ブンゲイブ・ケイオンガクブ

本を読まない文芸部員と楽器を練習しない軽音楽部員のような感じのブログ。適当な創作・レビュー等々。

2021年ベストアルバム(30枚)

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 今年もやっていきましょう。ルールは以下ツイートの通りです。自由!

https://twitter.com/YstmOkzk/status/1476389315274219528?s=20

 

 昨年2020年のベストは以下のとおり。ystmokzk.hatenablog.jp

 

ちなみにこの時は本腰を入れてベスト30を考え始めてからはじめて聴いた12月下旬発売のアルバムに強烈に心揺さぶられて勢いで1位にしました。誰に責任を負うでもない年間ベストなら、このくらいテキトーに「心揺れた」度合いとかその瞬間最大風速とかで決めてしまってもいいと思うんです。社会的なこととか考えてロジカルで自分でも不思議なリストを作るよりも、かえって個性が出て読んでもらえるかもしれない。そんな自分に激甘な皮算用も込みで、今年も書きます30枚。

 

 

はじめに

 いつものクセで前書きを置いてみたけど、前の記事で燃え尽きてるので書くことが思いつかないです。段々書いてるうちに色々思いつくと思うんで、ここで書きそうなことは後書きで色々書きます。

 最後にSpotifyの推し曲プレイリストが付くのも近年のやつと同じ流れです。あと、今回はこの記事1回で30位から1位まで一気にやっていきます。あと、作品名のところのリンクは全てSpotifyの該当ページへ飛ぶようになっています。作品名の後ろの月はリリースされた月を示します。

 

(2022.1.1追記)

 誤ったリンクの貼り方をしていたので各アルバムタイトルからSpotifyに飛べませんでした。修正しました。申し訳ありませんでした。

 

 

本編

30位→21位

 この辺は幾らでも順番入れ替えてもいい感じありますね。

 

30. 『Sweep It into Space』Dinosaur Jr.(4月)

Dinosaur Jr./Sweep It Into Space

 特に何か新しいことを言わないといけないアルバムでないから、気楽に書いてしまいたい。USオルタナのオリジネイターの一角が、バンド内の不仲とかもあったりしつつもでも何でかずっと活動を続けてくれて、今の気分で曲を書いてギターの音色とかを決めてアレンジを決めて作品を出してくれるのは、何となくぼんやりといいことだなあって思えて、こういう作品が何年かに1度出る生活っていうのが続いてほしいな、ってことをぼんやり願ってしまう。

 もう少し真面目なことを書くと、ミドルテンポの楽曲の方が、今のメンバーの趣味の感じとか、Neil Young等の音楽の新たな分析結果の反映とかを感じられて、面白みがある。そんな中で『Take It Back』のピアノを軸にしたアレンジはちょっと新鮮な感じがあって、展開が進んでギターで塗りつぶされる展開も含めて、面白いなって思った。PVもあるし、推し曲なのか。あとは、今年ソロでも傑作をリリースしたLou Barlowの絶好調っぷりは本作にも反映されて、オンオフの溜めと少しシューゲ的なサウンドの対比が格好いい『Garden』という名曲を、またアルバム末尾には侘び寂びの効いた哀愁の漂う『You Wonder』という名曲を残している。どちらの曲でも、全開でなく、的確に噴出するJ Mascisのギターが格好いい。

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29. 『I've Been Trying to Tell You』Saint Etienne(9月)

Saint Etienne/I'VE BEEN TRYING TO TELL YOU

 連続で1990年代組のアーティストだとすっかりジジイみたいなリストだなあと思ってしまった。それこそ「エレポップ」という言葉が生まれた頃にそれを実際にやっていた人達で、実は意外とコンスタントに作品を出し続けてた人だけど、元々はもっと元気のあるような音楽だったのに、今作はどうしたことか、暗いノスタルジアの向こうに消えていくような、どことなく重たいリズムとメロディを有したトリップポップめいた作品になっている。

 冒頭の『Music Again』からして、随分と悲しげなメロディと思いリズムで、途中からの逆回転エフェクトが差し込むところなんて、記憶がフラッシュバックしているかのような感触がある。『Fonteyn』とか、頑張ったらPortisheadでもこのくらいの曲あるんじゃないか、くらいの停滞感、を突如抜けて謎のチルさに到達したりもする。

 何で急にこんな「困難なノスタルジー」の曲と音像なのか。やっぱコロナのせいなのかなあ。しかし、この不安なまま陶酔する感じは妙な快適さがあって危うい。気持ち悪いのに気持ちがいいのは怖いことだなあと思います。でも、逃げられないって分かった上で逃避することほど甘美なこともないのかもしれません。

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28. 『Gasoline Rainbow』SACOYANS(10月)

Gasoline Rainbow/SACOYANS|日本のロック|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

 「福岡在住のオルタナティブロックバンド」になってしまったかつての有名宅録家SACOYANを擁するバンドの、昨年のデビュー作に続きテンポよくリリースされた2枚目のアルバム。宅録時代の曲のバンド録音、という意識もあったであろう1stと比べてもより自然なバンドとしてのアレンジに努めることができた、とはインタビューにおけるメンバーの談。そりゃまあそうか。

 「スマパンみたいな感じ」と本人自ら嘯くこともあるけども、それも頷けるくらいにオルタナティブロックとしての様々なツボを押さえたアレンジは、各メンバーのそういうプレイへの理解度が単純に高いんだろうな、と思わされる。そして、エフェクトを多用したボーカルやコーラスによってファンタジックさがどんどん付加されていく楽曲は、爽快で美しい瞬間を幾度も作り出していく。

 同じ福岡に住んでるのに、何でワンマンライブ行かなかったんだったか。ブログ書くのに必死だったか、精神がアレしていたか…。改めて聴き返してて、勿体無いなと。

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27. 『Higher Places』Joshua Burnside(5月)

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 昨年邪悪なモダンフォークの大傑作『Into the Depths of Hell』をリリースした北アイルランドの男性SSWの、同じジャケットの色違いでリリースされた、件のアルバム周辺のシングルカップリング曲やデモトラック、リミックス等を収録した企画盤とのこと。アルバムと同様、トラッドな雰囲気と現代的な音響処理が交わって、「不思議に寂しく置き去りにされた」世界を形作っていく。単純な趣味でいけばもっと上位でいいけども、そういう特殊な盤なのでこの辺りで。

 弾き語りにピアノがたおやかに絡む『The Only Things I Fear』からして、アルバムと同様の冷たく乾いた空気感が伝わってきて、ほんと好き。かと思うと『Never Was Never Were』は5拍子のトラッドなバンド形式で、どこの町の奇祭の音楽だろうか、といった情緒が香る。飲み屋の哀愁漂うおっさん達の合唱じみた『Don't Come Again』はそれにしては寂しすぎる感じが何とも言えないし、タイトル曲も美しい弾き語りを、気味の悪いコーラスが張り付いた形で進行させていく。他の曲はリミックスやデモ。

 今年はコラボシングルみたいなのも出してて、精力的に活動してた。もしかして、アイルランドSun Kil Moon的な感じなのかな。それってつまり、最高っていうか。当のSun Kil Moonは相変わらず綺麗に作り込んだトラックで延々ポエトリーする作品を今年も出しているが…。

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26. 『Planet(i)』Squirrel Flower(6月)

Squirrel Flower/Planet (i)

 ボストン出身の女性SSWを核とした、何だろう、スロウコアとモダンフォークの中間くらいの感じがするバンドの2nd。とても酷いことを言えば、今まさに何かの時代の先頭にいて来年アルバム出すBig Thiefの印象に存在感自体がかき消されてる感じがする気がする。こっちの方がロック色は幾らか強いんだけども。

 前作でもあった魂の半分あの世に置いたまま、みたいな霊的な雰囲気はまだ宿したまま、今作はよりバンドサウンドがはっきりとオルタナ〜エモな感じになっている。その力強く泥臭いバンドサウンドと、その上を浮遊するかのように過ぎていくボーカルの関係性に宿る緊張感が、本作の聴きどころか。バンドサウンドは本当に思いのほかはっきりとゴツゴツしたものになっていて、その上で曖昧調なボーカルのメロディの、浮かぶような沈むような存在感の行方を楽しめる。相変わらず森の中でギター弾いて歌ってるみたいな曲もあるけども。『Roadkill』の王道なファズギターサウンドのオンオフ具合はどこかヒロイックでストレートに格好いいものがある。

