターストロークの柔らかさ。そして、『Spit〜』以上に幻想めいた陶酔的な煌めきを持ったギタートーンがどこまでも美しい。大概エコーをかけられて原音が分からなくなったピアノか何かが右チャンネルで鳴るのもまた、不思議に霊的な感じがしてメロウで美しい。途中から現れるスライドギターのアレンジもまた、『Screamadelica』期のPrimal Screamのギターみたいに魅力的にだらしなく甘い。

 そして、元のメロディからあっさりとタイトルコールのサビに移行するS・Mのソングライティングは、どれだけ本人がそれを嫌っていようと、冴えに冴えている。サビでの、まるで鈴のように鳴るadd9コードを活用したギターアルペジオが、このシンプルなようで蠱惑的なフレーズに神聖な浮遊感をさえ与えている。メジャーリーグが勃興する」という意味不明なはずのフレーズが、まるでこの世で一番甘美なものにさえ聴こえてくることのシュールさは、どこまで行ってもPavementなんだと思わされる

 間奏の、一気にぶわっと粉が舞い飛ぶようなディレイの効かせ方もとても印象的で、具体的ではないにしろどこまでもノスタルジックな、夢の向こう側みたいなイメージを抱かせる様はもう完全にドリームポップだ。そして、この甘く睡い空間にずっと身を浸していたいのに、それを目覚ましのように、最後のサビの後のチープな演奏が聴こえてきて、この曲が終わることの寂しさを感じさせる。その寂しさですら、この曲はずっと甘い。もしかしたら、ここまで正面切ってスウィートな曲を作ってしまったことをS・Mはずっとシャイっているのかもしれない。

 どうしてもこの時期の歌詞には当時のS・Mのバンド内での苦難が滲み出てしまう箇所が散見されるけれど、日本人であっても容易に聞き取れるこの曲の「relationships」のくだりもその関係のように読める。

 

泥水ってるリップクリーム 人間関係 ヘイヘイヘイ

きみの岩みたいなキスでも どうあれぼくには必要で

最前列を確保しよう

奴らが敗北(くたば)っても ぼくのせいにしてくれるなよ

 

でもこれだけ読むと、「岩みたいなキス」のバンドでもまだ必要って言ってるようにも取れる。『Ann Don't Cry』冒頭の殆どバンドを侮辱するような言い回しとはかなり趣が異なる。次のAメロの箇所もまた、バンドの関係性を思うと何となく浮かんでしまう光景がある。

 

あいつにどう歩き方を教えてあげるのさ

法則に関する歌を仕上げられもしないあれに

それは文明化されたやつか それとも悪魔信仰か

ぼくの内壁を満たしたまえよ

そして奴らが敗北(くたば)るなら 分かるだろう

ぼくを置き去りにしないでおくれ

 

サビ後のタグ的な箇所の歌詞は、単語はどこか可愛らしいけれど、キリスト教的なレトリックとともに、やはりどこかに「打ち負かされる」という表現が入り込んでくる。「負けること」の象徴が「Major Leagues」という語なんだろうか。なんか騙くらかされてる気もするけども。

 

奴らはいつかきみを打ち負かしてしまうだろう

ワインみたいな子たち

クリスチャンの魔法使いが外皮を噛む

だって悪い少女はいつだって悪い少女だろ

彼の者らを招き入れよう

 

それにしても、こういったセンテンスに挟まれる「Bring on the major leagues」をどう取るかで幾らでも意味が変わってくる歌だ。

 この曲のデモバージョンは実はリアルタイムでリリースされていて、アルバムリリース後に出たシングルの『Spit on a Stranger』にカップリングとして収録された。シンセが歌メロの部分をなぞるようにファニーに鳴って、でもメロディ自体はこの時点で完成している。その制作工程や制作状況ゆえか、他のアウトテイクは今回収録されていない。

 

 

