ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

Pavementの大阪公演ハイライト

 また大阪まで行き、今回はPavementのライブを観る事が出来ました。バンドの再結成に関する屈託めいたものを前回の記事で書きましたが、個人的にはその屈託を完全に払拭してひたすら「最高!最高!」みたいな感じにまではならなかったですが、それでも幾つも「やっぱりいいな…」とか「これはすげえ!」ってなる瞬間があって、なんだかんだで観れて良かったと思います。記憶が新しいうちにちょっとした備忘録的に書いておこうと思います。

 

 

セットリスト比較します(東京1日目 vs 2日目 vs 大阪)

 こんなことやってもあまり得をしないような気もするけどもやります。丁度、Twitterでフォローしこのブログでも良く取り上げている人が3公演の楽曲リスト一覧表を作成しており大変分かりやすいので、引用させてもらいます。

 

 

色付けまでして、本当に分かりやすい…。

 

 

大阪公演で得した部分

 この辺りがまさにハイライトだった気がするので後述します。というか、大阪公演のみの4曲のうち2曲はそもそもトラック自体がレアじゃないか。恥ずかしながら『Give It a Day』は今回のライブで初めて存在を知りました。そうか、アルバム未収録シングルは『Watery, Domestic』の他にもう1枚あったんだったか。

 正直に言えば東京2日目が羨ましい気もするけど、でも『Folk Jam』と『Give It a Day』そして『Witch Tai To』のカバーでお釣りは十分くるなあと思いました。

 

 

東京1日目のみの曲で観たかった曲

 『In the Mouth a Desert』や『Fight This Generation』という、彼らの楽曲でも割と殺気走った楽曲がこの日の売りかなと思いました。

 

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大いにローファイな最初のアルバムからこの曲みたいなヒリヒリする哀愁が入り込んでるんだよな実は。

 

 

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ドロドロとして呪いじみた楽曲で、これがローファイ極めた3rdに入っている辺りにしたたかさと、そして水面下に隠し続けてきた狂気じみたものを感じさせる。

 

 

東京2日目のみの曲で観たかった曲

 というか「この日限定」曲では東京2日目が最も多いです。ただ、全部の曲数は3回で一番少ないのか。上手いこと調整してあるなと。

 『Frontwards』に『Silence Kid』に『Fillmore Jive』に『Date w/ Ikea』に『Fin』にと、この日だけの楽曲リストには正直羨ましいものがたくさん並んでます。また、最初期の楽曲のコンピレーションアルバム『Westing』からの選曲が多いのもこの日の特徴で、ローファイさの密度で言えば3回の中で一番高いリストかも。

 というか、2ndと4thの強力アルバム最終曲両方ともぶち込んでくるのはずるい。そしておそらくScott Kannberg曲で最も愛されているであろうスカッとしたポップソング『Date w/ Ikea』。やっぱり羨ましい。

 

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イントロのThe Byrdsめいたアルペジオからして最高。この公演ではこの曲の次に『Unfair』を演奏してて、まさにこの公演に対してそういう気持ちだよ!って思ったとか思わなかったとか。

 

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これも彼らが飄々とした振る舞いで覆い隠した攻撃性が怪しく表出する瞬間を捉えた楽曲か。

 

 

東京1日目・2日目に演奏して大阪で演奏しなかった羨ましい曲

 これはまあ『Major Leagues』。ライブで音源ほどの完成度にならなさそうな感じもあるけども、でも単純に歌として良すぎる。聴きたかったなあ。

 

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本編:2023.2.18 大阪公演でのハイライト

 ハイライトなので、全曲ではないですが、個人的にテンションが上がったところを書いていきます。なお、元々チケットの番号が後ろの方であった上、途中でトイレに行ったため、かなりステージが見えづらい位置にいたことは、自分のこのライブで興奮仕切れなかった原因になっているかもな部分なので、その点は割り引いてみるべきかもしれません。

 

 

Shady Lane(From 4th Album)

 1曲目がやや地味なイントロから段々と壊れていく『Grave Architecture』だったこともあり、ここでいきなりこの名曲が来た時のパッと沸き立つ感じは鮮やかだった。まあ東京1日目は1曲目からいきなり『Grounded』、2日目はもっといきなりな『Cut Your Hair』だったけども。