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25. 『PANICSMILE』PANICSMILE(5月)

PANICSMILE/PANICSMILE/パニックスマイル|日本のロック|ディスクユニオン・オンラインショップ|diskunion.net

 去年の12月のうちにチャリティー配信で買えたからあまり今年のアルバムって気がしない、日本が誇るガチのポストパンク(???)バンドのオンリーワンすぎるベテランの、まさかのセルフタイトル作。昨年の『Real Life』と兄弟作という感じもする、完全リモート環境でアレンジがなされ、音源ファイル交換で製作された作品。過程はともかく、サウンドはまさに唯一無二の、ある意味いつもと同じようなギクシャクで自棄っぱちなのに何故かきちっと合うオルタナサウンドが延々と展開される。仮にこれにマンネリという悪意ある言葉をあえて投げつけても、こんな変に高い次元でマンネリしてる人なんて他にいないよ…。

 完全リモート制作とは思えないほどの好き放題やり倒し・引き倒しまくりっぷり。ややポップさの強かった前作と比べると今作の方がよりハードコア的な炸裂の仕方をする曲作りになっている気がする。曲作り?ともかく、何もかもが痙攣しっぱなしのような、時々どれかの楽器がやたら弛緩してしまってるかのような、リズムだけの話に留まらないほどのポリリズムっぷりで、それでしかしちゃんとグルーヴが出来てしまうんだから、もうどうしようもない。時々やって来る謎の爽快感を見つけるたびに、自分の中のバンドサウンド理解がどんどんブッ壊される快感がこのバンドにはある。ギクシャクのリズムから途中で突如サンバ的なのが入ったあと、謎の疾走感に到達する『LONG DISTANCE LOVE』とか、どこまでギャグでやってんだよ、と思いつつも、素直にかっけえ。ロックンロールじゃんこんなん。

 今年ライブを観れたけど、最高だった。きっちりとライブで成立するのも意味不明だけど、その意味不明さもろとも吹き飛ばされる思いがする。

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24. 『袖の汀』君島大空(4月)

Amazon | 袖の汀 | 君島大空 | J-POP | ミュージック

 日本の新世代SSWの一群のうちの一人、ギタリストとしても確かな腕を有する君島大空の今年の新作EP。初期七尾旅人に端的に現れていた類の、繊細さを突き詰めた先の極彩色の世界を描き出すフォークを、丁寧にノスタルジックさを拾いながら積み技出していく6曲が収録されている。もはやボーカルは普通の声とファルセットの境界さえ曖昧なほどに透明で、アコギの響きが軸となった優しく黄昏た音像の中を自在に優雅に舞っていく。

 「海がモノラルで鳴っているようなイメージがあった」なる、そう言われてギリギリ理解できるようなやっぱり分からないようなことを本人が言っているが、手法的にはこれも本人の弁では「歌とギターとドローンだけで成り立っている作品」とのことで、こちらは成る程実に的確な自己分析だと思えた。『向こう髪』の間奏のアコギでのテクニカルなギターソロに小声のスキャットを被せるセンスは、独自のファンタジーな世界観をしっかりと内に秘めているからこその的確さが光る。そして、『星の降るひと』の、不思議なSEが飛び交ったのちにやってくる、この世と向こうの境が溶けそうなほど実に甘くドリーミーな歌と音像の見事さ。これで2分半満たないというのが信じられない、濃厚な世界観そのものが躍動している。

 この世代ってやっぱりなんかすげえな…みんな線が細いけど、だからこその世界を描き出していくことに本当に何の制約も無いように感じれてしまう。ちなみに本作の読み方は「そでのみぎわ」だそうです。初見で読めた?

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23. 『Blue Banisters』Lana Del Rey(10月)

Blue Banisters" von Lana Del Rey – laut.de – Album

 なんか絶好調だったのか、今年2枚もアルバムを出してしまったアメリカのダークでニヒリスティックなな女性SSWの、その2枚目の方。テーマを設けてアルバム1枚を作り上げることを繰り返してきていた彼女が、ここでは割とニュートラルな、彼女の基本装備的な楽器と歌で、無音の闇の中にどこかパーソナルなメランコリーの翼を広げていく作品集になっている。それこそ「声とピアノとドローンで基本成立する音楽」というか。

 

realsound.jp

 こちらの記事によると、本作はかなり彼女の個人的な内容について触れた内容であるらしい。特に家族について書くというのは、SSW一般でもそんなに普段から歌うこともなさそうな、結構特殊なことだと思える。そういう状況においては、音楽的コスプレは抜きにして、真っ当に音楽に立ち向かおうとしている、ということなのか。無音の空間に響く彼女の声は相変わらず怖い感じもあるけど、本作の少なく無い箇所でその響きには凛々しさが感じられる気がする。それとも、上記の内容を受け過ぎて聴こえ方がそういう風に変わってしまったかもだけども。

 ちなみに、中盤の『Black Bathing Suit』くらいから次の曲まで、きっちりリズムも入った音楽になって格段に聴きやすくなってくる。どんなに真摯でも、ピアノと歌だけ、みたいなのはちょっと苦手だなあ。確かに表現の霊的な部分は、一番伝わってくる演奏形式のひとつだと思いはするけど。

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22.  『Nurture』Porter Robinson(4月)

Download ALBUM: Porter Robinson – Nurture - Hiphopxyz

 アメリカの男性トラックメイカーによる、デビュー作から7年ぶりの作品らしい。スランプや鬱で苦しんだ月日を経てのリリース、ということをこれを書くために調べ物をしたついさっき知って、また作品の見え方が変わってきつつある。

 そんな経緯も関係するのかもしれない。どこまでもファンシーでクリーンでドラマチックなファンタジー感・多幸感が連なっていくエレポップ集という感じの作品。まるで現実の汚らわしい摩擦やら嫉妬やら汚職やらの世界を傍に置いて、ひたすら美しく彩られた世界の中にひたすら没入していく、って感じがして、自分の中の変な倫理観めいた何かが「こういうのに没入していいのか?」みたいなことを言ってくるけど、まあでもたまにはこういうのもいいと思う。昨日車の中で聴いたらめっちゃテンション上がったし。エレクトロ音楽で求めるタイプの透明感がひたすら心地よく響いていく。

 そのどこかツルッとしまくった音使いの具合や、どことなく感じられる日本アニメ的な雰囲気、あと最後の曲の客演に水曜日のカンパネラと会ったりで、もしかして日本のアーティスト?と最初思った。『do-re-mi-fa-so-la-ti-do』の感じとかちょっとレイ・ハラカミを感じたりしたけど、この曲実際アニメの声のサンプリング入ってるんだ。「おはよう」って言ってる?何のキャラの声?調べる気はないけど、でもこの曲みたいな突き詰められた「ツルッとした感じ」は好きだ。エレクトロミュージックでしか描けない清浄さってあると思う。疲弊してる時にはこういうのもいい。効く。

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21. 『どうしたって伝えられないから』aiko(3月)

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 1曲目の『ばいばーーい』の、近年の「浮気する彼とそれを知りながら見つめる私」路線を2つ目に煮詰めたかのような重たさに何とも苦しい思いをしたりしたけど、でも最近報じられた「実は結婚してました」の件でホッとして、安心してこのリストのこの辺に置けるようになった感じがする。aikoの音楽を彼女の人生と切り離して聴くのも難しい気がしてたけど、今回の報はちょっとそういうこともできるやも?