Ex. Harness Your Hopes

 シングル『Spit on a Stranger』の話をしたので、そこに同じく収録されていて、おそらくは前作のデラックスエディション収録済みのため今回収録が見送られた『Harness Your Hopes』についても少し。Spotifyの自動再生の仕様のバグか何かでやたらこの曲の再生回数が伸びて、遂にPavementでダントツで再生された楽曲になった、という謎のエピソードを持つこの曲は、実に通常営業なガチャガチャしたバンドサウンドとシュールな歌い回し、歯切れ良く剽軽なメロディ回し、哀愁よりもファニーさを重視した曲構成などが重なった良曲で、普通に当時から「隠れた名曲」として知られていたらしい。テンポ良く「何言ってんだお前」って感じのことを飄々と歌っていく様は実にPavement

 

望みは誰かにハーネスしなさい

ハーネスは一人用のものだろ

パスワード漏らすなよ 糖蜜になるぜ

シロップ糖蜜でマヒるぜ

魅力的な尻穴と資産を総て確認 深みに嵌ってら

レーションを振っとく時さ 誰かがなんとかするさ

向き直り10から参照

 

 しかしまさか2022年にもなってこの曲のPVが今更作られようとは。しかもこれはあくまでシングル『Spi on a Stranger』の再発を受けての制作ということで、別に『Terror Twilight』のデラックスエディションには全然関係無いんだから驚く。一生懸命今回のデラックスエディション28曲のリストに名前があるか探してしまった。

www.youtube.comしかも何故か歴代PV映像を貼り合わせたメモリアルな仕様。

 

  

6. Platform Blues(4:42)

 Nigelの考えではアルバムの先頭に置かれるべきだったこの曲は、正規版ではアルバムの後半戦を告げるような位置に置かれた。確かにそういえば本作の後半に暗い感じの印象を覚えていたけど、そりゃまあ幾らか順番入れ替えたところで、暗いものは暗いわな、とNigelの曲順を知った今となっては改めて思う。「謎に獰猛な演奏だな」って思ってた演奏が、むしろ当初はアルバムの目的だったなんて

 ボートラに収められたEcho Canyonのこの曲のタイトルは『Ground Beefheart』で、なるほどCaptain Beefheart的なイメージが本作には混じっていたのか、と、複雑なジャム調の曲調が本作にいくつか存在していることに少し合点がいく。このEcho Canyonの演奏でこの曲の展開はしっかり確定していることが確認される。完成版の方が流石にエッジが効いてる。ライブテイクも収録され、こちらはまさに「僕がJonny Greenwoodみたいに上手にハープを吹ける訳ないだろ」と逆ギレしたBobの超絶簡略化されたハーモニカが聴ける。それは笑えるけど、ギターはむしろスタジオ録音よりもハードでフリーキーでとても格好いい。

 

 

7. Ann Don't Cry(4:09)

 本作の正規版でグダグダさを感じさせるとすれば、それはこの曲から9曲目までの3曲の流れか。この曲の持つブルージーなダルさは、まさにアルバム中盤以降に時に否応なしに生じる“中弛み”という現象をそのまま体現しているような感じがして、そのダルさのあり方が好きだった。まさか元々はハードでダークな流れを受け止める役割の楽曲だったとは。Nigel版のこの曲の位置を『Major Leagues』と入れ替えるのは女々しいか。

 上記のとおり、新曲群の演奏に苦戦していたメンバーにS・Mが嘲るように書き下ろした曲であって、実際そのセッションのうちに簡単に演奏できたらしいのでその録音が残っているはずだけど今回のデラックスエディションには収録されていない。代わりにEcho Canyonでの録音が収録されている。これも単体で聴くとそこまで緩慢な演奏って訳でもないな…どうして上の方で書いた「散漫な演奏」って印象が付いたんだろうか。この曲はむしろグダグダな方が映える部分があるので、この全体的にエコー処理が少なめでドライなテイクも悪くないかも。アウトロのグダグダさも、この曲は別にこれもアリかも、と思える懐の深さがある。

 

 

8. Billie(3:44)

 前曲の気だるさの後に「おっまたポップな曲が来た!」と思わせといて、サビの謎コーラスで「は…?」ってなる、という緩急の付け方に慣れすぎてるので、やはりこの位置だなあと、それがいいか悪いかとは関係なしに思ってしまう。サビのガッカリコーラスで「やっぱり中弛みかよぉ!」と引き戻されるのが『Terror Twilight』後半の隠れた醍醐味のひとつ。Nigel版のB面先頭はちょっと意味が分からない。これこそその位置は『Major Leagues』にくれてやれば良かったのでは。