 この曲、歌も演奏もそんなに破壊的でオルタナティブロック的に発展する余地がほとんど無い、実に抑制的に作られたポップソングで、ライブならではの盛り上げようなど無いかのように思ってたけど、しかしこうしてライブで聴くと意外と生々しい感じがあった。というか、この曲含む4thアルバム『Brighten teh Corners』の楽曲がこのライブではどれもとても良いもののように聴こえたのが凄く印象的だった。

 この曲の場合、優れたポップソングなんだけども、よく考えると歌のメロディや言葉の置き方はStephen Malkmus(以下「S.M.」)の独壇場で、こんな歌い方・節回しできちんとポップに聴かせるなんて普通できない。“ローファイ”などと言われているけども、彼はそもそも歌もギターもメチャクチャ上手い。歌の外し方の巧さはそれこそMick Jaggerとかその辺と並び立つくらいのものなのでは。なので、ライブでも彼が少し原曲から歌い回しやメロディのオクターブを変えるだけで、十分にライブとしての勢いやらテンポの特異さやらが際立つ。特に演奏がシンプルすぎるくらいなこの曲においてはそれだけで絶大な効果があるんだろうな。

 …まあ、なんだかんだで昔の大名曲にテンションが上がっただけかもだけども。

 

 

Embassy Row(From 4th Album)

 この曲とか加速して以降の楽曲のノリは殆どThe Rolling Stonesだな冷静に考えると。そりゃライブで盛り上がるわ。ギターリフもサビのシャウトも、グランジのように破滅的すぎることなく、パンクのように自棄っぱちすぎることもなく、ハードロックのようにマッシヴでもなく、当然ローファイでも何でもなく、それはもう“ロック”としか呼びようもない、そしてそう呼んでみて快いほどに勇敢にロックしている。たとえその格好いいサビがこんな歌詞であっても。

 

外国飼料の死の国で 外国飼料の死の国で

外国飼料の死の国で 冠を戴いてやるさ

 

曲タイトルは「大使館通り」だし、何が言いたい歌詞なのか。妙に政治めいた歌詞なような、政治周りの単語を用いて適当に言い散らしてるだけにも思えるような。

 

 

Grounded (From 3rd Album)

 3公演全てで演奏した曲はいかにもバンドの代表曲だなあって感じのものが多いけども、幾つかこれもそうなのか、って思う曲があって、これがそのひとつ。しかしそれは演奏を会場で聴いてれば、この曲のイントロの緊張感が彼らのライブにおいてどういう効果をもたらすか実際に体感して、その重要さに納得する。この曲、こんなにシリアスで格好良かったのか。3rd『Wowee Zowee』はどこか牧歌的にさえ感じれるローファイさの裏でこれとか『Fight This Generation』みたいな鋭い爪を隠しもしないまま持つ曲を幾つか収録している。

 すなわち、この曲のイントロの、神々しくも神経質に反復する2音のアルペジオの連なりだけで、ローファイ的なバカっぽくも牧歌的な雰囲気は一気に払拭され、代わりに張り詰めた空気が舞い込む。この曲のライブでの重要性はこうしてライブで見せつけられればもう明らかだ。それ以降は絶妙に歌に並行して鳴らされる、静かに噴き出すようなノイジーなギターだったり、間奏の強力なシンコペーションのリズムで鳴らされるエモーショナルなセクションだったり、ともかく、この曲のオルタナティブロックとしての真正面からの立ち方、ささくれ立った感覚は特異だ。轟音からイントロに戻った際のため息が出そうなほどの引き締まった美しさに、その後のノイジーなギターを延々と浮かべ続ける構成に、ギャグ的なところは一切ない。ひたすらに、格好いい。

 

 

Starlings of the Slipstream(From 4th Album)

 前曲からの、この豊かなブレイクセクションと、そしてその中でファルセットもシャウトも交えながら紡がれる見事な歌心。3rdや4thに共通することとして、2ndまでのいい意味で雑なギターの歪みは避けられ、よりロックの伝統に即したクランチ気味なギターサウンドでまとめられており、それはだらしなさとしてのローファイ要素を失う代わりに、曲そのものの良さを素直に強調するアレンジであるし、また間奏等で現れるディストーションなセクションを際立たせる効果も持つ。