 彼女の、知識・経験と才能とが切り離せない暗いグチャグチャになった果てから湧き出す音楽については語ることが非常に難しそうだ。でも、先行リリースされた『ハニーメモリー』の「えっこんな複雑なリズムの取り方のBメロがある曲を先行で切ってくる?」という、しかしある意味分かりやすいその“切れ味”の提示は、なんかかえってキャッチーな気がしてくる。aikoは明確に音楽的にヘンなことをしてくれた方がかえってフックが生まれるようなところがある気がする。そういう意味では、ファンク風味が程よく効いた『青空』もそういうフックがあると言える。あと、アルバムに時々入ってる室内感の強い曲が好き。今作だと『愛で僕は』とか。

 aikoの作品の評で、歌詞にほぼ一切触れないのってアリか。まあいいか。

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20位→11位

 10位以上になれなかったものを並べる作業は割と楽しいです。たまに「あれっこれやっぱ10位以上じゃね?」みたいな気付きがあったりすると更に盛り上がります。

 

20. 『For a heart of gold』goldrink(11月)

goldrink (@goldrink_kobe) / Twitter

 割と本当に、Twitterでリンクが流れてきて聴いて良かった作品だったので、いまだに彼らのことをよく知らない。神戸のオルタナティブロックバンド、若い、くらいしか彼らのバイオグラフィ的なやつが判らない。多分これが1枚目でいいんだろう。1枚目のアルバムから7曲で42分もあるって中々だ。

 日本のギターロック、特にbloodthirsty butchers辺りを祖とする叙情的轟音ギターロック構成の美学をひたすら追求し続けていくバンドサウンドと歌が響き続ける作品となっている。冒頭の7分半越えという圧倒的なスケール感の『energy』からして、イントロが3分半近くもあって、その間に既に幾つかのドラマが編み込まれてる。ギターの煌めくような音色に魅せられた者の意地をどう固定化させるか案じた末の、万華鏡のようなギターサウンドの変化が美しい。そして、歌詞中に『散文とブルース』というワードが入っているのを聞き逃せない。それはまるで信仰告白のようだ。

 それ以降も、ひたすら煌めきながら激しくうねっていくギターサウンドと、それをしっかり支えるリズム隊の奮闘がひたすら続いていく。6/8のリズムにシューゲイズにも感じれるギターサウンドがきのこ帝国『海と花束』を思わせる『これから』や、分厚いギターの嵐の晴れた向こうにゆらゆらと揺れる歌の光景が見えてくる『浅瀬に立って』など、ギターサウンドの興奮と弛緩の向こうのファンタジーにひたすら手を伸ばし続けるバンドサウンドは、この手のサウンドでどこまで物語に深く沈んでいけるか、という探究心に満ちている。ライブでどうなるのか聴いてみたい1作。

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19. 『石』Taiko Super Kicks(8月)

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 今年は2枚のアルバムをリリースした東京インディーの忘れ形見的なバンドの、その2枚目の方。事情をよく確認すると、中心人物が福岡に帰郷(!)して、リモートでの制作状況に移行したこと、更にそこに界隈を超えて日本きってのアメリカーナ的な音楽の批評家かつ実演家として活躍する岡田拓郎のプロデュースも入って、かなりアブストラクトで非バンド的要素も多く入った、まるでバンドサウンドを日常の光景を用いて解体したような作風になった。

 どちらかといえばアブストラクト・アンビエントにより傾倒した『波』と比べると、もう一方のアルバムであるこの『石』にはバンドサウンドの要素が多く忍ばせてある。まさか『石』って“ロック”って意味…?でもそれだって、生来のバンドの持ち味の延長+岡田拓郎マジックにより、絶妙に曖昧さの忍び寄ったサウンドになっていて、ライブハウスの興奮の感じとは大きく隔たれたサウンドは、ひたすら日常の光や風や土や水や人々の普通の営みの中にスッと消えていく。その様が、なぜだか寂しく感じるのは、でもそれは夜に車で走ってて町を見て感じる心地よい寂しさと似た類のものだから、なんだか物語的じゃなくて、だからこそ生活にフィットするように感じられる。まあでも、『北欧ブラック』みたいなタイトな曲があるとホッとしたりもする。

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18. 『From Me to You』Quadeca(3月)

Amazon Music - QuadecaのFrom Me To You [Explicit] - Amazon.co.jp

 今年割とちゃんと聴いてたヒップホップ作品はこれくらい。ちょっと調べた感じ、ヒップホップ界隈のユーチューバー的な出自だということで、そんなのもあるのか、と思ったりした。

 冒頭の短いOverture的楽曲からも感じられるとおり、「これはヒップホップなの?」みたいなインディーロック的なオーガニックな質感を、ヒップホップ的な機械的躍動とどう結びつけるかに心を砕きまくった作品なのかな、と思った。実質1曲目となっている『Sisyphus』がその辺分かりやすい。ジャケットにあるような寒そうなアコースティックサウンドが、ヒップホップ的なビートとライムでぶち壊される、かと思えば案外並走してみせるのは、自分みたいなインディーロック好きが聴けるヒップホップの形式を丁寧に形作っている。終盤のストリングがあったりメロトロンが入ったりと、その辺の展開はおそらくThe Beatlesを意識していて、アルバムタイトルもなるほど、となる訳だ。

 まあ、普通にヒップホップっぽいガンガン攻める感じのトラックも普通にある。自分はどうしてもそういうのより、もっと曖昧で、トラックの無音の隙間にメロウさが流れ込むようなトラックの方が好きになってしまう。『Shades of Us』のシンセの隙間に設けられた豊穣な“無音”の感じや、三連符でやたら冷たい音世界を舞っていく『Can't You See?』、ギターのリリカルなリフレインを主軸にした『Maybe Another Day…』などに惹かれる。こういうのは正直な性分だな、って感じてしまう。

 そういえば、この文章を書いていて、Kanye Westの今年の巨大な新作『Donda』をこのリストに入れるのを忘れてたことに気づいた。あれもまた、ヒップホップというよりもむしろ「無音に無限にメロウさが流れ込んでくる“うた”」みたいな感じの強い作品だった。結局何が完成形なのか分からなかったので途中で離れちゃったけど、あれをこのリストに入れ忘れたのは痛恨の極み。これ描いてる段階で別に入れりゃいいじゃん、って思うだろうけど、これもう9割くらいこの記事書き終わった状態で気づいたから、もうそこからいろいろ考えて書き直すだけの気力も時間も無いんです。もう、あれは殿堂入りってことにしておこう。

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17. 『時間』betcover!!(8月)

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 今年一番バズった日本のインディーレコードだろうか。東京多摩地区出身の男性による音楽プロジェクトbetcover!!による、湿っぽいダークさを不思議な世界観の中で怪しく爆発させ続ける、醒め切ったまま狂おしく蠢き続けることでアルバム1枚を一貫させ独特の空気感を完全に獲得した怪作。前作等の作品をつまみ聴くと、本作でのトライアルには何かしら思い切った音楽的断捨離があったように思われて、それがまさに1枚の作品として成功している。

 まるで坂本慎太郎みたいな低く不気味な声で、そして無音=闇のような奥行きを持たされたジャズ・R&Bを奇形的に援用するサウンドの中不気味に、しかし妙にキャッチーに囁き続ける楽曲群は確かに圧倒される。一発録りらしいことに驚くほど緻密に組み立てられたサウンドは非常に雰囲気のある籠り方をしていて、その籠った中でこその所々の強烈な炸裂のさせ方は、本作の神経質さをどこか神々しいものにしている。冒頭の『幽霊』からしてそういう音の隙間の薄暗さにカビが生えそうな空気感にむせ返りそうになる。大人っぽいジャンルを邪悪に援用してる感のある『狐』『あいどる』の躍動感もさることながら、静寂の中を3連のリズムで優雅に舞いつつ、独特の毒気がナチュラルに漏れ出してくるような『回転・天使』の美麗さが素晴らしい。なんでそんな展開の仕方をするんだ、と思うものが、でもしかし案外新しい優雅さを形作っていくような。粗く歪んだギターソロもフレージング共々美意識に満ちている。

 アルバム後半も、過剰さを背後に潜ませた上での一応保たれる優雅さ、の不穏さがひたすら続いていく。その緊張感と、それがどう打ち破られるかの展開。曲タイトルの割に特別ピアノ主体という訳でもなくアシッドジャズ的なチルな狂騒感をブリブリしたファズベース(?)と手数の多いリズムでリードする『piano』は、異形なサウンドのままでもこれはこれで洒落てるな…っていう収まりの良さを見せ続ける。歪んだロマンチシズムも、そう感じれるならしっかりロマンチシズムだろ、という自信・全能感。