 アコギとエレキで構成されたS・Mのホームデモがボートラにあり、なんと初めからダブルトラック*29のボーカルになっていて、そのままサビの“合唱”をプロットしている。やっぱ元からこのサビなのか。

 

 

9. Speak, See, Remember(4:19)

 小洒落たかったるいシャッフルのリズムでグダグダとふざけた歌い回しで進行するこの曲中盤までが中弛みゾーン。しかし途中から演奏がシュッとした8ビートになり、そしてやがてギターがすげえトーンで爆発するに至り、アルバム終盤の緊張感がしっかり準備されていくのを感じてた。混沌とした『The Hexx』に至る偉大なる前フリ。でもこの曲はNigel版でも最後の方か。

 ボートラに収録された別テイク2曲は両方ともタイトルが『Terror Twilight』で、この曲がアルバムタイトル曲になったかもしれないことを伺わせる。ホームデモの段階から、この曲のどこか猥雑にグチャグチャした感覚から8ビートに変化するところまで固められていて、この展開の変化はやはり当初から想定内だったと分かる。そして、まさに正規版の録音となったRPMスタジオでの録音が何故かボートラに収録されている。最初の方の歌い方でちょっとだけElvis Presleyみたいなのを試していたり、かと思えばハードエッジなギターが最初の方から暴発気味だったりと、制作過程が伺える資料となっている。爆発展開は終盤だけに絞ったんだなあ。

 

 

10. The Hexx(5:39)

 ラスト前に鎮座する本作最大の混沌、いやPavement全史でも最も混沌とした、不穏さや邪悪さや虚無さに満ちた恐ろしい楽曲、というのがこの曲の正規版の立ち位置か。まさかNigelが本作でこの曲に一番入れ込んでいて、これを2曲目なんていうトチ狂った曲順を考えていたなんて全然知らなかったので、間違いなく今回の別曲順で一番ビックリした。そういえばこのプロデューサー『Paranoid Android』を2曲目にしたっていう偉大なる“前科”があるんだった。それにしても“Godrich”ってすごい苗字だなあ。

 この曲順だと、ここでアルバムの底のような暗黒が広がるからこそ、次の最終曲のとぼけきった“いつもの感じ”がますます尊くて美しいもののように感じられるんだよな。Nigelの意図はそれなりに分かったけど、でもやっぱり正規版のこの終盤2曲の並びは素晴らしいと言わざるを得ない。結果的にそうなっただけとはいえ、ここまでPavementのラストに相応しい2曲の並び方も無いと思うもの。そんなことをScott Kannbergがどこまで見通していたかは知らないけども。

 上述のとおり、すでに『Brighten the Corners』やライブ盤で別テイクが収録済みであり、今回のボートラには別のライブ音源が収録された。シンセや怪しいピアノ等のSEもどうにかして鳴らされており(同機?)音源を少しでも再現しようという姿勢を感じさせるが、それ以上にやはりスタジオ版よりもハードエッジなギターが全部を持っていく格好良さ。やっぱりスタジオ版はもっとギターの音量を上げたり歪みを大きくしたりすべきだったのでは…。でもNigel的にはあの音源が一番大成功って話らしいんだよなあ。

 

 

11. …and Carrot Rope(3:52)

 やはりこの曲は、暗くてやや長いトンネル然とした前曲の後に、その残響を少し引き継いで最終曲として登場するのがとても様になる。"いつもの"Pavementの中の純粋な悪ガキっぽさを蒸留して作り上げたかのような、剽軽に飛び跳ねるかのようなすっとぼけたリズムワークでもってポップにキャッチーにメロディを転がしては、少しメロウな緩急と、最後の最後に精一杯元気を出してみた、みたいなサビとが、楽しいのに意味不明にやたらと寂しさを煽ってくる、Pavementの最後の曲としてあまりに相応しすぎる名曲。そりゃこんなハッピーでプリティーでちょっと寂しげな曲、Nigelの構想するストーナーアルバムには居場所なんてある訳ないよ。この曲が出来てしまったことで、Scott Kannbergの曲順じゃないといけない理由ができてしまったように思える