 それにしても、返す返すもS.M.のふざけていないシャウトは実に格好いい。これがライブで見れただけでももしかしてとても良かったのかもしれないなって思うくらい。

 

 

Unfair(From 2nd Album)

 ボーカルが叫び倒すセクションが音源では普通にS.M.が歌うけども、ライブだとバンドの自由ポジションであるBob Nastanovichがボーカルを取っていた。これが実に無茶苦茶で、原曲の鋭さはどっかに行った、ただローファイとしてはただただ正しいな…と思える代物だった。思えば、彼の「別にいなくてもいいけど、何か変なものを添える」ポジションがいることが、Pavementがローファイバンドだというイメージを作る重要なパーツだったのかもしれない。なので彼は短いヘンテコなインスト曲などで特に活躍をし、そしてそういう場面が極端に減っていく4thアルバムくらいから、パーカッション的役割以外の出番も減っていく。

 彼はもしかして、バンドがローファイであることのひとつのバロメーターだったのかもしれない。そして彼が活躍すればするほど、バンドの鋭い方面の良さは薄まってしまう。このジレンマの感覚を、不覚にもライブで感じてしまった。この曲で普通にS.M.に全部歌って欲しいとか思っちゃった。でもそれをすると崩壊する何かがあるようにも思えてしまったから、バンドというのは難しいものだって気がした。

 

 

Folk Jam(From 5th Album)

 この曲が大阪公演限定の曲だったことが意外なくらいには、非常にリラックスして、なおかつ拡張性たっぷりにスペイシーに展開してみせてくれて、このバンドが体現していた“自由さ”みたいなものが、最後のアルバム5th『Terror Twilight』ではやや否定されてた感じがあれど、この曲はそんな中でも彼らの”自由さ”を愉快で宇宙的な形で展開し直したような楽曲になっている。その印象はライブで、メインのギターリフを指弾きで再現するS.M.のスタイルや、間奏部分でのリズムとギターのサウンドの差し引き具合、ギターのエフェクトのより大袈裟な感じ、6人目の演奏陣として入ったキーボードの巧みな演出により、よりその自由度を拡張している。流石に終盤のナレーションみたいなセクションは音源みたいな演出にはならないけど、でもここの歌詞、再結成バンドがステージで演奏して歌っていることを考えると、とてもいい歌詞だなあ。拙訳を再掲。

 

 

それにつけても ここにいれるのは嬉しいよ

道のりが高じればお客さんも増えていく

鏡からのメッセージはこうだ「ずっと一緒だよ」

だって ぼくがいなくなればその反射物は見えないだろ

今日もやりましょうぜ

 

ystmokzk.hatenablog.jp

 

 

Transport is Arranged(From 4th Album)

 メロトロンまで持ち出して静寂を演出してくるパートと段々コードが不機嫌になって暴発的なオルタナ展開になるところのギャップが見せ所のこの曲もまたライブではその落差がよく映えていて、まるでこの曲で必要だったからキーボードを帯同しているのでは?などとも思ってしまったり。

 というか、元々の曲調からこんな荒々しい間奏に自然にはならんやろ、という点でこの曲も幾分かプログレ的で(メロトロンだし)、より明確にプログレ的とされた5thアルバムへの布石がすでに4thアルバムの時点でなされていた、というか、こういうことをしてからの5thアルバムでよりプログレ的になるのは案外自然なことだったりしたのか。

 

 

Gold Soundz(From 2nd Album)

 いつの間にか『Cut Your Hair』や『Range Life』よりも名曲扱いになったような感じのある、しかしまるで無駄なところのない実際大名曲を、事もあろうに、S.M.、冒頭でいきなりトチりやがった。いきなり歌と演奏から入る曲だということもあり、まさにトチるならここ!とでも言わんばかりのタイミングでのこれは、むしろオーディエンスに「今からまたとんでもない名曲が始まるぞ!」っていう煽りの効果ばかりを発揮し、むしろこのミスによってより盛り上がるかのような状況。笑ってしまう。