 こういう音楽性が趣味ど真ん中じゃなくても、強引にその雑多で雑然としつつも透徹された勢いで引きつけられる。これはもうちょっとちゃんと騒がれてる時に聴いとくべきだったな…と年の瀬に後悔してるところ。毎年そんなんばっかだ。

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16. 『Turntable Overture』カーネーション(11月)

カーネーション/Turntable Overture<通常盤>

 日本の大ベテラン音楽グループ・カーネーションの、4年ぶり、通算18枚目のアルバム。還暦を過ぎ、コロナ禍による制作の混乱があり、そして現メンバー2名両方ともコロナに罹患するなどの危機を乗り越えて、カーネーション的な洒落た気負いも様々な音楽的アイディアもてんこ盛りになった濃ゆい楽曲集となった。様々にごっちゃごちゃなのに不思議とスッと迷ってない感じのある、不思議な作品だ。

 いきなりベースラインがミニマルな躍動を繰り返し続ける『Changed』のファンクネスで幕を開け、王道なポップセンスをシックなアレンジや歌とやたら展開の多い楽曲構成で纏め上げた『SUPER RIDE』をリードトラックとして置く。かと思えば、ラフなロックンロールとロマンチックなメロディとをやはりやたらと展開の多い曲調で強引に纏め上げた『BABY BABY BABY』があったり、逆に下北沢ギターロック的なスッキリしたコード感と曲展開を徹底的にカーネーション色に染め上げてしまった『Highland Lowland』があったりと、この2曲の並びがとりわけアルバムにパワーをもたらしてる感じがする。後半にも、複雑に絡む2本のギターリフと剽軽なリズム・メロディが雄大なメロディとコーラスワークに連なる『I Know』を経て、長年活動した故の哀愁だったり達観だったりリリカルさだったりの最終2曲に繋がって、特に最後の『Blue Black』の軽やかなシックさが締めとして格好いい。

 今作での、これまでの経験やら記憶やら自身の年齢やらをしっかり踏まえて歌に向かってる感じは、多少おちゃらけも入れつつも、この人たちが基本音楽に対してクソ真面目な信念を核に持ってるんだなあ、ということを改めて感じさせてくれる。それが、特定のジャンルを指定できない、カーネーション的な品の良さを産んでる。洒落たジャケットに対して、音で納得をさせてくる。案外饒舌なジャケットだと思った。

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15. 『Ⅵ』ミツメ(3月)

Amazon | VI | ミツメ | J-POP | ミュージック

 昨年出たシングルが多数収録されてるから去年のアルバムだったか今年だったか曖昧になってしまいがちな、東京インディー以来の男性4人組バンドの6枚目。この「6枚目」という事実もなんか忘れちゃって最初タイトルを『Ⅴ』って書いちゃった。

 『V』であるところの前作『Ghosts』ありきの話をすれば、『Ghosts』で極まった彼ららしさに満ちたポップセンスを幾らか継承しながら、いつもの不思議なファンクネスやら何やらに帰っていった感じの作品(ちょっと例外的なのもあるよ)、という感じ。実質1曲目の『フィクション』からして、ちょっとばかりのスノッブさを感じさせるミツメが帰ってきた、と思ったけど、でも終盤の歪んだギターの応酬は、そういうのとオルタナティブロックへの変わらぬ愛着とをどう落とし込むかの試行錯誤の現在形が示される。このバンドはオルタナギタリストとして本当に最高な大竹雅生というプレイヤーを抱えている。そういう意味でいけば、突然謎なリズムでオルタナなギターが噴き上がる『メッセージ』や、直線的なリズムでマッシブなギターアクションも交えて進行する『システム』は、まさにこういうの!って感じの楽曲で、ありがとうございました。別に他の曲も好きだけども。

 それにしても、最後に出てくる『トニック・ラブ』だけは、反則的な存在感がある。ミツメの剽軽でポップな部分だけを取り出したような、寂しくもならず絶妙にマヌケな、不思議な不可思議さが延々と続いてフェードアウトして、また帰ってくる、ギターサウンドにこだわらずに作られた、彼らのあざとさ成分がすげえ化学反応を起こした怪曲にして名曲。これはインスト挟んで最後に置くのも仕方がないし、実に適切な処置だと思ったと同時に笑ってしまった。もしかしてこれ、ミツメで一番いい曲じゃないか。そんなん笑う。

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14. 『Barn』Neil Young & Crazy Horse(12月)

Neil Young & Crazy Horse/Barn

 勿論今回のリストの中で最も昔から存在するアーティストな、Neil Young & Crazy Horse。なにせこの組み合わせでも1969年から存在し続けてるんだから、大御所とかもはやそういうレベルじゃない。アルバムとしては2019年の『Colorado』以来ということで、当たり前のように2年スパンで作品を出してるけど、彼らの年代でそんなことする人他にいない。マジでタフだ。エターナルにタフなのか。

 今回は10曲で42分間、いつものカントリー&ロックンロールなNeil Youngの楽曲を演奏する(納屋で録音したからタイトルもそうしたよ)、という作品。もう個別の作品解説なんて書く気が起きない。『Colorado』より良くないからこの位置だけど、でも2010年代以降の哀愁メロディをしっかり書き続けてるNeil Youngで、しかも往年は全然やってなかったアコースティックスタイルでバンドも演奏するスタイルを平気でやる近年のNeil Youngスタイルなので、はっきり言って悪いわけがない。冒頭から6分間の哀愁に満ちたカントリーバラッドで、ハーモニカにアコーディオンにと、これがアメリカ音楽の滋養、って感じそのものを投げかけてくる。

 今作は(も)長尺の曲が少なく、あとは8分の『Welcome Back』しかない。こちらは典型的なCrazy Horse式ロックサウンドに、前作で培った渋みを前面に押し出したギターサウンドが実にクールな1曲。ちゃんとささくれ立った緊張感が随所にあるところが流石この人。あとの曲は、聴きやすい尺でロックをやったりコテコテのカントリーブギをやったり、たまに哀愁全開な『They Might Be Lost』みたいな曲をやったり。何気に、しっかりと「納屋で録音してる」っぽい音響になっている所も重要。Neil Youngサウンドにおいて音響は重要。みんなこんなふうに録音したくて、中々こんな風にできていない。コツは何なんだろう。

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13. 『Mood Valiant』Hiatus Kaiyote(6月)

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 オーストラリアの雑食ソウルバンドの6年ぶりのアルバム。やはり、その雑食さとそこから生じる“過剰さ”“異形さ”に彩られた美意識こそが、ジャンルの垣根を破って音響で他ジャンルのファンを強引に振り向かせることに繋がるんだな、と確信する、その様々な手管のどんどん登場する様が楽しい作品

 ジャズな雰囲気をR&B式に躍動させる、ネオソウル的な基本軸があって、そこにどう斬新さを豪快に挿入するかだと思うけど、3曲目『Chivalry Is not Dead』のダブステップっぽいリズム処理から豪胆な楽曲展開を見せる様はまさに、R&Bの理想的なハックの仕方だって思える。『Get Sun』も、ブラジルのプロデューサーをフューチャーした上で、ブラジル音楽風味をR&B的な雰囲気をいい具合にチグハグに解体することに役立てていて、そのいい意味でのチグハグさにこそ耳を持っていかれる。そういうチグハグさの中に何らかの“新鮮なスムーズさ”を感じる瞬間こそ、本来の「新しい音楽」に触れる体験なのかもしれない。『All The Words We Don't Say』の怪しい躍動による妙な祝祭感も、『Rose Water』の妙なところに鋭いフックを持たせたアフロビートの感じも、そんなズレた過剰さと、そのズレに新たな快楽を見出す喜びに満ちてる。そんな曲の続いた後だからこそ、正統派ネオソウルな雰囲気が香る『Red Room』のジャジーさも活きてくるんだと思った。