 愛嬌たっぷりのイントロのもっさりしたリズム。ちょっとハネているのはサビの伏線で、かつ実にユルい、以前のライドシンバル連打の8ビートの彼らよりも更にユルい空気感が立ち上ってくる。そして見事にマヌケで決定的なワウギターの飛び跳ねる様。楽曲に対して的確すぎるアレンジ。

 そして、ここでまさかのメンバーそれぞれが歌をリレーしていく歌構成*30。もちろんメインはS・Mだけども。でもお前ら、こんな大団円めいた楽曲をアルバムラスト用と思わずに作っとったんか。結果的にラストになった側面がない訳じゃ無いにしろ、しかしながらメンバーそれぞれが「これが最後になりそう」という雰囲気も感じつつ録音に臨んでいたらしいので、こんな歌の収録の仕方までして、これがラスト曲になるに決まってるだろ!という感じもするし、そしてこれをラストの曲にした瞬間に、Nigelの構想するストーナーアルバムの案は崩壊しちゃうよなあ、とも思う。『OK Computer』にメンバーが歌い継ぐピースフルな曲を入れる余地なんてあるか?という話

 ゆったりした雰囲気の同じコードでもメロディは展開し、そしてある地点でバンドがコロコロとロールして、ブレイクして次の展開に向かってしまう。『Spit on a〜』や『Major〜』と異なり、この曲は音もかなりドライでクッキリしてるし、曲展開の変わり方もカチッとしてる。そのコミカルさがまた、この曲だけにしか宿らないタイプの哀愁に繋がっている。一旦ギャグみたいに沈静化し、そこから浮かび上がって見せるのを繰り返すバンドサウンド、そしてその出口が、シャッフルのリズムで子供っぽくはしゃぎ回るような爽快なサビのメロディなんだから、どうしたってこの曲はストーナーになり得ないし、もっと言えば、この曲は全くNigel Godrich的じゃない。そんな曲を前に彼は苦労したかもしれない。ただ、こんなに極端に跳ね回るPavementの曲も他にないので、実はそんなにPavement的でもないのかもしれない。

 いやでも、サビの最後でバーン!と声を朗らかに張り上げて、なんか格好良さげにキメるS・Mのボーカルの堂々としたマヌケ具合は「これこそPavement」という実感に満ちている。全然バンドメンバーに制作が共有されてかった曲、レーベルにシングル向きの曲を要求されて苦し紛れに出した曲とは思えないくらいに、どこをどう切ってもPavement的な愛らしさが湧き出してくる。

 そして、そんなキメの後もダラダラと楽しげな演奏が続いていき、そしてそれが次第にフェードアウトしてしまうに至って、この曲はあまりに「楽しかったPavementの退場」として完璧すぎる曲になってしまった。本当に様々な意味で「待ってくれ、行かないでくれ」って思えてしまう。彼らの解散には上述したとおり、インディロック界隈の潮流の変化の象徴とも捉えられてしまうものであり、それをこの曲で飾ってしまうのは、あまりに出来過ぎなことだと思う。Scott Kannberg自身が、この曲がこの位置にあることであまりに多くのものを象徴しすぎてしまったことに一番驚いてるのかもしれない*31

 歌詞の方は、これもある程度突貫だったのか、メロディと韻に任せて、意味をあまり気にせず自在に言葉を並べてる印象。その乱雑さがまた、かつての自由なPavementの感じを余計に想起させるのかもしれない。っていうか歌詞に「harness your hope」がまた出てくるくらいには余裕がなかったのかもしれない。

 

人民に向けお前の望みをハーネスしなさい

お酒やロープもくっ付けて

赤い赤いロープ、潜望鏡

奴らはお前が必要とする全てを持ってるぜ

椅子の下に仕舞い込んでね

 

にんじんロープ ぼくのスリルを養う

お天気に負けちゃったぜ

にんじんロープ ぼくのスリルを養う

お天気に負けちゃったぜ

にんじんロープ ぼくのスリルを養う

地上から離れる時が来た

クリケットのキーパーが倒れる

あいつがぼくを地上から離してくれるぜ

 

www.youtube.comこのすごい楽しそうなPVも末期状態のメンバーで集まって撮ったのかと思うと…。

 