 その上で楽曲が始まってしまうともう、ずっとものすごくキラキラしたものが、3分足らずの短い時間をサッと駆け抜けて過ぎ去っていく。イントロなしの構成・小節が終わり切らないままどんどんリフレインしていくメロディ・ブレイクとそこからの爆発を短い尺の中で的確に配置する曲展開。本当にこの曲は隙が全くなくて、正直2ndの時点でローファイなんてもう絶対にウソだろっていう完成度をしている。その完成度は、こうしてある意味ただステージ上で演奏されるだけでも、何かスリリングで楽しくて興奮しうるものがある。本当に短いけどもしっかりフックとして機能し、しかも直前に「今からサビだぜ」なんてフレーズが入るところまで含めて完璧。Pitchforkが1990年代1位に選ぶだけのことは存分にある。

 

 

Give It a Day(From EP『Pacific Trim』)

 この曲も入りをトチってた、というか他メンバーのチューニングに入り出したと思うけども、この演奏を見てる時期には知らない曲だったから「なんだこれ…?新曲…じゃないとしたら何かのB面曲だっけ?」と思ってた。でも、メロディ回しがとても良くてポップな曲なんだなと思って、終わってからこれが中々のレア曲だということを知って驚いたりした。そうか、1996年にEP出してたのか。この曲もまた実に無駄なく、ポップな歌とノイジーなギターとをコンパクトに両立させて短い尺に収めてしまった魔法みたいな楽曲。

 

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Stop Breathin'(From 2nd Album)

 大阪公演ではこの曲で本編終了した。他の日のセットリストを見るに東京1日目はなんとアンコールの最後にこの曲が来ていて、この曲がそんなに大切な曲だったのか…!と少々驚いたりもしたけど、でもライブでの演奏を思い出すとさもありなん。

 この6/8拍子の曲で大事なのは終盤の展開だったのかも。ギターの2音のアルペジオがかなり不穏なコードで鳴り始めるこのセクションを、ライブでは相当じっくりと執拗に演奏していく。この曲の大事な部分は、ここでの神経質なアルペジオの応酬がやがてバンドサウンドのバーストに切り替わり、また緊張感に満ちたアルペジオに戻る、その展開だったのか。確かにこのアルペジオの不機嫌な響きはローファイ的ではあるけども、それ以上にこれはなんかやってることがまるでSonic Youthみたいな気がしてもくる。結局Sonic Youthのライブを観ることができなかった人生なのでよく分からないが。ひたすら静寂の中神経を尖らせる不協和音的なアルペジオが鳴り響き、それがバンドの暴発的アンサンブルで慣らされたかと思ったらまたその地点に舞い戻る。このヒステリックな展開の、音色の鋭さと刺々しい不協和音によって決してロマンチックにならない、ひたすら緊張が煽られ続け、開放がお預けされていくような展開のさせ方は非常に攻撃的で、こういう静かな攻撃性ってのもまたあるよなあと、納得させられた。最後はまたドカドカって演奏になってサッと終了。

 

 

(ここからアンコール)

 曲目だけ見ても、大阪公演のアンコールは全曲ハイライトだったなあって感じで、実際にそのとおりだった。こんなに充実したアンコールも中々ない気がした。

 

 

Cut Your Hair(From 2nd Album)

 “ローファイ時代のみんなのうた”としては結局、この曲が圧倒的序列1位になるだろう。英語が苦手な日本人でも思わず合唱してしまうようなフレーズを最後のヴァースに複数潜ませ、そして何より奇妙でバカっぽいファルセットを楽曲のフックにしてしまう発想は、バンドとオーディエンスの馬鹿みたいな共犯関係を築く上で最高のエッセンスになろう。アンコール一発目でMCも煽り倒すし、素晴らしいリスタート。

 この曲が完璧の中の完璧だと感じるのは、間奏部分のブレイクからギターソロに向かう流れのドラマチックさがさりげなく盛り込まれるところ。ブレイクで焦らし煽り、そして段々と盛り上がってきたところにギターソロが炸裂し、そして歌が再開してすぐに大合唱の「No big hair!」がやってくる。ここの畳み掛けるような展開、その僅か30秒くらいの中に、ローファイというムーブメントが手にした最高にバカっぽくもエキサイティングな、青春とさえ言ってしまえそうなくらいの輝かしい瞬間がある。そりゃあ3公演とも演奏しないわけにはいかないよ。