 ボーカルの乳がん克服等、バイオグラフィ的な側面での重要なファクターもあるんだろうけど、でもこの人たちの音楽は、ただ音だけで、こういうジャンルに全然明るくない自分みたいのでも余裕で振り向かせてくれる。自分も、こういう音楽に振り向けるだけの余裕はずっと持っておきたい。

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12. 『Things Take Time, Take Time』Courtney Barnett(11月)

Stocks at Physical HMV STORE] Things Take Time.Take Time : Courtney Barnett  | HMV&BOOKS online : Online Shopping & Information Site - MA0310LP [English  Site]

 オーストラリアの女性SSWの3rd。2ndがかなりスタイリッシュな感じがあったのを思うと、ずいぶん変わった感じもするけど、まあこっちが素なんだろうな。「コロナのせいで何もかんもロクにできなくなってやってらんねーけど時間だけはあるからとりあえずなんか作っとこ」的な感触がここまで如実に現れているアルバムも案外珍しい。そしてそれが良い、という、何気に凄いバランス感覚をしていると思う。

 まず基本、まともに歌わない。Bob DylanMick JaggerLou Reedか彼女か、くらいに全然まともにメロディを追わない。とりわけ今作の彼女は、メロディに対して拗ね切っているかのようだ。そのくせ、家にいるからなのかちょっとしたトライアル的に、ちょっと気を利かせた打ち込みトラック『Sunfair Sundown』みたいな曲もあったりで、テンションがブチ上がることはまるでないけど、つまらないならつまらないなりにちょっと面白可笑しくしてやろう、という気概が感じられ、その塩梅自体に妙に気怠いエモーショナルさが現れていて面白い。かと思えば、冴えないギターサウンドからいきなり綺麗なコーラスが広がって驚く『If I Don't Hear from You Tonight』みたいな曲もあったりして、なかなか愉快な時もある。

 でもやっぱり、冒頭の『Rae Street』の、Neil Young風にあつらえたしみったれまくったバンド風サウンドと曲が一番この、コロナ下の生活のうんざりするような感覚と、それでも何とか生活をやっていかないといけないやるせなさが詰まってる気がする。歌の中でははっきりとコロナのことは歌ってないけども。でも何となく。

 

「時は金なり」って言うし でもお金は友達じゃないし

どこ行っても人の目線はあるし それを変える気もない

そんなに気にしないでね

ただ今日この日に夜が訪れるのを待ってる

靴磨きなんてしない この擦り切れた靴で 日常に戻るの

 

 

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11. 『The Shadows I Remember』Cloud Nothings(2月)

Cloud Nothings/The Shadow I Remember

 オハイオ州のインディーロックバンドの7枚目のアルバム。リモートで作られた前作の「リモート制作のいいとこ・悪いとこ」を考えさせられる内容を経て、またSteve Albiniと組んで制作された本作は、『Attack on Memories』以降のこのバンドらしいガレージロックの感じを取り戻しつつ、2017年の『Life without Sound』以降特に積み上げてきたメロディやアレンジの深化に改めて着手したりもした、彼らの王道をまた突き詰めんとした1枚となっている。嫌な言い方をすれば「順当に楽曲を重ねた“だけの”1枚」として、人によってはマンネリ化を指摘するかもしれない。

 でも、そういうふうに言われそうなことはきっと、彼らだって認識してる。だから、冒頭の『Olso』でギターのノイズ等も利用したサウンドをじっくり構築したり、続く『Nothing without You』で彼らの王道なキャッチーさにさらに女性ゲストボーカルまで引っ張ってきてピアノのリフレインも入れて、新味をアルバム先頭にて聴かせるようにしている。まあ、その後の曲は「いつものCloud Nothings」かもだけども。バンドサウンドの“粗さ”自体を聴かせようとするAlbini録音は今回も冴えているし、ポップに始まったかと思ったら突如ぶっ壊れたように叫ぶDylan Baldiのセンスはとてもいい意味で相変わらずで、やっぱりこの人はスタジオでバンドのアンサンブルを横目に歌った方がその独特な熱の発し方が出せるのだろうな、と思った。

 インディロックを味わう上で、「順当にいい曲を書き続け、いい演奏を繰り返し録音し続ける」のはとても重要なことで、かつ多くのバンドで繰り返し行われてきたこと。彼らのサウンドや楽曲の偉大な先人であろうSuperchunkだって、そうやって時間との戦いの中で剣山を積み続けてきた存在で、Cloud Nothingsがそういう活動の仕方をしてはいけない理由は別に無い。他のどのバンドに『Nara』みたいな、バンドサウンドのプリミティブな荒々しさと歌のキャッチーさを併走させた楽曲が作れるか、という話だ。ずっとこんな具合にやっててくれていいぞ。でも『Nothing without You』のPVはキモかったぞ…。

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10位→6位

 ここに「なんで今年こんなの入れてるんだろ…」みたいになってきてしまうと不安になるので、毎年緊張するところ。今回もちゃんとそれなりに大きく心揺さぶる作品を入れることができました。

 

10. 『Other You』Steve Gunn(8月)

Other You<Clear Vinyl/限定盤> 

 こんなん反則やん!と思って急遽リストに入れた。ニューヨークのギタリストによるSSW的作品だけど、澄んだカントリーポップを、様々なエフェクトの効いたギターやピアノによってドリームポップ的に昇華してしまった楽曲がずっと続く至福の作品。カントリーが音響的に異化されていく、というのは2002年のBeck『Sea Change』やWilco『Yankee Hotel Foxtrot』の例を挙げるまでもなく、最高で、自分にとっての理想郷でもあるので、この作品が悪いものになるはずがない…もっと早く知ってればもっと上の順位だったかなあ。

 ひたすら穏やかで朗らかなカントリーソングを、ナチュラルに音響的な様々な反響が取り囲んでいって、時にはその音響自体が主役に躍り出てくる。冒頭のタイトル曲からしてそんな風で、夢見心地なエフェクトが終盤ついに曲の主題になっていく様には、静かな過剰さの隆起があって、何故だか寂しさで興奮してしまう。何で寂しさやら哀愁やらで静かに興奮することがあるのか。ここに収められた音響とメロディは、やたらとそういう反応を引き出してくる。アメリカの伝統的な音楽とそこに込められた人々の営みそれごとをハック掛けるような、しかし、そうすることでそういった生活の込められた音楽を延命させるような、そんな構造自体にどこか感動を覚えているのか。まるで精霊が取り憑いたように清らかなエフェクトを背負って鳴り続ける『Morning River』の煌めく美しさは、丁寧にエンジニア処理した方が楽器がかえってより生々しく聴こえる、みたいな、人間の聴覚のバグみたいな部分をその奥の情緒ごと的確に捉えてくるのかもしれない。

 このサウンドと曲調で1枚やり通すので、人によっては一本調子に聴こえてしまうものかもしれない。でも、こういうのはこのスタイルで1枚まるまるやり通すことに意味があるようにも思う。そういう「この作品はこれ一本でやり通す!」みたいなサウンドフォルムを獲得できるというのは、とても羨ましいことのように思う。

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9. 『Reason to Live』Lou Barlow(5月)

Lou Barlow / Reason To Live - BRIDGE INC. ONLINE STORE

 Dinosaur Jr.のベースとしてキャリアをはじめ、よりラフでローファイなバンドのSebadohや、さらにラフでローファイな活動形態のThe Folk Improsion、更にはソロ名義でも作品も色々出して等々、様々なフォームでオルタナティブロックの自由さを体現し続けてきたLou Barlowの、ソロ名義の最新アルバム。正直彼の作品を網羅的に聴いてきた人間ではないのでアレだけど、本作の「どんなにキャリアを積んでようと関係ねえ、いい感じの曲の断片を思いついてボイスメモに録ったなら、もう最短経路で宅録で曲にしてしまえばいいんだ。気の利いたアレンジは後でブッ込めばいい」って感じの楽曲が多く連なっていく様は、目から鱗で、めっちゃ痛快に思えた。