 デラックスエディションにはこの曲のホームデモが収録されている。シンセでずっとフワフワした感じに作られていて、サビの箇所だけボーカルが入る。もしかしてこの状態から多少バンドで試した上でNYでは一切触れず、ロンドンで大体のアレンジを作ったんだろうか。普通にすごすぎるやろ。

 ちなみにタイトル冒頭に付く「…and」の部分は、アルバムの宣伝か内部資料か何かの印刷に収録曲を書く際の、様々な曲を列挙して「そして『Carrot Rope』」みたいに表現していたものを誰かが間違えて曲名に加えてしまったものらしい。当時のアルバム裏ジャケにも思いっきり「11. …AND CARROT ROPE」と記載されてしまっているので、たとえ間違いであろうとそれが流通してしまったらそれもまた“正解”だという、あまりにPavement的なトラブルの結果らしい。こんなところまでPavementしてるのかこの曲は。本当に、様々な因果と偶然が重なりに重なった、奇跡の1曲だと思う。

 

 

 

本編②の総評

 身も蓋もないけど、聴き慣れてるからやっぱこっちの曲順の方が落ち着きますね。

 真面目に考えると、『Spit on a Stranger』『Major Leagues』『Carrot Rope』の3曲を活かすにはこの曲順こそ、という感じがします。『Carrot rope』なんてそもそもサウンド的にも浮いてることだし、このトラックができてしまった瞬間から、これをアルバムに入れるなら最後に置くしか方法がなかったような気がします。そしてこの3曲の存在感が十分に発揮されたことで、元々NigelやS・Mが意図していたストーナーロックではなく、むしろ逆の、ファンタジックでポップなアルバム、という印象を強めてしまったというのは、皮肉としか言いようがありません。

 で、ファンタジックでポップなアルバム、としても、ハードエッジな楽曲は結局そのまま、位置を変えて収録されているので、そのポップさというのもどこか中途半端なものになってしまうことを運命づけられています。特に『Speak, See, Remember』終盤から『The Hexx』にかけての流れは十分にヘヴィで、本作を「ポップなもの」と思って手に取った人はまごつく展開ではあると思います。

 とはいえ、やはり返す返すも、『Carrot Rope』の位置が良すぎて、それだけで本作はとても感動的で感傷的なレコードになってしまいます。昔筆者がアマゾンのレビューでこのアルバムについて書いた時も、そんなことを書いていた気がします。こんな甘く楽しい感傷をS・Mがいかに望んでいなかったとはいえ、でも曲を書いて録音して歌ったのはお前だろ、という話。ファンの方で勝手に楽しめばそれでいいんだと思います。

 

www.amazon.co.jp

 

 

EX. Be The Hook(2:46)

www.youtube.com

 折角なので、最後に今回のデラックスエディションで発表された「未発表曲」についても触れておきます。延々とストーンズ的ギターリフを繰り返し振り回して楽曲にして行こうとする、その強引さがなかなかにロックンロール的な楽曲となっています。なんでもNigelが言うには「2度繰り返し挑戦することもなかった」、ドラムのSteve West曰く「完全に忘れてた!テープが残ってるなんて。『単純すぎてどうしようもない』と思って、それで先に進まなくなったんだったと思う。でも今は朝からこの曲を練習したい気持ちだ」とのこと。

 ギターリフはその後S・Mの最初のソロアルバムに収録の『The Hook』に流用された。こちらはもう少し落ち着いたテンポで、ゆったりとメロディを駆け上がっていく楽曲に変貌していて、ずっと洗練されている。これはソロに残して正解だったんだろう。でも、再結成のお祭りには、この何が何だかわからないまま突き進んでいく感じが案外グイグイきて楽しそうな感じもする。

 

 

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終わりに

 以上、全12曲45分17秒、もしくは全11曲44分8秒の作品でした。

 同じアルバムを二つの曲順で見ていくなんて初めてやったので、意味あるんだろうか…こんなんでいいんだろうか…と思いましたが、書いていくと中々意味のない事でもなかったかなと胸を撫で下ろしたい思いがします。

 今回分かったのは、本作はハードエッジにもポップにも中途半端な作品なんだな、ということです。Nigelの曲順のB面のグダグダ具合は半端ないし、とはいえ正規版の方もエッジの効いた楽曲の魅力は確かにかなり削がれているように思えます。むしろ今回エッジの効いた楽曲を前半に集中させたNigel曲順によって、逆に「この時期のこのバンド、こんなに尖った音をしてたのか…」と気付かされた次第でもあります。