 

 

Type Slowly(From 4th Album)

 この記事のサムネにもある公演のアーティスト写真でなぜかセンターを陣取るSteve Westだけど、その彼をS.M.が紹介し始めるMCの後、リラックスしたセッションみたいなことをなにやら言い出してからこの曲が始まって、ああ、確かにこの曲のセッションはリラックスしつつ、ひたすらに心地の良い、いい時間だった。

 この曲のメインとなるギターリフの、かなりクリーン寄りの歪み方のギターサウンドによるさざなみのようなリフの、実に穏やかで美しい様には「おいローファイどこに行ったんだよ!」という気持ちがどこかに湧きつつもそんなことお構いなしに、ずっと身を委ねていたいようなやすらぎがある。

 実はこのように穏やかで優美な曲でも、アルペジオに一部妙にディスコードなものを混入させるなどして、ローファイ風味みたいなものを隠し味的に投入することは続けられている。『Brighten the Corners』というアルバム自体がそもそも、粗くバカバカしいローファイさからもうすっかり脱して楽曲自体はNeil youngばりの哀愁さえ感じさせる威風堂々としたロックになっていく中で、どのようにギリギリでローファイを成立させるか、というところにテーマがあるのかもしれない。ポップな歌に潜む実にS.M.節な言葉のリズムの取り方や、この曲のような僅かなアルペジオの不穏さを匂わせる行為はそのような「普通のロックがどのようにオルタナ的な“歪み”を引き受けるか」という、もしかすると「大人になってしまったインディーロックがどのようにインディーロックを続けるか」みたいな、哀愁じみて感じられるかもしれないがその実真剣で胸が苦しくなるようなテーマに挑んでいたのかもしれない。

 それにしても本当に、ライブでこの1曲を抜き出して演奏されるとその優美さが本当に際立つ。『Grounded』共々、意外な形でライブ映えする楽曲だと思った。この曲も3公演とも演奏された楽曲で、それだけ聞くと意外な感じもするけど、でも彼らのレパートリーの中でも独特の地位があるなとライブで観ることで初めて感じられた。これは案外ライブを観る時の重要な楽しみのひとつかもしれない。

 

 

Stereo(From 4th Album)

 ローファイ序列2位がこの曲だとしてもいいのではないか。どうして英語が苦手な日本人でさえサビの「Oh My baby baby baby…Give me malaria hysteria」というロクでもないフレーズを合唱できてしまうのか。『Stereo』はすっかりローファイの“技巧”を極めてしまったバンドがあえて繰り出す、出鱈目さをめいいっぱいデフォルメしつつも総体として実にポップでコミカルに積み上げられた、計算尽くのナンバーだ。その計算され尽くした佇まいゆえにもっと天然めいた『Cut Your Hair』には一歩譲りつつも、しかしそれでも圧倒的に「オーディエンスと一体化できる」ローファイさに満ち溢れている。そもそもだらしない属性のはずのローファイでバンドとオーディエンスがきちっと一体化するなんておかしいじゃないか。でも、そういう逆説をものともしない、むしろ逆説があるからこそ生まれるパワーさえも、バンドはしっかりと掌握している。恐ろしいえげつないバンドだなあ。

 

 

Here(From 1st Album)

 1stアルバムの中でも最もぼんやりとしていてだからこそのロマンチックさがあったこの曲が終盤に出てきて、あっこれが最後の曲なのか?と思った。実際はもう1曲あったけども。

 おそらく、様々な部分が引き伸ばされていたと思う。楽曲のやけっぱちさと演奏のジャンクさが噛み合って絶大なインパクトを与えた最初のアルバムの中で、この曲だけはどことなく純粋に出力不足を思わせるくらい、不釣り合いに曲がメロウに完成され切っていたということなのか。なので、ここでのフレーズのくりかえし方やギターの出力などは、本来この曲が有するであろう、意識がぼやけてしまいそうなほどどこまでも平坦な地平を描き出す能力をしみじみと補強する。平坦なノリの割に、意外なほどこの曲はよく聴くと展開が多い。果てがないぼんやりとした憂鬱。ちゃんと歌詞を読めばそれはもっとうんざりするくらい果てしなく香ってくる。以下全文翻訳。