 そうだよな…こんな自由でいいんだよな、って思いつつも、それが成立するのは彼のメロディセンスや音響感覚に負うところがとても大きいな…というのは理解しておく。コロナ禍により宅録で完結させた作品には、シンプルなギター弾き語り+ドラム、みたいな楽曲が並ぶも、所々に「ただ単にいい曲なだけじゃ通り過ぎるだけだろ。こうやって仕掛けるんだよ」っていう音響的な手管の数々が光っている。ローファイな基本トラックからやたらとキラキラしたギターが入ってくる冒頭の『In My Arm』からして、まさにそういうこと。その後も、シンプルな楽曲にどう音響的に不穏そうな感じを挿入するかについて、実にシンプルでかつ効果的な手法を繰り返していく様は、まるで多くの人が理想としてそうな“センスのいいチープな宅録”のお手本を示してくれているかのよう。そして『I Don't Like Changes』『Clouded Age』の流れは、素で彼のポップセンスの高さをサラッと見せつけてくる。

 その後のヤケクソじみた短尺トラックの連発は笑ってしまうけど、でも彼くらいのベテランでもそういうことしても全然構わないんだ、というのはやっぱりなんか勇気の出てくることで、まるでレアトラック集の断片が普通にアルバム本編に混じり込んでるみたいで可笑しい。

 当たり前だけど、Lou Barlowって凄いんだな…と思わせれた。ジャケットのテキトーさも込みで、このさりげなさ過ぎる感じ、憧れる…。そりゃみんな憧れるわけだ。

www.youtube.comこのジャズマス、Dinosaur Jr.モデルのスクワイアの安いやつじゃん!同じの持ってる!

 

 

8. 『HiGNOTIQE』HiGE(11月)

HiGNOTIQE - Album by HiGE | Spotify

 日本の結構経歴長くなってきたインディーロックバンドの、なかなか思い切りまくった作品。かつてグランジバンドやってた経歴も何のその、エコーの効いたギターサウンドを主軸に置き、時にシューゲイザーさえ援用して築かれた目眩く甘く感傷的なサイケデリアの世界に驚かされた。「催眠(Hypnotic)」と掛けたタイトルに頷く。冒頭の楽曲の歌詞にあるとおり、彼らがはじめてロック的なものではなくもっとサウンド全体の陶酔感でアルバム全体を攻めようとした『ねむらない』の再来のような、より強度と蠱惑の感じを増して繰り出す“復讐”というか。

 冒頭のゆらゆらしすぎた音に少し困惑してると、従来の彼らと一番分かりやすく結びつく哀愁のロック『それくらいのこと』が流れてホッとして、そういうリアクションもどこか見透かされてるな、と思いつつも、そのことが不快じゃない優しさがこの曲にはある。そして、圧倒的にマイブラなギターサウンドを響かせその中に無造作に歌を放り込む『おうちへおかえり』で「そこまでするのか…」と驚く。マイブラ的なギターサウンドとハウス的なリズムを交錯させ、そして歌の感じはどことなく奥田民生。この組み合わせ方の絶妙さは面白い。そして、それで本当に眠くなり過ぎるのも避けるべく、適度にストレンジなサイケポップも交えながら進行する曲目もまた、リスナーに対する思いやりを感じさせる。

 足元の確かさが消えるような浮遊するフロア感覚のある『yy』から、哀愁たっぷりロマンチックなサイケブルーズの『Tour』への流れもまた、不安なまま甘い陶酔に身を預けるような、そんな不思議な心地を感じさせる流れ。『Tour』の気怠げに身を捩るギターサウンドには思わずBlurの名曲『No Distance Left to Run』がちょっと浮かんだ。最後にやっぱりサイケな音響で踊るような『so sweet』で終わっていくのは、まるで何かに化かされたかのような後味が残って、でもその化かされ方には清々しさが宿る。

 思い切ったサウンドの方向性の洗濯が功を奏した作品。邦楽の、それもこれくらいキャリアがあるバンドでこういうのは珍しい。でもHiGEってそういえば『Electric』の頃からたまにそういうことしてたな。ちょっと離れてたのを申し訳なく思った傑作。

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7. 『Chemtrails over the Country Club』Lana Del Rey(3月)

Chemtrails Over The Country Club : Lana Del Rey | HMV&BOOKS online - 3549781

 今年2枚出して絶好調だった彼女の、今年1枚目の方。昨年とりわけTaylor Swiftがそっち方面で2作出したことなどもあり流行の兆しのある、オーガニックなアメリカーナ様式のサウンドを、アメリカにおける陰謀論の代表である「ケムトレイル」に引っ掛けたテーマ性で展開する、彼女らしいシニカルなダークさに満ちた作品。パッと聴きオーセンティックなトラックの中に潜んだ彼女の毒々しさに、なるほどな、と思わされた、筆者がはじめて彼女の作品をまともに聴いて何度も聴くことになった作品。アメリカーナに走るのはズルいぜ。

 冒頭『White Dress』からして、静寂のサウンドの中でボーカルが、サビで一気に言葉数を増やししかも「ミュージックビジネス」なんて歌っているところで、歌詞を全然読んでない自分でも、これはアメリカーナの皮を被って何かキツいことを歌ってるっぽいぞ…と気付ける*1。ある意味非英語話者にも優しい。ワルツ調で優雅に舞うタイトル曲も、陰謀論という要素が頭をよぎって不穏さを感じてると、案の定後の方で邪悪なディストーションギターが蠢くようになっているし、トドメに初めから何か異様な雰囲気がはっきりトラックからも歌からも感じられる『Tulsa Jesus Freak*2で、ウンザリするような霊的な具合にゾクゾクさせられる。どうやら、昨年のアメリカ大統領選挙の際に筆者がThe Bandの記事*3で書きたかったようなことをたくさん取り上げているくさい。音は敬虔なアメリカーナをしておきながら、というのはかなり皮肉が効いてるのかもしれない。この辺の感覚はアメリカ在住じゃないと判りにくそうだけど。

 だけど、別にあてこすりだけを彼女が歌いたいわけでもないだろうことも、最後の曲がJoni Mitchelのカバーの『For Free』であることから察せられる。その辺のことはもう、以下の記事の方がずっとずっと詳しい。

 

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 彼女の存在は相当にアメリカ内でソーシャルみたいで、いまだによく分かってない。だけど、このアルバムがダークでメランコリーなアメリカーナの沢山詰まった作品だというだけで、全然このリストのこの位置くらいになる。ようやくこの人の歌が好きになれて、何だか良かった。今でも全然怖いけども。

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6. 『For Those I Love』For Those I Love(3月)

Album Review: For Those I Love (September) - New Sounds

 歌詞やその背景がよく判らないから魅力が完全には理解できない、と嘆いたアルバムの後に、尚更その傾向にあるこのアルバムを。でもジャケットがめっちゃ格好いいのは間違いない。

 ダブリンのプロデューサー・SSWの男性によるユニットの、その活動名義そのものを掲げた1stフル。ヒップホップ的に紡がれ続ける言葉の数々の裏で、メランコリックでノスタルジックなエレクトロトラックが延々と鳴り続け、そのサウンドのメロウさと言葉の過剰さの“合奏”に、言葉の細かい意味が分からずともひたすら心を持っていかれるサッド・ミュージック集。何も知らずに聴いてもそこに何かを感じられるだろうけど、学生時代からの親友で、かつて一緒にバンドを組んでいた人物が自殺したことを受けての音楽、と聞くと、とても嫌な形で腑に落ちてしまうことだろう。

 そういうバイオグラフィーと音楽の良さをどこまで絡めていいのか分からない。だけど本作について、そういう経緯を知ってしまってから余計に音楽の持つ煌めきが上がってしまうことには、抗いようのない、後ろめたい恍惚感が湧き上がってくる。エレクトロサウンドも、ツルッとした感覚よりももっとザラザラした何かが蠢いていて、その引っかかり方が紙やすりのように効いてくる。エレクトロサウンドもまた、霊的な感覚を音にするのに適したスタイルだったことを改めて思い知らされる。冷たくささくれた音の反復の中で、延々と製作者の痛ましさを想いながら、しかしリスナーの身体は何かに突き動かされる。感傷と快感の境がまるで分からなくなる瞬間、それがずっと続く作品だと思うと、自分の今いる場所すらその物理的な実在が危うく思えてくる。