 このアルバムの「なんか話を聞いてると、関わった人間誰も幸せになってないんじゃないか」具合はまさにPavementの『Let It Be』という立ち位置が相応しすぎて、もう笑えてしまうくらいのものです。どこまでが偶然でどこからが必然か分かりませんが、その笑いの先には、バンド運営の難しさや、それを乗り越えようと禁じてさえ使って足掻いた人たちの姿があって、そのストーリーだけでもそれこそ『Let it Be』みたいに映画にできそうだな、とも思いました。いつか「散々なレコーディングエピソードのアルバム」みたいな記事を書く時が来たら、このアルバムも間違いなく入れるでしょう。少々申し訳ないけども。

 でも、この中途半端で、関わった人を色々と不幸せにして、でも間違いなく楽曲もアレンジも素晴らしいこのアルバムの魅力は、今回の二つの曲順によって間違いなく深まりました。本当によく、こんな作品を最後に作ってくれた、と感謝したい気持ちばかりが結局は最後に募るばかりです。時に世紀末の凄惨さを体現したかのように凶暴に振る舞い、だけどふと優しいメロディを紡ぐとどこまでも甘い、そんな二面性がどこまでも極端に封入されたこの作品は、バンドに残っていた可能性をギリギリまで抽出し可能な限り華美に彩った、そんな「らしくない」けど実に素晴らしいレコードなんだと思います。必死なのはかっこ悪くない、むしろその逆。

 あとは、ついに日本での公演も決定した彼らのライブが観れればな、と、そして本作のハードエッジな楽曲もポップな楽曲も、そこで観れたらなと願ったところで、この記事を締めたいと思います。読んでいただいた方はありがとうございました。

 それではまた。

 

*1:The Beatlesの『Let It Be』もまた、メンバーの不仲や制作の不調、プロデュースの混乱、リリースまでの混沌とした経緯など、録音エピソードに事欠かない劇的に凄惨なラストアルバムだ。

*2:これは今回のボーナストラックではっきり分かったことでもある。

*3:実際はS・Mが相当な部分で音頭を取っていたと思われるし、『Brighten the Corners』には準プロデューサー的な存在がすでにいるけども。

*4:それはもしかしたら「メンバーそれぞれが離れた場所で暮らしている」という特殊な人間関係も関係するのかもしれません。まあ、近くに住んでいるから全てを共有し合える、なんてことも無いし、バンドの人間関係ってとても難しいものだとも思います。

*5:以下で個別の項目として触れるとおり、Malkmus自身はこのことについて本当に「止むに止まれぬ」という思いがあるらしく、相当の不満を抱えている模様。

*6:後述しますが、S・MはむしろNigelのコンセプトや曲順を重視していたらしく、正規リリース版の曲順に悪態をつく場面が多々観られます。

*7:Record Store Day限定のLPバージョンのベスト盤には2曲収録。

*8:Twitter上で「その作品を作るために文字通りNYの友人の家の床で寝たりしたのに…」とリプライを送って、焦って弁解のリプライを入れるS・Mに対して「じゃあ『記事のヘッドラインがおかしいよ』って言ってくれる…?」って懇願するNigelがなんとも不憫で可笑しい。

*9:でもこの人、『Spit on a Stranger』だけはやたら好きなんだよな…近年の日本でソロライブした時もPavement時代の曲で唯一これを弾き語りで演奏してたりする。単純に自信作だったのかな。

*10:結局どうにか自分主体で纏め上げて、『Your Time to Change』『Stub Your Toe』の2曲がシングルB面に収録された。『Date with〜』級の名曲かというと…だけど、従来のPavementに連なるいい具合にチャチいインディーロックとしての魅力を確かに持ってる。

*11:よりにもよって本作でも目立ってポップな『Major League』と『Carrot Rope』の2曲。ただこれは、制作自体が終盤のロンドンでのオーバーダブ中に、ヒットシングルを求めるレーベルの意向を受けて急遽制作が始まったため、渡英している3人(S・M、Scott、Mark)だけで制作しなければならなくなった事情がある模様。現地のドラマーということで、High Llamasのドラマー・Dominic Mercottが担当した。