 

成功するべくいつも着飾っていた

そんなの全然きやしないのに

クソばつが悪くなるきみのジョークで

笑うやつなんてぼくくらいだろう

ああ きみのジョークはいつも酷い

 

(※)

でも それだってこれほど酷くはないさ

一緒に祈りにきなよ ぼくらは待っているだろう

すべてがここで終わる そんなここで

 

無菌の襲撃すべて きみが見捨てる空のドックを守るさ

額に雨が降る 気楽ならそんな霧どこで借りてくるやら

最後の1/4の足取りを適当に過ごしていよう

もう1回アウトレットにでも行こうか

 

持て囃されと奴隷の肖像画

股間マニアックと一夜の行為

随分酷いジョークで笑ってくれるのはそういうのだけ

いつだって酷すぎるジョークだものな

 

(※)繰り返し

 

売り払われてこれに消えてったスペイン産蝋燭すべて

連なってく山岳旅行 震え 高速道路を駆け降りてく

きっとあの娘は最後の四半期を適当に過ごしたんだろう

推察 それは我々がしうる しうる最善なんだろうな

あの時 あの時 最高の時を過ごしてたんだな

 

 

なんだろうな、これは。個人的にライブ終了後数日のうちにここまで書いてた中で仕事的な部分でうんざりするような具合に人生ごと長期的・社会的に殺してくるような何かが起こってこの記事を書き上げるのも難しくなるかもしれないくらいにうんざりしていた中で、少しだけ翻訳してたこの曲の歌詞が、妙に刺さった。Geniusを見ながら翻訳してたらこの歌詞についてえらく悲観的かつ熱く語っている人がいて、その人はそういう表現に堪能なのか人生が虚無くて辛すぎるのかなんなのか。翻訳越しに読んでるこっちが心配になっちゃった。

 クソみたいな音楽w的な感覚のところでローファイ然とした初期Pavementは受け入れられてた部分があったと思うけど、何のことはない、初めっから彼らは、なのかS.M.は、なのか知らないが、何がクソかということを確実に確信犯的に捉えていた。なんだよ初めっから早熟も良いとこの天才かよ、という気持ちと、なんで初めっからこんなに擦れすぎているんだ…という困惑の気持ちと。いちいち解説するのも馬鹿らしいくらいに、上記の歌詞は所々救われないくらい現実的に痛々しすぎる。詳しく知りたい人はGeniusを読んでくれ。S.M.そこまで考えてたかもだよ。

 こんなのべーっと平坦な噴き上がりきれないような演奏の楽曲で、こんな屈託のみで形作ったかのような歌でライブが終わるのも、徹底的にニヒリスティックであったバンドとして相応しかったと思う。でも、事実として、もう1曲演奏したんだなあ。

 

 

Witchi Tai To(Cover Song)

 セットリスト的に東京二日目が羨ましいな〜といやがおうにも思ってしまいそうな大阪の民だったが、この曲1曲で逆転サヨナラ無限ホームランしたんじゃなかろうかと思う。まさかまさかまさか。演ってるとは聞いてたけど。まさか。

 元々はネイティブアメリカンに出自を持つジャズトランペッターJim Pepperの楽曲で不思議な曲タイトルや歌詞もそういう由来。でも、この曲をまるで「昔からあるアメリカの不思議に純真で精霊で神聖な土地のうた」みたいにしたのはHarpers Bizzareのカバーだろう。短い曲、延々と同じメロディの繰り返しの中に、永遠さえ見そうになる。

 

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多分このカバーが呼び水となって、この曲は多くの更なるカバーを産んだ。もしかしなくてもHarpers Bizarreの最も後世に影響を与えた功績はきっとこの曲になるんだろう。個人的には、彼らがこれを短い尺で収めたことが、かえってこの曲への想像力を喚起させることになった気がする。