 作品のテーマ的に、この人、この作品より後に作品を出し続けていくことに意味を見出せるのかな…という余計な心配をさえしてしまうけど、でもこの作品に刻まれた9曲46分間が、実に哀しくなるくらい高度な音楽体験であることは間違いない。

 あと、検索したら真っ先にTwitterでフォローさせてもらってるファラさんの以下の記事が出てきたのは、さすがだと思った。この文章よりも断然多くの大事なことを作品から読み取り文字にしている、素晴らしい文章。

 

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5位→3位

 今年は1位と2位は選盤の段階で結局揺るがなかったので、実質ここがこのリストの最高位みたいな感覚が書いてる側としてはあります。うん、3位は別に1位でも全然良かったかも。

 

5. 『Queen of the Summer Hotel』Aimee Mann(11月)

Queens Of The Summer Hotel : Aimee Mann | HMV&BOOKS online - SE065

 アメリカの良質な女性SSWとして長いこと活動してきた彼女の、しかし堅実な活動を続けてきた様からして、まさかここに来てこんなに注目される作品を出すとは…と少しばかり驚いた本作。バンドを出自に持つ彼女だけど、今回はバンド的なサウンドから離れて、ピアノやストリングスを主体とした室内楽的なサウンドに全面的に移行し、その上でスムーズで派手すぎない形にメランコリーを羽ばたかせるソングライティングに徹したことで、かつてないほどの優雅さを獲得している。彼女もまた、かなり大胆な音楽的断捨離を実施した故のこの高水準の世界観で、その思い切りに敬服する。

 こうも思った。もしかして彼女のどこまで行ってもシックな歌声は、バンドサウンドよりもこういう予めノスタルジックな寂しさの付加された少人数オーケストラ形式の方がずっと相性が良かったんだろうか、と。そのくらい、この作品で綴られる彼女の楽曲たちは自在に振る舞い、まるでアメリ音楽史に昔から存在していたかのような雰囲気をさえ感じさせる。普段はカントリー方面から語られがちなアメリカーナという音楽だけど、こういう大衆劇場的なアプローチもまたアメリカーナ、と言えてしまいそうなことを思うに、“アメリカーナ”というジャンル定義はあまりにズルすぎるきらいがある。

 『Robert Lowell and Slylvia Plath』が1920年代からある楽曲だと言われても、きっと信じてしまうだろう。そんなあらかじめいい具合に埃被ったような艶やかさがあるのはどうしたことか。『Give Me Fifteen』は1930年代アメリカの悲喜劇のメインテーマでしたよって言われたら、ころっと信じてしまうだろう。ここでの彼女やプロデューサーの手腕はそれくらいに、全く迷いがない。昔の演劇音楽めいたオーケストレーションオルタナティブサウンドを混ぜる、といった欲に走ることなく、ロック的な目線で言えば実に“禁欲的に”丁寧に雰囲気を作り出していく様に慄きつつも、そういった雰囲気に何の違和感もなく馴染んでしまう彼女の曲と歌に、彼女の新境地はもしかして遥か昔の置き去りにされた地点にあったんだろうか、との思いがした。

 誰にしたって、こういう思い切った作品を出されると、それに対する称賛とともに「でも、前のスタイルも好きだったけど、もう戻ってこなかったりするのかな…」という不安も感じてしまったりする。そういうのをどうしたら振り切れるのか、今はそんなことに考えを及ばせられるほどの余裕も時間もない。各自で考えておいてください。

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4. 『心理』折坂悠太(10月)

心理 (初回限定盤) | 折坂悠太 | J-POP | ミュージック - Amazon

 彼を一躍有名にした『平成』が苦手だったのは間違いないけども、でも気づいたらこの手のひらの返しよう。何と思われても仕方ない。『トーチ』1曲でコロッと落ちやがって。めっちゃいい歌じゃん…。

 鳥取県出身で、東京インディーというブームの末尾に登場した感のある男性SSWの、出世作『平成』に続くアルバム。かつてくるりなども追い求めていた「和のフィール」というものをインディーミュージックとどう融合していくかにひたすら努め倒して、雑多な楽曲幅を試しつつも、不思議と統一された質感が全体を覆う充実作。真正面から来るところも、ちょっといけすかなく思うようなところも、でも全体のフィーリングで持って飲み込まれてしまうのは、アルバムという音楽体験手段の強みを感じられた。

 冒頭の『爆発』からして、どこか歌謡の感じを一部分だけ摘んでエンチャントしたところに、容赦無くオルタナギターを被せてくるところで「おっ」と思わされる。まるで琴や尺八の位置にエレキギターを強引に入れ込む、これもまた現代的な“過剰さによるハック”のささやかな一幕か。浪曲めいた語りとカントリーを強引に混ぜ込んだ『心』はちょっと鼻白むけども、その次の『トーチ』の威風堂々、和のうたごころのど真ん中の可憐さと寂しさを打ち抜くウォームな歌と演奏に、サブドミナントマイナーの哀感に、ひさすら空気感が綺麗に澱んでいくのを感じれる。

 その後も、グシャッとしたのをやってみたり、昭和歌謡の時に大袈裟な時に可憐なオマージュをしてみたり、繊細なのをやってみたり、繊細サイドでは現在あらゆる場所で活躍中のサックス奏者兼プロデューサーのSam Gendelまで呼んできたり、かなりやりたい放題でごった煮になりそうな感じ、なのにそうならないのは結局彼の、とぼけたようでいながらまるで和のフィールそのものが憑依したかのような歌唱が、全体を貫いているからなんだろう。有名ブロガーのファラさんはそれを「訛り」と呼んだ。

 

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 終盤の『윤슬(ユンスル)』でまた、すごくホッとするような朗らかさに着陸して、この、ホッとするのに静かに鳥肌が立つ感じが何だか不思議で、ちょっと考えて、この曲みたいな穏やかさを実際の生活で感じられるだろうか、と、この音楽の中に生まれた理想的な“穏やかさ”になんだか慄いているのか、と、ひとり納得した。最新のインディーミュージックの音響感覚と和の折衷を高次元でしながら、結局一番惹かれるのはこういう光景なんだなと思ったりした。

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3. 『Seek Shelter』Iceage(5月)

Iceage/Seek Shelter

Iceage、来たる新作より新曲「Shelter Song」がMVと共に公開 | LMusic-音楽ニュース-

 コロナ禍にあってもロックンロールは死なず!というのを今最も胸を張って言えるのはこのアルバムをおいて他にないと信じれる。まさかあのゴツゴツしたハードコアバンドだったのがこんな作品に辿り着くなんて。このリストの実質最終章に相応しい、ありとあらゆるロックンロールの快楽も哀愁も、ナウな音響と彼ら的なロックンロールの訛り方のままキラッキラにブチ抜いてみせ続ける、何故こんなに無敵なのか分からないほど無敵のロマンチックさに貫かれた、最高にアップリフティングなアルバム

 冒頭『Shelter Song』の彼ら流のゴスペルをモタモタとやってる様の、実に大きい感じの格好良さ。Blurの『Tender』を引き合いに出しても構わんだろうし、それよりももっとずっと雑で、しかし実にストレートにゴスペル属性している。すぐさまディスコティークと呼ぶには荒々しすぎる様が痛快な『High & Hurt』に連なる様も、「こいつらバカだ、バカで最高だ!」ってすぐブチ上がれる仕様。かと思えば、ピアノやギターの残響で幾らでも壮大にファンタジックになれる『Love Kills Slowly』が続き、本当に彼ら、いつの間にここまで自在にキャッチーなロックを様々に振り回せるようになったのか。「Burt Bacharach風」なんて単語が本人の口から出てくる『Drink Rain』の洒落た哀愁っぷりにも驚かされるし、その直後に雑にPhil Spector経由のロックンロールな『Gold City』が始まるのには痛快さしかない。その後に始まる程よく重い疾走感を伴ってブン回していく『Dear Saint Cecilia』は、キラキラなギターサウンドと無茶なファズギターが交差するThe Rolling Stones風のルーズでファニーなロックンロール。最高が過ぎる。