*12:ただライブによっては、バンド内が末期的な状況だったこともあり、S・Mが歌うのを放棄したりといったトラブルもあった模様。

*13:音を上げるのにフェーダーを下げないといけない、等。むしろそんなセッティングできるんだ…って思った。

*14:逆にこんな混沌としたスタジオで平然とバンドを運用してたであろうSonic Youthがなんなんだ…。音響的に優れた『Murray Street』『Sonic Nurse』もこのスタジオで平然と録音されている。フェーダーが逆とか下手したら理解した上でそれ自体を楽しんでやってた疑いがある。根っこから何なんだこの人たち。Jim O'rourkeもそんな卓を使ってミックスしてたのか…?

*15:Nigel的な装飾が薄い分、「ギターポップバージョン」と呼びたくなるようなギターアルペジオの素朴な煌めき具合がとてもよく目立っている。イントロのギターの響きはまるでThe Byrdsみたい。

*16:最終的に『Let It Be』に至る「ゲットバックセッション」の始まりとなったトゥイッケナムでの録音も、その環境の悪さなどからメンバーの仲違いを起こし、そこでの録音物はほぼオミットされた。

*17:『Murray Street』というSonic Youthの作品名が示す場所で、タワー崩壊の際の激しい砂埃がモロに届くくらいの距離だったとか。

*18:「何がしたいのか自分たちでも最早よく分からないから、何かいい感じのものをでっち上げてくれよ…」というバンドのだらしなくも切羽詰まった情緒を感じさせます。そんなグダグダの中で最終曲が『No Distance Left to Run』というのが局地的にとてもエモい。

*19:まあ、一方でWilcoはキャリアでも随一のポップさを誇る『Summerteeth』をリリースしているし、幾らでも反証は出来る見立てだとは思いますけども。

*20:『Fight This Generation』とかも同じくらいに殺気立ってはいた。

*21:ライブではBobがハープ担当になり、こんなに上手く吹けないからか、凄く簡略化されたプレイになる。挙句、デラックスエディションのライナーノーツで逆ギレして見せたりしてる。面白い人だ。。

*22:なんとなくだけど、くるりの『惑星づくり』あたりのインスト曲でのギターの響かせ方なんかは、こういった演奏を想定したもののようにも思える。

*23:古代インドの宗教文書の総称で、バラモン教ヒンズー教聖典とされるもの。ガンダム00に出てくるのも同じ元ネタだろう。

*24:元々Pavementをもっと多くの人に聴いてもらいたいと願っていた彼が、『Major Leagues』の歌の録音に躍起になっていたことが語られている。

*25:スピッツの『8823』にある「君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ」というフレーズと似たベクトルの話かもしれない。

*26:上で述べたS・Mの「10万ドルのオーバープロデュース」発言の中で、別の箇所では正規版の曲順について「Nigelは言ってた。『うんざりだ。間違ったことをしている。折角ストーナーアルバムを作り上げたのに、それじゃあ中途半端なことになるぞ』彼は多分正しかったね」とも発言している。S・MはNigelの曲順の方を好んでいたらしい。ただ、NIgelの曲順もB面はあれはあれで中途半端な気がしなくも無いけど。

*27:この段階では最終局面の暴発的な展開はまだ見られない。

*28:ここで完成版と同じ展開に整理されている。が、終盤の展開の後に、序盤のコード進行に戻るセクションが付いてくる。これはこれで、とも思うけど、逆に完成版はこの展開をザックリ切り落としたことが窺える。

*29:にしてはラフすぎて気持ち悪い感じになっている。

*30:もちろん録音に参加できたS・M、Scott、Markの3人だけだけども。

*31:S・Mはやはりこの曲順やこの曲のポップさについてかなり冷淡なコメントを残していて、2018年のローリングストーン誌で「バンドメンバーではないがこのアルバムに大いに貢献したその男(Nigel)の思い描いた通りにならなかった。多分彼が正しかったけど、でもメンバーじゃなかったから…。何にせよ、この曲で何が起きてるかなんて知らないよ。全く馬鹿げてるね。もう殆どミュージカルの曲か何かみたいじゃないか」とコメントしている。