 Pavementのこの曲のカバーはどうやら今回の再結成ツアーから取り上げられるようになったみたいで、ということはこの曲のカバーは、再結成後も別に新曲を出したりしていないこのバンドにおける、半ば新曲めいた存在感がある。そしてこのカバーから感じられたことは、本来のローファイバンドたるPavementからは出てくる予定のなかったであろう、5thアルバムで随所に見られた、ドリーミーでロマンチックな音響、たとえば『Major Leagues』みたいなものの、その延長線上のもののように感じられたことが、とても嬉しかった。バンドの最終作であり、かつNigel Godrichというかなり外部な存在がイニシアチブを取って作った部分があるため、そのアルバム限りでそれ以上発展していく可能性がなさそうだったこのドリーミー路線について、長い時を経てついにバンドがそれに再会したような、そんな雰囲気がひたすらに感じられた。

 この曲の不思議な歌詞をそのとおりに案外丁寧に歌うのもそうだけども、そしてS.M.のギタープレイの、このライブの他の曲でも見せたことのないような、心地よい空間系エフェクトの掛かったロングトーンが、まるでアルバム『Terror Twilight』のジャケットの夜空のような空間を描き出していく。このインプロにおいては、バンドが他の曲で見せた神経質なセッションの感覚は全くなく、ひたすら夢見心地の多幸感に溢れた音像が広がっていく。まるで前曲のどこまでも平坦な地べたに張り付くような感覚とは真逆のこの、宇宙的な感覚。

 こんな音響を披露できるPavementの曲は本当にラストアルバムの曲くらいしかなかろうというところでの、まさかのカバーでその発展形を表現する、このライブの締め方の不思議さは、まるで騙されたかのように幸せな気分だった。演奏が終わり、メンバーがステージを去っていき、特にSteve Westが最後まで名残惜しそうにステージで手を振ったりして出て行った後、さらなるアンコールを期待していたけども客電が点いてライブの終わりが知らされたその時に、あれっ最後の曲は何のバンドの演奏だったっけ?と、すごく意地悪に言えば煙に巻かれたような気持ちにも思えたけど、でもその煙の巻かれ方は、実に悪くない、素晴らしいものだったなと。

 

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どうやらこの動画の演奏が同じくショーの最後にこの曲を演奏した時のものらしい。逆にバンドメンバーの紹介を交えて最初に演奏するパターンもあるらしい。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

あとがき

 以上です。

 雑感、って感じの内容で恐縮ですが、どうもライブの体験というのはこういうふうに何でもすぐに書いておかないとしばらくするとぼんやりとしか覚えてないものに自分はなってしまうので、このライブは書き残しておいて、覚えてなくても覚えていられるようにしとこうと思いました。

 ちなみに写真は開演前のステージの様子以外は一枚も撮りませんでした。観てた場所もトイレに行ったりしたせいで後ろの方になってしまい、演奏の様子とか全然よくわかりませんでした。そういうのが近くで観れるとまた、Bob Nastanovichの動きとかももっと面白く観ることができたのかもしれません。

 それでも、上述の内容についてはいろいろと感じ入るところがあり、2つ前の記事で再結成バンド、それも別に新しい音源を出してまたアクティブな存在として活躍していくわけでもない方の再結成バンドについての屈託を述べた割には、全然楽しかったライブだったと思います。『Folk Jam』と『Witchi Tai To』でお釣りが来るなっていう。っていうか去年の『Terror Twilight』の未発表新曲『Be the Hook』結局日本では演奏してねーじゃん…。

 それにしても、なんばHATCHがあんなに満杯になるくらい、Pavement好きな人は日本にも多くいるんだな、と思いました。もしかしたら観れるのが最後になるかも、ということなんかを思った人も結構いたのかもしれません。自分も全くそうじゃないと言い切れるものか。

 ともかく、改めてPavementや彼らが残した音楽についていろいろと考えてみるいい機会になりました。ライブが終わって以降の彼らの音源を聴きかえすことの楽しいこと。これは再結成ライブを観に行った甲斐があったというものだと思います。以下に今回のライブを経ていろいろ思った末に作ったプレイリストを貼ってこの記事を終わりたいと思います。25曲入りです。本当に4thアルバムを見直すライブだったなあ。

 それではまた。