 このアルバムも全曲レビューしておけば良かったな、と少し後悔している。それくらい、各曲それぞれに強い個性と仕掛けがあって、なのに全体としては、統一された音響感覚とそしてボーカリストの圧倒的な歌唱スタイルで、何の違和感も抱かせず最後まで突っ走ってくれる。それにしても、Elias Bender Rønnenfelt、貴方のその、どんなメロディアスになってもくぐもって、どもって、グズついてしまうそのボーカルは芸術だ。

 なんでこれが1位じゃないのか、書いてる自分も分からない。いやもう、前に書いた全曲レビューを貼っておしまいなLowやGRAPEVINEなんてうっちゃって、これが1位でいいんじゃないか、こんなに改めて文章書いたんだし、、と思うくらいに、アツさがおかしいことになりすぎる1枚。こんなの、ライブを観たすぎる。。

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2位

 今年は2位と1位の記事を既に書いている、というのが書く側としてすごく気が楽になる展開でした。

 

2. 『新しい果実』GRAPEVINE(5月)

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 GRAPEVINE。この日本で長らく渋格好いいで通し続けてきたバンドの作品を、こんな上位に持って来れるような日が来るのはあんまり考えたことがなかった。どうしてセルフプロデュースの、外部からの音楽的な影響がそんなになさそうな状況で、突然こんなに尖った作品が出てきたのか。

 なんでそういう流れになったかはよく分からないけど、なんでそういう尖った感じになったかは、これはもう、田中和将という実は一番“現代風”なるものに敏感でかつ実に捻くれ返したソングライターが急に半数の楽曲を手掛ける、という事態になったからだと言える。そしてその尖に尖り切った、ネオソウルを強引にロックバンドが演奏した感じの『ねずみ浄土』を先頭に持ってきているんだから、そういう戦略を仕掛けたバンドやスタッフの勝利とも言える。かつてのメインソングライター亀井亨も、触発されたかどうかはともかく、同等に刺激的な『Gifted』で応酬する様は、かつてないほど緊張感に溢れた曲の並びと言える。

 詳しくは上記の全曲レビューを読んでてください。あと、田中和将という、バンドの中で常に“異端”をキープしてた感じのある作曲家についてフォーカスした記事も書いています。こんなに田中和将フィーバーな事態になるなんて、全く予想もしてなかった。

 

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1位

 はい。

 

1. 『HEY WHAT』Low(9月)

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 今年はこのレコードが一番過激で、なおかつ強靭に“うた”をしていたな、と思った。粗暴なノイズの荒れ狂う様と、そこに対峙する“うた”の構図に、なにか、大小様々な困難さに満ち溢れた世界において、正気を保って生きていくことそのものについて考えさせられるような音楽体験だった

 「全てが吹き飛ばされても、歌は残る」なんていうありそうなテーゼを、まさに音楽的に吹き飛ばしてしまう『Days Like These』の曲構成の、逆説的に祈りに満ちたその様に、言葉にしようのない苦しさと狂おしさを感じれて、なんだか寂しいような、でもだからこそ救われるような、不思議な開放感があったような気がした。『All Night』のブッ壊れたロマンチックさには「過剰さがポップになる瞬間」を見せつけられるし、ノイズそのもののギターサウンドと歌だけで異形のグランジをやってしまう『More』にはコロンブスの卵的なものを感じて、単純に「こんな音楽があり得るのか」という驚きの連続で、今年一番「驚きに満ちた小さな悲鳴」を上げ続けた作品。

 破壊的なフォルムをしていた前作『Double Negative』から、更なる破壊が進んだのか、何かが再建されたのか、それさえよく分からない何かの前に吹き飛ばされ続けて、そのエキサイティングさに、弊ブログの今年の1位を捧げます。詳しくは、上記の全曲レビューにて。

 

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終わりに

 以上30枚が今回の弊ブログの2021年の年間ベストでした。

 今年もコロナ禍が続いて、様々なことが不可能なまま終わってしまったり、フラストレーションを抱え込み続けてむしろ増大したり、苦しい年月だったと思います。それを克服していくような作品、束の間の平時に往時を取り返そうと作られた作品、そして、フラストレーションを飛ばすべく過剰さを込めて作られた作品等々、いろんなスタンスから名作が作られました。

 書いてて思ったのは、“過剰さ”を感じれた作品を多く取り上げた気がすること。それだけ書き手である自分がどうにもこうにもムシャクシャしていて、ともかく吹き飛ばされたい、という願望があるのか。でも、ちょっと社会に目を向けたら、幾らでも嫌なことばっかり沢山あって、全て吹き飛ばしたくなるか、むしろ自分を吹き飛ばしてしまいたくなるか、日々吹き飛ばされ続けて麻痺してしまいたくなるか、そんなとこもあるじゃないですか、っていう気持ちもあります。

 あと、単純にこのリストで取り上げたもの全体的に、アーティストの年齢層が高いなとも思いました。これは年々高くなってるかもなので、その辺は少々凹むところでもあります。自分でリストアップしてそのリストにうんざりするのは、良くない循環だと思うけど、でもその辺はもうそういうもんだから、ちゃんと折り合いをつけていかないと。来年はムーンライダーズの新譜なんてものもあるんだし。

 あと、上半期ベストの記事に入れてなかった上半期のアルバムが多数入り込んでるのも、まあ例年のこと。ご容赦ください。カニエの件といい、言い訳ばかりで申し訳ありません。

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 最後に、年間ベストから離れて、自分のことを少し。

 今年はこのブログに集中して頑張った一年でした。今のブログになってから何度かバズを経験して、特にムーンライダーズ記事を鈴木慶一さん本人にRTされて一気にアクセスが伸びた時の成功体験が身体中に巣食ってしまって、どうにもアクセス数を伸ばすことに熱中してたような気がします。それで望みどおり沢山読まれた記事もあれば、すごく頑張って書いたのに全然読まれなくてひたすら困惑した記事がもっと沢山あって、一年やってみて分かったのは、自分はそういうバズ狙いの記事を狙って書くのは向いてないな…ということでした。めっちゃバズると思って書いたウイスキーの記事やらウォールオブサウンドの記事やらが全然伸びなくて、苦し紛れに書いたサブスクの記事や、昨年から引っ張ってようやく一旦最後まで行き着いたサブドミナントマイナーの記事が不思議に伸びていったのは、自分にはもう理解不可能で、なので、来年はもっとのんびりと記事を書こうと、何もそういうやましいこととか考えずに記事を書こうと思いました。…そう思っても、どうせまた色々と考え出すんだと思いますが。

 おそらくこの記事を投稿した後、今日の日のうちに50万アクセスに到達して、それがひとつの区切りとなります。まさかこんな劇場型な展開になるとは…。

 ブログに集中するあまり他に何もできない休日ばっかりで、その割にできるものはこんなもんかとガッカリを重ねつつも、それでも、こんな貧しい記事ばっかりのブログを読んでくださった方々には、感謝というよりももう、救われています。救ってくださってありがとうございます。せめてもっと、読みやすくていい内容が書ければと、ずっとすっきりしない頭で願い続けています。

 来年は、単純になんか、もうちょっと普通に幸せになりたいなって気がします。どうしたら幸せになれるのかまるで分かりませんけど。なので、このブログでマンガの記事や福岡市内の飲食店の記事とかを見かけても、生暖かい目でみていただければ幸いです。自分で音楽を作る方とかも、再開したいし。

 何にしても、今後ともどうぞよろしくお願いします。それではまた。

 

プレイリスト

 最後に、いつものごとく、Spotifyのプレイリストを貼ってお別れです。今回の記事を作るために作ったリストそのもので、1位から順に降って行きます。その方が自分が見やすかったので。備忘録としても使っていたので、30位より下にも楽曲が続いていきます。30位より下は順位とかなく雑然としてますが、あまり気にしないでください。

 

*1:しかし、この箇所は別に「Men in Music Business Conferenceに参加した」という歌詞で、単なるイベント名だったっぽい。

*2:オクラホマ州タルサはバイブル・ベルトの重要な街らしい。

*3:コメントでこの記事だけやたらボロクソに書かれるので、何だか逆に笑えてきてしまう、自分の無能さに。